Ⅰ.休暇をとることの重要性

休暇をとることの重要性についてまとめています。

1.休暇をとることの重要性

【短期的な視点でみる休暇の重要性】

パフォーマンスを維持向上させるためのリフレッシュ

年次有給休暇の取得率が低い背景の一つに、「自分が休暇をとることで周囲に迷惑がかかる」や「休暇前後に業務が偏る」など、職場環境や仕事の進め方に対する不安感があります。
しかし、日々の忙しさを理由に、年次有給休暇をとらず長時間労働を続けていては、ストレスや疲労が蓄積し、かえって生産性が下がることが懸念されます。また、重篤な場合には、心身ともに健康を害することも起こりえます。
継続的に良いパフォーマンスを維持し、仕事で成果を出すためには、「そのうち休暇を取ろう」ではなく、休暇を活用して定期的にリフレッシュし、次の仕事にむけて心身ともにコンディションを整えることが重要です。

図表1 年次有給休暇の取得にためらいを感じる理由
(出所)三菱UFJリサーチ&コンサルティング「働き方・休み方改革の取組及び仕事と生活の調和の実現に関する調査研究(労働者アンケート調査)」
(厚生労働省委託事業)平成31年3月

【中長期的な視点でみる休暇の重要性】

自分にとって豊かな人生を送るための準備時間

これまでは、多くの人々が、学校を卒業後に就職し定年まで勤め続けるといった、同じような仕事人生の過ごし方をしてきました。
しかし、日本人の平均寿命が延び、人生100年時代といわれるようになった昨今、60歳代を超えても仕事を続ける人々や、現役世代のうちに勤務を続けながら、もしくは一旦離職して、ボランティア活動や学びなおしなど、仕事以外の活動を行う人々も珍しくなくなってきました。
以前よりも長くなった定年後の人生を、自分にとって豊かなものにするためには、現役時代からライフプランを考えたり、仕事以外の環境や役割を確保する必要があります。
人生全体を中長期的に見渡し、より充実した時間をおくる準備として、休暇を活用することが重要です。

図表2 ワーク・ライフ・バランスに対する満足度
(月あたり実労働時間別・年次有給休暇取得率別)
(出所)三菱UFJリサーチ&コンサルティング「働き方・休み方改革の取組及び仕事と生活の調和の実現に関する調査研究(労働者アンケート調査)」
(厚生労働省委託事業)平成31年3月より、クロス分析を追加実施
( 注 )月あたり実労働時間を160時間未満、160~200時間未満、200時間以上に区分し、各区分において、年次有給休暇取得率が70%未満、70%以上の場合のワーク・ライフ・バランスに対する満足度を分析。

【組織的な視点でみる休暇の重要性】

多様な人材が活躍できる職場環境づくり

少子高齢化に伴う労働力人口の減少により、従来のような「男性正社員・長時間労働をいとわない働き方」を前提とした組織運営が限界に来ています。男女ともに、育児・介護・治療などの両立リスクを抱える可能性があり、働く時間に制約のある人々が増えてきました。
このように働く人々を取り巻く環境が変化した中でも、企業力の維持・向上を図るには、働く時間の制約の有無にかかわらず、誰しもが活躍できる職場づくりを行うことが必要です。育児・介護・治療などの事情がなくても、全員が働く時間に限りがあることを認識し、時間をかけて成果を求めるのではなく、時間あたりの生産性を高める働き方・休み方に改めなくてはなりません。
マネジメントの改革によって、一人ひとりが働きやすく・働きがいのある職場づくりが実現でき、有能な人材の定着・確保も期待できるでしょう。

図表3 仕事と生活の調和のとれた働き方の実現を経営方針等に掲げる理由
(出所)三菱UFJリサーチ&コンサルティング「働き方・休み方改革の取組及び仕事と生活の調和の実現に関する調査研究(企業アンケート調査)」
(厚生労働省委託事業)平成31年3月

2.年次有給休暇の確実な取得を目指したルール

年次有給休暇は、働く人々の心身のリフレッシュを図ることを目的とし、原則として、労働者が請求する時季に与えることとされています。

しかし、職場の同僚への気遣いや業務面での課題などから、年次有給休暇を取得することにためらいを感じる人も少なくなく、年次有給休暇の取得促進が課題となっています。

このような背景から、2019年4月に労働基準法が改正され、全ての企業において、年次有給休暇が10日以上付与される労働者に対して、年5日の年次有給休暇については、使用者が時季を指定して取得させることが義務付けられました。

ここでは、厚生労働省のホームページにおいて、年次有給休暇の付与や取得に関する基本的なルールと、今般の法改正による年次有給休暇の取得ルールを解説している「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」を抜粋・紹介します。

【年次有給休暇の付与や取得に関する基本的なルール】

年次有給休暇の発生要件と付与日数

労働基準法において、労働者は、
  1. 雇入れの日から6か月継続して雇われている
  2. 全労働日の8割以上を出勤している
この2点を満たしていれば年次有給休暇を取得することができます。
原則となる付与日数
  • 使用者は、労働者が雇入れの日から6か月間継続勤務し、その6か月間の全労働日の8割以上を出勤した場合には、原則として10日の年次有給休暇を与えなければなりません。
    (※)対象労働者には管理監督者有期雇用労働者も含まれます。
    原則となる付与日数
パートタイム労働者など、所定労働日数が少ない労働者に対する付与日数
  • パートタイム労働者など、所定労働日数が少ない労働者については、年次有給休暇の日数は所定労働日数に応じて比例付与されます。
  • 比例付与の対象となるのは、所定労働時間が週30時間未満で、かつ、週所定労働日数が4日以下または年間の所定労働日数が216日以下の労働者です。
    表中太枠で囲った部分に該当する労働者は、「年5日の年次有給休暇取得義務」の対象
    ※表中太枠で囲った部分に該当する労働者は、「年5日の年次有給休暇取得義務」の対象

年次有給休暇の付与に関するルール

遵守すべき事項
内容
①年次有給休暇を与えるタイミング
年次有給休暇は、労働者が請求する時季に与えることとされていますので、労働者が具体的な月日を指定した場合には、以下の「時季変更権(※)」による場合を除き、その日に年次有給休暇を与える必要があります。
(※)時季変更権
使用者は、労働者から年次有給休暇を請求された時季に、年次有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合(同一期間に多数の労働者が休暇を希望したため、その全員に休暇を付与し難い場合等)には、他の時季に年次有給休暇の時季を変更することができます。
②年次有給休暇の繰越し
年次有給休暇の請求権の時効は2年であり、前年度に取得されなかった年次有給休暇は翌年度に与える必要があります。
③不利益取扱いの禁止
使用者は、年次有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければなりません
(具体的には、精皆勤手当や賞与の額の算定などに際して、年次有給休暇を取得した日を欠勤または欠勤に準じて取扱うなど、不利益な取扱いをしないようにしなければなりません。)
その他の年休等
種類
内容
労使協定の締結
計画年休
計画的に取得日を定めて年次有給休暇を与えることが可能です。ただし、労働者が自ら請求・取得できる年次有給休暇を最低5日残す必要があります。
必要
半日単位年休
年次有給休暇は1日単位で取得することが原則ですが、労働者が半日単位での取得を希望して時季を指定し、使用者が同意した場合であれば、1日単位取得の阻害とならない範囲で、半日単位で年次有給休暇を与えることが可能です。
-
時間単位年休
年次有給休暇は1日単位で取得することが原則ですが、労働者が時間単位での取得を請求した場合には、 年に5日を限度として、時間単位で年次有給休暇を与えることが可能です。
必要
特別休暇
年次有給休暇に加え、休暇の目的や取得形態を任意で設定できる会社独自の特別な休暇制度を設けることも可能です。
-
※時間単位年休及び特別休暇は、「年5日の年次有給休暇取得義務」の対象とはなりません。

【年5日の年次有給休暇の確実な取得】

対象者

年次有給休暇が10日以上付与される労働者が対象です。
  • 法定の年次有給休暇付与日数が10日以上の労働者に限ります。
  • 対象労働者には管理監督者有期雇用労働者も含まれます。

年5日の時季指定義務

使用者は、労働者ごとに、年次有給休暇を付与した日(基準日)から1年以内に5日について、取得時季を指定して年次有給休暇を取得させなければなりません。
年5日の時季指定義務

時季指定の方法

使用者は、時季指定に当たっては、労働者の意見を聴取しなければなりません。また、できる限り労働者の希望に沿った取得時季になるよう、聴取した意見を尊重するよう努めなければなりません。
時季指定の方法

時季指定を要しない場合

既に5日以上の年次有給休暇を請求・取得している労働者に対しては、使用者による時季指定をする必要はなく、また、することもできません。
(※)労働者が自ら請求・取得した年次有給休暇の日数や、労使協定で計画的に取得日を定めて与えた年次有給休暇の日数(計画年休)については、その日数分を時季指定義務が課される年5日から控除する必要があります。
つまり、
  • 「使用者による時季指定」、「労働者自らの請求・取得」、「計画年休」のいずれかの方法で労働者に年5日以上の年次有給休暇を取得させれば足りる
  • これらいずれかの方法で取得させた年次有給休暇の合計が5日に達した時点で、使用者からの時季指定をする必要はなく、また、することもできない
ということです。

年次有給休暇管理簿

使用者は、労働者ごとに年次有給休暇管理簿を作成し、3年間保存しなければなりません。
時季、日数及び基準日を労働者ごとに明らかにした書類(年次有給休暇管理簿)を作成し、当該年休を与えた期間中及び当該期間の満了後3年間保存しなければなりません。
(年次有給休暇管理簿は労働者名簿または賃金台帳とあわせて調製することができます。また、必要なときにいつでも出力できる仕組みとした上で、システム上で管理することも差し支えありません。)
例)労働者名簿または賃金台帳に以下のような必要事項を盛り込んだ表を追加する。
年次有給休暇管理簿

就業規則への規定

休暇に関する事項は就業規則の絶対的必要記載事項(労働基準法第89条)であるため、使用者による年次有給休暇の時季指定を実施する場合は、時季指定の対象となる労働者の範囲及び時季指定の方法等について、就業規則に記載しなければなりません。
(規定例)第○条
1項~4項(略)(※)厚生労働省 で公開しているモデル就業規則をご参照ください。
5 第1項又は第2項の年次有給休暇が10日以上与えられた労働者に対しては、第3項の規定にかかわらず、付与日から1年以内に、当該労働者の有する年次有給休暇日数のうち5日について、会社が労働者の意見を聴取し、その意見を尊重した上で、あらかじめ時季を指定して取得させる。ただし、労働者が第3項又は第4項の規定による年次有給休暇を取得した場合においては、当該取得した日数分を5日から控除するものとする。

罰則

Point2・Point6に違反した場合には罰則が科されることがあります。
違反条項
違反内容
罰則規定
罰則内容
Point2
労働基準法
第39条第7項
年5日の年次有給休暇を取得させなかった場合(※)
労働基準法
第120条
30万円以下の罰金
Point6
労働基準法
第89条
使用者による時季指定を行う場合において、就業規則に記載していない場合
労働基準法
第120条
30万円以下の罰金
その他
労働基準法
第39条
(第7項を除く)
労働者の請求する時季に所定の年次有給休暇を与えなかった場合(※)
労働基準法
第119条
6か月以下の懲役または30万円以下の罰金
  • (※)罰則による違反は、対象となる労働者1人につき1罪として取り扱われますが、労働基準監督署の監督指導においては、原則としてその是正に向けて丁寧に指導し、改善を図っていただくこととしています。
  • ※年次有給休暇の取得は労働者の心身の疲労の回復、生産性の向上など労働者・会社双方にとってメリットがあります。年5日の年次有給休暇の取得はあくまで最低限の基準です。5日にとどまることなく、労働者がより多くの年次有給休暇を取得できるよう、環境整備に努めましょう。