P社(2016年度)

(1)企業概要

社名
P社(2016年度)
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業種/事業概要
医療・福祉/訪問看護・訪問介護・デイサービス・就労支援施設等の運営
従業員規模
正社員100~999人、パートタイマー300人登録の内稼働が150~170人程度
本社所在地
広島県
労働時間制度
1ヶ月単位の変形労働時間制を導入。
勤務時間は事業所ごとに異なるが、基本は9:00~18:00(休憩60分)。早番と遅番の勤務開始時間の差はそれほど大きくない。

(2)働き方・休み方改善に関するこれまでの取組と指標活用のきっかけ

1)これまでの取組
2016年3月に社員全体を対象とした会議を開始し、「私たちが働きやすい職場づくり」を目的としたグループワークを実施。
2015年度より残業を事前申告制とした。また、月の残業時間が30時間を超える社員には産業医との面談を義務付け。
2015年9月に無記名の社員意識調査を実施。

2)「働き方・休み方改善指標」活用のきっかけ
従業員が「この会社は働きやすい」そう思える会社づくりをしていきたい。そのためには従業員のキャリアアップはもちろん、休日等の充実で満足度を上げていくことは必要不可欠であるため、しっかり働きしっかり休む=ワーク・ライフ・バランスの充実を目指している。それに向け、①経営層の理解促進、②人材不足を解消しながら休みを確保する体制づくり等外部の視点でコツやアドバイスを頂きたい。

(3)働き方・休み方の現状・背景

1)人事部の課題認識
管理部門では、正社員について、年次有給休暇の取得促進や所定休日の増加等を検討したいと考えているが、経営層は、「従業員の休日や、休暇取得」が会社にどのような効果をもたらし満足に繋がるのかの理解が低く、働き方・休み方の改善の検討に対して腰が重い。
経営者は福祉や奉仕の精神を重視した働き方に重きを置く一方で、社員、特に若い世代の社員は仕事と生活のバランスを大切にする傾向が見られる。働きやすく、休みやすい職場づくりの重要性を経営者に意識させて、社員の働き方・休み方の改善を進めたい。休暇取得促進については、短期間の休みが数多く取れるほうがよいのか、連続して長い期間休暇を取れるほうがよいのか、把握できていない。社員のニーズにあった働き方・休み方の仕組みを導入したい。
施設系サービスは日々の業務における休憩時間の確保を、また、全社では休暇取得の促進を図りたい。

2)仕事特性と働き方・休み方の現状
①組織体制
訪問介護サービスから始まり、児童デイサービスなど子どもを対象としたサービスに拡大。
職位は、一般→責任者→管理者→主任→係長→部長→社長
介護保険サービスにかかる事業所(訪問介護、通所介護、訪問看護、居宅介護支援等)、障がい児サービスにかかる事業所(デイサービス、就労継続支援B型、相談支援事業等)、保育サービスにかかる事業所(小規模保育)の大きく3つに分かれる。
一事業所あたり正社員約4人、非正規社員5~6人(平均)。多い事業所は正社員数10人程度。
主要なサービス提供範囲は広島市内。
児童デイサービスの事業所の新設ないし新事業の検討(障がい者向けグループホーム)を行っている。ただし、児童デイサービスは異業種からの参入もあって競争は激化している。
中途採用が多い(業界的に、条件の良い方、良い方を求めて横に流れる。出入りが多い)。
障がい児の移動支援事業も行っているが、年々、サービス提供対象児の要件が狭まってきており、売上げを抑制する方向に働いている。
他の児童デイサービスでは、目新しい取組を全面に打ち出している企業が目に付く中、サービスの質を重視している。保護者は、わが子の成長を実感できることが重要であり大切であるとの想いから、ほぼ毎日ブログ配信により、施設における子どもの生活状況等を保護者に伝える取組を行っている。

②働き方
訪問介護サービスに従事する正社員は請求事務などの業務負担が大きく、とくに月初と月末は所定外労働が発生しやすい。
児童デイサービスなどの施設系サービスに従事する社員は、児童に付きっきりで休憩をとりにくい。
責任感があり、能力が高い人ほど仕事を抱え、所定外労働が発生しがちである。同じ事業所でも忙しい人とそうでない人の差が見られる。できる人がすぐに引き受けてしまうのではなく、皆で分担して業務を行うという雰囲気が醸成されると良いと考えている。
施設系サービス(とくに児童デイサービス)の場合、一人ひとりの社員の業務分担が明確ではないという問題はあるが、明確でないがゆえに社員同士がお互いを気遣いあい、連携して業務を行えている面がある。ただし、子どもに万が一の事故等が起こらないように過剰に社員を配置している傾向にあり、これが業務負担増、業務量増の一因となっている。
施設型の仕事は階層化・マニュアル化できている。
訪問の場合、非正規社員は直行直帰もある。正社員は事務作業があるため直帰はない。
仕事のできる(そつなく熟す)社員、責任感の強い社員に仕事が集まる傾向にある。
施設では、児童の夏休み時期等、学校の長期休みの時期には昼の休憩が取りにくい。

③休み方
施設型サービスについては、閉所日があり、閉所日には全員が休みになる。毎年2月の閉所日は8日間で、それ以外の月は9日間である。全社、年間所定休日105日である。
事業所によっては管理者が休暇を取得していない社員に働きかけ、休暇取得を促している。このような事業所の休暇取得率は高い。
マネジメントの上手な管理者は、必要以上の人員を配置させることなく、社員に適切に休暇を促すことができている。管理者のマネジメントの巧拙が社員の休みやすさの違いを生み出している可能性がある。
年次有給休暇の取得率は、個人差が大きい。
近隣事業所と協力し合い、休暇による人材不足をカバーする管理者もいる。
管理者は事業所に一人だが、当該一人が休みの場合、他の社員が管理者としての機能を果たす。しかし、多くの場合管理者はあまり休暇の取得が出来ていない。

④マネジメント
36協定の時間は最大延長時間が月45時間、年間360時間であり、特別条項は設けていない。
正社員及び非正規社員ともに不足しているが、経験者を雇用したいため一定の要件を課していることもあり確保に苦慮している。
日々の労働時間は自己申告に任せており、各自がPCに入力している。
非正規社員から正社員への転換の仕組みを設けており、実際に多くの非正規社員を正社員に転換している。
質の高いサービス提供が自社の特徴であるため、教育・研修に力を入れている。なお新卒は現在のところ全員、離職せず定着している。
事業展開のスピードが速く、リーダー育成が追いつかない。リーダー研修を実施しているものの、若手リーダーの能力が身につくには十分とはいえない。
訪問介護においては、スマホを業務に活用するなど、業務効率化の取組を推進したいと考えているが、年配の社員のIT機器に対する忌避感が強く、なかなか導入が進まない。
児童デイサービスは数多くの事業所を設置しているため、業務の繁閑に応じて管理者同士が連絡を取り合い、社員を融通しあっている。
経営方針と人材育成・評価の仕組みが対応関係にないため、社員一人ひとりが目標を描きにくい。会社が求める人材像、必要なスキル・能力を明確にして、評価制度に反映させる必要がある。
経営側は、法の順守への意識は高い。
社員に対して、働き方に関するアンケートを昨年行った。休みをもっと欲しいなどの意見があったため、今が取組をすすめやすい時期と感じている。
管理者になりたいと言う社員がいない。責任に処遇が伴っていないと感じているようである。
年次有給休暇の計画的付与制度の導入ないし、これに類似する制度を導入したい。
管理者は、机上の研修のみで、管理者の仕事を現場で実際に見ながら確認したり、手順を覚えるようなOJTがない。
管理者が、部下のどのような作業が仕事・残業であるのか等が分かっていなかった。
働き方・休み方改善に関するトップのメッセージはない。
管理者が、自身の部下の所定外労働や年次有給休暇の管理が出来ていない。
所定外労働に対する、承認プロセスが整っていない。
誕生日等を休暇にするような制度はない。
長時間労働の抑制、年次有給休暇の取得推進に関する研修等は行っていない。

⑤その他
求人はパートタイムでのみ行っているが、パートタイムから正社員への転換がある。
訪問介護はタブレット(スマートフォン)により、訪問後の報告事務負担軽減を行っている。

(4)働き方・休み方に関する課題

1)働き方
責任感があり、能力が高い人ほど仕事を抱え、所定外労働が発生しがちである。
子どもに万が一の事故等が起こらないように過剰に社員を配置している傾向にあり、これが業務負担増、業務量増の一因となっている。
時間外労働に対する、承認プロセスが整っていない。

2)休み方
管理者のマネジメントの巧拙が社員の休みやすさの違いを生み出している可能性がある。
管理者自身はあまり休暇の取得が出来ていない。
誕生日等を休暇にするような制度はない。
社員の休暇の取得についての意識・考えを把握していない。

3)働き方・休み方共通
働き方・休み方改善に関するトップのメッセージはない。
経営層は、「従業員の休日や、休暇取得」が会社にどのような効果をもたらし満足に繋がるのかの理解が低く、働き方・休み方に関する改善検討に対して腰が重い。
事業展開のスピードが速く、リーダー育成が追いつかない。
年配の社員のIT機器に対する忌避感が強く、なかなか導入が進まない。
管理者は、机上の研修のみで、管理者の仕事を現場で実際に見ながら確認したり、手順を覚えるようなOJTがない。
管理者が、部下のどのような作業が仕事・残業であるのか等が分かっていなかった。
管理者が、自身の部下の所定外労働や年次有給休暇の管理が出来ていない。
長時間労働の抑制、年次有給休暇の取得推進に関する研修等は行っていない。
日々の労働時間は自己申告に任せており、各自がPCに入力している。

(5)「働き方・休み方改善指標」診断結果

働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
「働き方・休み方改善指標」による診断結果は以下のとおり。
【労働時間】
週労働時間60時間以上の雇用者の割合は0.0%であった。
→貴社の週労働時間60時間以上の雇用者の割合は、全国の雇用者の平均値である8.2%(従業員規模100人~999人のカテゴリ)及び、国の定める目標値5.0%ともにクリアしている。
(36協定で定める労働時間の延長の限度基準である1ヶ月45時間を超える従業員もいない(注1)。)
(注1) 繁忙月
【年次有給休暇取得率】
年次有給休暇取得率は全従業員平均22.2%であった。
→主要産業の平均値である46.0%(従業員規模100人~999人のカテゴリ)及び、国の定める目標値70.0%ともにクリアできていない。
貴社の長時間労働の社員の割合は目標値以上だが、一部の社員に仕事が集中する、休憩が取り辛いなどの課題があるため、働き方の改善が求められる。一方、年次有給休暇の取得率は主要産業の平均値にも達していないことから、休み方の改善が強く求められる。
※「1ヶ月あたりの残業時間が80時間を超える社員の割合」を「週労働時間60時間以上の雇用者の割合」と見なした。
働き方
休み方

(6)課題の整理と改善提案

働き方・休み方に関する課題の整理と改善提案は以下のとおり。

指標項目
現状と課題
対策案
Vision(ビジョン)
項目1
方針・目標の明確化
働き方・休み方改善に関するトップのメッセージはない。

経営層は、「従業員の休日や、休暇取得」が会社にどのような効果をもたらし満足に繋がるのかの理解が低く、働き方・休み方に関する改善検討に対して腰が重い。
トップによる働き方・休み方改善についてのメッセージの発信
働き方・休み方改善について、トップ主導で行う事をメッセージとして公表する。
現在経営層は、働き方・休み方の改善検討に対して積極的ではないようである。しかし、働き方・休み方を改善することは、優秀な人材の確保や、労働移動の多い貴業界において人材の定着にプラスの効果をもたらすことが大いに考えられる。つまり、事業の持続的な成長に大きくかかわる経営課題と捉えることもできる。
実際に月の実労働時間が減る、休みが今より少しでも取得しやすくなるなどの実感、また、その過程の段階であっても「トップが私たち従業員の雇用環境の改善に目を向け努力をしようとしている」ことを感じ取るだけでも、精神的な支えとなって仕事へのモチベーションや愛社心も変わってくる。これらへの期待が持てることを伝え、トップメッセージの公表と、実際の取組推進を行う。
トップメッセージは抽象的なメッセージや目標ではなく、数値目標を設定して、その数値目標を併せて発信することがより取組推進を加速させる。そこで、特に課題が大きい、年次有給休暇の取得の推進であれば、例えば一人あたりの取得日数5日、10日等無理のない目標から(ただし、全社平均ではなく社員一人一人が達成する目標を立てることが望ましい)設定し、トップメッセージと共に発信する。
System(システム)
項目2
改善・推進の体制づくり
経営層は、「従業員の休日や、休暇取得」が会社にどのような効果をもたらし満足に繋がるのかの理解が低く、働き方・休み方に関する改善検討に対して腰が重い(再掲)。
既存の労使委員会を活かして、働き方・休み方改善の課題提起・改善のための取組・効果予測等を行い労使一体で推進する意識を高める
働き方・休み方改善について、例えば安全衛生委員会等の既存の労使委員会で、職場の安全・衛生向上につなげる取組の一環として働き方・休み方改善推進の取組を行う事を提案し、実際に何を行うか、その結果どのような効果が得られそうかなどを協議し、実行に移す。取組の実施から一定期間経過後には、労働時間や年次有給休暇取得に関する数値の変化や、項目8にて提案する「従業員の意識調査」などによる貴社で働くことへの意識に対する効果の測定を行い、結果をさらに労使委員会にて議題として取りあげて更なる取組・改善の推進を図るなど、労使協調によってPDCAサイクルを行うことにより、労使に更なる一体感が生まれ、職場全体の雰囲気も良くなると考える。
項目3
改善促進の制度化
誕生日等を休暇にするような制度はない。
「誕生日・誕生月休暇」等の休暇の設定
誕生日・月等に年次有給休暇の取得を促すメモリアル休暇制度を設ける(年次有給休暇の計画的付与)。
期初等に、社員全員の誕生日(もし区は誕生月)の休暇を計画し、翌月の勤務予定表を作成する際にはきちんと誕生日を迎える本人に通知し、休暇取得を前提とした勤務予定表を作成する。
例えば誕生月が年間における繁忙月であれば、前後の月への休暇の振替を前もって行うルールを設けておく等柔軟な対応を行い、業務への影響を最小限に抑える。
各月の1~2日の休暇取得ニーズへの対応の手掛かりとしてまずは計画的に誕生日休暇を推進することを検討し、来年度以降の人員増による業務の分散を見据えたうえで、他の希望休暇推進を検討する。
項目4
改善促進のルール化
所定外労働に対する、承認プロセスが整っていない。

日々の労働時間は自己申告に任せており、各自がPCに入力している。

管理者のマネジメントの巧拙が社員の休みやすさの違いを生み出している可能性がある。

管理者自身はあまり休暇の取得が出来ていない。
労働時間管理及び残業管理プロセスのルール化と徹底
一般社員、管理職ともに、労働時間の管理について適切に行われているのか疑問がある。まず使用者・管理者は、部下がきちんと適切に労働時間を申告しているのかを把握する必要がある。これは労働基準法・労働安全衛生法上の使用者に課された義務であることを研修等で教育して、理解をしたうえで、適切な管理を行う。それに付随して、残業に対する承認プロセスについては、そのプロセスのルール化が求められる。ただし、ルールが形骸化してしまえば、社内秩序・統制に逆の効果を与えかねない。ルール化した場合は適切に運用する。運用方法としては、携帯電話を使ったメールによる事前申告、事業所に常駐している社員であれば紙ベースによる申告等、各日、「残業が発生する理由」と「それらを終えるために必要となる時間」、「実際にかかった時間(及び退社時間)」※これらは事前に、「超えた場合、大幅に少なかった場合の理由(事後に)」をきちんと残業を承認する管理者が報告を受け、勤怠管理簿との付け合せを行うなど適切に部下の労働時間の管理を行う。
また、休暇の取得については、管理者自身の休暇取得が出来ていない場合、部下も取得し辛い(後述、意識調査により適切に把握する)可能性がある。上述の誕生日休暇をはじめ、自らの休暇の取得を適切に管理し、事業所や施設における休暇の取得に対する「後ろめたさ」を生まないように環境改善を行う。
Action(アクション)
項目5
意識改善
責任感があり、能力が高い人ほど仕事を抱え、所定外労働が発生しがちである。

子どもに万が一の事故等が起こらないように過剰に社員を配置している傾向にあり、これが業務負担増、業務量増の一因となっている。

管理者のマネジメントの巧拙が社員の休みやすさの違いを生み出している可能性がある。

管理者があまり休暇の取得が出来ていない(再掲)。

部下の所定外労働時間数や有給休暇取得算日数などを、管理者は必ずしも把握していない。また、把握した上で、部下のワークライフバランスに配慮することがマネジャーの仕事の一部であることを認識していない可能性がある。

長時間労働の抑制、年次有給休暇の取得推進に関する研修等は行っていない。
管理者以上(経営者も含む)向け「人事労務基礎研修」による部下の健康管理上最低限知っておくべき知識等の標準化を行う
社員・部下の労働時間や、休暇の取得状況などは労働基準法及び安衛法上部下の健康管理の観点から適切に把握することが求められる。
そこで、人事労務に関する基礎研修を行う。
初級管理職研修などで、一部として盛り込まれるものの、全体の研修の一部とされている場合記憶にも残りにくいこともある。人事労務に関するマネジメントの研修を切り出し、管理部門の社員が研修を行ったり、例えば社労士に依頼するなどして、適切に実施することが望ましい。
これらにより、適切に部下をマネジメントするための心得や知識が一定程度以上の水準に到達できるような研修を行う。
また、上司は部下を評価する立場にあるため、評価の透明性や公平性についても学び、実践できるようなプログラムを検討する。
管理者以上(経営者も含む)向け「働き方・休み方教育・研修」による意識の醸成を行う
年次有給休暇の取得促進のためには、管理者本人の意識改革を行うことが必須である。そこで、管理者本人の働き方・休み方改善を推進するための研修を行う(管理者自身休暇取得が出来ていない現状では、部下は年次有給休暇の取得し辛い)。
また、部下の長時間労働の抑制及び年次有給休暇取得を促進するため、部下の働き方・休み方マネジメント教育・研修を行う。年次有給休暇の取得日数が、管理者の意識によって差がみられることから、それらの意識の標準化を行うことにより、どの事業所でも同じように休暇取得への意識を持つことができるようにする。
研修は、集合研修に限らず、個別研修やe-ラーニング等でも可能であるが、管理部門作成の資料を、回覧による閲覧を行うのみでは実効性に乏しいことから、効果的な方法を検討の上実施する。
ただし、研修によって闇雲に休暇の取得を促したり、休暇取得を推進しても、利用者数に対する社員数が十分でない状態であったとすれば、現場の就労環境・人間関係に影響を与え、混乱を招くだけである。取得しやすい事業所は人材の配置が適切な状態であるが、取得できていない事業所は、人手が足りない状態など、事業所に配置されている人材の量・質の差も見極める必要があり、休暇を取得できる状態にあるのかをきちんと精査した上で、職員への指示・対応を行う事が最も重要である(項目7参照)。
項目6
情報提供・相談
年配の社員のIT機器に対する忌避感が強く、なかなか導入が進まない。
IT機器に対する忌避感がある社員向けに、通常のマニュアルとは別に簡易マニュアルを作成する
一般的にマニュアルは、全ての機能について網羅する必要があり、難しい。現場で日々使用する機能だけであれば、それに特化したマニュアル(図付き)を作成して、手順通り行えば紙によるレポート等作成と変わらず、時間場所を選ばず報告ができるメリット等も伝えつつ、IT機器に対する忌避感がある社員にも導入を図る。
また、その際には一度集合研修等でいかにIT機器での作業が簡単かを含め、実機を操作しながら研修できる機会を設けることが出来ればなおよい。
項目7
仕事の進め方改善
責任感があり、能力が高い人ほど仕事を抱え、所定外労働が発生しがちである。
仕事の棚卸を行い適正な人材の配置を検討する
業務の棚卸を実施し、その業務は、時間的な余裕があるものか、職員が行わなければならないものか、パートタイマーに分担してもらえるか検討を行い、分担してもらえるものがある場合、必要に応じてパートタイマー等を活用する。
特に、棚卸の際には、業務のアウトプットを出さなければならないタイミング・緊急度と他の人に替わってもらえる代替性から仕分けを行うことにより、特定の個人に対する業務の偏りを無くすように実施できるよう工夫する。
また、棚卸の際には、過剰に人材の配置がなされている現場の適切な人数の割出しも行い、過剰なサービス提供によって休憩の取得に影響が出る社員や、休日出勤をしてしまうような社員がなくなるように検討する。
仕事に関する知識・能力の標準化のための業務マニュアル作成の推進
棚卸によって業務の量の調整が少しでも図ることが出来れば、次は能力の平準化・作業の標準化を図る検討を行う。例えば、全ての作業のマニュアル化はその一例である。
それぞれのモチベーション等には差が出るものの、能力の高低は、教育研修によってカバーできる部分もある。全員が同じ水準になることは難しくても、マニュアル化の推進によって今より能力のバラつきは均すことができる可能性はある。
また、責任感のある社員・能力の高い社員をメンターとする、メンター制度を設け、それらの社員には管理者候補としてメンターとしての能力をはじめ、上に立つための能力の伸長を図り、また、社員にとっては、壁にぶつかった時に相談すべき相手が特定されることにより、相談がしやすくなる効果があり、日ごろの悩みの相談や、業務上における壁を越える為のアドバイスを得やすく、能力の伸長も図りやすい。
多様な人材の活用の検討
まず、事業所の外に対する、仕事内容(特に、下記ボランティア等が活躍できそうな業務)についてのPR(チラシ・ホームページ等)を積極的に行う。
特別に資格が必要な業務ではなく、サービス利用者の見守りなどであれば、地域ボランティア等が活用でき、(ひとり暮らしや退職された高齢者で健康な方の中には、ボランティアを行うことに意欲的であったり、楽しみとして捉えている方も多くいる)地域へのPRにより、それらボランティア人材を確保できる可能性はある。また、例えばサービス利用者の家族に対しても、サービスが提供されている施設の雰囲気を直接感じる機会とすれば、忙しいとされる特定の時期などには、見守りのサポートとして非常に有効である。また、施設を利用しようかと迷われている要介護者等を介護している地域住民に対しては、「施設の雰囲気を感じることができるイベントを行っています。」等、参加を促すことにより、安心して家族をお願いできる施設である事のPRにも繋がる。
また、上述に関連し、どうしてもボランティア等ではイベント当日の見守り人数を確保できない場合に、当日、現在常勤で業務を遂行する正職員以外に、登録されているパート職員を活用することも検討する。
また、現在も行っているが、非常勤職員の正社員化を推進することにより、所定労働時間の制約の少ない従業者を増員することも、他の社員のサポートに繋がるため、一人あたりの業務量を減らし、残業時間も減らすことができる。
ただし、ボランティアには、業務上にもし事故が起こった場合の責任の所在等についてきちんと説明し(重過失でなければ責任を負わせない等)、安心してボランティア活動が行えるようにする。
人材活用に関連し、現在パート社員である従業員のキャリアアップを目的として、職務や勤務地を限定した、または労働時間を柔軟に考慮した、これまでの「制約のない正社員」とは別の正社員の雇用を検討することも、一つのアイデアである。例えば職務を限定する場合、その職務だけで正社員として雇用が可能か、また、制約の無い正社員との処遇の差はどのように設定するのかなど、現在の正社員にとって、制約のある正社員の方が魅力的に映りすぎないように処遇設定を行うことが重要である。しかし、処遇には差があるものの、期間の定めがないことや各種保険に適切に加入ができることは生活・心身の安定にも繋がり、また、自らのライフイベントや生活環境等に合わせて就労が可能等、一定程度の仕事の制約を許してもらえるなら、今より正社員に近い働き方をできる者も出てくる可能性はある。
事業展開のスピードが速く、リーダー育成が追いつかない。
事業展開のスピードの見直し
一度、会社の理念に立ち返り、理念→全社目標→全社戦略→部門目標→部門戦略→個人目標までがラインで繋がっていなければ、バランスが保てなくなる。果たして個人の目標・展望等を実現し、部門の目標を達成できる成長戦略が取られているのか、人材の質を保ちつつ、事業の規模が拡大できているのかを今一度見直すことも、働き方・休み方を改善するきっかけになる。
社員のやる気、仕事の質の向上に寄与して退職者の減少にも有効に作用する可能性がある。
管理者は、机上の研修のみで、管理者の仕事を現場で実際に見ながら確認したり、手順を覚えるようなOJTがない。
管理者研修の仕上げとして現場のベテラン管理者の業務を1日見学する
管理者(見学するにふさわしい管理者)の現場のマネジメントを見学し(メモを取る)、その日の終わりに、ベテラン管理者に質問をして、回答までもらう。その後数日中に、机上の研修内容と共に管理者見学の報告書をまとめ、上司(又は経営者)に提出する。内容は、管理者を任せるにふさわしい報告になっているか、机上の研修は知識として備わっているか等をチェックして、最終的に管理者として任命するなど、マネジメントレベルが一定のラインを超えるためのハードルを設ける。
Check(チェック)
項目8
実態把握・管理
社員の休暇の取得についての意識・考えを把握していない。
働き方・休み方についての意識調査を社員に対して定期に行う
2015年に一度行っているものの、定期的なものではなく、また、「休暇の取得に対する意識」については把握が出来ていないとの情報がある。
働き方・休み方に関する職員意識調査を定期的に実施し、職員が自身の働き方・休み方にどのような意識・考えを持っているかについて、把握した情報を時系列化し変化を把握・分析する。
また、各回の分析結果は、働き方・休み方についての労使による委員会(例えば衛生委員会)において検討のテーマに設定したり、労務管理の施策に反映することで、改善の取組を推進させる。
管理職になることを望まない社員ばかりである現状、キャリアについての意識も把握するため、職員がどのような将来のキャリアビジョンを持つか併せて意識調査を行い、キャリアへのモチベーションを高めるための方策を分析・検討する材料とする。
定期的な意識調査により、職員の満足・不満足を把握することは雇用管理改善に繋がり、有能な職員の流出の防止に寄与する。

(7)改善提案の活用

提案の活用、取組状況に関しては以下のとおり。
1) 「誕生日・誕生月休暇」等の休暇の設定
社内報等を活用し、取得方法の一つとして「誕生日休暇」の発信をする。
2) 管理者以上(経営者も含む)向け「人事労務基礎研修」による部下の健康管理上最低限知っておくべき知識等の標準化を行う
H29年度の教育(研修のスケジュール)に組み込む。
3) 仕事に関する知識・能力の標準化のための業務マニュアル作成の推進
現在、各事業所のリーダーが作成している。
4) 管理者研修の仕上げとして現場のベテラン管理者の業務を1日見学する
他事業所実習として実施し、“それぞれの事業所での良い取組み・悪い取組みを発見した後に管理者同士で改善・発展に向けて意見交換・情報提供を行う” 機会を設ける。
5) 働き方・休み方についての意識調査を社員に対して定期に行う
他社等のアンケートを参考に意識調査を定期的に行い、結果をもとに従業員同士で話し合いが行える場(毎年3月に全体総会として従業員全員が集まる日を予定)を設け、働き方・休み方に対して関心を広げていきたい。

(8)「働き方・休み方改善指標」活用の効果(結果)

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(平成28年度事業)

事例を評価する