専門家のコラム
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Column 1.社員のセイフティネット~病気療養休暇~
長く続く職業人生の中では、育児や介護の他、予期せぬ事態になり、仕事を続けていくことが困難になることもあるでしょう。しかしその時、「仕事か私生活か」という二者択一ではなく、私生活上の事情に合わせた仕事が続けられる多様な働き方の選択肢があることで、私たちの生活はより豊かなものになるのではないでしょうか。
たとえば、メンタルヘルス不調者やがんの罹患者が近年増えています。前者は労働政策研究・研修機構の調査(*1)によると、4人に1人が過去3年間にメンタルヘルス不調を感じ、そのうち2割の人は通院が必要な状態であったということがわかりました。また後者では、現在日本人の半数が一生のうちにがんに罹るといわれています(*2)が、在職中に罹患する人も増えています。つまり、誰がいつ私傷病で休職や休暇を取ってもおかしくない状況にあります。
しかし厚生労働省の調査(*3)では、がんに罹患した労働者の3割超の人が依願退職または解雇により、離職しているということがわかっています。こうした事態を重く捉え、国は仕事と治療の調和に向けて、「がん患者・経験者の就労支援のあり方に関する検討会」を平成26年に立ち上げ、報告書の中で就労支援の大切さを訴えています。がんに罹っても働き続けられる社会にしていくためには、罹患者本人や医療関係者による努力だけでなく、就労支援の専門家(ハローワークや社会保険労務士など)と企業の連携が欠かせません。
平成26年の東京都の調査(*4)によると、実際にがんに罹った労働者の多くは、離職を考えざるを得なくなった時、経済的な不安を感じると同時に、働くことへの充実感や仕事を通じて社会と接点を持つことの素晴らしさを改めて感じたといいます。生きるうえで、働くことは心の支えにもなるのです。
またメンタルヘルス不調やがん等に罹ったとしても、長期にわたって仕事を休まなければならない人もいれば、短期の休養や通院の時間がとれれば仕事を続けられる人もいるなど、様々なケースが考えられます。こうした時、失効した年次有給休暇を積み立てて、私傷病で休む時に利用できる制度などの特別な休暇制度があれば、ある程度まとまって休む必要がある場合でも退職しないで済みます。また、検査や投薬のための通院時に利用できる特別な休暇制度があれば、仕事と治療を両立することができるのです。
つまり、私傷病にかかった際の通院・療養に利用できる特別な休暇制度は、社員のセイフティネットとしてこれからの日本企業には欠かせない存在となるでしょう。
- H26「第2回日本人の就業実態に関する総合調査」独立行政法人労働政策研究・研修機構
- 公益財団法人がん研究振興財団:がんの統計(2014年版)
- 厚生労働省科学研究費補助金、厚生労働省がん研究助成金「がんの社会学」に関する合同研究班(平成16年)
- 東京都福祉保健局「がん患者の就労等に関する実態調査」(H26)の図表19-2