SCSKサービスウェア株式会社
現場重視の取り組みで年次有給休暇取得が当たり前の文化に
多くの企業にとって、消費者対応は重要な業務の一つといえる。消費者対応について、企業から業務を受託し、ITを活用したソリューションを提供しているのがSCSKサービスウェア(東京都江東区)だ。社員の健康を大切にする同社は、年次有給休暇(以下「年休」という。)取得促進のため、取得状況を上長がリアルタイムで把握できるシステムを構築。また、社員の要望に合わせた休暇制度を創設した。休暇取得は、同社にとって「文化」といえるほど定着している。(令和4年度掲載)
企業データ
取締役社長 |
渡辺篤史
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所在地 |
東京都江東区
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従業員数 |
5,417名(2021年3月時点)
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設立 |
1983年3月
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資本金 |
6.2億円(資本準備金含む)
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事業内容 |
企業のコンタクトセンター、バックオフィス、ヘルプデスク業務の受託業務、業務改善提案などのコンサルティング
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経営者略歴 |
渡辺篤史(わたなべ・あつし)
兵庫県出身。1986年信州大卒業後、共同ヴァン入社。2017年にSCSK常務執行役員に就任し、2022年にSCSKサービスウェア取締役社長に就任。 |
働き方・休み方改善のポイント
- 勤怠管理ツールを活用し取得状況をリアルタイムで把握
- 社員の年休取得状況を確認できる勤怠管理ツールを活用。法定の取得日数5日未満の社員には赤色でアラートが表示され、取得を呼びかけることができる。
- キャッチーな名称の制度で休暇取得を促進
- 「メモリアル休暇」「エデュケーショナル休暇」「連休サポート休暇」など取得の目的が分かるようなキャッチーな名称の休暇制度を創設。休暇取得の機運を高めている。
- 現場の声を反映した特別休暇制度で休暇取得を「文化」に
- 年休以外の特別休暇は現場の声を受けて創設されたものも多い。現場に即した対応によって、休暇取得は「文化」といえるほど当たり前のものとなっている。
「社員の健康を守る」と取り組みを本格化
ITサービスを提供するSCSKのグループ会社である同社は、1983年に設立された。2009年にグループ8社が合併し、現在の形となった。企業のコンタクトセンターやバックオフィス、ヘルプデスク業務を受託し、消費者の疑問や要望に日々こたえている。同社の業務分野は、消費者対応だけにとどまらない。消費者の声から浮かび上がった課題について、ITを活用した業務改善案を企業側に提案している。
同社の働き方改革の取り組みは2014年から本格的に始まった。
社員の働き方はさまざまだ。同社の拠点の一つである島根センター(松江市)では、顧客企業ごとに数名~数十名のチームを編成している。委託された企業の業種の関係上、24時間365日の消費者対応が求められるチームもあるという。
同社の人事部の秋庭洋一郎副部長は「『事業の根幹を支える一番大切な資産は“人”であり、社員一人ひとりが心身ともに健康であることが事業発展の礎である』という考えのもと、2014年から本格的に始動させた働き方改革の取り組みの一環として、残業とともに年休の管理も強化を行った」と語る。
勤怠管理ツールで社員の取得状況を把握
取り組みが始まる前の年休取得率は、約60%だったという同社。島根センターの原田洋一センター長は「今でも残っている課題の一つではあるが、取得状況に個人差があるという状況だった。年休を積極的に取得する社員と、ほとんど取得しない社員で二分化していた」と説明する。
法定では年間5日以上の年休を取得することが義務化されている(年間の新規付与日数10日以上の社員が対象)。取得状況を現場で管理するため、同社では勤怠管理ツールを活用。取得日数5日未満の社員には赤色でアラートが表示される仕組みとなっている。上長がリアルタイムで取得状況について把握でき、取得を呼び掛けることができるのだ。「今では取得状況の差は改善されてきました」と原田センター長が話すように、2021年度の年休取得率は島根センターをはじめ全社で80%を超えている。
またシフトを作る際は、社員一人ひとりの稼働日数を本来よりも少なく計画するようにしているという。シフトの関係上、時には窓口で空白の時間ができてしまうケースもあるというが、「クライアントとコミュニケーションを取り、理解を得ている」と原田センター長は説明する。
現場の声を反映させた休暇制度
同社では、年休以外の特別休暇も多い。例えば、社員本人や家族の誕生日などで取得できる「メモリアル休暇」や、資格取得の勉強のために取得できる「エデュケーショナル休暇」、年休を3日連続で取得すると年休とは別に1日付与される「連休サポート休暇」などだ。特別休暇は年休と同様、給与は支払われる。
島根センターで採用担当を務める小林明日香さんは、「私もエデュケーショナル休暇を取得したことがあるが、『取得したからには資格試験に合格しなければ』と良い緊張感が生まれた」と、特別休暇のメリットについて強調する。ほかにも多様な特別休暇があるため、「何かがあれば年休を取得しようと考えるよりも『何か使える特別休暇はないかな』と自然と考えるようになっている」と笑顔だ。
原田センター長は「休暇のネーミングはとても重要」と話す。「現場からすると、年休だと何のために取得すれば良いか迷うこともある。休暇に名前を付けることで気軽に取得できる雰囲気が作れている」と現場目線での休暇のあり方を説明した。
ほかにも、子どもの慣らし保育期間に「ならし保育休暇」が5日間付与されるなど、子育て世代への支援も充実している。島根センター第一課でマネージャーを務め、2人の子を持つ母親でもある矢頭忍さんは、「子どもを育てる親からすればありがたい環境」と笑顔で話す。矢頭さんも年休を取得し、子どもの授業参観に出席しているという。「前職では年休を取得できる環境ではなかった。ここでの社員への待遇は格別だと思う」と説明する。手厚い子育て支援もあり、島根センターでは全ての社員が産休育休後に復帰している。矢頭さんは「戻ってこられる環境があるということはありがたいこと」と笑顔で語る。
これらの特別休暇は、現場の社員の声を受けて創設されたものも多い。秋庭副部長は「社員一人ひとりの人生がある。社員やその家族の人生にしっかりと寄り添って仕組みを作っていく。社員皆が健康であり、仕事にやりがいを持って、最高のパフォーマンスを発揮できるような会社を目指し続ける」と意気込みを語る。
依存しすぎない環境を作る
同社にとって、休暇を取るというのは「文化」として定着している。小林さんは「あまりに当たり前すぎて、採用向けのメッセージでも強みとして強調することをうっかり忘れてしまいそうになる」と苦笑するが、「入社してきた方には制度についてしっかり説明しているので、自然と取得する雰囲気ができている」と説明する。元々取得しやすい雰囲気はあったものの、それを制度として形にした。だからといって組織として硬直化するのではなく、現場の不満があればすぐに改善するという環境があるからこそ文化として定着できているのだろう。
原田センター長は、社員が心身ともに健康に働くためのキーワードとして「何かに依存しすぎない環境を作る」ことを挙げる。仕事に依存してしまうと、仕事でしか満足感を得られなくなってしまう。だからといって家族に依存しすぎてしまっても、健全な状態とはいえないだろう。心身で良いバランスを保つため、「休暇を取ってリフレッシュすることが大切になってくる」と強調する。「これからも生産性と社員の健康という部分をうまくマッチングさせながら、島根センターを運営していきたい」と前を見据えた。
「年休取得推進」とスローガンのように唱えても、文化として定着させなければ意味がない。同社は現場社員の声を反映した取り組みによって、時間をかけて文化を作り上げてきたといえるだろう。