株式会社ISTソフトウエア

(1)企業概要

社名
株式会社ISTソフトウエア
PDF
業種/事業概要
情報通信業
従業員規模
470人(平成28年4月1日現在)
本社所在地
東京都
労働時間制度
始業終業時間
基本9:00-18:00(昼休み1時間/所定労働時間8時間)
 顧客先にて開発作業の就労者(社員の7割)は、顧客先の時間制度に合せている。(客先がフレックスならフレックス、7.5時間なら7.5時間で8時間勤務したことにする)

(2)働き方・休み方改善に関するこれまでの取組と指標活用のきっかけ

1)これまでの取組
・長時間労働(月間80時間超)の原則禁止(2016年4月より開始。やむを得ない場合は、事前申請し、対策も記載が必要。残業申請は上長が申請し、社長まで回る。この申請制度となってから残業に対する抑止力となっている。)
・経営トップ(社長)からのメッセージ(昨年度末に初回の発信。その後も6月に発信しており、今後も定期的に発信していく予定。グループウェアの中にメッセージを掲載し、社員が誰でも見ることができる)。
・時間外労働・有休取得状況の「見える」化(部門長は部下の情報を見ることができる。出退勤について、週に1回データを吸い上げ、一覧表を役員・現場(部門長まで)に配布。有休については、毎月開催する幹部会(事業部長以上の会議)で各部署の平均時間のデータを提出している。来年度からはシステム導入で見える化がより進む予定。施行するに当たり、今年度1年かけて準備し、特定部門で先行的な試行も行なう予定。)
・数値目標の設定(有休・残業時間の平均目標を部単位で設定(昨年の実績値を元に今年の目標を設定)。部門長の考えによって違うが、大体5%位の改善目標となっている。目標意識を持ってもらうことが重要と考えている。)
・長時間労働について管理職への人事考課への盛り込み(長時間労働の改善が見られない部門長に対して、人事考課でペナルティーを科すという通達を出している。)
・長時間労働削減、年次有給休暇取得促進について改善の見られた部門の表彰(年1回、業績等の貢献の表彰と併せて表彰)
・育児時短勤務の期間延長(小学校3年生まで)
・配偶者の出産休暇の日数拡大(5日)

2)「働き方・休み方改善指標」活用のきっかけ
自社の現状を知りたい。
その上で、どこに問題があるか、どうしたら解決できるかを検討したい。

(3)働き方・休み方の現状・背景

1)人事部の課題認識
時間外労働(残業・休日出勤含む)が多い。
取引先への派遣契約も多く、自社でコントロールしにくい。 「IT業界は残業が多くて当たり前」という意識が浸透しているため、なかなか意識改革ができない。無駄な残業ではないかもしれないが、一部に生活残業的なものがある。(「残業手当がないと生活できない」と公言する社員もいる。)

2)仕事特性と働き方・休み方の現状
①組織体制
従業員数 444名(正社員):事務職34名、営業職12名、技術系専門職(SE)400名程。
正社員以外に、SEとして、契約社員約20名、派遣社員約120名が勤務している。(派遣社員については、登録型ではなく、パートナー会社からの派遣である。指示命令が派遣である必要があり、派遣の形を取っている。)
正社員の男女比は、女性が20%弱。事業部門(現場)では16~17%程である。以前と比べると、女性は増えている。
事業部門の組織体制は、事業本部―部。部の下は部門任せで、正式な課があるわけではない。プロジェクトがぶら下がっている形である。プロジェクトは固定されているものとそうでないものとがある。
職位は、本部長―事業部長―部長―プロジェクトマネージャー(プロジェクトに1人)―大規模プロジェクトではプロジェクトマネージャーの下にサブリーダーが3人程つく(1人で見られるのは10人程)。
プロジェクトマネージャークラスの人は若くて30歳位、大体40代の人。
事業の柱は、受託のシステム開発が7~8割、他ソフトウェア開発とそれの営業である。固定されている顧客もあるが、その他の顧客も数としてはかなり多く、常時動いているところで100社程ある。富士通、日立系でかなりの割合は占める。主要な顧客先からの受注は概ね横ばいであり、拡大しようとすると新規開拓営業が必要である。

②働き方
ソフトウェア開発は、何人かのチームで実施する。チームは、4~5人で、大きいものは30~40人。
プロジェクトマネージャーが同時にいくつかのプロジェクトを担当するケースは多い(4~5人規模のプロジェクトの場合、複数担当の場合が多い)。
一つのプロジェクトが終わると次のプロジェクトが始まる(次のプロジェクトが待っている状況)。
繁忙期は、プロジェクトによるが、年度末が納期というケースが多い。期間については、1~2ヵ月から何年も掛けるプロジェクトもある。1つのプロジェクトの開発が終わった後も保守でそのプロジェクトに残る人もいる。   
残業時間が年間平均80時間の人が数名存在するが、年次有給休暇5日以下と同様、特定の人であり、特定の顧客に張り付いていることが原因である。残業時間が年間平均で1ヶ月45時間以上の人も存在する(定常的に残業が多くても、採算性の面では問題はない)。特別条項は140時間で設定しているが、これに収まらない人もいる。
顧客先で働く場合、一斉に帰るのではなく、基本は個別に自分の仕事が終了すれば退勤する。ただ、上司によって、プロジェクトマネージャーが帰らずに帰り辛く残ってしまうという場合はあると思われる。顧客の働き方に合わせざるを得ず、どうしても残業が多い場合、顧客に対しての交渉は難しいが、極端に酷い場合には、事業部長や部長から客先に申し入れることはある。それでも改善しない顧客については撤退したこともある。
残業は自分の意思だけではコントロール出来ない部分もあるが、定常的に残業が多い人は、ある程度年代が上の人が多い。プロジェクトマネージャークラス (40代が多い)は若い頃残業をして頑張って乗り越えてやって来たという意識が強いと思われる。また、派遣契約の場合、指揮命令がお客さんであるため、自社からなかなかコントロールできないのが悩みである。最近は理解してくれる派遣先も出て来たが、IT業界は長時間労働を気にしない傾向のある業界であり、まだ残業を気にしていない顧客も多い。
小規模のプロジェクトと比較的大規模なプロジェクトとでは、残業発生の規則性はなく、どちらも残業が発生している。プロジェクトの期間による残業発生の傾向(短い期間のプロジェクトは割と残業が発生しやすいなど)は、把握できていない。
事業部によって、残業や年次有給休暇取得の特徴が異なる。仕事内容の違い、顧客の違い、事業部自体の文化・意識、事業部の部長クラスの違いによる。
ノー残業デーは、外部での勤務が多いので、会社の風土に合わない。本社はもともと残業が少ないので設定する必要がない。部門独自で設定するのは問題ない。しかし最近、顧客の了解を得て、毎週水曜日のノー残業デーを始めた。元々顧客もノー残業デーを実施しているところもあり、実施していないところについても了解を得られたところについては実施し始めた。
一方で、生活残業的な残業も存在し、若い人に多く見られる傾向にある。

③休み方
年次有給休暇取得率は全社的にみると7割で、国の掲げている目標に達している。
年次有休休暇の取得5日以下の人は9%(36名/403名)で、特定の人が毎年休暇取得できていないようであり、原因は、本人の意識と思われる(仕事が好きなのか、顧客の状況によるのか)。顧客の窓口になっている社員は休みづらく、また技術系の専門職は、自分が休んで作業が遅れ迷惑がかかるという意識が強い等の傾向はある。年次休暇取得が取得できていない社員は限られているので、個別に原因を把握すれば対処法があるかもしれない。実態把握が必要。
年代的にみると、若い人の方で取得率が高いようである。
夏季休暇は、7月21日から9月20日の間で4日連続して取得するように伝えている。
年休の計画的付与は取得奨励が1日ある。

④マネジメント
事業の売上・受注の拡大について、経営上の目標は明確にはなっているが、極端な右肩上がりを計画しているわけではない。売上げよりも、いかに原価率を下げるか利益率を上げるかを重要視している。その観点で言うと、トップは、仕事の中身・仕事のやり方・効率化と合わせてワーク・ライフ・バランスに大変関心がある。
36協定は、最大延長時間を月45時間、年間360時間、特別条項により月140時間、年間1,080時間で締結している。
出勤退勤の時間の把握は、社内はタイムカード、客先は客先の方法で(タイムカード、自己申告)行なっている。
管理監督職は課長代理以上、プロジェクトのマネージャーはほぼ課長代理以上である。
残業の申告は、部門によるが、概ね事前申請ではない。社員に任せている。
客先(請負)で業務に就いている場合には、現場にマネージャーが居ればマネージャーが残業申告を行なうが、マネージャーが複数チームを持っていて目が行き届かない場合には自己申告となっている。来年度からシステム稼働し、システムで本社に出退勤情報を吸い上げる予定である。今現在はシステムがないためメールでやり取り等している。
残業が多い部下がいるマネージャーに指導改善を促進している。指導の基準は100時間としていたが、現在は80時間に変更。80時間超えてしまいそうな社員について、毎週、部門長宛てに個別に発信している。
プロジェクトマネージャーに昇格するにあたって、仕事の進め方・効率良く仕事を行なう等の研修は、管理職向けの研修で実施しているが、これまで有休や残業の時間に関しては行なっていない。
プロジェクトマネージャーの上に部長がいるが、経営の業績の評価は、プロジェクトマネージャーまで責任はおちている。プロジェクトのメンバーは部署毎に評価している。
評価にあたって、管理職クラスは、実績(ほぼ数字)で評価し、非管理職は定量評価も多少はあるが、普段の行動を主に評価対象にしている。
特定の部署・社員に業務が集中する状況が続くと、プロジェクト自体にテコ入れする(適任者を入れる等を部長の裁量で行なう)。しかし、業務を切り分けて分担しているため、簡単ではない。
プロジェクトマネージャーは、プロジェクト全体の遂行の管理をしているが、小規模プロジェクトではプレイングマネージャーとなって自らプログラム組む等を行なう場合もある。
大規模なプロジェクトについては、ある程度の残業が計画の範囲内であれば、時間数としては多くても利益は確保出来ている。その他に、契約上、一定時間数を超えたら追加料金払うという契約形態のプロジェクトもある。
請負業務では、残業が増えると利益がひっ迫する。もともと短期間の仕事の場合、どうしても残業になってしまう。分担するにしても、適正な人数があり、人ばかり増やすわけにはいかない。最初から1ヶ月あたりの残業時間45時間を超えるような計画で始めるプロジェクトも存在する。そのような業務が終了した際に、その社員の負荷を減らしバランスを取ることは実施している(連休取得の推奨等)。忙しい仕事が終わった後に自主的に休暇を取るということもできている。
残業が多い、年次有給が取得できないということの原因が顧客による場合と、プロジェクトマネージャーのマネジメントの仕方による場合と両方ある。
プロジェクトマネージャーによる残業時間・有休取得の難しさの違いは、ある程度把握しているが、具体的に数字では把握していない。
「仕事が好きで帰らない」マネージャーがいる部署では、部署全体の帰宅が遅い傾向が見られる。
現在導入予定のシステムでは、出退勤の時間管理以外に、残業の申告承認制システムができる。ただし、実際に利用するかどうかはまだ検討していない。

⑤その他
<採用>
採用は、新卒が2016年17名、2015年17名、2014年12名。毎年15~20名程採用。中途採用は年間数名採用している。どちらかと言うと戦力は社外で育てている形である。
<社員の意識調査アンケート>
特定の項目で社員に対してアンケートを実施することはあるが、定期的に同じ内容では行なっていない。

(4)働き方・休み方に関する課題

1)働き方
残業時間が年間平均で1ヶ月80時間の人が数名存在するが、年次有給休暇5日以下と同様、特定の人であり、特定の顧客に張り付いていることが原因である。
上司によって、プロジェクトマネージャーが帰らずに帰り辛く残ってしまうという場合はあると思われる。
定常的に残業が多い人は、ある程度年代が上の人が多い。プロジェクトマネージャークラス (40代が多い)は若い頃残業をして頑張って乗り越えてやって来たという意識が強いと思われる。
プロジェクトの期間による残業発生の傾向(短い期間のプロジェクトは割と残業が発生しやすいなど)は、把握できていない。
事業部によって、残業や年次有給休暇取得の特徴が異なる。仕事内容の違い、顧客の違い、事業部自体の文化・意識、事業部の部長クラスの違いによる。
現在導入予定のシステムでは、出退勤の時間管理以外に、残業の申告承認制システムができる。ただし、実際に利用するかどうかはまだ検討していない。

2)休み方
年次有給休暇の取得5日以下の人は9%(36名/403名)で、特定の人が毎年休暇取得できていないようである。原因は、本人の意識と思われる。
顧客の窓口になっている社員は休みづらい、技術系の専門職は、自分が休んで作業が遅れ迷惑がかかるという意識が強い等の傾向はある。年次休暇取得が取得できていない社員は限られているので、個別に原因を把握すれば対処法があるかもしれない。実態把握が必要。

3)働き方・休み方共通
残業が多い、年次有給休暇が取得できないということの原因は、顧客による場合と、プロジェクトマネージャーのマネジメントの仕方による場合と両方ある。
プロジェクトマネージャーによる残業時間・年次有給休暇取得の難さの違いは、ある程度把握しているが、具体的に数字では把握していない。
マネージャーが、「仕事が好きで帰らない」部署では部署全体の帰宅が遅い傾向が見られる。
プロジェクトマネージャーに昇格するにあたって、仕事の進め方・効率良く仕事を行なう等の研修は、管理職向けの研修で実施しているが、これまで有休や残業の時間に関しては行なっていない。

(5)「働き方・休み方改善指標」診断結果

働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
「働き方・休み方改善指標」による診断結果は以下のとおり。
【労働時間】
週労働時間60時間以上の雇用者の割合は0.7%であった。
→貴社の週労働時間60時間以上の雇用者の割合は、全国の雇用者の平均値である8.2%(従業員規模100人~999人のカテゴリ)及び、国の定める目標値5.0%ともにクリアしている。
(36協定で定める労働時間の延長の限度基準である1ヶ月45時間を超える従業員は14.9%(注1)いる。)
(注1) 繁忙月
【年次有給休暇取得率】
年次有給休暇取得率は全従業員平均70.3%であった。
→主要産業の平均値である46.0%(従業員規模100人~999人のカテゴリ)及び、国の定める目標値70.0%ともにクリアしている。
貴社の長時間労働の社員の割合は目標値以上だが、36協定で定める労働時間の延長に関する国の限度基準である1ヶ月45時間を超える社員が存在しているため、働き方の改善が求められる。年次有給休暇の取得率は目標値に達しているが、一部5日以下しか取得できない人が存在していることから、年次有給休暇取得についても対策が必要。
※「1ヶ月あたりの残業時間が80時間を超える社員の割合」を「週労働時間60時間以上の雇用者の割合」と見なした。
働き方
休み方

(6)課題の整理と改善提案

働き方・休み方に関する課題の整理と改善提案は以下のとおり。

指標項目
現状と課題
対策案
Vision(ビジョン)
項目1
方針・目標の明確化
経営トップ(社長)からのメッセージ(昨年度末に初回の発信。その後も6月に発信しており、今後も定期的に発信していく予定。グループウェアの中にメッセージを掲載し、社員が誰でも見ることができる)。
経営トップによるメッセージの定期的発信の継続と社内末端までの浸透、社外への広報
 既に経営トップから定期的にメッセージを発信しているので、それを継続的・定期的に発信していくことが重要。その際、社内末端まで、可能であれば社員の家族に至るまで取組の内容を知ることが出来るよう、例えば社内報のようなツールを使用して浸透を図る。さらには、社外に対しても、トップが働き方・休み方の改革を重視して取り組んでいることを発信することによって、社内外に取組方針を知ってもらうことも必要。
System(システム)
項目2
改善・推進の体制づくり
労働組合は無い。
働き方・休み方改革に向けた従業員代表と協力推進体制の整備
長時間労働の抑制及び年次有給休暇取得促進に関して、従業員代表と定期的な意見交換の場を設けて、取組の推進に協力してあたる体制を構築する。あわせて、会社としての従業員意識調査等とは別に、従業員の意見の収集を期待し、意見交換の場での会社にも従業員にも望ましい働き方・休み方を検討し、その姿に向けて取組を推進する。
項目3
改善促進の制度化
現在導入予定のシステムでは、出退勤の時間管理以外に、残業の申告承認制システムができる。ただし、実際に利用するかどうかはまだ検討していない。
所定外労働事前許可申請制度
 所定外労働の事前許可申請制度を設けて、残業時の申請を義務づける。申請にあたって、残業予定時間、理由を記載して申請する。上司はその必要性について十分チェックした上で許可することを徹底する。また、残業理由と合わせて把握することによって、残業削減の対策を検討する一つの材料とすることも検討する。
 なお、現在導入予定の勤怠管理システムへのパソコン等からの入力の場合、勤務時間、残業時間について客観的に正しい勤務時間であるかどうか、例えばパソコンなどのオン・オフデータなどから重ねてチェック出来るよう、何らかの方法を検討しておいた方が良い。
年次有給休暇の取得5日以下の人は9%(36名/403名)で、特定の人が毎年休暇取得できていないようである。原因は、本人の意識と思われる。
「誕生日・誕生月休暇」等メモリアルの休暇の設定
年次有給休暇取得率が70%を超える中で、年間取得日数が5日以下の人が存在するという状況になっている。この一部の5日以下の誕取得日数の人の休暇取得を進めるため、生日・月等に年次有給休暇の取得を促すメモリアル休暇制度を設ける。
メモリアル休暇の設定にあたっては、誕生月が繁忙である場合も考慮し、前後の月にずらすことも出来るようにして、予定した日に可能な限り取得することとする。また、取得できなかった場合には代替の日を必ず設定して、休むように義務づける。

プロジェクト節目休暇の制度化
 プロジェクト進行中は休暇を取得しづらい状況にあると考えられることから、プロジェクト終了後に連続5日の休暇を取得するプロジェクト節目休暇を設ける。
このため、プロジェクトマネージャーや部長など責任者に対し、プロジェクトメンバー全員が必ずプロジェクト節目休暇を取得する前提で受注及び工程計画作成するよう義務づけることで、プロジェクト休暇の取得促進を図る。
項目4
改善促進のルール化
マネージャーが、「仕事が好きで帰らない」部署では部署全体の帰宅が遅い傾向が見られる。
管理職の人事評価に部下の労働時間・年次有給休暇取得の状況を評価項目に入れる
企業の発展のためには、過重な業務負荷によって人材をつぶしてしまうことが無いように、人材確保・人材育成を長期的視点でとらえることが重要である。長時間労働については、既に管理職の人事考課に盛り込み、長時間労働の改善が見られない部門長に対して、人事考課でペナルティーを科すという通達を出している。これをさらに進めて、ペナルティーというだけでなく、効率よく仕事を進めることの重要性の認識を浸透させるためには、積極的な取組への動機付けという観点からペナルティーという形では無い評価方法が必要と思われる。
このため、業績とともに部下の労働時間及び年次有給休暇取得の状況などを項目に設定する(例えば業績に加え、業績を総実投入労働時間で除した生産性の両者を評価するなど)。これによって効率的に仕事を進めることを評価しているというメッセージを持たせ、次項の項目5意識改善「管理職層に対するマネジメント力向上等を目的とした実習型研修」とあわせて管理職の意識改善を促す。
なお、働き方改革の積極的な評価に関して、既に長時間労働削減、年次有給休暇取得促進について改善の見られた部門の表彰を年1回実施していることから、ここで提案している人事評価に組み込むこととほぼ同様の効果が期待できる。貴社で実施している方法と今回提案した方法について、それぞれ長所短所があると考えられ、貴社の適した方法で実施することで良いと思われる。
Action(アクション)
項目5
意識改善
上司によって、プロジェクトマネージャーが帰らずに帰り辛く残ってしまうという場合はあると思われる。
定常的に残業が多い人は、ある程度年代が上の人が多い。プロジェクトマネージャークラス (40代が多い)は若い頃残業をして頑張って乗り越えてやって来たという意識が強いと思われる。
事業部によって、残業や年次有給休暇取得の特徴が異なる。仕事内容の違い、顧客の違い、事業部自体の文化・意識、事業部の部長クラスの違いによる。
プロジェクトマネージャーに昇格するにあたって、仕事の進め方・効率良く仕事を行なう等の研修は、管理職向けの研修で実施しているが、これまで有休や残業の時間に関しては行なっていない。
管理職層に対するマネジメント力向上等を目的とした実習型研修
事業部によって、残業や年次有給休暇取得の特徴が異なる。その背景には仕事内容の違い、顧客の違い、事業部自体の文化・意識、事業部の部長クラスの違いがあるという状況にあるが、仕事内容や顧客に依存する部分はあるものの、共通に考えられるマネジメントの仕方による部分については対策を検討する必要があると思われる。
このため管理職層に対して、最初に、所定外労働削減や年次有給休暇取得促進に向けた取組の推進、自身及び部下のワーク・ライフ・バランス、創造的な業務遂行の意義などについて講義を行う。
次に、研修を通じて、部下の労働時間管理は業務遂行と共にマネジメントの基本的な要素であることの認識を深めさせる。併せて、業務の効率化に向けた研修を行い、定時に仕事を終えることを前提とした仕事の割り振り・時間管理・遂行管理について習得させ、マネジメント力の向上を図る。
その後、具体的な職場における所定外労働削減に向けての取組について、グループワークなどによる実際に即した対策を討議し、取組内容を策定する実習型の研修を行う。
なお、自社の働き方・休み方改善の好事例を事前に収集した上で、研修の中で参考事例として取りあげることも検討する。それらを題材にして、良い点、自分達の部署で出来るのか出来ないのか等考えてもらう。
年次有給休暇の取得5日以下の人は9%(36名/403名)で、特定の人が毎年休暇取得できていないようである。原因は、本人の意識と思われる。(再掲)
一般社員向けの意識改善に向けた研修
一般社員向けの研修内容については、仕事は所定内で終えるのが基本であり、効率的に仕事を遂行して早く退社し、又は年次有給休暇を有効に活用することを通じて、家族と過ごす時間を大事にし、自己啓発や休養、趣味なども含めて、人間性を高めるために使うことを推奨する研修を実施し、社員の意識改善を図る。研修の実施に当たっては、ワーク・ライフ・バランスのとれた働き方は、仕事の質の向上につながることを実感できるようなものとし、その実例についても紹介することを通じて、残業や年次有給休暇取得に対する意識の変革を図る。
項目6
情報提供・相談
プロジェクトの期間による残業発生の傾向(短い期間のプロジェクトは割と残業が発生しやすいなど)は、把握できていない。
成果を挙げつつワーク・ライフ・バランスを達成出来ている要因の分析とその優良事例の共有
部署やプロジェクトによってワーク・ライフ・バランスの取組を進めている組織、休みが取れていて営業成績の成果も出ている組織がある。これらは何らかのあるきっかけから取組が進み、その成績とワーク・ライフ・バランスの進展が相互に効果を持ったと考えられることから、そのうまく行っている要因を分析し、明らかにする。
その好事例を社内のイントラネットなどを通じて社内で共有する。あわせて項目5意識改善における「管理職層に対するマネジメント力向上等を目的とした実習型研修」、「一般社員向けの意識改善に向けた研修」において教材として活用する。
年次有給休暇の取得5日以下の人は9%(36名/403名)で、特定の人が毎年休暇取得できていないようである。原因は、本人の意識と思われる。(再掲)
年次有給休暇取得率の低い人ランキングの本人への周知と部門平均の社内等への公表
特定の人が毎年休暇取得出来ていない状況が、本人の意識の問題によるところが大きい場合、社内での休暇取得に関する自身の状況を客観的に見直すことが必要と思われる。貴社では既に部門長に対して年次有給休暇取得率の低い人や長時間労働の人をリストアップした資料を配付しているが、本人自身状況を客観的に見直して意識を変えていくきっかけとするため、年度中間時点と期末の年2回程度、年次有給休暇取得率の低い人のランキングをトップ10~50人程度リストアップし、対象となる本人に対して人事部から直接知らせると共に、部門平均の状況を社内に公表する。併せて、管理監督職に対して部下の指導など対策を求める。
なお、この上位に特定部署やプロジェクトのメンバーが集中している場合は、顧客又はマネジメント、仕事の特性など何らかの原因が存在すると思われるので、後述項目8実態把握・管理「残業及び年次有給休暇取得阻害に関する調査と要因分析」にも情報を活用する。
項目7
仕事の進め方改善
残業時間が年間平均で1ヶ月80時間の人が数名存在するが、年次有給休暇5日以下と同様、特定の人であり、特定の顧客に張り付いていることが原因である。
残業が多い、年次有給休暇が取得できないということの原因は、顧客による場合と、プロジェクトマネージャーのマネジメントの仕方による場合と両方ある。
顧客に対する協力依頼
 残業や年次有給休暇取得阻害の原因のうち、下記項目8実態把握・管理「残業及び年次有給休暇取得阻害に関する調査と要因分析」を踏まえ、顧客に原因のあるケースについて、部長クラスから顧客に協力を依頼する。
 なお、受託費用を積算する際の人件費単価について、年次有給休暇取得の目標値に対応した時間数から計算した単価を基に積算することとし、価格交渉時に顧客の理解を得る努力をする。
顧客の窓口になっている社員は休みづらい、技術系の専門職は、自分が休んで作業が遅れ迷惑がかかるという意識が強い等の傾向はある。年次休暇取得が取得できていない社員は限られているので、個別に原因を把握すれば対処法があるかもしれない。実態把握が必要。
顧客の窓口になっている社員のサポート体制整備
 顧客の窓口になっている社員に対して、副担当を設けて窓口担当者不在時にサポートできるようにする。顧客の窓口の担当者でなければ対応出来ない状況であれば、例えばインフルエンザで1週間出社出来ないとき、問題が生じると思われる。このようなリスクを避けるためにもサポート体制は必要と思われる。

業務遂行の段取り・スケジューリングの工夫
技術系の専門職は、自分の分担する作業のスケジュールは計画として決まっていると思われるので、早めに作業を進め、休んでも遅れないよう作業の段取りを決め、休みを取る際にもスケジュールの遅れが出ないよう業務遂行の工夫を行う。
Check(チェック)
項目8
実態把握・管理
残業が多い、年次有給休暇が取得できないということの原因は、顧客による場合と、プロジェクトマネージャーのマネジメントの仕方による場合と両方ある。(再掲)
プロジェクトマネージャーによる残業時間・年次有給休暇取得の難さの違いは、ある程度把握しているが、具体的に数字では把握していない。
顧客の窓口になっている社員は休みづらい、技術系の専門職は、自分が休んで作業が遅れ迷惑がかかるという意識が強い等の傾向はある。年次休暇取得が取得できていない社員は限られているので、個別に原因を把握すれば対処法があるかもしれない。実態把握が必要。(再掲)
残業及び年次有給休暇取得阻害に関する調査と要因分析
残業が多い、年次有給休暇取得できない要因については、顧客によるものとプロジェクトマネージャーのマネジメントによるものとあると認識されているが、対策を検討するため、始めに、プロジェクトマネージャー毎の部署の残業時間数、年次有給休暇取得状況の一覧を整理する。そのうえで、その規定要因を明らかにするため、具体的にその内容を現場の実態に即して調査を行う。特に課題の見られる部署及び業績を挙げつつ残業が少ない、年次有給休暇を取得できているといったモデル部署の両者に対して人事部門で聞き取り調査を行う。調査事項としては、顧客及び業務の状況、残業の多寡を規定する要因、年次有給休暇取得状況を規定する要因、実施している取組内容、問題点、工夫した点などを想定する。

社員意識調査の実施・分析
社員の働き方や労働時間に関する意識調査を実施する。モラール、働きがい、働き方、休み方、評価、処遇について社員の意識を定期的に把握し、分析することで、働き方・休み方改善のための施策を検討する際の資料とする。

(7)改善提案の活用

提案の活用、取組状況に関しては以下のとおり。

1)経営トップによるメッセージの定期的発信の継続と社内末端までの浸透、社外への広報
  取り組み始めた。社内通達によるトップメッセージの発信(3回実施)、年1回全社員が参加する「会社方針説明会」でのトップメッセージの発信。その結果、昨年度の比べ残業時間(特に長時間残業)が大幅に減り、また有休取得率も向上傾向にある。

2)働き方・休み方改革に向けた従業員代表と協力推進体制の整備
  取り組み始めた。今後3ヶ年計画で人事制度の再構築を行うことを機関決定した。「給与制度」「雇用」「福利厚生」「採用」「教育・研修」について、従業員代表と情報を共有して取り組んでいく(社内説明会実施済み)。

3)所定外労働事前許可申請制度
  取り組み始めた。80時間超の時間外労働の原則禁止、やむを得ず発生する場合は事前申請。その結果、80時間超の時間外労働は、ほとんど発生していない。

4)「誕生日・誕生月休暇」等メモリアルの休暇の設定
  すぐに実施は難しいが検討したい。

5)管理職の人事評価に部下の労働時間・年次有給休暇取得の状況を評価項目に入れる
  取り組み始めた。顕著な改善の見られた部門は年1回の表彰対象とし、改善意欲が全く見られない管理職は評価に反映する(社内通達発信済み)。今年度から表彰を行う予定。

6)管理職層に対するマネジメント力向上等を目的とした実習型研修
  すでに以前から「管理者研修」「上級管理者研修」「管理職実務研修」「イクボスフォーラム」として実施済み。多少の変化がみられる程度。

7)一般社員向けの意識改善に向けた研修
  すでに以前から実施済み。「セルフエスティーム研修」「次期リーダーシップ研修」「年次研修(1年、3年)」(今後5年次、10年次追加予定)。

8)成果を挙げつつワーク・ライフ・バランスを達成出来ている要因の分析とその優良事例の共有
  取り組み始めた。「女性活躍推進委員会」の中で分析している。表彰対象となった部門の取組事例を紹介することを検討。

9)年次有給休暇取得率の低い人ランキングの本人への周知と部門平均の社内等への公表
  取り組み始めた。毎月1回の「幹部会」にて、部門別平均取得日数・取得率と取得日数の少ない人の一覧を配布。本人への周知は今後検討。その結果、取得率が向上傾向にある。当社の取得率は以前から業界平均よりは高い(約70%)。

10)顧客に対する協力依頼
  取り組み始めた。強制力のある定時退社日を設け、顧客先にも協力を依頼している。多少意識が変わった。

11)顧客の窓口になっている社員のサポート体制整備
  すぐに実施は難しいが、今後検討したい。

12)業務遂行の段取り・スケジューリングの工夫
  すぐに実施は難しいが、今後検討したい。

13)残業及び年次有給休暇取得阻害に関する調査と要因分析
  すぐに実施は難しいが、今後検討したい。客先で作業している社員が多いため、要因分析が難しいという問題点がある。

14)社員意識調査の実施・分析
  実施に向けて検討。

(8)「働き方・休み方改善指標」活用の効果(結果)

-

(平成28年度事業)

事例を評価する