株式会社エーピーシィ

事例カテゴリ

  • 所定外労働削減
  • 年休取得促進
  • 多様な正社員
  • 朝型の働き方
  • テレワーク
  • 勤務間インターバル
  • 選択的週休3日制

企業情報

株式会社エーピーシィ
企業名
株式会社エーピーシィ
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所在地
愛知県安城市
社員数
60名(うち女性48名)(正社員18名(うち女性13名))
業種
自動車用プラスチック製外装部品の製造
労働時間・休暇制度
■労働時間関連
・労働時間制度:正社員はいわゆる通常勤務(8時~17時の8時間勤務)だが、製造管理者に限り、時差勤務制度(7時~16時)がある。
・パートタイムは、通常は5~7時間勤務(一部は8時間勤務)。「昼休憩なしで効率的に働きたい」という要望を受けて、超短時間勤務制度(4時間勤務)も設けている。
■休暇関連
・年間所定休日数:年間121日(閏年は122日)。
・年次有給休暇を時間単位で取得できる。

働き方・休み方改善の取組をはじめた背景や課題

1 働き方の状況

・現社長が2016年に取締役に就任する際に、職場の課題を認識したことをきっかけに、取組についての検討をはじめた。

【生産性、メリハリのある働き方】
・4年前は、長時間労働が大きな課題であった。当時は年間休日が117日であったが、社員はほとんどの土曜日に出勤しており、社員の半数近くが出勤しているという状況も目についていた。
・また、家族をもつ女性社員が多かったため、残業は1~1.5時間、遅くとも18時30分には退社していた。平日に長時間の残業できない分、土曜日もフルタイムで出勤するという状況であった。人手不足で、平日だけでは対応できないという背景があり、土曜日に出勤したり、在庫を多めに持ったりと、計画的とは言えない対応をしている状態であった。

2 働き方に関する課題

・二次加工を行っているため、労働集約的で、熟練作業やノウハウが必要な工程が多くある。しかし、当時は「働きやすい職場にして人材を確保しよう」という考え方はなく、従業員はパートタイマーと派遣社員を主体としていた。短期間での離職者も多く、人手が足りないところにスキルが不十分な人を配置せざるをえなかったが、品質が安定せず、誤品や数量不足で重大なクレーム発生することや、そのための検査体制を整える必要も出てしまった。

3 休み方の状況

【年次有給休暇取得状況、部署や時季等による偏りの有無】
・人手不足になり、特定の人にしか対応できない工程が発生すると、その人に残業が集中し、年休も取得できない状況であった。

4 休み方に関する課題

・当時は気軽に申請できない雰囲気があると感じていた。
・従業員側にも年休取得に関する不満はあったかもしれないが、当時は意見を吸い上げる仕組みもなく、働きかけもしていなかった。

働き方・休み方改善の取組経緯・取組内容

1 働き方・休み方改善の取組経緯(きっかけ、当初の目的や計画)

・残業が多いことで離職が増え、生産性が低下するという負のループができていたため、品質劣化や生産性低下を防ぐための取組の一環として、働き方改革に着手した。
・そのためには、採用力と定着性を高めることが必要で、魅力ある会社にする必要があるが、加工は単純作業が多く、賃金も高くないため、金銭的なインセンティブはあまりアピールできない。そのため、別のインセンティブを考える中で見えてきたのが、「女性社員にとって働きやすい会社」というコンセプトだった。

2 推進体制・労使間の話し合いの機会の有無

・事業計画策定時に、ビジョンとして「女性社員が働きやすい魅力のある会社」を盛り込んでおり、社長と経営企画・ダイバーシティ推進室が、PDCAを実施している。

3 働き方改善に関する取組内容

【多能工化の推進】
・多能工化の推進によって社内でのバックアップ要員を確保し、計画的な生産を行っている。
・多能工化にあたっては、個人のスキルをレーダーチャート化し、個人単位では個々に伸ばすべきスキル、全体としては工程ごとの対応可能人数を可視化した。具体的には、ISOと自社規定とをリンクさせ、年1回、多能工化計画シートを作成して、計画を実行している。資格が必要なものはなく、基本的にはスキルのみを見ている。
・多能工化を図っているのは、現状は検査員のみ。不良品をせき止めるのが検査工程だが、点検すべきポイントが多々あり、他の工程よりも、とりわけ高度なスキルとノウハウが求められることから、休暇を取得しにくい工程の1つであったため、特に検査員の多能工化が優先的に求められた。今後は検査工程以外でも多能工化を進めたい。
・検査員のうち、1人が休暇を取得するために、別のラインの人員がカバーに入ることもあれば、同じ生産ラインの中でローテーションを組むこともある。ローテーションにすることで、どの工程にも対応できるスキルが全員に身に付く。
・交代のタイミングは現場に任せているが、同じ人が長期間同じ場所に配置されていることが目につく場合は、製造管理者にアラートを出して、交代を促している。多能工化を促すという理由のほかに、そのような状況になると残業時間が多くなる傾向があるため、内部統制上、管理を行っている。

【「生産予報」の共有】
・平日の残業で収まり、休暇を取れる会社でなければ、人が定着しないと考えたため、各ラインの3か月先までの残業予測を公表する「生産予報」(いわゆる「稼働計画」に相当)を作成し、計画的な作業を促すとともに、バックアップや増員計画の検討を行っている。
・取引先から3か月単位の生産計画が提示されるため、それに合わせて残業時間を推計している。概ね確実な残業時間が算出されるため、それに合わせて増員の手配やローテーションを検討している。予測は当社独自のモデルで行っている。
・もともとは生産計画表を作成していたが、例えば、ある製品が「前月よりも5,000台多い」と言われても、実際の残業時間がどの程度になるかはわからない。「〇時間残業が発生する」という表現のほうが、より受け手に伝わりやすいと考え、運用を変えた。
・生産予報を導入してからは、予測残業時間を超える出勤があった場合、生産過程に何らかの問題があることを意味するため、それを確認することを繰り返した。
・生産予報では、残業時間予想のほかに、生産ラインで必要となる所定人数を設定し、総配置数を算出している。年休取得や突発的な欠勤を見込んで、やや余裕のある配置としている。

【その他残業時間削減のための取組】
・生産計画どおりの生産が求められるため、作業の自動化や、熟練作業のロボットによる置き換えなどにも取り組んでいる。ただし、生産工程の最適化を進めてはいるものの、加工自体が自動化しにくく、人の手が必要になる性質の製品を製造しているため、需要に合わせて弾力的に残業をせざるを得ない時もある。
・そのため、1つのラインで残業が発生するとしても、他のラインがそうでないなら人員の配置を変えるなど、残業の総時間は変わらなくても、1人当たりの残業時間が平準化されるように工夫している。

4 休み方改善に関する取組内容

・年次有給休暇の申請手続きについては、記入済みの申請書をポストに入れて勤怠表を塗りつぶすのみとする手順に見直し、簡素化を図った。
・また、多能工化を推進することにより、バックアップ要員を確保し、休暇を気軽に取得しやすくした。
・年休の積極的な取得も呼び掛けている。社内向けには、意識を変えるために目指すべき働き方の方向性を提示し、全体ミーティングで説明したり、必要に応じて個別に指導をしたりしている。また、残業を希望する人に対しても、残業をするほど得だという考え方から、効率的に働いてプライベートを充実させるとうい考え方へのシフトを促すよう、ポスターを掲示している。
・社外向けには、Webページや会社案内で、当社の価値観を全面的にアピールしており、それに共感できる人に入社してほしいと考えている。

働き方・休み方改善による成果

1 働き方の現状と取組の成果

【所定外労働時間の長さの変化】
<取組前>
取組前のデータはないが、月50時間程度は残業していたと思われる。
<取組後>
月平均25.28時間(2018会計年度)
月平均29.49時間(2019会計年度)
月平均17.74時間(2020会計年度)
(役員を除き、管理職、派遣社員を含む全員)
・2020年度に減少しているのは、コロナの影響もあると思われるが、取組前からは半減していると考えられる。

【生産性、メリハリのある働き方】
・バックアップ要員を確保することが難しく、安定期に入るまで2~3年はかかった。しかし、そのような環境をつくったことで、徐々に休暇が取得しやすくなり、個人の生活にも融通が利く会社になった。

2 休み方の現状と取組の成果

【年次有給休暇の取得状況の変化】
・取組前は年休取得率を把握していなかったが、全く取得しない人もいたため、現在よりも取得率は低かったと思われる。 

3 上記以外の働き方・休み方改善による成果

【多様な人材の確保・定着(採用の状況、離職率の変化など)】
・過去には、パートタイマーを雇用するにしても、育児がある程度落ち着いた人を雇用するというスタンスでなければ業務が回らなかったが、今は新卒採用や、これから出産・育児を控えているような年齢の人も採用できるようになった。直近3年間の育休取得者は3名で、うち2名が復帰している。
・この3年間は正社員採用を進めており、取組実施前は製造現場には正社員がほぼいなかったが、徐々に増やしている。今年も、新入社員が大卒男性1名、高卒女性1名、障害者雇用で大卒女性1名、9月入社で高卒女性1名が入社した。

【その他】
・残業が多いために離職が多く、結果として効率性や生産性、利益率が悪いという負のループができていたが、能力開発や多能工化の促進や休みやすさの向上によって、休める会社がいいという人に対するインセンティブが向上して、結果として採用力も向上し、定着が進んで能力開発ができる、という上昇スパイラルができた。
・業績の面では、競合他社が2社あるが、年間クレームが9か月で6件と5件であったのに対し、当社は0件であり、競合他社に対する優位性を確保できた。
・利益率等については、2017年会計年度の売上高4.3億円、営業利益率が2.4%であった。それ以前も利益率は1%台であったが、取組を始めて、2018年度は売上高4.6億円、営業利益率10%、2019年度は売上高4.8億円、営業利益率11.8%、2020年度は決算前予測値だが、4.4億円、6.1%であり、2018年度には目に見える変化があった。

働き方・休み方の現在の課題・働き方・休み方改善に関する今後の展望

1 現在の課題

・現状の取組(年休申請手続きの簡素化、多能工化、生産予報の公表)に関しては、既に対応可能な範囲のベストであると考えている。

2 今後の取組予定

・今後は、ソフトとハードの両面からのアプローチを検討している。ソフトが人事制度改革で、ハードが新工場設立である。
・人事制度改革は、顧客・会社・個人の「三方よし」を実現することが目的である。評価項目を明確化するとともに、「従業員のありたい姿」として、「効率的に働き、プライベートを楽しむ」「ルールを守って仕事をして顧客に愛され信頼される」「スキルや能力の幅が広いオールラウンド人材」の3つを設定している。

(R3.3)

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