凸版印刷株式会社

事例カテゴリ

  • 所定外労働削減
  • 年休取得促進
  • 多様な正社員
  • 朝型の働き方
  • テレワーク
  • 勤務間インターバル
  • 選択的週休3日制

企業情報

凸版印刷株式会社
企業名
凸版印刷株式会社
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所在地
東京都
社員数
10,951名
(時点:2022年3月末)
業種
製造業

働き方・休み方改革に取り組んだ背景と狙い

・緊急事態宣言以前よりフレックスタイム制の導入やテレワークのトライアルを実施しており、「リモートワーク制度」は近年導入しようと考えていたところであったが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響によって、会社命令で在宅勤務が進んだことで、さまざまなメリット・課題も明らかになり、検討から制度導入までのスピードが加速した。
・緊急事態宣言下での働き方を振り返り、新しい働き方の制度につなげるため、緊急事態宣言後の2020年6月にアンケートを実施した。その結果、テレワークの制度化について、75%程度がテレワークの制度化を希望した。週1~2回のテレワークを希望する人が半数。週3~4回のテレワークを希望する人が20%程度、月1~2回のみの出社を希望する人が20%程度であった。これらの声も受けて「ニューノーマルな働き方に向けた新たな勤務制度」を導入した。
・社員からは、時間に縛られるのではなく裁量を持って働きたいという声が以前からあった。また、経営層も今は時間ではなく成果をあげたかどうかが重要であるという認識のもと、時間と成果が必ずしも連動しない仕事が増えていたこともあり、コロナ禍を機に見直しを行った。

主な取組内容

【テレワークのトライアル実施】

・テレワークのトライアルは、新型コロナウイルス感染症拡大前の2019年の夏頃から、テレワークデイズに合わせて実施してきた。
・トライアルにあたり、最初は全部署に声がけをしたが、トライアルを実施してくれる部署が少なかった。営業部門等、実態として前々から柔軟な働き方をしていた部門では制度化の必要性が感じられていなかったようである。そこで、トライアルは事務部門のスタッフを中心に実施した。
・トライアルごとにアンケートを実施し、パフォーマンスが向上したという反応は多くあったが、今から考えれば、出社をしている人も一定数おり、出社対応が必要な業務をしていたために支えられていた部分も多かったのではないかと感じる。

【緊急事態宣言下での働き方】

・上述のとおり以前よりフレックスタイム制の導入やテレワークのトライアルを実施していたが、緊急事態宣言を受けて、2020年4月~5月末頃にかけて、後述する「リモートワーク制度」とは異なる制度上の働き方として、会社が在宅勤務を命じた。90%以上が在宅勤務となり、緊急事態宣言が終わるまで在宅勤務を続けた。過去にトライアルをしていたことでテレワークの難しさ・課題を理解できていた面はあったのではないかと考える。
・使用する機器については、新型コロナウイルス感染症拡大が始まった時点で80%程度にタブレット端末を貸与していた。さらにバーチャルPCの利用が10%程度あった。
・多くの人に会社携帯を貸与していたが、代表電話は会社でしかとれないこともあり、その対応のために出社していた人もいた。
・情報セキュリティ面については、セキュリティ本部で、家からWi-Fiを用いて接続する際のガイドラインを設けている。
・在宅勤務時の工夫として、コミュニケーション面ではすでに導入していたWeb会議ツールを活用し、人材育成もWeb会議ツール等を用いてコミュニケーションを図りながら実施した。また、顔認証技術で勤務時間を見える化したり画面の覗き込み等を防止するツールを活用し、自己申告とあわせて労働時間を把握した。評価については、進捗や成果の把握をどうするかといった面で難しさもあった。
・新入社員研修も在宅で実施した。新入社員全員(400人程度)にタブレット端末を配布のうえ、30~40人のトレーナー(半数以上は総務部門)を配置。コンディションを確認しながら研修を実施していた。研修はWeb会議ツール等を活用してきめ細かく行ったが、Web上で行うためつきっきりで指導しないといけないということではなかった。
・新入社員研修は、緊急事態宣言下で上記の対応をした2020年度の方が研修内容の理解度が高いという結果がでた。記憶の定着のための確認テストを行う等きめ細かく行ったことがよかったのではないか。一方、人とのつながりには課題もあった。
・緊急事態宣言中を含む4~6月頃は、残業が減った一方で、年次有給休暇の取得面では、外出自粛が求められるなか休みを取ってもすることがなかったこともあってか、取得が減った印象がある。

【緊急事態宣言後の働き方】

・2020年10月に「ニューノーマルな働き方に向けた新たな勤務制度」を導入した。具体的には、「リモートワーク制度」を導入し、在宅勤務やサテライトオフィスでの勤務、外出先でのモバイル勤務を可能にした。あわせて、在宅勤務時における業務の一時中断も、若年層を除いて認めることにした。コロナ禍前より段階的に導入を進めてきたこともあり、特に反対や課題はなく、この制度の導入に当たって必要となる、ペーパレスに向けた取り組みや、評価制度の見直しにもスムーズにつなげることができた。
・従来より自律的な働き方について継続的に議論しメッセージを発信していたため、新たな働き方の導入にあたっても、自律的でありつつ、周囲とも連携して生産性を向上させていくという観点を共通認識として持ちながら取り組めている。
・今後感染症が再び拡大した時のために、自身が在宅勤務をするかどうかを選択する「リモートワーク制度」だけでなく、感染症対策や交通混雑の対策として、会社命令で在宅勤務をする「在宅勤務」制度も制度としては保持している。
・また、勤務時間の制度については、部門・職種や等級等によって、適用する労働時間の制度を整理し、既に運用されていたフレックスタイム制のコアタイムの廃止や、従来一部の営業・企画部門にのみ認められていた裁量労働制の適用範囲の拡大(DX推進部門、新規事業の開発・企画部門、研究開発部門等にも導入)を行った。
・裁量労働制の拡大にあたり、目標管理をベースとした奨励金制度も導入した。目標の設定方法や評価方法については議論があり、特に長期間かかる研究については、どのように評価するのか難しい面もあるが、どのような研究でも短期的なマイルストーンを設定し、上司とすり合わせをして評価をすることは可能であると考えている。長期的な研究であっても、将来の成果も意識して進めるべきだというメッセージにもある。
・制度の見直しにあたっては、組合との協議も実施した。2008年頃から、組合と「働き方推進向上委員会」という場を設けており、働き方についてはそこでも意見交換や協議していた。
・アンケートでは、定性的な意見として、「押印等の出社をしなければいけない業務を減らしてほしい」との声もみられた。これを受けて、稟議書のデジタル化を進めたり、住宅・家族情報の手続きについて上司の押印を廃止する対応を行った。
・在宅勤務が活用され浸透してきた一方で、切れ目なく働き続けてしまうような状況も散見されたため、改めて「Eラーニング」を行い、導入目的からあるべき運用方法まで全社で確認している。
・また、テレワーク時の出退勤の客観的データの取得についても課題がみられたことから、「テレワーク時のコミュニケーションやセキュリティ面を重視したテレワーク管理ツール」から、「テレワーク時の労働時間を適切に把握し、労働時間や業務負荷、ボトルネックになっている作業の可視化を重視したツール」への切り替えを図り、働き方改革の深化に向けて取り組んでいる。

【柔軟な働き方:労働時間】

・フレックスタイム制は90年代ごろから制度としてはあったが、一時期、凍結されていたこともあった。2015年度から、フレックスタイム制を改めて再設計したうえで、裁量労働制とともに導入をし直した。当時のメッセージとしては、自分でメリハリをつけて、自律的な働き方をしてほしいといと伝えていた。
・その他、決算時期に業務が集中する部門等では1年単位の変形労働時間制を導入したりしていた。また、時差出勤制度等も導入していた。

【トッパン版ジョブ型雇用】

・デジタルシフトの加速や、新型コロナウイルス感染症拡大などの影響による事業環境の変化に対応するため、経営戦略やビジネスモデルの変革と一体となった人財戦略を策定した。その施策として、これまでの全職種統一の職能等級制度から職群別の要素を取り入れた等級制度に再構築し、また、年功制の排除の観点から、各等級における在位年数も撤廃した。社員の処遇の根幹である等級制度の改定により、多彩な能力・キャリアを持つ人財をより適切に処遇する人事諸制度改革が進んだ。評価制度は、目標管理を導入し、半期ごとの業績に対する人事考課をこれまでの5段階から8段階とし、よりきめ細かくすることで社員の働きがいに繋げ、上位等級についてはその考課と連動し半年ごとに洗い替えとなる手当を支給するなど、目標達成に向けた意識を高める。評価の指標には、新たな項目として「持続可能な社会の実現」「ダイバーシティ」「人権の尊重」「社会的価値の創造」を加えるなど、成長や行動革新のための方向性を示すことで、組織全体のパフォーマンス向上を目指している。

【メタバースを活用した研修】

・新型コロナウイルスによる社内外への感染拡大抑止と社員の安全確保のため、新入社員研修を3年連続完全オンラインで実施。2022年度新入社員研修では、従来実施してきた完全オンライン研修での取り組みに加えて、新入社員同士の新たなコミュニケーションのプラットフォームとして、当社アプリ「メタパ™」をカスタマイズして導入し、メタバース上に新入社員同士の交流を促進できる場を用意した。メタバース上で会話する相手を自由に選び、リアルの場での会話の様な物理的距離感を体感しながらコミュニケーションをとることができる。また、新入社員同士だけでなく、先輩社員(トレーナー)とのコミュニケーションの場としても活用し、コロナ禍の入社における新入社員の不安を払拭する手厚いサポート体制を、メタバース上でも整備している。
・上記のコミュニケーションプラットフォームや、リニューアルしたコンディションアプリを、2022年度新入社員研修における成果を基に、各階層別研修や選抜リーダープログラムにも活用していく予定である。

取組の成果・展望

1.働き方・休み方の状況

・2015年度当時はまだ労働時間や年次有給休暇の取得に課題があり、所定外労働時間は平均40時間/月、年次有給休暇取得率は45%程度だった。
・その後、年次有給休暇取得の奨励日やメモリアル休暇等の取組を行い、2019年度には、所定外労働時間は19時間/月程度、年次有給休暇取得率は60%程度になっている。
・2015年度に裁量労働制を導入したこと、管理職が労働時間を把握しやすくなったこと(PCを立ち上げて業務開始するときに部下の労働時間がポップアップされる仕組み、月末の残業時間の予測値の表示等)、管理職へのフィードバック等地道な努力を行った。経営層からも効率よく働こうというメッセージを出した。
・コロナ禍を機にテレワークを制度化し、導入したことで各人が自律的に労働時間を管理していく意識が高まり、所定外労働時間は大幅に減少した。現在もその水準を維持している。年次有給休暇の取得日数は、コロナ禍で微減したが、現在は従前の水準に戻っている。休暇の計画的な取得も含めて、勤務スケジュールの調整はしやすくなった。

2.多様な人材の活躍や、社員の生活面への効果

・育児をしている人にとっては、業務の一時中断が認められ、柔軟に働けることや自由な時間を持てることが心理的な安全性につながっているように見受けられる。働きやすくなっている印象である。
・例年開催している育児期の当事者のネットワーキングでは、従来男性の参加者が2~3割だったところ、5割にまで上昇した。柔軟な働き方実現により、育児・介護への関わりや関心が高まったほか、仕事と育児の両立を図りたい子育て期のキャリアチェンジ希望層に対して、採用面でアピールポイントとなっている。
・自律的かつ柔軟な働き方や、事業環境の変化を前提とした人事処遇制度の導入により、自己啓発や学び直しの意欲が高まっていると思われる。2022年度は週休3日制のトライアルも実施したが、事前の調査においては週休3日の用途として、自己啓発や学習、趣味の活動との回答が2割程度を占めた。

3.上記以外の働き方・休み方改善による成果

・緊急事態宣言後に、アンケートで在宅勤務によって自身の生産性が向上したかどうかを聞いたところ、「生産性が向上した」との回答が40%程度、「生産性が下がった」との回答が35%程度であった。従来から柔軟な働き方をしていた部門では生産性が上がったが、柔軟な働き方に慣れていない部署では、いきなり在宅勤務になったことで仕事の仕方がうまく確立できず、生産性が下がった面もあるのではないかと考えられる。具体的には、企画・販促部門は生産性が上がったものの、事務部門や研究部門は生産性が下がったように見受けられる。背景には、事務部門は新型コロナウイルス感染症拡大対応や人事関連の対応、対外的な対応(電話対応等)で仕事量が増えていたことがある。また、研究部門は装置等を使った研究が進まなかったこともある。事務部門は管理職のみ出社していることもあった。
・一方で、短時間勤務者では、「生産性が向上した」との回答が多かった。子どもが家にいる場合には仕事がしにくいという意見もあったが、これまで短時間勤務で限られた時間帯に働かなければいけなかったのが、在宅勤務によって自身の働きやすい時間に働くことができるようになったことで、トータルでは生産性が向上したと感じた人が多かったのではないか。在宅勤務をしながら、働きやすい時間に働くということが重要ということが分かり、その後のフレックスタイム制でのコアタイムを廃止する議論につながった。

4.今後の展望

・出社率を50%程度にするのが会社としてのひとつの目安ではある。出社率は事業部によって異なり、2020年12月現在では、60%程度が「リモートワーク制度」を活用している印象である。2020年に10月に制度を導入したこともあり、今後課題や効果等を確認したうえで、次のアクションに進めたいと考えている。
・テレワーク時の労働時間の適正把握や業務負荷を可視化するツールを導入したことで、今後の更なる働き方改革に向け、課題の洗い出しと施策の実施を目指したいと考えている。
・将来的には、フル在宅も可能なようにしたいと考えている。
・将来の働き方としては、自律的な働き方を支援していきたい。キャリアは会社が決めるものという意識があったが、今後はキャリアは自分で考えて会社はサポートする、ということになるのではないか。グループ内での副業の制度や、社内での短期移籍制度等、自律的なキャリア形成を支援する制度も検討していきたい。
・週休3日制についてはトライアル結果を踏まえ、当社としての週休3日の活用可能性を検討する方向である。

(R5.3)

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