有限会社ワシオ商会
社員の健康を重視する社風づくりで年休取得を促進
1971年創業の土木・建設資材のレンタル・販売を行っているワシオ商会(福島県会津若松市)。従業員は20名で、県内に3カ所の拠点を持ち、チェーンソーやドリルなど小型機械やセメントや鉄筋などの建設資材、コーンやバリケードなどの安全用品といった主に道路工事などに特化した資材を取り扱っている。(令和6年度掲載)
企業データ
代表取締役 |
鷲尾伸一
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所在地 |
福島県会津若松市
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従業員数 |
20名(2024年9月現在)
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創業 |
1971年
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事業内容 |
小型機械や建設資材、安全用品など主に道路工事などに特化した土木・建設資材の販売、レンタル、修理を福島県内3拠点で展開している。
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経営者略歴 |
鷲尾一美(わしお・ひとみ)専務取締役
1975年、会津若松市生まれ。95年、有限会社ワシオ商会入社。社員の働き方改革を進め、2021年、福島県ワーク・ライフ・バランス先進的取組大賞受賞。2022年から現職。福島県男女共同参画審議委員、東京大学健康投資推進協議会ワーキンググループ員。 |
年休取得推進のポイント
- 「健康経営」の推進で休みが取れる体制の整備
- 社員の健康を重視する社風をつくるため「健康経営」を導入。シフトの調整や体制の整備で休日数を段階的に引き上げた。
- 特別休暇の充実と時間単位の取得制度導入
- 配偶者出産休暇や不妊治療休暇など特別休暇を新設。時間単位での年休取得の導入で、子育てや通院などの用事のために年休を活用した。
- 細やかな対応で休みやすい雰囲気づくり
- 家族の事情など社員一人一人の状況に合わせて、給与の調整や細やかな声かけなどで、年休が取得しやすい職場の雰囲気をつくる。
少子高齢化が進む地方の中小企業の事業継続のために
同社が働き方改革に取り組み始めたのは約10年前。地方の少子高齢化による人手不足に対応するため、社長と共に人材確保に向けて、制度の整備を試行錯誤しながら進めていった。さらに従業員の健康管理と定着率の向上を目指して、「健康経営」の考え方を取り入れ、社員の健康を重視する社風づくりに努めてきた。
同社の総務人事を担当する鷲尾一美専務取締役は「地方の小さな会社なので、社員が病気で頻繁に休まれてはと困る。根本から健康が大事だということを社員に周知して、会社もそれを大切にしていますよということを発信するのが重要。また、働きやすい環境を整備することにより、従業員の満足度を向上させ、若い人から選ばれる会社にならないと、事業が継続できないと思いました」と振り返る。
そこで、最初に取り組んだのが休日を増やすことだった。建設資材を扱う同社は、顧客の工事関係者が現場で作業を始める前に資材の購入やレンタルをするため、午前7時半の開店業で土曜日も営業しなければならず、実施には苦労もあった。「社員も少ない小さい会社なので、いきなり休日を増やすと負担がかかってしまうので、毎年少しずつ増やしていった」という。
シフトの変更や人員配置を調整しながら、それまで年間87日だった休日を2016年から91日に、2018年から105日、2023年から110日と徐々に増やしていった、2025年からはさらに増やす予定だという。現在の110日も法定の休日数の105日を上回っている水準だ。
時間単位の取得で「使いやすい」年休に
こうした取組を進めた上で、同社では年次有給休暇(年休)の取得を促進する施策にも着手する。まず特別休暇の充実だ。従来の育児休暇に加え、配偶者出産休暇や不妊治療休暇を新設した。不妊治療休暇については男女いずれも取得できる。新型コロナウイルス流行時には休校で子供の面倒を見るための特別休暇も実施した。
最も効果的だったのが時間単位での年休取得の導入だった。鷲尾専務は「1時間単位で取れるので、朝病院に寄ってから出勤したり、学校や幼稚園から呼び出しがあった時に早めに帰ったり、中抜けもできる。1日単位にしてしまうと、ちょっとした用事でも1日年休がなくなってしまう。子供のいる社員も多いので、時間単位なら使いやすいと好評で、年休取得率の向上につながりました」と語る。実際、年休取得率は2021年が57.3%、2022年が61.5%、2023年が72.2%と毎年取得率が大幅にアップしているという。
運用面でも社員への年休取得の呼びかけと、取得状況の把握をこまめに行っている。社員全員が集まる機会や日々の朝礼のときに年休取得を呼びかけ、年2~3回の個別面談で取得状況の確認を行っている。「声かけをしないと休みを取らない人もいるので、『いついつまでに必ず取ってください』と話すなど、一人一人細かくやっています」という。こまめな対応という意味では待遇面の配慮も欠かせない。「休みを増やすと労働時間が減ってその分給料が下がってしまっては意味がないので、ベースアップなど個別の状況を見ながら収入が減らないように微調整をしています」と語る。
こうしたきめ細かな対応ができるのも中小企業だからこその利点だと鷲尾専務は指摘する。「社員一人一人の顔が見えるので、コロナの時も子供が休校で困っているなとか、家族の介護があるなとか、家族の状況も全部見えているので、すぐに制度をつくるなど対応ができる。また、一人休ませるためには、その周りの人に負担がかかるので周囲の理解も必要。以前、男性が育休を1カ月取るというときに『彼だけが1カ月休んでいいなではなくて、育休ではなくても病気になったり、家族の介護だったり、何かあったときに、自分も休まなければならない立場になったとき、助けてもらえるから、今助けましょうよ』という話をしました。精神論ですが、休みやすい雰囲気をつくるのが大事だと思います」
「休みやすさ」が入社の決め手に
今年1月に他社から転職してきた30歳の営業職、渡部卓さんは、年休を子育てに活用している。また、趣味でスキーのインストラクターをしており、月3日の自由選択休暇制度と年休を組み合わせて、スキーの時間に当てるという。
「前の職場で、独身時代は休みなどさほど気にしていなかったのですが、結婚して家庭を持って、子供が生まれるというタイミングで、『育休を取ろうかな』って冗談めかして言ってみたら、なかなか難しい雰囲気が正直ありました。ワシオ商会では男性が長期の育休を取っても、みんなでカバーしてくれる。自分でも『年休を取りたい』と言いやすい」と語る。
転職に当たっては、同社の社員からの紹介だったといい、「その同僚から年休のことなど休みの制度について聞いていて、前の職場よりもきっちりしているので、仕事だけではなく、子育てや自分の趣味にしっかり時間を使えるというところが決め手になりました」といい、「同僚の理解もあって、休みを調整してもらえるので、スキーのインストラクターもできる。いまからシーズンが楽しみです」と笑顔を見せた。
入社6年目の事務職の原貴子さんは2児の母だ。原さんも中途入社だが、「前職では妊娠した時に、『辞めてね』という雰囲気だったので専業主婦になって出産しました。すぐに職探しをしていたら、こちらを紹介されて、採用後も保育園が決まるまで3カ月待ってもらえたのはありがたかった」と振り返る。
入社後、子供が保育園に通い始めたころは、通常午前8時~午後5時の勤務を、午前8時45分~午後4時の短時間勤務にしてもらったという。「余裕を持って送り迎えに行ける。それに時間単位の年休が取りやすくて、子供の参観も2時間だけ取って、また会社に戻って来て仕事をしたり、保育園の役員会がある日は1時間早めに終わらせたり、大変助かります」と語る。
こうしたフレキシブルな働き方ができることについて、原さんは「入社した当初から、社長や専務に『明日年休を取りたいです』って、いきなり言えるような雰囲気でした。同僚にも『子供の調子が悪いので帰ります』って言っても何も言われないし、逆に他の人が休むときも当たり前のようなので、お互い様という感じですね」と職場の様子を明かす。
「健康投資」を積極的に展開
同社では、休み方以外にも社員の健康に配慮したさまざまな取組を「健康投資」と位置づけ、積極的に行っている。禁煙外来や禁煙グッズを会社負担とする禁煙対策や添加物を抑えたお惣菜を社内に常備する「置き型社食」、仮眠が取れる休憩所の完備などだ。さらに前日の勤務が終わってから11時間以上空けて出勤する「勤務間インターバル制度」を導入している。「雪国なので冬場は雪かきのために午前7時半の通常の始業よりも1~2時間早く来ないといけない。その分が残業にならないようにしています」と地域の実情に合わせた対応をしている。
これら取組は、採用面で大きなアドバンテージになっているという。鷲尾専務は「いまは中途採用しかしていないので、従業員が知り合いに自信を持って会社を紹介できる。知り合いの採用が一番確かですから。また、通常の求人でも会社の取組をしっかり紹介しているので、そこを見て面接に来られる方が多い。おかげで若い人が毎年コンスタントに採用できています」と話す。「少子高齢化が進む地方都市の中小企業が存続していくために、社員の健康を第一にした『健康経営』を進めて、働き改革にも取り組んでいきたい」と力を込める。