株式会社日建設計総合研究所
全員10日以上の年次有給休暇取得を新たな目標に
持続可能な建築やまちづくりに関する調査・企画・コンサルティング業務を行う日建設計総合研究所(東京都千代田区)は、東京スカイツリーや京都迎賓館などの設計を手がけた日建設計のシンクタンクとして2006年に設立された。所員は研究職を中心に87人で、東京と大阪に事務所を構える。
「日建グループのシンクタンクとして、グループ全体のイノベーションの推進に貢献する役割があります。世の中の変化に対応した新しいワークスタイルの実践もその一つです」と朝倉博樹所長。年次有給休暇(以下「年休」という。)の取得促進にも積極的に取り組んでいる。その中心となる制度が「有給休暇取得奨励日」だ。(令和3年度掲載)
企業データ
代表取締役所長 |
朝倉博樹
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所在地 |
東京都千代田区
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所員数 |
87名(2021年1月現在)
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設立 |
2006年1月
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資本金 |
1億円
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事業内容 |
日建グループのシンクタンク。持続可能な建築・まちづくりの実現を目指した建築と都市のライフスタイル全般にわたる調査・企画・コンサルティング業務。国内外の大学や企業、行政と連携した研究活動。
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経営者略歴 |
朝倉博樹(あさくら・ひろき)
1960年6月生まれ。1985年筑波大学大学院環境科学研究科修了。同年日建設計入社。2007年日建設計総合研究所執行役員上席研究員、2015年同理事主席研究員を経て2020年1月、同代表取締役所長に就任。地域開発計画や市街地整備計画などが専門。好きな言葉は「知謀湧くが如し」。 |
年休取得推進のポイント
- 「有給休暇取得奨励日」を設定
- 会社が年初に年休を使って休むよう促す日を設定。2021年は11日分をカレンダーに割り当て、土日祝日前後に設定するなどして連続休暇をつくった。
- 年休を最大50日積み立てる「積立休暇制度」
- 使い切れなかった年休を無駄にしないという発想。傷病や家族の介護、自己啓発など目的を限定して、毎年の年休利用を促す。
- リフレッシュ目的の「いつでもフライデー」
- 月1回、平日を早く退社し、各自工夫してリフレッシュする。時間の使い方は自由で、どう過ごしたかを報告すると5000円の奨励金が出る。年休取得推進の側面も。
年初に会社が有給休暇取得奨励日を設定
勤続年数によって最大年22日付与される年休のうち半分にあたる11日分を、会社の取得奨励日として年初に設定する。6月1日の日建グループ創業記念日のほか、年末年始や夏季休暇、土日祝日の前後に設定して連休をつくり、所員に周知して休むよう促している。
さらに年初の所属長との面談では、年間業務の目標設定とともに年休の取得計画も提出する。所属長は所員それぞれの休暇取得計画を踏まえて業務配分し、休みが取りやすい環境を整えている。
有給休暇取得奨励日制度は、当初は夏季休暇と年末年始休暇の前後、創業記念日から始まったが、2017年から会社目標として年間11日まで拡大した。「年休をしっかり取る人とそうでない人との差がみられるので、今年は新たな目標を掲げました」と朝倉所長。これまで「全社平均で10日以上」としていた年休取得の目標を、2021年は「所員全員が10日以上」とした。2020年の年休取得率は50.5%。決して高いとは言えない現状を改善するため、一段高い目標を設定し、全員のワーク・ライフ・バランスを推し進めようとしている。
年休を無駄にしないよう、2年間の時効により失効する年休を最大50日積み立てる「積立休暇制度」(以下「積立休暇」という。)も設けている。積立休暇は使う目的を限定。自身の傷病や家族の看護と介護、自己啓発や社会貢献活動に加えて、2018年には不妊治療による休業も対象にした。連続して7日を超えて休業が必要な場合に積立休暇を利用できる。「適用対象には積立休暇を利用し、本来の年休は自身のリフレッシュに使いましょうという制度です」と朝倉所長は説明する。
入社10年になる研究員の金希津さんは、有給休暇取得奨励日が休みを取りやすい職場の雰囲気につながっていると評価する。「年休を取ると周りに迷惑をかけるかなという心苦しさがなく、気持ちが楽です」。これまでは希望通りに休みが取れているという。新型コロナウイルスの感染拡大前は、大学院を過ごした関西や東北の温泉巡りなど国内を旅した。最近は自宅で仕事の疲れをいやすことなどに充てている。
パフォーマンス向上のリフレッシュ策
2018年に導入した「いつでもフライデー」制度も、ワーク・ライフ・バランスの取り組みの一つだ。月に1日、午後の仕事を早めに切り上げて気持ちをリフレッシュする活動に対し、5000円の奨励金を支給する。仕事から離れて所員間のコミュニケーションを図る狙いや長時間労働の削減、半日単位で取れる年休取得促進策という面ももつ。当初は文字通り金曜限定でスタートしたが、今は曜日を問わない形に。時間の使い方は自由で、どう過ごしたかを140文字で報告・公開が条件だ。
コロナ禍以前は、子育て中の短時間勤務の所員も交えて早い時間からの飲み会を開いたり、映画を観に行ったりと社内交流が多かったが、「今は家に帰って家族で散歩したり、美容院やマッサージに行ったり、個々にリフレッシュしています」と広報デザイン室次長の木村千博さん。朝倉所長は「所員の多くが裁量労働制なので、各々が担当業務で成果をしっかり上げることを念頭に、自らが時間の使い方を考えてもらいたいということです。リフレッシュ策は所員のパフォーマンスの最大化を会社として支援する制度のひとつと考えています」と狙いを話す。
震災を機に在宅勤務を導入
同社は在宅勤務にもいち早く取り組んでいる。2011年の東日本大震災後、災害時の働き方を想定して、夏休みを含む2週間オフィスを閉鎖し、全所員の在宅勤務を試行した。その経験を踏まえて翌年から、原則月8日まで在宅勤務できるよう制度化した。翌月の在宅勤務予定日を月末までに事前申請。企画部長が毎月末に利用を促すメールを全員に送り、推進してきた。
新型コロナウイルスの感染拡大で緊急事態宣言が出された2020年4月からは、在宅勤務日数制限や事前申請を撤廃し、原則在宅勤務に切り替えた。「逆に今は出社するときに申請を出すようにしました」(朝倉所長)
自席を設けないフリーアドレスのオフィスで、事前にWeb上の座席表を見て予約するシステムを導入。出社する所員で密にならないよう予約できる席数を、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置に合わせて適宜制限し、席を取れなかった所員への対応として、シェアオフィス2社と法人契約した。外部との打ち合わせも出社せずに、最寄りのシェアオフィスで行っている。
通勤手当は2021年に入って廃止し、通勤に要する交通費は実費精算に。代わりに月64時間以上の在宅勤務者に対して月5000円の在宅勤務手当を支給している。
また、2019年からは在宅勤務制度とは別に、「リモートワーク制度」もスタートさせた。事務所まで通勤できない地域での自宅勤務を可能にしたもので、家族の転勤先の札幌で働き続けたいという所員の希望を受けて制度化した。
制度は要望を聞いて柔軟に運用
入社6年目になる研究員の松縄暢さんは、2021年10月から1年間、妻の英国留学に同伴し、リモートワーク制度を利用して「英国勤務」を始めた。「1歳の長男と離れ離れになるのは避けたくて、コーポレート部門の代表に相談したら、制度を要望に合わせて改定できそうだと言ってもらえました」。勤務地を国内から海外にも広げる制度改定で実現できたという。
加えて、子育てや時差に配慮した働き方も認められた。英国と日本との時差は8時間。現地の午前5時から正午まで、休憩1時間を除く6時間の短時間勤務で、仕事内容も所属長と相談し、主に一人でも進められる調査研究業務にあたる。これまでも在宅勤務を経験しているので、海外でのリモート勤務にも不安はないと松縄さんはいう。
「実現できたのは会社の制度と理解があるためで、本当にありがたいです。子どもとの時間を大事にしながら、英国の都市や暮らしをしっかりと見てきて、仕事に活かすことで会社に貢献したいと思います」。
2020年春、緊急事態宣言が出された時、「いつでもフライデー」を一旦中止すると社内連絡が回った。所員同士の社外活動を見合わせようという判断だったが、「外で楽しんだり、みんなで集まったりしなくても、リフレッシュはできるはず」という所員からの意見を尊重し、すぐに撤回されて継続が決まったという。松縄さんは「制度をつくることもその運用も、柔軟でフットワークが軽い。この会社の良さだと感じています」と話す。
これらの働き方が可能なのは、通常2、3人のプロジェクトチームで仕事をするコミュニケーションの取りやすさや裁量労働制であること、モバイルパソコンの使用など業務内容や環境によるところも大きいが、朝倉所長は「それだけに、いかに自分をマネジメントできるか、本人の自覚が問われる働き方だと思います」と語る。
価値ある仕事によって社会に貢献する/それを通じて個人は成長する/会社も発展していく━━。日建設計の1900年創業以来、日建グループが掲げる基本理念を柱に、会社の発展につながる個人の成長をこれからも支援していく考えだ。