旭カーボン株式会社
有休取得促進の「4段階のステップ」で取得率80%を達成
1951年、新潟県内で産出される天然ガスを活用した独自のカーボンブラック製造技術で創業した旭カーボン株式会社(新潟市東区)。新潟東港に2カ所の油槽所があり、また海外2拠点に技術提供。タイヤやワイパーブレードなどの自動車部品の原材料を中心に幅広い分野向けにさまざまな製品の開発・製造・販売している。(令和6年度掲載)
企業データ
代表取締役社長 |
鳥巣 浩二郎
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所在地 |
新潟県新潟市東区
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従業員数 |
162名(2023年12月現在)
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設立 |
1951年6月
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資本金 |
17億2000万円
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事業内容 |
タイヤやベルトなど自動車のゴム部品などに使われるカーボンブラック製造技術を元に、印刷インク、鉄鋼、電池などのさまざまな産業分野向けの製品の製造・開発を手がける。1951年、新潟市で創業。
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経営者略歴 |
1991年4月株式会社ブリヂストンべカルトスチールコード入社、1996年Bridgestone Metalpha Italia S. p. A 派遣、1999年ブリヂストンSC生産技術部、2007年、同SC 生産技術開発部製造技術開発ユニットリーダー、2012年同生産技術イノベーション開発推進部部長、2020年Bridgestone Carbon Black(Thailand)Co.,Ltd.派遣(Managing Director)、2024年1月から旭カーボン株式会社代表取締役社長。
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年休取得推進のポイント
- 専門部署を設置して、働き方改革の具体化を推進
- 「働き方改革推進課」を設置。
- 有休取得促進の「4つの段階」を設定
- 有休取得促進に向け、「指定年休取得日」、「年休取得奨励日」の設置、「有休取得推進強化月間」の指定、経営会議での報告、管理職への取得状況の共有の4つの段階で取り組み、取得率75%の目標を設定した。
- 書類の電子化とテレワークの推進で半日休を活用
- コロナ禍による電子署名の導入やテレワークを進めたことで、自宅での書類決裁ができるようになり、半日休の活用が進んだ。
「働き方改革推進課」の設置で有休取得促進に取り組む
同社では2021年から当時の社長が健康経営の一環として働き方改革に力を入れることを宣言し、働く人材の確保や人材育成、風通しの良い会社作りを目指した。まずこれまで人事労務課が担当していた働き方についての取組を進めるため、働き方改革推進課を設置し、当時安全防災環境課長を務めていた田村雄一さん(現・品質系・リスク管理部長)が兼務、児玉憲昭さん(現・人事労務課)が専門スタッフとして働き改革に取り組んだ。
田村さんは「トップダウンで専門で改革に取り組みたいとの期待もあり、課を新設されることになり、体制つくりから実行。まずはグループ会社の先進事例を参考にしたり、実態の聞き取り調査も行ったりして、具体的な行動計画を作成しました」と振り返る。
実態調査の結果、年次有給休暇(以下「有休」)が取りづらい職場環境で、有休取得率が低いという課題が出た。その対策として4段階のステップを設定、2021年の取得率75%を目標にした。4段階のステップでは、第1段階が会社の共通年間カレンダーに年末年始やお盆など全社的に休む「指定年休取得日」を5日間と「年休取得奨励日」を飛び石連休などの平日に設定し、休暇を取りやすくした。そして年2回の有休取得強化月間を指定して、期間中に2日以上の有休を取得するよう呼びかけた。さらに有休取得率の推移を経営会議で報告し、最後が管理職に毎月の所属員の有休取得状況を共有するというステップを踏んでいった。
電子署名とテレワークの推進で半日休を利用増加
人事労務課長として、働き方推進課も兼務した伊藤英夫さんは奨励日や強化月間の設定を担当した。「有休取得率は年度序盤のスタートが大事で、2月か3月に連休が飛び石になっていたりするところを奨励日に指定します。そこで適当な奨励日が設定できない場合は早めに1回目の強化月間を設定する。2回目は夏休みのころに実施します。強化月間には、管理職にはメールで朝のミーティングなどで所属員に『この週は大事な会議もないから積極的有休を取ってください』というような呼びかけをしてもらいます」と取得促進の工夫を凝らした。
こうした呼びかけの甲斐もあって、徐々に社員の意識も変わっていった。田村さんは「私も以前は病気にでもならなければ有休は使ってはいけない、という意識でした。指定日は会社のカギもかけてしまって強制的に休みになりますし、奨励日は趣味に使ったり、誘い合って出かけたりとみな自由に活用するようになっていきました」と変化を語る。
だが取得率向上の課題も浮き彫りになった。それは仕事の属人化と紙の書類の多さだったという。その対策として、職場ごとに所定のフォーマットでそれぞれの業務を整理して、マニュアル化に取り組んだ。さらに電子署名を導入し、紙の書類と判子という従来の決済の流れを電子化。合わせて社員にノートパソコンとWi-Fiの端末を支給して、テレワークを推進した。
「ちょうど新型コロナの流行でテレワークを進めざるを得ない状況にあったのも追い風になった。電子署名の導入とテレワークで、書類の決裁も自宅でできるため、午前中に仕事をして午後休みというような半日単位の有休取得がすごく増えました」と田村さんは話す。こうした細かな取得推進の取組を徹底することにより、2021年の取得率は77%となり、当初目標の75%をクリア。2023年には81%と順調に伸びている。
「有休取得奨励日」の活用で休みをエンジョイ
入社18年目の森口郁さんはサステナブル原燃料課で原燃料油の調達などを担当している。森口さんは年間約15日の有給休暇を取得しており、休みは主に入学式や授業参観など2人の子供の学校行事に利用しているという。
森口さんは「2021年に働き方改革の推進がされるようになって、かなり休みやすくなったと思います。休むために仕事を引き継いだり、仕事を休みの後にずらしたりすることもできるようになりました。学校行事がない有休では、趣味のゴルフに行ったり、実家の農業の手伝いがてら帰省しています」と有効活用している。
設備部保全課で事務を担当している庄司みゆきさんも入社17年目で、年間約17日の有給休暇を取得している。子供が通う小学校のPTAの学年委員を務めているという庄司さんはPTA活動で休暇を取ることが多いという。
庄司さんは特に年休取得奨励日が「使いやすい」と高く評価している。「奨励日が平日に設定されていると、子供の用事とは別に自分が自由に使える時間が確保できる。私の部署には女性が一人しかいないので、なかなか女性社員同士で出かけたりできないのですが、奨励日なら部署が違っても予定を合わせられるので、誘い合ってランチに出かけたりしています」といい、「奨励日の前には、職場の上司から『この日は奨励日だからできるだけ休みましょう』とアナウンスしてくれるので、すごく休みやすい雰囲気を感じています」と笑顔を見せる。
低い離職率の維持と採用への好影響
同社の働き方改革は、有休取得促進だけでなく、残業時間の削減やウォーキングの奨励、近隣のスポーツクラブとの法人契約や社内スポーツ活動への補助、喫煙対策、体脂肪測定の実施など健康経営のさまざまな取組を進めている。その結果、社員の健康意識が向上し、肥満防止、喫煙率低下などの効果が見られた。さらに健康経営優良法人「ブライト500」の認定取得や新潟県や新潟市の健康経営の認証取得など外部評価も受けている。
田村さんは「働き方改革推進課が設置されて、何に取り組んだらいいか考えるのに、こうした外部の認証制度取得を目指せば具体的に取り組むことが見えてくると思い、積極的に取得しました。結果的に有給休暇の取得促進や残業時間の削減につながっていきました」と語る。
こうした取組はさまざまな波及効果を呼んでいる。一つが低い離職率だ。
令和4年の雇用動向調査によると、全国の製造業の離職率は10.2%だが、同社の離職率は2021年が0.6%、22年が1.8%と低水準を維持している。社内のエンゲージメントサーベイでは福利厚生の充実が社員から高い評価を得ているという。
「休みやすい職場」や「福利厚生の充実」は採用活動にも好影響を及ぼしている。採用を担当する児玉さんは「製造業の採用は厳しい状況が続いているのですが、こうした取組はアピールがしやすい。新卒の学生はもちろん、特に中途採用の場合は有休の取得率などが志望の理由になることも多い」と胸を張る。
こうした働き方改革の成果について、丸山泰輔・総務部長は「工場は24時間の3交代勤務なので、1人が休むと前後のシフトの社員に負担がかかるという構造にどうしてもなってしまう。全体の有休取得率は確かに上がっているけれども、職種による差があるのを解消していくのが次の課題です」と気を引き締める。
旭カーボンの改革は、まだ道半ばかもしれないが、その歩みは着実に進んでいる。