電源開発株式会社(J-POWER)
有給休暇取得率84.8%達成、多様な働き方を支える制度と意識改革
電源開発株式会社(J-POWER)は、2017年から2020年にかけて、「J-POWER Challenge 30」と名付けた働き方改革を推進し、全国・海外に拠点を持ち、24時間365日稼働するインフラ企業ならではの課題を乗り越え、有給休暇取得率の大幅な向上、超過勤務の削減、そして多様なライフスタイルに合わせた柔軟な働き方の実現に着実に成果を上げている。
企業データ
| 代表取締役社長 |
菅野 等
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本店所在地 |
東京都中央区
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| 従業員数(単体) |
1,899名(2025年3月31日現在)
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設立 |
1952年(昭和27年)9月16日
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| 資本金 |
180,502百万円(2025年3月31日現在)
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事業内容 |
1952年から戦後日本の電力不足解消を担い、国内外で電気事業を展開。2004年に完全民営化。国内では、火力、水力、風力、地熱などの発電設備98か所を運営。海外では、営業中の発電事業は32件、建設・計画中は11件のほか、海外コンサルティング事業も64カ国376件の実績がある。また、グループ会社にて送変電設備の建設・運用も行っている。
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| 経営者略歴 |
1984年3月筑波大学第二学群比較文化学類卒、同年4月電源開発入社。2011年1月設備企画部長に就任。2015年6月執行役員設備企画部長、同経営企画部長などを経て、2019年6月取締役常務執行役員。2020年4月取締役常務執行役員エネルギー営業本部長。2022年4月取締役副社長執行役員コーポレート総括兼エネルギー営業本部長兼原子力事業本部副本部長。2023年4月代表取締役副社長執行役員ESG総括兼コーポレート総括兼エネルギー営業本部長兼原子力事業本部副本部長。2023年6月から現職。
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有給休暇取得促進のポイント
- トップダウンと目標設定
- 社長からの強いメッセージを起点に、「チャレンジサーティー」として超過勤務30%削減、有給休暇30%増、80時間超え勤務者ゼロという具体的かつ挑戦的な目標を掲げ、全社的な意識改革を促した。
- 多様な休暇制度とIT活用
- 時間単位休暇、フレックスタイム制、在宅勤務といった柔軟な制度を拡充。さらに、夜間PC利用制限や消灯など強制的な残業削減策、Outlook導入による情報共有の促進といったITを活用した業務効率化を組み合わせ、休暇取得を支援した。
- 意識改革と風土醸成
- 上層部の意識改革、従業員への「自分ごと」化の促進、そして社内ポータルや組合活動を通じた継続的な情報発信により、「休みを取るのが当たり前」という企業文化を醸成。給与処遇の改善も行い、従業員の不安を解消しながら、多様なライフスタイルに合わせた休暇取得を支援している。
多様なニーズに対応する休暇制度
世の中の働き方改革への機運の高まりに加え、女性社員の増加や育児・介護といった多様なニーズへの対応が求められる中で、J-POWERの働き方改革は、2017年5月に当時の社長のメッセージとして出された「Challenge30」を契機に本格的にスタートした。間瀬志保・人事労務部長は、改革の目的について「2020年度末までに、2016年度比で超過勤務を30%減らし、有給休暇を30%増やす。さらに、80時間超えの勤務者を限りなくゼロに近づけるという三つの目標を掲げました」と説明する。
発電所が24時間365日稼働し、常に勤務者が必要というインフラ事業ならではの特性や、全国・海外に多数の拠点を持つ同社では、有給休暇の取得率増は課題であったという。そこで多様な勤務状況に対応した休暇を取るための制度として、1時間単位での休暇取得を可能にする「時間単位の休暇取得制度」や、コアタイムを設けつつ従業員が柔軟に勤務時間を調整できる「フレックスタイム制」を導入。フレックスタイム制は育児や介護中の社員に活用されているという。
また、積み立て有給休暇を自己啓発、育児、介護、子どもの学校行事、看護、ボランティア、不妊治療など幅広い目的で利用できる「ライフサポート休暇」も活用されている。間瀬部長は「定年退職間近の方がセカンドキャリアの準備のために使うケースもあります」と、多様なニーズに対応していることを強調した。
2021年からは「介護休暇・看護休暇の時間単位取得」が可能となり、急な介護・看病にも対応できるようになった。さらに、配偶者の海外赴任に帯同するため、3カ月から最長3年まで休職可能な「配偶者海外赴任帯同休暇」も設けられている。単身赴任者に対しては、年6日分までの移動にかかる日数を特別休暇として付与する「単身赴任帰省休暇」が設けられ、従業員の負担軽減に配慮している。さらに基本勤務時間を前後にずらせる「スイングタイム制度」では、朝7時出社なども可能になり、通勤時間の混雑回避などに役立てられている。
育児関連では、法定の1年を超え、子どもが2歳到達日を含む年度の翌4月末まで(最長3歳程度)取得可能な「育児休業制度」があり、人事労務部で育児制度担当の菅野杏菜さんは「『1年で復帰しなければ』という雰囲気はなく、皆さんゆったりとした気持ちで復帰できています」と評価する。自身も今年5月に育休から復帰したばかりで、「看護休暇は、子供の看病や通院付き添いなどで1日や半日休むときによく使っています。フレックスタイムをフル活用することで対応できる部分も多いです」と制度の活用状況を説明する。
男性の育児休業取得も積極的に奨励されており、2022年8月に「育児休業ハンドブック」を全従業員に配布。社長のメッセージも掲載し、取得率100%を目指している。菅野さんは「育児休業の最初の2週間は給与が出る制度になっており、男性も2週間以上取得する従業員が増えてきました。ハンドブック配布から3年ほど経ち、『育休を取るのは当たり前』という雰囲気になり、2023年度以降2年連続で男性取得率100%を達成しました」と男性育休が浸透しつつある現状を語る。
システム面では、夜10時以降のパソコン利用制限や部屋の消灯など、残業削減を促進する仕組みを導入。さらに、組織目標に休暇取得目標を盛り込んだり、権限委譲を進めたりするなど、多角的なアプローチで改革を進めた。菅野さんは「2019年頃にパソコンが変わり、Outlookなどが導入されたことで一気に情報共有が進み、予定表も全員が入れるようになったのは大きかった」と、DXによる業務効率化が働き方改革を後押ししたと語る。
トップダウンとボトムアップ双方での意識改革
間瀬部長は、改革を進める上での最大の課題として「経営幹部・管理職など上の世代になるほど残業が当たり前という意識があり、インフラ事業の特性上、失敗が許されないという考えから細部まで仕事を詰めていく文化がありました。上層部の意識改革が必要でした」と語る。また、「従業員自身も働き方改革を『自分ごと』として捉えきれていないという課題もあり、双方に改善点があったと感じています」と、トップダウンとボトムアップ双方での意識改革の必要性を強調した。
この意識改革のため、社長からのメッセージ発信に加え、人事労務部で現状分析を行い、役員会でも率直に課題を提起し、従業員には組合を通じて意識変革を促した。全国・海外に拠点がある中で意識統一を図るため、進捗状況を社内ポータルサイトや職場の組合活動を通じて継続的に発信している。
これらの取り組みの結果、J-POWERの働き方改革は着実に成果を上げている。2023年実績で有給休暇取得率は84.8%に達し、日数にして16.5日程度と、目標の20日にはまだ届かないものの、着実に向上している。また、育児休業取得率は100%を達成。間瀬部長は「80時間超えの勤務者の減少など、数値的な変化は感じています」と改革の手応えを語る。
休暇取得に寛容な風土
2020年入社の佐藤孝紀さんは、青森県の大間原子力建設所での勤務時代を振り返り、「コロナの時期だったので海外旅行などには行けませんでしたが、周囲の社員は感染状況を踏まえながら単身赴任者の特別休暇や有給休暇を活用して家に帰っていました」と語る。個人的な休暇の使い道としては、「冬はスノーボードで青森県内や北海道のニセコに行ったり、趣味のマラソンの翌日に休みを取って療養したりしていました」と、趣味と両立した休暇取得を実践していた。
2021年の入社時は福岡事務所で少人数の職場で勤務していた鈴木廉さんは「少人数で出張も多かったので最初は休みを取りづらいかと思いましたが、出張対応者を工夫したり、お互い様の精神で休みを取り合ったりしていました」と語る。特に時間単位・半日休暇が便利だったといい、「愛知県が実家なのですが、17時半まで仕事をすると帰るのが難しかったので、1時間休んだり半日休んだりすることで、その日のうちに実家に帰れるようになりました」とメリットを挙げた。
2016年入社の福村麻利亜さんは、チャレンジサーティー開始直前の入社であったが、「当時から休みが取りづらいという雰囲気は全く感じていませんでした。単身赴任者が多く、若手も実家から離れている人が多いので帰省する方も多かったです。また、家族を連れて赴任されている方もいて、上司や先輩が、家庭や趣味の時間等のプライベートを充実させるために休暇をよく取っていたので、若手としても休暇を申請しやすかったです」と休暇取得に寛容な風土があったと述べた。
J-POWERの働き方改革は、全国・海外に拠点を持つインフラ企業という特性を踏まえて、多様な働き方を支援する制度を整備しているのが特徴だ。間瀬部長は「制度があっても理解されていなければ意味がない。そこで、継続的な情報発信と、制度を利用した社員からのフィードバックを生かした改善が重要」と語る。同社の事例は、大企業におけるトップダウンとボトムアップの両面からの働き方改革のモデルとなるだろう。