伊藤歯科クリニック
情報共有の徹底で休みやすい職場へ
全国の球児たちが憧れる阪神甲子園球場の近くに医院を構える医療法人社団「伊藤歯科クリニック」(兵庫県西宮市)は、多くの人々の口の健康を守るべく、日々患者と向き合っている。 「お口の健康を通してあなたの人生を豊かにします」という理念を掲げ、予防対策に力を入れる。 「人生を豊かに」という姿勢は患者に対してだけでなく、医院で働くスタッフにも示されている。 情報共有の仕組みを徹底的に整えることで、年次有給休暇取得の促進につなげているのだ。(令和2年度掲載)
企業データ
院長 |
伊藤尚史
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所在地 |
兵庫県西宮市
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スタッフ数 |
22名(2021年1月現在)
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開業 |
2005年12月
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事業内容 |
予防歯科、一般歯科、矯正歯科、審美歯科、マウスピース型矯正装置、セラミック治療、口腔外科
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経営者略歴 |
伊藤尚史(いとう・たかし)
1970年5月生まれ。1996年大阪大学歯学部卒業、2000年同部大学院修了、歯学博士取得。大阪府池田市立池田病院歯科口腔外科、財団法人天理よろづ相談所病院歯科口腔外科勤務などを経て、伊藤歯科クリニックを開業。趣味は楽器演奏、読書など。信念は「自分が源泉」。 |
年休取得推進のポイント
- 年休は1日単位だけでなく半日単位も導入
- 学校行事の参加なども考えて1日単位のみではなく、半日単位でも取得できるようにした。
- 情報共有の体制を整える
- 仕事の属人化を防ぐため、情報共有の体制を整えた。毎週火曜日の朝に「カンファレンス」と呼ばれる全体会議を開くだけでなく、ビジネスチャットツールを導入し、リアルタイムで情報を共有している。また電子カルテを取り入れ、タブレット端末を全スタッフに配布することで、いつでも誰でも患者の情報を知ることができる。
- 余裕のある勤務体制
- 全体の業務量から必要なスタッフの人数を考え、必ず一人多くスタッフを採用している。人数に余裕をもたせることで、休みやすい環境を構築している。
理念とともにスタッフへの約束を示す
開業は2005年。 現在は22名のスタッフを抱えるが、開業当初は伊藤尚史(たかし)院長、受付、歯科衛生士の3名で業務に当たっていた。 応対する患者が増えるごとにスタッフの人数も増えていったが、「開業して2~3年ぐらいが一番職場の雰囲気が悪かった」と伊藤院長は苦笑する。 「技術さえ磨けば患者もスタッフも付いてきてくれる」。 同院の開業前まで規模の大きい医院に勤めていた伊藤院長は、そんな信念を持っていた。 しかし、コミュニケーション不足もあり、スタッフと良好な関係を築くことができなかったという。 午後8時までの受付時間以降も器具の片付け業務などが発生することから、残業も常態化。 職場環境は悪化していった。
結婚や出産を機に退職してしまうスタッフが相次ぐなど、人材確保の面でも課題はあった。 家庭と両立できる職場環境作りは必要不可欠だった。 まずは2008年、医院として大切にする姿勢を打ち出し、全スタッフが意思を統一して働けるよう理念を設定した。 理念とともに「医療スタッフとしてやりがいのある職場環境を作ります」「スタッフ間の情報共有を行います」というスタッフに向けた約束を一枚の紙に盛り込み、医院内に掲示した。 「院長としての思いに初めて納得してもらえたと思う」と伊藤院長は振り返る。 職場環境の整備も進められていった。2015年の医療法人化に伴い、スタッフへの約束である「スタッフ間の情報共有」によって、年休の取得が進んでいった。
情報共有の体制を強化
高い取得率を維持するポイントは、スタッフ間で患者の情報共有を徹底し、仕事の属人化を防いでいることだ。 毎週火曜日朝には「カンファレンス」と呼ばれる全体会議が開かれ、スタッフそれぞれが担当している患者の情報を持ち寄っている。 また、ビジネスチャットツールを使用し、リアルタイムで情報を共有している。
2020年1月には、電子カルテも導入された。スタッフ一人一人にタブレット端末が配布され、いつでも、どこでも患者とのコミュニケーション履歴、治療方針を閲覧できるようになった。 誰がいつ休んでも患者に対応できる体制を整えたことで、必要な時に年休を取得できるのだ。
平山さんは「スタッフの人数にも気を配っている」と説明する。 全体の業務量から必要なスタッフの人数を考え、必ず一人多くスタッフを採用しているという。 人数にゆとりを持たせることで、余裕のある勤務体制を作り出している。
歯科業界では10年以上のキャリアを持ち、同院に勤務して4年になる歯科衛生士の大塚佳那子さんは、「ほかの歯科医院に比べて断然働きやすい」と笑顔を見せる。 中学1年の長女の母親でもある大塚さんは、学校行事の参加の際に年休を取得するケースが多いという。 年休取得の際はビジネスチャットツールで気軽に申請できるなど、取得しやすい環境が作られているため、「家庭と仕事の両立ができており、ありがたい」と話す。 仕事にも前向きに取り組めており、「さまざまな知識を習得し、患者さんにより多くの情報を伝えていきたい」と意気込んでいる。
更なる改革で誰もが働きやすい職場へ
同院の取り組みは年休取得の推進だけにとどまらない。 年休導入前の2013年、医院の移転に伴い働く環境を一気に変えた。 伊藤院長は「移転が良い転機となった」と振り返る。
まずは、午後8時までだった受付時間を午後5時までに短縮した。 同時に、器具の自動洗浄機も導入し、就業時間、残業時間削減を実現させた。 患者の利便性を損なわないよう、午前中までだった土曜の診察時間は午後までに延長した。 勤務体系は全スタッフが出勤する固定制からシフト制に変更し、土曜に出勤するスタッフには給与面で優遇している。
変化は医院の経営やスタッフ、患者それぞれに利点をもたらした。 シフト制になったことで、スタッフがそれぞれの事情に合わせて勤務できるようになった。 無駄な残業が減り、スタッフは仕事後に予定を入れられるようになった。 夕方以降に予約する患者は急な仕事が入り、キャンセルされるケースが多かったが、土曜の診察時間を延長したことでキャンセルが減り、「患者一人一人としっかり向き合えるようになった」(伊藤院長)と、治療の質向上にも結び付いている。
「働きやすい職場」という評判は広がり、スタッフの年齢層は20~60代までと幅広い。 「家庭と両立できる職場」を目指して続けてきた改革は、子育て中の母親だけでなく新卒の若手、シニア世代にとっても働きやすい環境を作り上げていた。
ビジネスチャットツールや電子カルテなど、ITツールを駆使してきた同院だが、今後も積極的に導入していく方針だ。 電子カルテにより診療業務のテレワークは進みつつあるが、経理業務などの事務作業についても場所を選ばず行えるよう環境整備を進めていきたいという。
「『奇跡』の働く環境」。 同院の採用サイトで打ち出している言葉だ。 誰もが働きやすい職場環境を更に構築していくため、同院の奇跡はこれからも続いていく。