株式会社シマブン
コミュニケーション促進で休みやすい環境を作る
学校のプールの排水部分で見かけることも多い、溝蓋(みぞぶた、グレーチング)。 明治時代に創業し、150年の歴史を誇るシマブン(佐賀県みやき町)は、溝蓋の製造販売を主に手掛けている。 長い歴史の中で変化に合わせて事業を変化させてきた同社だが、その姿勢は働き方でも同様だ。 年次有給休暇取得を全社的に進めるため、目指したのは「健全なコミュニケーション」の実現だった。(令和2年度掲載)
企業データ
代表取締役 |
島信英
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本社 |
佐賀県みやき町
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従業員数 |
30名(2021年2月現在)
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創業 |
1871年
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資本金 |
2000万円
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事業内容 |
排水ユニット、グレーチングなどの製造販売
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経営者略歴 |
島信英(しま・のぶひで)
1964年10月生まれ。西南学院大学卒業後、旭化成ホームズに入社。シマブンには1999年に入社し、取締役などを経て、2001年6月、代表取締役に就任。趣味はゴルフ。 |
年休取得推進のポイント
- 多能工化、マニュアル整備で仕事の属人化を防ぐ
- 社員の多能工化で仕事の属人化を防ぎ、誰がいつ休んでも対応できる環境を作った。同時に業務にマニュアルの作成、改訂を行い、業務を平準化した。
- コミュニケーションを促進し情報共有体制を整備
- コミュニケーション研修を実施し、部署間の距離をなくした。スケジュールの共有も行い、情報共有の仕組みを整えた。
- 年休取得を動機づける休暇名称の導入
- 年休取得を動機づけるため「スポット休暇」「アニバーサリー休暇」「リフレッシュ休暇」と休暇の名称を導入した。社員一人一人が新期の初めに取得日を決めている。
「良い1日だった」と充実して帰宅できる環境へ
創業は1871(明治4)年。当初は瓦の製造販売業を営んでいた。 時代が進む中で、タイルなどの建築材料の卸、製造販売を手掛けるようになり、現在は病院や高齢者施設の風呂、ホテルのプールなどに設置する排水部分の溝蓋が主力商品となっている。 施設用の溝蓋において高いシェアを誇っており、島信英社長は「ニッチな分野ではあるが、過度な価格競争を避けることができる」と説明した上で、「お年寄りはお風呂で転ぶことも多い。 溝蓋を通してバリアフリーの面で役に立ちたいという社会貢献への思いも強い」と力を込める。
15~16年前のことだ。 「不便の不を取り除く」という姿勢で顧客に向き合ってきた島社長は、「社員に対してその姿勢で向き合えているか」とふと疑問に思った。 当時は働き方改革など、今ほど考えられていない時代である。 同社も例外ではなく、「適切なコミュニケーションが取れておらず、雰囲気が良い職場とは言えなかった」と島社長は振り返る。
島社長は「『良い1日だった』と笑顔で帰宅できる職場を作りたい」という思いを強くしていた。 というのも、当時は子育て中だったこともあり、「家に帰った父親のしかめ面を子どもは見たくないだろうと考えた」と説明する。 環境を変えようと、地元の商工会議所や銀行などを回り、健全なコミュニケーションが行われる職場、休みやすい職場に向けての取り組みが始まった。
マルチスキル化でカバーできる体制を作る
年休取得の機運を高めるため、社員に対して年休を取得するよう声がけを行っていった。 しかし、社員からは「本当に取得してもいいのか」「休めと言われても仕事があるから休みづらい」といった反応があり、取得推進には結びつかなかったという。 そこで、社員の「多能工化」、マルチスキル化を進め、誰が休んでもカバーできる体制づくりを進めた。 半年に一度の上長との面談で使用される「目標シート」の項目に多能工化の項目を設け、業務上の目標として「見える化」した。 いつ誰が休んでもよいよう、営業部や製造課など各部署内で定期的に役割を入れ替え実践していった。
多能工化と同時に進めたのが、情報共有の体制の整備と業務のマニュアル化だ。 スケジュール共有ツールを用い、誰がいつ休むのか全社員が把握できるようにした。 また、業務マニュアルの作成、改訂を行い、業務の平準化を進めた。 職場環境の改善に取り組むうえで中心的な役割を担っている総務課の沼田和香奈さんは「12~3月は繁忙期だが、4月になると受注も落ち着いてくる。 その時期を活用してマニュアルの見直しを行っている」と解説する。
年休取得のための環境を整えていくのと同時に導入したのが、半日単位の年休制度だ。 よりフレキシブルに年休を取得できるよう導入した。
2019年12月に入社した営業部の馬場栄太さんは「さまざまなケースに合わせて休暇を取得できる。 本当にありがたい環境だと思う」と笑顔を見せる。 7歳の長男、3歳の次男の父親でもあるが、子どもが風邪を引くなどし、病院に連れていくため午前中に半休を取得することもあるという。 前職は家電量販店の販売員だったが、「当時に比べれば、ためらわずに休みを取ることができる」と話す。 入社して1年以上が経過し、担当するエリアも関東から九州に変わった。 「九州エリアの売り上げを伸ばしていきたい」と意気込みを見せる。
コミュニケーション促進と年休取得を動機づける休暇名称
職場の雰囲気改善と同時に、多能工化のための情報共有にはコミュニケーションの促進も欠かせない。 同社では5~6年前から、年に1度のコミュニケーション研修を始めた。研修では1日かけて社内の課題を社員で出し合い、解決策を考えていく。 沼田さんは入社して7年目になるが、「入社当時は部署間で距離があった」と振り返る。 研修を行うことで部署間の壁は少しずつなくなっていった。 島社長は「本当の意味で社員同士が互いを知り合うことができているのではないか」と効果を説明する。
2019年には、さらに年休取得を推進しようと、1日間の「スポット休暇」「アニバーサリー休暇」、2日間の「リフレッシュ休暇」という休暇を導入した。 いずれも年休を活用して取得し、新しい事業年度が始まる11月に社員それぞれが取得日を年間スケジュールに組み込む。 「スポット休暇」は火水木曜のいずれか、アニバーサリー休暇は自分や家族の記念日、リフレッシュ休暇は名称の通りリフレッシュするため取得する。 キャッチーな名称を用いることで、年休取得の動機付けとなる効果があるという。
一連の取り組みの結果、2018年11月~翌年10月の年休取得率100%を達成した。島社長は「こちらから働きかけるというよりも、社員が『こうしたい』というのを聞き、それを取り入れているだけ」と説明する。 環境改善のきっかけは島社長が作った。 しかし、現在では社員一人一人がより良い職場作りに結び付く取り組みを考え実践する「社員主導」の改革となっているのだ。
デザイン事務所や新聞社のデザイン担当などを経て、2019年4月に広報担当として入社した濵文隆さんは「休暇が取りやすい環境が整っている」と説明する。 デザイナーとして働いていたころよりも家族の時間が増え、充実した毎日を送っている。 「シマブンという名前をもっといろんな方に知ってほしい。 広報担当としてできる限りのことをやっていきたい」と意気込む。
社員の意識が変わり年間休日も増える
社員がより良い職場環境を目指したことで、生産性向上にも結び付いた。生産を担う製造課の生産性が上がり、毎週の土曜日出勤が隔週出勤に変わった。 今では生産目標を達成できた週の出勤予定の土曜日が休みになることも増えてきた。 年間休日は2019年の108日から2020年には117日に増え、2021年は120日になる予定だ。
島社長は今後の環境整備について、ハードとソフト両面でビジョンを持っている。ハード面の変化は「オフィスの改築」だ。 海外シェア拡大のため製品にもよりデザイン性が求められる。 「社内がデザインにあふれていなければ、デザイン性のある製品は作れない」と説明する。 ソフト面では、コミュニケーション促進のため社内イベントを増やしたい考えだ。 社員の家族に働く姿を見せる取り組みを始めたいとも考えている。 「全てはコミュニケーションを促進し、知らなかった相手を本当の意味で知るための取り組み」と狙いを語る。 沼田さんも時間単位の年休制度の導入を考えているなど、変化を続けていくモチベーションが全社的に高まっている。