富士通株式会社
事例カテゴリ
- 所定外労働削減
- 年休取得促進
- 多様な正社員
- 朝型の働き方
- テレワーク
- 勤務間インターバル
- 選択的週休3日制
企業情報

企業名 |
富士通株式会社
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所在地 |
神奈川県
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社員数 |
35,924人
※非正規社員のぞく (時点:2024年3月20日) |
業種 |
製造業
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事業内容 |
通信・情報システム、電子デバイスの製造販売
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働き方・休み方改革に取り組んだ背景と狙い
・ニューノーマルにおいて、DX企業への変革をさらに加速させ、社員が高い生産性を発揮し、イノベーションを創出し続けることができる新しい働き方「Work Life Shift」を2020年より推進している。
・Work Life Shiftは、「仕事」と「生活」をトータルにシフトし、ウェルビーイングを実現することをコンセプトとしている。このコンセプトの実現の前提になっているのが、“社員一人ひとりの高い自律性と相互の信頼”である。
・さらに、2021年にはアフターコロナを見据えて、リアルとバーチャルを組み合わせたHybrid Workの実践に向けてWork Life Shift 2.0へと移行した。柔軟な働き方になったことを活かしてLifeの側面もより充実させることで相乗効果を生み出し、新たな価値創造とエンゲージメントの向上を推進してきた。
組織パフォーマンスの向上と社員一人ひとりのウェルビーイングの向上を両輪で進めていくことを追求し、持続可能な社会の実現に向けて、日本の新たな働き方をリードしていきたいと考える。
主な取組内容
Work Life Shiftの導入
・2020年7月にニューノーマルにおける新たな働き方Work Life Shiftを発表した。Smart Working(最適な働き方の実現)、Borderless Office(オフィスのあり方の見直し)、Culture Change(社内カルチャーの変革)の3本柱で取組みをスタートした。
・Smart Working(最適な働き方の実現)では、社員と会社の信頼関係のもと、固定的な場所にとらわれない働き方の実現に向け、仕事内容・目的・ライフスタイルに応じて働く時間・場所を自律的に使い分けるということをコンセプトとしている。
・具体的には、固定的な場所にとらわれない働き方として、原則、全社員を在宅テレワーク勤務とし、通勤定期券の廃止、単身赴任解消等の取組をあわせて実施した。また、フレックスタイム制のコアタイムを廃止した。現在では、社員全体の約95%にコアタイムなしのフレックスタイム制が適用されている。部署内で各人の働く時間のずれが生じるが、カレンダーで始業時間を共有する、事前に上司や同僚に相談するなど、日々のコミュニケーションにおいて工夫している。
・2017年よりテレワーク勤務制度やフレックスタイム制勤務制度を全社導入していたことで、Work Life Shiftにおける新しい働き方に比較的スムーズに移行できたと考えている。
Work Life Shift 2.0への移行
・Work Life Shiftでは、WorkとLifeをトータルにシフトするという考え方に基づき導入したが、当時は働くという概念・形を変えていく取組が重要というフェーズであった。コロナ禍の影響もあり、働き方の当たり前や通勤の概念などが変わると、その次のフェーズとして、さらなる価値向上を発揮していくためにWorkとLifeのシナジーを生み出していくという点がより重要になった。このような考えで、2021年からWork Life Shift2.0をスタートさせた。
・Work Life Shift2.0では、Work Life Shiftにおける3本柱に加え、①Hybrid Workの実践とエクスペリエンス・プレイスへの進化、②DX企業としての働き方の進化、③WorkとLifeのシナジー追求の3点を打ち出している。
①Hybrid Workの実践とエクスペリエンス・プレイスへの進化
・Work Life Shiftでは、働く場所の柔軟化として、テレワークを本格導入した。労働時間や勤務場所は会社に管理・コントロールされるものというイメージからの脱却を図り、社員と会社の信頼関係のもと、社員が自律的に働いていくことを会社がサポートしていくというメッセージとして強く発信した。Work Life Shift2.0ではさらに踏み込んで、そこから得られる価値や生み出される質に重きをおくという点を打ち出した。
・Work Life Shift2.0では、オフィスにおけるリアルなコミュニケーションの効果的な活用とテレワークの利点を組み合わせたHybrid Workの実現を目指している。
・人的資本経営や組織のパフォーマンスと個人のウェルビーイングを両輪で進めるためにも、状況に合わせて社員が自律的に最適な選択をできるということが重要であると考えている。リアルの方が生産性が高い場面もあるかもしれないが、中長期的な視点で個人のWorkとLifeをトータルに考えると、どちらが良いかは個々の事情によっても異なり、共通の正解はない。業務の目的に応じてリアルとバーチャルを組み合わせるHybrid Workを実践することで、個人の生産性とチームの生産性、それぞれに効果をもたらすことが重要だと考える。
・これまではデスクが並び、働くだけの場所であったオフィスの概念を変え、新たな体験ができる場所に変えていこうという取組をしている。例えば、「ドッグオフィス」では、犬を飼っている社員が愛犬を連れてオフィスに集まり、業務上のつながりがない人ともコミュニケーションが生まれた。それにより、新たな業務上のつながりやコラボレーションが生まれることがある。
・また、ランチミーティングで集まった人に会社がお金を出し、チームとしてのコミュニケーションをとるきっかけを作る取組や、社員が集まり俳句や川柳を作るワークショップイベントを行うなど、オフィスに対するイメージを変えるため、様々な取組を行ってきた。
・一方で、オフィスの概念が変わり、自由なフロアや席で働けるようになったことで、誰がどこにいるか分からなくなったという社員からの声が増えた。そこで、位置情報を使い、誰がいつどこに出社する予定ということを自動的に判定できるシステムを導入した。友達登録をしている人は「いつどのオフィスに出社するかも」というチャットが来る機能もある。これは、社員のアイデアから、社内の横断プロジェクトであるフジトラ(Fujitsu Transformation)を通して実現した取組である。
・定期的に行っている社内調査では、若手層から孤独感を抱えているという声があった。チャットや電話をする際に先輩や上司に気を遣ってしまい、相談を控えてしまうということである。また、出社して隣席にいれば体調面の変化に気付くことができるが、オンラインでは難しい。そこで、1on1ミーティングを上司だけでなくチームとして行い、チームの状況についてプライベートも含めて定期的に話す場を設けることを推奨している。
②DX企業としての働き方の進化
・自社で取り組んでいることを社会にも還元していくという点に加え、社内外におけるコラボレーションの活性化を目指している。地域活性化の観点では、大分県や和歌山県と包括連携協定、10以上の自治体とワーケーションパートナーシップ協定を締結している。地域からの情報発信を社内に展開することに加え、地元の企業や自治体の人と連携して地域課題の解決などに取り組んでいくことを目的としている。
③WorkとLifeのシナジー追求
・WorkとLifeのシナジー追求の観点でもワ―ケーションを推進している。社内では学べない知見をワ―ケーションから得て、社内に還元してもらうことが狙いである。業務上で関わりのなかった社員同士が一緒にワーケーションをするという自主的な取組もあり、自律的なコミュニティ形成の良い事例となっている。
・また、会社として男性の育児参加100%を推進している。社内のサイトにて育児休業を取得した男性の働き方などの体験談を掲載し、育児休暇を取った先輩社員に話を聞ける場も設ける取組も行っている。また、育児休業に入る際と復帰するタイミングで、働き方の希望に関するヒアリングの場を設けており、面談を実施する幹部に向けてはコミュニケーションのガイドを作成し、復帰後の働き方について対話できるようにしている。
自律的なキャリア形成の推進
・企業としての事業戦略や組織ビジョンを実現するという目的のもと、一貫して制度を設計している。施策を新たに導入する際には、その目的・背景・趣旨を説明し、会社や個人のウェルビーイングのために制度を更新しているのだというメッセージを、社員に伝えている。
・ジョブ型の人材マネジメントを打ち出しており、一人ひとりの職務を明確にしている。社員には働き方だけでなく、自身のキャリアも自身で考えてもらうことが大事だと考えている。
・キャリア形成についても、これまでは年次により研修や昇格試験などのステップアップがある程度一律的であったが、現在は自分の生活やどのようなキャリアを歩んでいきたいかということに合わせて、自律的に選択することを重視している。社外での副業や、ポスティング制度を活用した部門間の異動なども会社として推奨している。
・また、1on1ミーティングを全社で展開しており、社内コミュニケーションの機会を確保している。評価の面談や目先の業務だけではなく、キャリアについてしっかり話してもらう機会として、現状、月1回を目安に実施することを推奨している任意の取組で、1回あたりの時間は概ね30分~1時間程度である。
自律と管理のバランスに留意した施策の展開
・働き方に関して、社員のセルフマネジメントにすべてを委ねるのではなく、自律と管理のバランスを重視している。
・オンラインでは、個人の状況が見えづらいという課題があり、業務時間とプライベートの切り替えができていない社員や残業の多い社員がいるかもしれない。そこでリアルタイムで労働時間を確認できるツール「就業ダッシュボード」等を活用して上司が部下のデータを確認し、部下の変化に気づくことができるよう取り組んでいる。
・従来から、部課員の時間外労働の実態についてシステム上で所属長が閲覧できるようにしていたが、就業以外の情報も多く掲載された多機能なシステムである為、就業情報に特化したシステム「就業ダッシュボード」を2020年度下期より導入した。部課員の時間外労働時間、打刻漏れなどによるエラー、年次有給休暇の取得状況、PCログとの乖離状況等が一元的に可視化される仕組みである。長時間労働の傾向にある部課員なども一目でわかる様になっているため、マネジメントのサポートツールとして展開している。
・2019年度より、勤務間インターバルを導入している。22時以降に打刻した場合は、翌日の始業時間の目安を通知することで、社員に少しでも意識してもらいたいと考えている。
・また、長時間労働の傾向にある社員のPCに健康に関するポップアップ通知を出して、休息の確保等を呼びかけている。ただ残業削減のアラートを発信するだけではなく、ポジティブな提案型のメッセージとすることで、自主的な行動変容を目指している。また、働き方ではなく休み方を提案することで、強制感なくセルフマネジメントに取り組む意識を醸成したいという狙いがある。
管理監督者の働き方とデータを用いた施策の検討
・2019年度より、健康管理時間を導入している。健康管理時間とは、管理監督者や裁量労働制利用者の労働時間把握のため、PCログの最大値を労働時間として取得するものである。労働時間が一定の時間を超過した人には問診票を送付、さらに多い人には産業医面談を行い、体調などについて第三者と話す機会を設けている。また、必要に応じて業務の見直しについて上司と相談する場も設けている。
・管理監督者の負担軽減や働き方改革について、データを用いて検討している。具体的には、チャット、メール、会議などのコミュニケーションに関するデータを抽出し、出社日やエンゲージメントサーベイのデータを組み合わせて、エンゲージメントや生産性が高い職場における働き方やコミュニケーションの傾向、時間の使い方などを分析している。データ上では、一般社員と管理監督者の働き方には明確な違いがある。組織、年齢や性別、子どもの有無等の属性や組織の課題に応じて、より良い働き方を分析し、施策につなげていく。
・新たな制度の導入後にはデータの変化を確認しており、良い変化が見られた場合は全社に横展開し、効果が見られない場合はヒアリングにより原因を分析している。
・行動を社員に継続してもらうためには、施策をシンプルにすることも重要である。会議の時間やメールの量など、全てを変えようとするのではなく、データ分析にもとづき重要因子を見つけ、優先的に施策として打ち出すようにしている。
取組の成果・展望
【法定外労働時間の推移】
<2020年度>(月平均)9.7時間
<2023年度>(月平均)8.8時間
【年次有給休暇取得率の推移】
<2020年度>年間平均取得日数:12.6日/取得率:63.0%
<2023年度>年間平均取得日数:14.2日/取得率:71.2%
・改善した理由:年次有給休暇の連続取得推奨期間を設定し、取得しやすい風土づくりを行っている。
取組の成果
・Work Life Shiftで自宅や自宅以外のワークプレイスでの勤務を認めたことにより、通勤時間がなくなることがありがたいという声がある。選択肢が増えたことで、救いたい社員を救うことができており、多くの実践例ができていることが成果である。
・採用の観点では、中途入社の社員から、働きやすい良い会社だという声を聞く。介護中の社員にとっても柔軟な働き方が可能であり、キャリアを断絶したくないと考える人から選択してもらえている。