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Column 2.犯罪被害者の被害回復のための休暇
「会社からの帰宅途中に、通り魔からナイフで切りつけられ怪我をさせられた」
被害者は、自分に落ち度があったわけでもなく、まさか自分が被害に遭うとは思っていなかったでしょう。誰もが予想ができない事態であるにも関わらず、実際に被害に遭うまでは、自分にとって関係のないことと思っているのが現状です。
犯罪被害相談員として、身体にダメージを受ける被害に遭った人から直接話を聞くことがあります。
怪我は治療によって治っていくけれど、
- 「襲われる夢を何度も見る」、
- 「同じ道を歩くことが怖い」、
- 「すれ違う人が加害者に見える」、
- 「包丁が持てなくて料理ができない」、
- 「暗くなってから外出できない」、
- 「『早く忘れて元気になって』と言われるのが辛い」…。
被害者のこれまでの平穏な生活は一変してしまいます。そしてこれまで安全だと感じ安心して過ごした社会への信頼を失ってしまうのです。
被害によるダメージは、身体の怪我だけではなく、精神面にも現れます。その影響で日常生活や人間関係にも変化が生じ、「元の生活に戻れない」、「今までのようには働けない」と生活全般に波及していきます。
内閣府の調査(*1)では、犯罪被害者等のうち「重症精神障害」相当とされる人の割合は16.7%であり、犯罪被害の経験がない人の4.1%に比べて顕著に高く、犯罪被害が精神健康状態に及ぼす影響の大きさを伺わせるという結果が出ており、被害が精神面に及ぼす影響の大きさが明らかにされています。
被害からの回復には、被害後の急性期に適切な対処ができたかどうかが影響すると言われています。たとえば被害後の一定期間を「少し遠回りして出勤するため遅刻する」、「暗くなる前に早めに仕事を終え帰宅する」といったことが認められることでもよいのではないでしょうか。もしそのような制度があれば、被害者は「精神的な不安」に加えて仕事を失うという「経済的な不安」を抱えることを避けられます。また被害者は、事件後に警察や検察庁に出向いたり裁判に参加するなど、司法手続き上の理由で休暇が必要になります。裁判の日程を被害者が決めることはできません。
ところが実際には97.2%の企業は犯罪被害者のための休暇制度の導入を考えていないという調査結果(*2)が出ています。
犯罪の被害者には慶弔休暇や病気休暇に該当しない理由での休暇のニーズがあります。犯罪被害への備えは危機管理と捉え、今は声に出せないでいる被害者に対して企業側が制度設立に一歩踏み出して頂けることを望みます。
- 平成21年度 犯罪被害類型別継続調査
- 平成25年度 特に配慮を必要とする労働者に対する休暇制度に関する意識調査