株式会社ウチダレック
DXによる業務の見直しで年休取得大幅増、営業利益も倍増
鳥取県米子市を中心に不動産業を展開する株式会社ウチダレック。1969年創業の老舗企業で、主に住宅や中古住宅の売買、賃貸管理を手がける。デジタル化による業務効率化と働き方改革を推進。その結果、1人当たりの営業利益250%増、業務効率100%向上、離職率の大幅減少などの成果を上げている。
企業データ
| 代表取締役社長 |
内田光治
|
所在地 |
鳥取県米子市
|
|---|---|---|---|
| 従業員数 |
24名(2025年8月現在)
|
創業 |
1969年7月1日
|
| 資本金 |
2000万円
|
事業内容 |
1969年創業の老舗企業で、鳥取県米子市を中心に2拠点を持つ。主に住宅や中古住宅の売買、賃貸管理を手がける。不動産業の業務改革システムの開発も手がける。
|
| 経営者略歴 |
1986年生まれ。慶應義塾大学経済学部を経て、慶應義塾大学大学院経営管理研究科(MBA)修了。楽天、フィンテックのベンチャー企業のネットプロテクションズを経て、家業であるウチダレックに入社。業務改革の実績を元に、不動産CRM「カクシンクラウド」を開発、販売会社としてワークデザインを創業。
|
||
年休取得推進のポイント
- DX推進による業務効率化と「仕組み」の変化
- 情報共有のデジタル化やクラウド上での人事評価制度の導入など、DXを推進。非効率な業務プロセスを改善し、業務効率を100%向上させることで、社員が休みやすい環境を整備した。
- 独自の休暇制度と手当の導入
- 年間20日程度の年次有給休暇(以下「年休」という。)取得を実現するため、2020年に「リフレッシュ休暇」制度を導入。連続5日間の年休と公休を合わせた最大7日間の休暇取得で3万円の手当を支給することで、長期休暇の取得を奨励し、社員が「自分にしかできない仕事」をなくし、業務の引き継ぎや見える化を促進した。
- データに基づいた営業日見直しと柔軟な働き方
- 来店データ分析に基づき、これまで休業日だった水曜日を営業日とし、来店数の少ない金曜日を休業日とすることで、週休3日を実現。育児休業取得率100%達成や時短勤務制度の拡充など、社員のライフステージに合わせた柔軟な働き方を支援。
改革のきっかけは「非効率な業務」と「人口減少」
同社では、デジタルトランスフォーメーション(DX)を軸とした働き方改革を推進し、目覚ましい成果を上げている。2016年に就任した内田光治代表取締役が、自身のIT業界での経験を生かし、非効率だった社内業務の抜本的な改善に着手。その結果、業務効率が100%向上し、年休取得率が飛躍的に改善するなど、従業員の働きやすさと会社の業績向上を同時に実現した。
IT業界での経験を持つ内田社長は、当時の社内状況に危機感を抱いたという。「社員は非常に頑張ってくれていましたが、その頑張り方が必ずしも生産性につながっていませんでした」。年間の休日は104日と少なく、年休の取得もほとんど進んでいなかった。
背景には、日本の労働生産人口の減少という社会全体の構造的な課題があった。内田社長は、「不動産賃貸管理業という業態は1970年代ころから始まったと聞いていますが、20代、30代の人口が減少している中で、このままでは厳しいと。特に地方でビジネスを展開する上では、効率化が必須だと考えました」と振り返る。
DX推進で「仕組み」を変え「行動」を促す
改革の第一歩は、アナログからの脱却だった。手書きのホワイトボードで管理されていたスケジュールをデジタル化。2店舗間の情報共有の困難さや、外出先からの状況把握ができないといった課題を解決した。社員が日常的にスマートフォンを使用していることに着目し、抵抗感を最小限に抑えつつ、デジタル化を推進。入居者からの問い合わせ電話を外部コールセンターに委託するなど、データに基づいた業務アウトソーシングも進めた。
「データを集約することで、これまでのイメージと実際の業務内容の違いも把握でき、さらなる効率化が進みました」と内田社長。DX推進には約3年を要した。人事評価制度もクラウド上のシステムに入力されたデータのみを評価対象とすることで、自然な形で社員のシステム利用を促したのだ。
週休3日制とリフレッシュ休暇で年休取得を促進
DXによる業務効率化が進んだ結果、ウチダレックは大胆な「休み方改革」へと踏み切る。不動産業界は2月、3月が繁忙期、4月以降は閑散期となり業務量が激減するという特性がある。この業務量の波に着目し、閑散期に週休3日制を導入したのだ。さらに来店データを分析した結果、水曜日が土曜日と同じくらい来店客が多いことが判明。これにより、これまで休業日だった水曜日を営業日に変更し、来店客の少ない金曜日を休業日とすることで、週休3日を実現した。
「会社の体制は繁忙期に合わせているため、閑散期には余裕が出てきます。そこで、閑散期に週休3日制を導入し、社員に休息を取ってもらい、繁忙期に備えるという考えでした」と内田社長は説明する。当初、社員からは驚きの声が上がったものの、効率化による売上向上で「休みが増えても待遇は変わらない」ことを丁寧に説明し、理解を得たという。
年休の取得率は、改革前はほとんど取得されていなかったが、現在では平均で20日程度取得されるまでに大幅に向上した。さらに、2020年からは「リフレッシュ休暇」制度を導入。年に1回、連続5日間の年休と公休を合わせた最大7日間の休暇を取得すると、会社から3万円の手当を支給するというユニークな制度だ。休暇取得の条件として「休暇中はリフレッシュし、お土産を買ってくること」という遊び心も取り入れられている。
休みを取るための業務の見える化が自分自身の気づきに
業務課課長代理の田口映海香さんは、入社当初は年休が取りづらい状況だったが、内田社長の改革後、働き方が大きく変わったという。「システムが変わり、働き方も大きく変わりました。最初は変化に戸惑いもありましたが、効率化の理由や目的を理解することで、前向きに受け入れることができました」と、改革への理解がスムーズな移行につながったと語る。特に子育て中の社員にとっては、勤務時間を30分繰り上げて退社することができる「アーリー退社制度」という福利厚生を利用することによって、保育園のお迎え時間が確保できた。「子供たちの精神状態が不安定な時期に、早めに迎えに行けるようになったのは本当にありがたいです。たった30分の違いですが、だいぶ違います」と生活面での具体的なメリットを挙げた。
田口さんは、リフレッシュ休暇の活用事例として「資格試験の勉強のために、試験前の1週間をリフレッシュ休暇として取得し、集中して勉強しました」と語る。「普段なかなか勉強する時間が取れないということもあって、そういうスキルアップのために利用しました」と、休暇取得が自己成長にもつながっているという。また、1週間の休暇を取得するためには、日頃から自分の業務を見える化し、他の人がフォローできるように準備しておく必要があるといい、「これが自分自身の気づきにもなっています」と、休暇取得が業務改善のきっかけにもなっていることを強調した。
田口さんは今後の働き方について、「現在は休みが取れることが当たり前になってきています」と現状への満足感を示しつつ、「子供の都合で急に休まなければならない場合も、お互いに声をかけ合って、罪悪感なく休めるような雰囲気づくりを心がけています」と、さらなる働きやすい環境づくりへの意欲を語った。
こうした働き方改革は、経営面でも目覚ましい成果を上げている。2016年から2020年にかけて、1人当たりの営業利益は250%増加。同じ人数でより多くの成果を上げられるようになった。離職率も業界平均の15〜18%から3%程度に大幅に減少し、育児休業取得率も100%を達成。時短勤務制度の拡充やパート社員から正社員への転換も積極的に進められている。
内田社長は、「今後は給料をさらに上げていくことと、新規事業の展開を考えています。効率化によって生まれた時間とリソースを活用して、新しい取り組みにチャレンジしていきたい」と語り、社員の待遇改善と新たなビジネスへの挑戦を進めていく。