岡山会場(2016年度)
~企業と社員が一緒に取組む「働き方・休み方改革」の可能性~
平成28年11月15日(火)、岡山シンフォニーホール・イベントホールにおいて、働き方・休み方改革シンポジウムを開催しました。山田泉岡山労働局雇用環境・均等室長のご挨拶を皮切りに、本シンポジウムが始まりました。
【第1部】基調講演
「日本人の休暇と労働時間」
- 年次有給休暇を取得しない理由として「混雑する、お金がかかる、多忙、急用のため(病気や急な用事のために)残しておく」などがあるとのこと。ヨーロッパで先進的に運用されている休暇制度や、休暇カレンダー、仕事の仕分け、失効年休活用等を例に、休暇取得促進について述べられました。
- 残業が多い最も大きな理由は、個々の抱える仕事量であるとし、その他の労働時間に影響する要因を説明されました。残業削減の考え方として、仕事の仕分けの他、丁寧すぎる打ち合わせの見直し、過剰品質な資料や作業の棚卸、労働時間の実績評価、ノー残業デーの実施等の社内ルールの徹底を挙げられ、長時間労働の縮減、解消について語られました。
- また、パワーポイントはファイルの作成に手間がかかるため、極力使わないようにする、目的があいまいな会議は開催しない、など「良い意味での手抜き」が必要とのお話がありました。
- 終わりに、「働き方・休み方改善ポータルサルト」の有効性・活用方法についてご紹介いただきました。
【第2部】事例紹介 働き方・休み方の改善において進んだ取組を実施している企業の事例紹介
「「働き方・休み方改革」の成功をめざして シスコのワークスタイル変革の取組み」
- はじめに、働き方・休み方改革に取り組む必要性について、デジタル化の加速化、競争環境の激変、それに対応するための俊敏な組織の必要性などから新しい働き方が求められている、と述べられました。
- 同社の取組として、ワークスタイルイノベーションを取り巻く3つの要素として、企業風土、プロセス・制度、技術の活用が挙げられ、企業風土については、コラボレーション文化の醸成と浸透など、プロセス・制度については、ビジネスを成功に導く行動特性及びリーダーシップモデルの運用、時間で仕事をする概念からの脱却など行っています。その上、ICTを活用して、在宅オフィス仮想環境ツールなど社員に提供しています。
- 今後10~20年のうちに、47%の仕事がデジタルに置き換わると言われており、この間にいかに生産性を上げていくかを考えていく必要があるということ、また、トップが実践しないと従業員は続かないがトップダウンだけでも機能せず、中間管理職が共感して一緒に改善を進める必要があること、さらに、体験して、実践して、定着させることが鍵である、と締めくくられました。
「株式会社あわしま堂の事例」
- 同社による働き方改革の取組の発端は、女性の活躍が活力の前提となるとの認識に基づき2012年より開始した女性活躍推進のプロジェクト(AWASHIMAプロジェクト)でした。
- 人事課が主導するのではなく、自薦他薦で集まった女性たちが推進したのが特徴です。従業員が社内の制度をよく知らないということがわかり、働き方などに関する社内制度をわかりやすく示したハンドブックを作成し、全社員に配布するとともに、少しインパクトのある取組を行おうということで、育児休暇取得の「全社員原則義務化」を2013年末に開始したとのことです。これらが組織風土を変えるきっかけとなりました。
- 自社にロールモデルがないので、他社から活躍する女性を招いて交流会を開催したり、ランチタイムを有効に活用するためにランチミーティングを実施しました。また、女性社員からは、管理職の教育が必要との意見が多かったため、「イクボス研修」を実施しました。これらの結果、育児休業の取得者数は男女ともに増えてきているそうです。
- このプロジェクトの実施を通して、働きやすさがあっても働き甲斐がないと離職につながる、ということがあらためて明らかになったそうです。そして、若年や中年の健康な日本人男性だけでなく、子育て中の社員などの様々な事情を抱えた多様な人財が活躍できる職場づくりが重要、と述べられました。
- そのほか、業務改善の提案を促す活動、多能工化の取組、「毎日がノー残業デー」となる取組、上司が部下の仕事をして無駄を発見する取組なども行っているとのことでした。
「西京銀行の取組事例」
- 平均退行時間は年々減少してきており、現在はほぼ6時に退行できているとのこと。日本で一番早く帰る銀行であると述べられました。
- この6年間、仕事の中で効率化できることを従業員全員で考え、できるところから速やかに変えてきたそうです。たとえば「伝票の簡素化」を行っています。従来は複数の書類に同様の情報(名前住所等)を書いていましたが、これを複写式にして、書類1枚で完結することにしました。これまで処理に要していた時間が3分の1になったそうです。
- 業務の流れも大幅に変革を行いました。たとえば、相続相談業務は専門的な知識が必要で書類も数多いため、従業員全員に覚えこませるのは非効率と判断し、WEB会議システムを活用し、本部に専門人材を配置することで、集中処理を行う方式に変更しました。
- 融資実行業務についても、同様に本部に集約して、人材の効果的な配置を行った結果、処理がより適切になり、顧客の満足度も上がったそうです。さらに、債権書類を本部に集中したことで営業店ごとの金庫が不要になりました。
- 有給休暇取得率が近年6割を超えるようになりましたが、これは組織評価に行員の年休取得率の実績を含めるようにした点が大きいようです。目標未達の行員一人につき組織表彰の評価得点が1点減点となり、支店の業績評価に響くので、店舗単位で年休取得目標の達成を行う意識が高まったと思われます。
- 最後に、中小企業ではトップの強力なリーダーシップが鍵となること、残業ゼロの銀行にしたいと考えている、と締めくくられました。
【第3部】パネルディスカッション
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- 【ファシリテーター】
- 【パネリスト】
- 各社の取組に対する補足
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- ファシリテーターの小倉氏より、第2部を補足する内容について、3社へ問いかけを行いました。
- まず、シスコシステムズ合同会社の大中氏に対して、裁量労働制は働き方の柔軟性を確保しやすい反面、労働時間の把握が難しくなることから、管理と運用の仕方について問いかけがなされました。
- 大中氏からは、同社では月単位で業務時間の実態管理を厳格に行っていること、また、1ヶ月に1度のペースで上司と部下の面談を実施しており、稼働時間の適正性をチェックしているとのことでした。小倉氏からは、裁量労働制には労働時間の実態を把握することが特に重要との指摘がありました。社員が働き過ぎにならぬよう、健康・福祉確保措置を講じる必要があることも、裁量労働制導入における大切な視点と言えます。
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株式会社あわしま堂の市川氏に対しては、女性活躍に関して実践できていない企業とできている企業との境目がどこにあるのかとの問いかけがなされました。市川氏からは、第一に女性が重要戦力との認識を持つこと、第二に管理職の研修などによるイクボスの育成が大切であることとの補足を頂きました。また、育児休暇を全社員が取れるようにする仕組みとしたために世間に注目されるようになった結果、管理職の意識を変えることにつながったそうです。改善目標ははじめから高くするのではなく、何段階かに分けて少しずつ目標を上げていったほうが実行しやすいとの発言もありました。
このほか小倉氏からは、上司が部下の仕事をして無駄を発見する取組の重要性の指摘があり、日本中の企業がたとえば1時間、上司が部下の仕事をしてみるのがよいのではないか、とのお話がありました。 - 株式会社西京銀行の奈村氏に対しては、同行の優れた取組は、考えてみればどの銀行でもすぐにでも検討できることと思えるにもかかわらず、今までできなかったのはなぜかとの問いかけがなされました。これに対し、奈村氏は銀行は規制業種であり、事務手続きの不備やトラブルが発生するとリスクを抑える対策を講じる、という歴史を繰り返してきたため、手続きが複雑化してきた経緯があるとの発言がありました。
- 「不便の共有」について
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- ファシリテーターの小倉氏より、日本は他の先進国に比べてサービスが丁寧すぎて、結果として働きすぎにつながっているのではないか、との問題提起がなされました。
- これに対し大中氏は、日本人は「細かいことに気づき、変える能力」が高いが、そこに執着しすぎて、スピードが遅いという問題もある、との指摘がありました。
- また、市川氏からも小倉氏の問題認識に同意し、スーパーマーケットをはじめとした小売業の企業が日曜日、年末、正月三が日も営業するようになって同社の働き方も変わった、と指摘されました。
- 奈村氏からも同様に、銀行についてもたとえば「ローンセンター」は土日に開業しており、適正ではないものの、お客様は神様との意識があるとの指摘がありました。ただ、これからは銀行も顧客を選び、顧客も銀行を選ぶ時代になるのではないか、との発言もありました。
- 小倉氏からは、我々は便利に慣れすぎているかもしれない。どこかでちょっと変えていく必要があるのではないかとのコメントがありました。