労働者の休み方に関する課題と提案
目次
企業としての方針・目標の明確化に関する悩み
課題と提案
- 課題
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企業の休み方改革において、方針・目標の明確化について多くみられた課題は、トップメッセージの発信・浸透に課題があるというものです。
全社的に休み方改革に取り組みたい、経営層は年次有給休暇の取得促進に積極的であるにもかかわらず社員に浸透していないということはありませんか?
このような悩みを抱える企業の場合、「トップメッセージを社内サイトに掲載して終了」「人事部の通達のみで経営層のメッセージがない」等、発信方法に課題があり、会社の経営層が本気で取り組んでいることが社内で認知されていないことがあります。また、「年次有給休暇をとりましょう」「効率的に働き、よく休む」等のような抽象的な目標設定に留まり、具体的な数値目標や取得日数を定めていないこともよくあります。 - 提案
- 効果的な解決策としては、トップメッセージの発信と浸透に工夫をすることが考えられます。社長自らが数値目標を盛り込んだ方針を社員の前で説明する、社長の名前でメッセージを発信する、社員の目に留まる(認知される)方法でメッセージを伝える等の工夫から始めてみましょう。
参考事例一覧
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- 堅田電機株式会社
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- 滋賀県
- 製造業
- 228人
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- 社員一人ひとりが心身ともに健康で活き活きと働ける職場環境の整備に組織全体で取り組むことを宣言した(2017年5月1日宣言)
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- SCSK株式会社
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- 東京都
- 情報通信業
- 15,328人
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- 休暇を取得しやすい職場環境の構築を目的に、2012年度は年次有給休暇取得率90%を目標に設定し特別休暇制度の推進を開始
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- シーシーアイホールディングス株式会社
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- 岐阜県
- 製造業
- 643人
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- 一般社員の年次有給休暇の年間取得日数の目標は年間12日としている。また、2020年4月にKPI(重要業績評価指標)管理(重要業績評価指標)を導入し、それまで取得目標を設定していなかった役員および部長クラスについても、年間15日の取得を目標とした。上司が休暇を取得しなければ、部下も取得しにくいという考え方に基づいている。
- 男性の育児休業取得率も、KPIのひとつとしている。
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- エースカーゴ株式会社
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- 滋賀県
- 運輸業,郵便業
- 70人
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- トップメッセージ:会社は誰かの役に立っています。広くみれば、経済や地域社会のためになっていますが、もっとも近くにみたときに、その会社で働く人とその家族のためになっていなければ、その会社はうまくいきません。これが、私たちの最も大切にしている考え方です。
改革を推進する体制づくりに関する悩み
課題と提案
- 課題
- 休み方改革を進めようとする企業の悩みとして、社内で取組を推進する体制がないというものがあります。「人事部が他の業務と兼任して働き方改革も実施している」「社員の声を反映する組織・体制がない」等、企業経営上も重要な課題である働き方・休み方改革について専念して取り組む体制がないという悩みを抱えている企業が多くみられます。
- 提案
- まず、取り組むべきは、労使で協力推進して取り組む体制の構築です。働き方・休み方改革は労使で協力して取り組むことが成功の鍵です。特に、現場の意見を反映せずに残業時間の削減や年次有給休暇の取得の義務化をすると、かえって現場の負担が増し、結果として社員が疲弊するような場合もあります。労働組合と合同でワーキングチームを作る、社員の意見を吸い上げる機会を設定する等、労使で協調して取組を進める体制を作るところから始めてみましょう。
参考事例一覧
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- 平和建設株式会社
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- 広島県
- 建設業
- 46人
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- プロジェクトチームを設置して具体的な取組を検討。週休2日「チャレンジ現場」の設定や、IT ツールの導入、有給休暇チケットの導入など、様々な施策を実践
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- 東レエンジニアリング西日本株式会社 愛媛事業場
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- 愛媛県
- 建設業
- 148人
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- 年次有給休暇の取得状況を確認し、取得が少ない労働者へ声掛けを行っている。
- 勤怠管理システムを更新し、時間外労働、年休の事前申請を可能とした。
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- TIS株式会社
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- 東京都
- 情報通信業
- 6,059人
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- 連休の少ない月や年末年始などに、年次有給休暇取得奨励日を設定している。
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- 西川産業株式会社
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- 大阪府
- 卸売業,小売業
- 184人
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- ベテランから若手まで日常業務で改善したいことがあれば業務改善報告書を提出する。社長をはじめとする役員が改善内容を確認し、水平展開すべき内容は、社内グループシステムで通知され、運用される仕組みとなっている。また、月一度本社従業員の外出を控えさせ、話し合う機会を設けている。そこで労働時間・年次有給休暇・職場の問題などを話し合っている。
改革を支援する制度がないことに関する悩み
課題と提案
- 課題
- 年次有給休暇の取得促進において、重要な要素に「休みやすい制度設計・運用になっているか」という点があります。会社の休暇制度はどのような制度設計・運用になっていますか。年次有給休暇を取得しないことが社内で一般的になってしまっている場合、会社側が年次有給休暇を取得しやすい環境を設計することが重要な解決策となることがあります。
- 提案
- その解決策として、「誕生日等のメモリアル休暇を設定すること」が考えられます。会社として、「誕生月に1日年次有給休暇を必ず取得する」ような取得を促進するルールを設定します。メモリアルの内容はどのようなものでも構いませんが、全員に平等に設定できるもの(誕生日や入社日など社員全員に設定できる日)であることが重要です。
参考事例一覧
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- 株式会社サカイエステック
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- 福井県
- 建設業
- 63人
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- ゴールデンウィークやお盆の谷間を年次有給休暇取得推進日として、1週間以上の連続休暇の取得を可能としている
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- 北電情報システムサービス株式会社
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- 富山県
- 情報通信業
- 381人
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- 1日、半日単位に加え、時間単位の年次有給休暇を取得可能
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- 三浦工業株式会社
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- 愛媛県
- 製造業
- 3,289人
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- 勤務間インターバル制度を導入し、上司による勤務時間調整を実施。(11時間=基準時間、9時間=最短時間)
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- 株式会社松宮
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- 愛媛県
- 卸売業,小売業
- 55人
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- 「母性健康管理指導事項連絡カード」を提出すると、つわりのひどいときや、気分がすぐれず仕事に出られない、あるいは横になりたいなど、ちょっとしたことにも申請が可能な『マタニティ休暇』(5日間の特別有給休暇)を取得することができる
年次有給休暇取得を促進するルールがないことに関する悩み
課題と提案
- 課題
- 年次有給休暇の取得が進まない理由の1つに、年次有給休暇の取得を社員に任せて、取得日数の管理を行っていないというものがあります。本来、年次有給休暇の取得は労働者の権利であるため、労働者が自由に個人の意思で取得できることが前提です。しかし、管理職などの上長が確認しないと、「グループ内で取得日数に偏りがある」「特定の本部のみ取得率が低調」等の問題が生じてしまいます。また、管理職に年次有給休暇の取得は労働者の当然の権利であるという認識が薄いと、「管理職が年次有給休暇の取得を認めない空気を出している」「メンバー全体に年次有給休暇をとりにくい空気がある」等、社員の年次有給休暇取得が許されないような風土が生まれてしまうこともあります。
- 提案
- このような上長や配属先によって休みやすさに差が出てしまう環境の改善には、管理職に対する人事評価項目に部下の労働時間・年次有給休暇の取得の状況を入れることが有効です。会社として定めた年次有給休暇取得目標の達成において、管理職層は自分の部下についても責任を負う形にすることが重要です。評価の結果をどのように活用するのかは会社の裁量によりますが、「人事評価項目である」ということを示すこと自体が、重要なメッセージとなります。
参考事例一覧
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- 株式会社松宮
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- 愛媛県
- 卸売業,小売業
- 55人
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- 自分の仕事が心配でなかなか休まなかったリーダーたちには、積極的に仕事をチームに任せて休むよう意識を変えてもらい、計画的に部署の年次有給休暇取得を管理してもらうように促した
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- 酒井工業株式会社
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- 石川県
- 建設業
- 29人
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- 休日と休日の合間にある所定労働日や、工事が終了してから新たな工事が始まるまでの期間における、上長からの声掛けによる長期休暇の取得促進
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- ホクトー株式会社
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- 石川県
- 建設業
- 29人
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- 年間平均1人10日間以上の取得を目標にすると共に、毎月、管理職に取得実績を配信して見える化することで、有給休暇取得に対する意識を向上。半日単位や時間単位での付与制度も整備。
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- 西川産業株式会社
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- 大阪府
- 卸売業,小売業
- 184人
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- 社長が、入退社の記録・年次有給休暇の取得率を自らチェックし、業務の平準化を指示することを繰り返すことで意識の変化を浸透させた。
年次有給休暇取得の意識に関する悩み
課題と提案
- 課題
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自社の社員は年次有給休暇について、どのようなイメージを持っていますか?取得率が低調な企業の場合、社内研修で年次有給休暇に関する情報を提供していない場合があります。このような企業では、「取得が労働者の権利であることを知らない」「管理職も年次有給休暇を取得できることを知らない」等、年次有給休暇について基本的な知識が欠けていることがあります。
また、全社として取得促進を行っていることが伝わっていないと、「取得することに罪悪感がある」「周囲が取得を許してくれない」等、休暇取得に対して消極的な意識・風土が生まれてしまうことがあります。 - 提案
- 意識の改善に有効な解決策は、社員研修を実施することです。働き方・休み方改革に関する研修を特別に実施することが望ましいですが、研修時間に限りがある中ではなかなか難しいのが実情です。まずは、本人と部下の意識に大きな影響を与える管理職層の意識改善から始めるのがよいでしょう。管理職層のマネジメント研修や新任研修で内容を追加し、現場の意識に多大な影響を与える管理職層に年次有給休暇取得の意識を根付かせましょう。
参考事例一覧
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- 三浦工業株式会社
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- 愛媛県
- 製造業
- 3,289人
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- 個人別最低年次有給休暇取得基準を設定し、社内アナウンスを実施。全社一体となって「年次有給休暇取得が当たり前」となる環境づくりを推進
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- ホクトー株式会社
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- 石川県
- 建設業
- 29人
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- 有給休暇を取得して旅行や趣味の活動を行った社員に対して、「趣味に対する補助金」制度で費用を補助
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- 旭建設株式会社
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- 宮崎県
- 建設業
- 67人
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- 年次有給休暇を取得しづらいという雰囲気を変えるため、どんどん休んでもよい、ということを社長から積極的に発信した。また、年次有給休暇の最多取得者を表彰することとした。
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- 株式会社グリフィン
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- 東京都
- 情報通信業
- 218人
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- 各年度で年次有給休暇の取得率の目標値を設定したほか、飛び石連休がある場合には年次有給休暇推奨日として案内し、長期休暇が取りやすい雰囲気の醸成を行った。これらの声掛けをすることで「年次有給休暇を取得してよいのだ」という雰囲気になり、取組から一年で取得日数が倍増(6日程度から13日程度に増加)した。
情報提供に関する悩み
課題と提案
- 課題
- 年次有給休暇の取得促進を進める中で、取得が低調な人に何らかの働きかけを実施していますか?取得率に個人で大きな差や偏りがある企業の場合、取得率低調者に対して個別の働きかけや通知を行っていないことがあります。
- 提案
- 労働基準法が改正され、2019(平成31)年4月1日より、使用者は、法定の年次有給休暇日数が10日以上のすべての労働者に対し、毎年5日間、年次有給休暇を確実に取得させることが必要となりました。これにより、取得低調者への働きかけは重要性を増しています。ポスター掲示や個別通知、勤務表入力システム上でのアラート表示等、取得低調者に対して情報提供を行うと共に、取得促進に役立つ情報を提供しましょう。
参考事例一覧
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- 株式会社ジャルパック
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- 東京都
- 生活関連サービス業,娯楽業
- 710人
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- ワーケーションやブリ―ジャーの利用を促すため、WHIPで制度の利用方法について虎の巻を作成・展開
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- 明治安田生命保険相互会社
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- 東京都
- 金融業,保険業
- 47,385人
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- 治療と仕事の両立支援策を拡充するため、治療経験者ネットワーク「ピア・サポート・ボンド」も創設。特別休暇制度だけでなく、「ワーク・ライフ・マネジメント」関連施策の拡充も図る。
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- 株式会社ツムラ
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- 東京都
- 製造業
- 4,032人
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- 従業員の隠れ我慢の実態を周知し理解を深めながら、体調不良でも休みやすい風土を醸成
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- 株式会社タニタ秋田
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- 秋田県
- 製造業
- 194人
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- 家庭生活と仕事の両立を支援するため、社員から産休や介護休業の届出があった場合、制度や復職の見通し、短時間勤務等の利用希望について確認
仕事の進め方に関する悩み
課題と提案
- 課題
- 年次有給休暇の取得が進まない理由として、「仕事を休んでも替わってくれる人がいない」「休暇の前後に残業時間が増えてしまい、かえって負荷が高まる」等の理由をあげる方がいます。仕事の進め方でみた場合に、仕事が属人化していることが原因です。本人しか業務内容を把握していない状況に陥り、周囲と仕事を分担・支援しあえる関係にないため、休むことに対して消極的になってしまうのです。このような状態は、休暇取得の場面以外でも体調不良による離脱や突然の退職時に事業遂行の大きなリスク要因となります。
- 提案
- 仕事が属人化している場合には、まずは組織的な遂行体制の確立から取り組みましょう。主担当・副担当制の設置による業務の相互担当制も効果的ですが、業務内容を相互に理解する機会を設置する、社内のメール共有者を増やす、多能工化によって交代可能なメンバーを育成しておく等の方法が考えられます。複数メンバーで業務遂行できる体制を構築することが重要です。
参考事例一覧
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- 平和建設株式会社
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- 広島県
- 建設業
- 46人
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- 働き方改革の取組により、残業時間や年次有給休暇取得率が改善しただけでなく、個人事業主の集合的な風土から、皆で協力しあえる風土に変化
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- 株式会社片桐紙器
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- 北海道
- 製造業
- 78人
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- 年次有給休暇のさらなる取得促進のため、顧客と協議の上で生産時期を調整し、繁忙期の平準化を実現
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- 株式会社東陽理化学研究所
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- 新潟県
- 製造業
- 296人
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- 社員のQOL(Quality of Life)向上を目指して働き方改革を推進。部門を超えた応援や、年次有給休暇を取得しやすい環境づくりなどを実践
- 年次有給休暇取得率は大幅に向上。働き方改革を続けることで、ユースエール認定企業にも継続認定され、採用面での効果も実感
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- 株式会社あぶらや燈千
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- 長野県
- 宿泊業,飲食サービス業
- 45人
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- 客室数ではなく稼働人員ベースによる予約数制御と閑散期の週2回の休館日設定による働き方改革を実現
実態把握に関する悩み
課題と提案
- 課題
- 働き方・休み方改革の取組を実施してきたけれど、中々成果があがらない企業も多くあります。自社で社員の残業や年次有給休暇取得に関する意識調査を行ったことがありますか?企業としては社員のためによかれと思って実施した制度であっても、職場環境やニーズを把握・反映できていないと、結果として制度が歓迎されないことがあります。また、取組後に効果検証として意識調査を実施していない場合、取組に対する社員の評価を把握できないため、改革のPDCAサイクルを行うことが困難になります。
- 提案
- 働き方・休み方改革において重要なことは、社員のニーズを反映した取組を行うことです。ES(従業員満足度)調査等の既存の調査を活用して、残業時間や年次有給休暇の取得しやすさについて社員の声を把握しましょう。定期的に実施することで、改革の進展状況や推移を比較検討することが可能になります。
参考事例一覧
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- 株式会社アイダメカシステム
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- 岡山県
- 製造業
- 13人
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- 面談やアンケートを通じ、社員の声を働き方改革に反映。会社の業績を示す試算表を開示し、生産性高く働くよう社員の意識が変化
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- 株式会社グリフィン
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- 東京都
- 情報通信業
- 218人
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- 毎月、年次有給休暇や特別休暇の取得状況を確認している。また、前期と後期に分けて集計を行っている。集計結果は、グループマネジャーに対して情報展開し、マネジャーから各社員に対して年次有給休暇を取得するように促している。
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- 公益財団法人平野政吉美術財団
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- 秋田県
- 教育,学習支援業
- 15人
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- 職員ががんに罹患したことをきっかけに、がん治療や三大疾病等の長期通院治療のために、年7日間・半日単位で取得可能な治療休暇(有給)を導入
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- YKK株式会社
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- 東京都
- 製造業
- 4,823人
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- 両立支援制度の見直し、検討のため、従業員に対し「仕事と介護・育児に関するアンケート調査」の実施