企業の取組事例

万協製薬株式会社

年次有給休暇を取りやすい環境で取得率7割を実現
~「社員が財産」を理念に掲げる万協製薬の場合~

万協製薬株式会社

 高級和牛で知られる三重県松阪市の隣、山間にある人口約1万5千人の多気町に、万協製薬は本社を構える。1960年に神戸市長田区で創業し、1995年の阪神大震災で社屋が全壊。32歳だった松浦信男社長は父親から社業を継いで、妻と友人の3人で再起を誓い、この地に移った。震災翌年の再操業から25年、スキンケア商品を中心とした企画・開発、製薬会社の受託製造で業績を伸ばし続け、現在取引先は112社、年間生産数は約4500万個。従業員275人を抱える年商約52億円の企業に成長した。

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松浦信男社長自慢のフィギュアコレクション。特撮、アニメ、ミリタリーなど大小約3万点をそろえた。仕事も趣味も手を抜かない。

震災体験から得た価値観

 震災直後、20人の社員に退職金を用意して解雇したのが社長として最初の仕事だった。その苦しかった思いを、会社経営の信念として持ち続けている。

 「資金繰りに苦労し、社員が雇えないなかで、近所のお母さんたちがパートで助けてくれました。そのありがたさ、申し訳なさは今も忘れていません。だからここに『社員が最も重要な財産』と記したんです」と、松浦社長が差し出したのは三つ折りされた名刺大の「BANKYO CREDO」。同社の企業理念などを記したもので、最初のページに「私達は、社員が会社にとって最も重要な財産であるという信念に基づき行動します」とある。企業理念よりも勝る「最上位に共有すべき価値観」として掲げている。その価値観を、社内制度にも反映させてきた。

 年次有給休暇(以下「年休」という。)は1日から半日単位へ、2015年度からは時間単位で取れるようにした。「子どもの授業参観で2時間だけ抜けて戻ってきて働きたい」という社員からの声がきっかけだった。

 「やってほしいと言うことはやったらいい。そこから得られる成果もある。経営は実験だと常に言っています」と松浦社長。社員の声をただ聞き入れるのではなく、新たな取り組みを始める際は、化学実験と同様に、自ら仮説を立て検証している。

年休の付与も仮説を立てて検証

 年休は1日単位より時間単位で使えるほうが社員の生産性が上がると仮説を立て、どちらの方が生産性が高いか、社員のモチベーションが向上したかを調査した。結果を分析して仮説が正しいと判断し、社内ルール化した。「制度も事業も、すべてこの繰り返しです」と松浦社長はいう。こうした仮説思考で経営のかじ取りをしてきた。

 年休の取得率は2020年度全従業員平均で69%。2017年度76%、2018年度74.3%、2019年度72.9%と3年連続で7割を超えたが、新型コロナウイルスの感染拡大による増産で忙しさが増し、昨年度はわずかに7割を切ったものの、全国平均(2019年)の56.3%を大きく上回る。

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上のモニターで「残業時間ランキング」を映し、下のパソコン画面に個人の今月の残業時間を表示。「ひと月くらいで開発しました」と説明する中川浩孝課長

「マックス20日使い切っています」と課長

 システム部の中川浩孝課長は「年休は年間マックス20日使い切っています」と話す。土日に付けて連休にし、趣味のダイビングなどで海外に脱出する。新型コロナウイルスの感染拡大が落ち着けば「ガンガン使い始めますよ」。

 中川課長は、35歳のときに中途入社した。「年休は月1日で」と理由の説明もなくくぎを刺されていた前職とは、休みの取り方、働き方が一変したという。「連休をめがけて旅行に行くぞと決めて、休みが取れるように仕事を進めています。心がけているのは、上司が休まないから部下が休みを取りづらいという職場環境にしないことです」。

「残業時間ランキング」を導入し警鐘

 中川課長の部では社内の勤怠管理システムを開発している。2020年に導入したのが、残業時間の「見える化」だ。クラウド型の市販システムを改良し、本社や工場の入口で出退勤時にICカードをかざすと、今月の残業時間が表示されるようにした。加えて大型モニターに、月の残業が25時間を超えた社員の名前を、時間の多い順にランキング形式で映し出している。

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8月は26日までに42時間残業した中川課長。「このペースでは45時間を越えます」の警告表示が。

 狙いについて松浦社長は「残業は、それだけ仕事をしているわけなので悪いとは思っていませんが、月45時間を超えないよう法令を守り、社員の体調も管理しないといけない。あと何時間で45時間になるかを意識してもらい、管理職も部下の名前がないか、あれば業務配分を考えるよう促す意味で採り入れました」。40時間を超えた社員がICカードをかざすと、社長の愛猫ベルが「シャーー」と威嚇する鳴き声が流れて警告する。ユーモアも忘れないようにした。

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2020年11月からグループリーダーに。「プレッシャーもありますが、ステップアップしたいという意欲も出ました」と話す富岡真梨菜さん

 品質管理課の富岡真梨菜さんは入社4年目で15人を束ねるグループリーダーを務めている。大型モニターの「残業時間ランキング」は気になる存在だ。「グループ内でこの人の残業が多いなと思ったら、手伝ってあげてと周りに声をかけて、みんな同じくらいの仕事量になるように心がけています」。

 大学で栄養学を学び、就活では製薬会社を志望して万協製薬に。入社の決め手は「社内イベントが多かったり、いつも楽しそうにしている社長だったり、明るい雰囲気に惹かれました」。イベントでは特に「プチコミファミリー制度」を気に入っているという。

社内ファミリー制度で離職を防ぐ

 所属や世代がバラバラの社員7,8人を一つの班にして、社歴に応じて「長男」や「末っ子」などの役割を決める、社内横断の家族的仲間づくりだ。

 制度をスタートした2003年の離職率は約24%、入社3年以内の若者の離職が目立った。「辞める理由を社員に聞いたんです。悩みがあっても自分を評価する上司には話せない、弱みを見せられないと言われました。ならば所属以外の社員が相談にのったり面倒をみたりする仕組みをつくったらと始めました」(松浦社長)。

 日常の交流以外にも年1回、班ごとにプランを立てて旅行する。海外は1人上限10万円、国内は同5万円を会社が補助。年2回の食事会にも1人3千円を補助する。旅行に合わせて年休を取得する社員も多い。

 2020年度の離職率は約8%で、スタート当初と比べて3分の1に減った。コロナ禍の今は旅行を控え、リモート食事会を開いて「班の時間」をつくっている。

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2019年の「プチコミファミリー制度」の旅行報告が廊下一面に。
手前は中川課長の班のオアフ・ハワイ島報告

他部の仕事も覚えて休みを取りやすい体制に

 休みを取りやすい体制づくりの一つに、業務のモジュール化とジョブローテーションへの取り組みがある。各部門の作業内容を細かくモジュール(項目)化し、それぞれの作業の難易度と個人の習熟度に応じて点数を付与する制度だ。例えばある機械の操作を、「教えてもらいながらできる」は1点、「1人でできる」は2点、「人に教えられる」は3点などと習熟度を点数化。半年以内に身に付けたモジュールは1点200円などと金額に換算し、持ち点分がボーナスとともに支給される。

 「社員の能力を買い上げる仕組み」と松浦社長は表現する。「よその部署の仕事をどんどん覚えたら、会社の業績に関係なくボーナスが増えます。異動がしやすくなり、誰かが休んでもカバーできる体制がつくれるんです」。モジュールの講習会を開くなどして積極的に進めている。

 松浦社長は年2回、ボーナス支給後に、全社員を対象に個別面談を行ってきた。所属長も同席し、キャリアアップのアドバイスをしながら、「今いる職場をどう変えれば、イケてる職場になるか」と一人一人に問いかけた。スマホの社内連絡用アプリには、社員からの相談や要望メッセージが毎日ひっきりなしに総務から転送されてくる。社員の声に触れない日は1日もない。

 2020年春、最初の緊急事態宣言が出された後、小学校が休校になった子どもの預け先に悩む社員の声を聞き、社内に託児所を設けた。昼ごはん付きで午後6時まで預けられる。

 「うちの会社、1日工場を止めると2千万円売上が落ちますから。社員が働きやすいようにしたほうが会社、得なんですよ」と笑って語る松浦社長。経営者としての冷静なかじ取りと、「社員が最も重要な財産」という震災から得た変わらぬ信念が、すべての推進力になっている。

◎年休取得推進のポイント

・時間単位の年休制度導入

半日単位から時間単位で取れるよう、社員の声を受けて2015年度に制度を改正。2020年度の年休取得率は全従業員平均で69%に上る。

・プチコミファミリー制度で年休活用

部署や世代バラバラの社員7、8人で家族的な班を形成。社内横断の先輩たちが若手の相談を受け面倒をみる。年1回の班での「家族旅行」には年休を利用する職員も多い。

・他部の仕事も覚えて休みを取りやすい体制を構築

他部署の仕事内容を覚えるとボーナスが加算される制度により、誰かが休んでも業務がカバーできる全社体制をつくることで休みを取りやすくする。

◎企業データ

万協製薬株式会社

▽松浦信男・代表取締役社長
▽所在地・三重県多気郡多気町
▽従業員数275名=正社員190名、契約・派遣社員85名(2021年9月現在)
▽設立1960年3月
▽資本金4000万円
▽事業内容・乾燥肌用の皮膚軟化薬や水虫・たむし薬、化粧品などスキンケア商品を中心とした企画・開発、製薬会社からの受託製造を行う。

【経営者略歴】

松浦信男(まつうら・のぶお)
1962年2月生まれ。徳島文理大学薬学部、三重大学医学部大学院博士課程卒業。1982年万協製薬入社、1996年社長就任。三重県薬事工業会会長。趣味は合気道、バンド活動、フィギュア収集。約3万体に上るフィギュアを展示した「万協フィギュア博物館」を本社に併設。好きな言葉は「嘆くより稼げ!」。

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