B社(2016年度)

(1)企業概要

社名
B社(2016年度)
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業種/事業概要
不動産管理業、ビル総合管理
従業員規模
従業員数 52人(正社員)※その他現場(契約)社員、パート社員あり
本社所在地
東京都
労働時間制度
始業終業時間  9:00~18:00(1日の所定労働時間8時間)
休憩(12:00~13:00)60分
変形労働時間制は本社ビルにて運用はしていないが、現場にて運用している。
所定休日 土曜、日曜、祝祭日

(2)働き方・休み方改善に関するこれまでの取組と指標活用のきっかけ

1)これまでの取組
仕事効率の向上をめざし、勤怠のシステム化を推進

2)「働き方・休み方改善指標」活用のきっかけ
社員が無理なく効率的に働くことができるような職場環境について模索していた折、ポータルサイトの公募情報を拝見し助言をお願いしたく応募した。

(3)働き方・休み方の現状・背景

1)人事部の課題認識
生産性に対する意識が高くない。また、業務のマニュアル、フローがないため、経験則での業務遂行が多い。仕事の効率を高め、働き方・休み方改善への意識の醸成を行いたい。
会社として、賃金処遇の改善で人を惹きつけることは難しい状況であるため、働き方・休み方の改善を通じて人材の確保を推進したい。

2)仕事特性と働き方・休み方の現状
①組織体制
課はないが、課長は存在する。管理監督者は課長以上であるが、プレイングマネージャーの状態にある。部長クラスはほとんど50代である。
管理部:部長1名、副部長2名、課長クラス2名、一般12名である。
業務部、施設管理部:部長以外は、横並びに社員がいるフラットな組織である。現場で清掃・施設管理・警備を行うパート従業員等も所属する。
総務、人事、経理等のコーポレート業務は一括して総務部で行う。

業務部と施設管理部の業務内容は類似するが、企業合併の名残で分かれたままである。
管理部は分譲マンションの管理を行っており、分譲マンション以外の建物管理や、他の会社の業務の下請けは業務部が行っている。また、親会社が高齢者向けの住宅などに注力し始めた関係で、高齢者向け住宅の管理を営業企画部が担っている。

※ 参考)組織は以下の通り。
管理部、業務部、施設管理部、不動産部、営業企画部、営業部、総務部がある。

マンション管理全般が既存物件の管理に対する価格競争状態である。価格競争で収益性が悪化しており、業務量が増えても新規の雇用が難しい。そのため一人当たりの業務量が増加している。さらに、相次ぐ法規制への対応に伴い届出などが増えたことも、業務量増加の一因である。
大手企業による寡占が進み中小企業は苦しくなってきている。
採用は中途採用中心で、即戦力を求めることが多く新卒採用はほとんどない。そのため、社員の平均年齢が40代半ばと高く、35~45歳の社員が最も多い。20代は数名である。
女性は全体で十数人である。
業界全体で働き手が増えているようには思えず、同じ働き手が業界内を横移動しているイメージである。
今回、課題の中心である建物管理業務担当者を中心に働き方・休み方改善に向けた提案を行った。

②働き方
管理職を含めた全社員の所定外労働時間の平均は月12時間ほどである。現場に直行直帰する社員等については、自己申告で労働時間の把握をしている。総務部以外は外回りの仕事がある。そのうち営業部が担当する商業施設などの建物の検査は夜間しか行えないために、深夜業務も発生する。
対応する現場の範囲はほとんどが都内であるが、周辺の県の物件もいくつか存在する。現場から会社までは遠くても1時間程度の距離である。現場への直行・直帰は就業規則にて規定されている。ただ管理職が会社に戻ってこない場合もあり、部下に指導しにくい面もある。
繁忙月は業務ごとに異なる。
設備の不具合対応など、顧客に対する緊急対応が月1回程度あるが、それを除けばスケジュールに沿った業務遂行は可能である。
建物管理業務は外回りが中心であるが、会社で打ち合わせ資料や総会の資料を作ることもある。これらの社員は、出社を必須としない働き方もできるのではないかと考えている。業務は、顧客巡回による建物管理サービスが中心である。※本事例における「総会」とは、マンション管理組合の総会を指す。
担当する現場は、社員1人に対して10~15であるが、副担当をつける余裕はないため社員が退職すると、他の社員の負荷を高めることに繋がる。また、退職の際に引継ぎが完ぺきに行われず、さらに、担当物件のトラブルを退職まで隠し通すことが多々あるため、予測の難しいトラブル等が明るみになって、後任が対応に追われ、労働時間が長くなってしまうことがある。

③休み方
所定休日は土曜、日曜、祝祭日であり、年次有給休暇の計画的付与(お盆の夏季休暇)が2~3日ある。年末年始休暇は、就業規則上は12月30日~1月3日だが、親会社の動向に合わせ29日から休む場合、年次有給休暇の取得申請は必要としないが有給休暇扱いとされる上、各人の年次有給休暇の日数は減らない(規定に無い有給の休暇扱い)。
管理部は、担当する物件の管理業務の関係で、所定休日の出勤が起こりやすい。以前に比べれば代休を取得する社員は増えたが、代休の取得がやっとで、年次有給休暇の取得に至らない。休日出勤に対する代休の取得日が多い社員ほど、年次有給休暇の取得が進まない傾向にある。さらに、代休は必ず取得できているとはいえず、そのような状態であるから年次有給休暇の取得もままならない。
休日出勤の振替日を先に決めておいて出勤することは可能だが、特に管理職などはあらかじめ振替日を決めない人が多く、有給をとっていない人も管理職に多い。
管理部以外の部署は、所定休日の出勤は比較的少ない。
総務を含め、社員自身が休暇中の仕事が気になる、休暇を取得するとその後仕事がたまって大変であるという意識から休暇取得に積極的でない社員は多いように感じている。
総務では、残業代を期待(目的)し、所定外労働を行っている社員は少ないと考えている。

④マネジメント
36協定は、法定時間外労働の最大延長時間を、月45時間、年360時間、特別条項は月80時間、年720時間で締結している。
・時間外労働について
時間外労働は、システム上で社員本人が部門長に申請する。社外にいる場合は、事前・事後に申請を行う。時間外労働申請を簡単に承認する部門長、内容を細かくチェックする部門長と差があり、時間外労働の承認の意義について意識の差がある。
・労働時間について
本社の労働時間管理は、勤怠管理のASPシステム(遠隔の勤怠報告を可能にするサービス)を利用しているが、社外からの出退勤報告はあくまで本人の申告に基づく。
建物検査や営業など、社外で営業活動を行う場合、直行・直帰のため実労働時間の把握が難しいため、残業代は「みなし」で計算している。これは、「○○という打ち合わせならばこのくらいだろう」という想定によって必要とされる労働時間を「みなし」で決定し、その積み重ねで月の残業代が決定される。よってすべての労働時間を把握できているわけではない。
パートや現場常駐従業員は出勤簿で管理しており、出勤簿は本人が記入している。月に一度本社が出退勤チェックを行うだけであるため、こちらも適切に労働時間を管理できているとは言い難い。過去にタイムカードを導入していたが、特に高齢のパート社員などは始業の何時間も前から出勤する者もおり、出社と同時にタイムカードを打刻していた。結果、タイムカードの時間に従った残業代計算が行われていないようにみられるため、出勤簿に戻した経緯がある。本社と同じ勤怠システムにより勤怠管理を行う現場もあるが、ごく一部である。
営業職は会社から携帯電話が貸与されているため、GPS機能を利用して時間管理をすることも考えている。ただし、携帯電話での時間管理の導入は反発が予想される。
テレワークにも注目している。テレワークは既存の社員だけではなく、新規人材の確保においても会社が拘束し過ぎない働き方として求職者に魅力的に映れば、有能な人材の確保にも繋がるのではないかと考えている。現在、同規模同業他社でテレワークを導入している企業は少ないため、募集・採用時の武器となる。管理側のストレスも減ると考える。
業務が属人化しやすく、急に休暇を取得する事が難しい。しかし、グループ(部門)単位の成績・成果では、成果を上げる社員が不満を抱き、モチベーションの低下につながりかねない。グループ(部門)成績の利益分配を部門長の責任で行うことも一つの手段として考えるが、評価制度、評価者訓練等も不備の状態であり、分配の適切性・公平性の担保が難しい。また、小さい会社であるため、部門間で張り合うばかりでは協力関係が崩れてしまい、業界における競争力を損なう可能性もあると考えている。
チームで遂行するような業務は少ないため、社員同士の打ち合わせもあまりない。
対顧客で言えば、顧客が複数人の担当者より、一人の担当者を望むことが多い。
部長や課長に昇進する際、特別な教育研修はなく、基本的には年齢や業績によって次の管理職が決まる。
社員の退職・採用頻度が高く(流動性が高い)、人材が育っていないため、部長の職務を公正に遂行できるようなポスト部長職の人材がいない。
誕生日や記念日などを有給休暇とするような休暇の取得促進制度は取り入れていない。
正社員の3分の1は、年次有給休暇の取得が5日以下である。
給与明細に各自の年次有給休暇の取得情報を記載している。

⑤その他
業務日誌・営業日誌の作成ルールが存在せず、業務記録を自ら作る社員はいるが、規定された書式はなく、また、それらの情報は共有できていない。
社員のスケジュールの共有は本社におけるホワイトボードでの共有のみである。
トップから働き方・休み方改善に資するメッセージの発信は行われていない。
仕事全般に関する相談窓口は特段設けていない。そのため、上司が業務上の相談を受ける。
管理職の人事評価には、自身及び部下の働き方・休み方に関する項目はない。
社員の意識調査を行っていないので、働き方に関する社員の考え等を把握できていない。
労使の委員会(衛生委員会や安全委員会)も必要であると思っているが、まだできてはいない。
育児休業を取得した女性は過去に2名で、2名とも育休取得後に復帰した。

(4)働き方・休み方に関する課題

1)働き方
担当物件のトラブルを退職まで隠し通すことが多々あるため、予測の難しいトラブル等が明るみになって、後任が対応に追われ、労働時間が長くなってしまうことがある。
時間外労働申請を簡単に承認する部門長、内容を細かくチェックする部門長と差があり、時間外労働の承認の意義について意識の差がある。
現場に直行直帰する社員等については、自己申告で労働時間の把握をしている。

2)休み方
代休は必ず取得できているとはいえず、そのような状態であるから年次有給休暇の取得もままならない。
社員自身が休暇中の仕事が気になる、休暇を取得するとその後仕事がたまって大変であるという意識から休暇取得に積極的でない社員は多いように感じている。
業務が属人化しやすく、急に休暇を取得する事が難しい。
誕生日や記念日などを有給休暇とするような休暇の取得促進制度は取り入れていない。

3)働き方・休み方共通
業務日誌・営業日誌の作成ルールが存在しない。業務記録を自ら作る社員はいるが、規定された書式はなく、また、それらの情報は共有できていない。
管理職の人事評価には、自身及び部下の働き方・休み方に関する項目はない。
トップから働き方・休み方改善に資するメッセージの発信は行われていない。
仕事全般に関する相談窓口は特段設けていない。そのため、上司が業務上の相談を受ける。
部長や課長に昇進する際教育研修はなく、基本的には年齢や業績によって次の管理職が決まる。
社員の意識調査を行っていないので、働き方に関する社員の考え等を把握できていない。

(5)「働き方・休み方改善指標」診断結果

働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
「働き方・休み方改善指標」による診断結果は以下のとおり。
【労働時間】
週労働時間60時間以上の雇用者の割合は1.9%であった。
→貴社の週労働時間60時間以上の雇用者の割合は、全国の雇用者の平均値である8.5%(従業員規模30人~99人のカテゴリ)及び、国の定める目標値5.0%ともにクリアしている。
(36協定で定める労働時間の延長の限度基準である1ヶ月45時間を超える従業員は
19.2%いる(注1)。)
(注1) 繁忙月
【年次有給休暇取得率】
年次有給休暇取得率は全従業員平均49.8%であった。
→主要産業の平均値である43.2%(従業員規模30人~99人のカテゴリ)はクリアできているものの、国の定める目標値70.0%はクリアできていない。
貴社の長時間労働の社員の割合は目標値以上だが、労働時間管理の仕組み、ルールが曖昧で適切な労働時間管理が出来ていない恐れがある事、また、36協定に定める限度基準を超える従業員が約20%存在することから、働き方の改善が求められる。一方、年次有給休暇の取得率は目標値に達しておらず、さらに、社員の3分の1は年次有給休暇の取得日数が5日以下であることから、休み方の改善が強く求められる。
※「1ヶ月あたりの残業時間が80時間を超える社員の割合」を「週労働時間60時間以上の雇用者の割合」と見なした。
働き方
休み方

(6)課題の整理と改善提案

働き方・休み方に関する課題の整理と改善提案は以下のとおり。

指標項目
現状と課題
対策案
Vision(ビジョン)
項目1
方針・目標の明確化
トップから働き方・休み方改善に資するメッセージの発信は行われていない。
トップメッセージを全社員に発信
働き方・休み方改革に向けてトップメッセージを発信する。具体的には、長時間労働抑制の数値目標の設定、年次有給休暇の取得日数の目標値の設定を各部門長に促す。また、振替休日を取得できていない社員については、総務部への報告義務を設け、総務部は該当社員及び上司に振替休日の取得の注意喚起を行うようにする(「項目4」ルール化にも関連する)。
ただし、まずはトップが上述の内容について推進する意思を持つことが、メッセージ発信及び以下で提案する全ての取組の推進のために重要である。
System(システム)
項目2
改善・推進の体制づくり
仕事全般に関する相談窓口は特段設けていない。そのため、上司が業務上の相談を受ける。
働き方・休み方に関する相談窓口の設置
現在、仕事全般についての社内に相談窓口が無い。職務の進め方のコツなどは上司や先輩に直接相談する方法でも良く回答も上司・先輩がその場で直接行うことが有効である。しかし働き方・休み方については、適切な回答が上司・先輩では難しく、家庭の事情などが関係する繊細な内容もあるなど、上司に話しづらい場合もある。また、直接上司に相談するしかない場合、その後の評価を気にして、相談ができないことも考えられる。さらに、業務が属人的で単独で外勤することも多い。そこで、きちんと相談窓口を設けることを検討する。総務が相談窓口になることでもよいが、会社の規模を考えると社内の相談者と総務の物理的な距離も離れていないことが考えられ、匿名での相談や他の社員に知られずに相談することが難しい(電話相談の場合)。また、総務部の負担・業務増加に繋がることも考えられる。そこで、社会保険労務士・産業医等の外部の労務管理・健康管理の専門家を一次相談窓口として、社員の本音を引き出すことを検討することも一つの手段である。また、収集された情報は、衛生委員会の議題として活用するなど、社員から得た貴重な情報を、適切に職場環境の改善に活かし、雇用管理改善に繋げていくことが重要である。
項目3
改善促進の制度化
誕生日や記念日などを有給休暇とするような休暇の取得促進制度は取り入れていない。
「誕生月休暇」等の休暇制度の運用・年末休暇のルーズな運用を改善する
正社員の3分の1は年次有給休暇の取得が5日以下である。そこで、1日でも確実に年次有給休暇取得を奨励・推進させるために、誕生月等に年次有給休暇の取得を促す休暇制度を設ける。
他の記念日に比べ、誕生日は全ての社員に存在するため公平な制度の運用が可能である。また、誕生日として指定せず誕生月の休暇とすることで、休暇は取得しやすくなる。
誕生月(誕生日)は、期のスタートから確実に予定が把握できるため、前もって休暇の準備を進めやすい。いつまでに取得日を決定するのかなどをルール化しておけば、確実に休暇取得に繋がる。また、休暇予定日に顧客対応を求められた場合を想定し、顧客情報の共有化(もしくは多能工化・項目7参照)を推進し、他の社員が業務をカバーできるようにする。
誕生月が例年繁忙月であることが分かっているのであれば、前後の月等への休暇の振替を前もって行うルールを事前に設けるなどの柔軟な対応を行い、業務への影響を最小限に抑える。
項目4
改善促進のルール化
管理職の人事評価には、自身及び部下の働き方・休み方に関する項目はない。

時間外労働申請を簡単に承認する部門長、内容を細かくチェックする部門長と差があり、時間外労働の承認の意義について意識の差がある。

代休は必ず取得できているとはいえず、そのような状態であるから年次有給休暇の取得もままならない。
管理職の人事評価項目労働時間・休暇の管理に関する項目を設定する
管理職の人事評価に自身と部下の働き方・休み方の管理についての項目を組み込み、ワーク・ライフ・バランス評価の重要度を高める。意識については、次項「項目5」を参照。
管理職層の社員に、自身だけでなく部下にとってもワーク・ライフ・バランスが重要であることや、部下の労働時間・休暇の取得状況が上司のマネジメント能力に左右されることを項目5の研修等を併用して理解していただいたたうえで、評価の一部に組み込む。
左記3つ目について言えば、労働時間の延長を許可する事が、ただ残業代についてのみを考えるのではなく、時間外労働の増加に繋がるから、評価項目に適切な労働時間についての項目があることは、時間外労働の申請の適切な精査にも繋がると考える。
代休の取得については、年次有給休暇の取得とは別に、厳格に評価に関連付ける。まずは、代休の完全取得、続いて年次有給休暇の取得率向上が必要である。
適正な労働時間の管理、年次有給休暇の取得促進は、社員の労働生産性を高め、質の向上、優秀な人材の確保その他さまざまな効果が期待できる。仕事効率・生産性向上を目指す貴社において、休暇の取得をすすめやすくするためには、管理職の意識と行動が重要である。
現場に直行直帰する社員等については、自己申告で労働時間を把握している。
新しいシステムの導入を検討する
裁量労働で無いなら、直接現場へ向かう社員、現場から直帰する社員などには、現在検討中の携帯電話のGPS機能もしくは終業時間の電話報告等により、適切に労働時間を把握する。現状の「チェック体制無し」の労働時間管理体制は社員統制に良い影響はない。
また、後段でも説明を行う、「業務日誌・日報のルール化」は、何にどれくらいの時間がかかっているのか、標準的にどれくらいの時間がかかるのかをはかるために、有効な手段であり、現在管理職がマネジメントできない従業員別の業務内容の把握ができる。トラブル隠匿のリスクも回避・軽減を図ることができる。
トライアルとして一部署や一グループなどで行うことにより、その結果に基づいた全社への導入が決定できる。これにより、不要なコストは最小限に抑えながら導入を進めることができると考えられる。
タイムカード等による労働時間管理の再導入
現場で作業・業務遂行を行う、パート従業員等は、早く出社した場合その時間にタイムカードをつけ、仕事が終わっても帰宅時間にタイムカードの退勤打刻を行うとのことであるが、現在の出勤簿による自己申告も、本人が自由に記入しているのであるから、機能的にはタイムカード時代と何ら変わりない。
労働時間の管理については、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」(平成13年4月6日付け基発第339号)により、使用者に対して労働時間を適正に把握するための措置を講ずるよう求めている。
そこで、タイムカード等の打刻を再度導入することを検討する。そして、現場でも業務日誌の作成を義務付け、何時から何時まではどのような業務を行っていたかを報告していただくようにする。現状で残業がおおよそ毎月どれくらいなのかが把握できていれば、タイムカード等に変更した際、これから義務付ける業務日誌による仕事内容の把握ができることから、業務と残業時間の付け合わせができる。
また、本社同様、所定外労働が発生する場合や、何かの対応に追われ所定外労働の申請が遅れた場合でも、事後に、残業の申請手続きを行い、理由を付することとすることにより、現在の管理状態よりも、確実に適切な労働時間の管理はできるようになる。
なお、タイムカード等の打刻については、賃金不払い残業を発生させないことに留意のうえ、適正な打刻に関するルールを定めるなど、従前の課題を解決するための改善を図る。
全社一斉でのルール適用について不安を感じる用であれば、トライアルとして一部署や一グループなどで行うことにより、その結果に基づいた全体導入が決定できる。これにより、不要なコストは最小限に抑えながら導入を進めることができる。
業務日誌・営業日誌の作成ルールが存在しない。業務記録を自ら作る社員はいるが、規定された書式はなく、また、それらの情報は共有できていない。
情報共有を目的として作業日報等を作成する
作業日報(業務日誌)のフォーマットを作成し、全社で作業日報を作成し、顧客の情報を部内で共有するルールを運用する。
これにより、休暇中の余計な心配を軽減する。
また、お互い様の精神で他の社員のお客様の対応などを代わりに行う事が出来れば、他の社員にとっても休暇が取得しやすい環境を作ることに繋がるため、年次有給休暇の取得促進に大いに役立つ。
これまで作成された業務日誌等のうち、全社的に共有すべき内容は、作成者本人承諾の下、共有することが重要である。
また、当日の本人のスケジュールなどを確認するスケジュールの共有はシステム化ができる可能性もあるが、先ずは、上記の日報により、翌日の各社員の予定を把握し、予定が変更される場合にはきちんと上司へ報告を行う事を義務付けることにより、当日の業務遂行状態と、その内容がきちんと把握できる。
これによる日々の作業時間の増加は、導入当初は手間と考えられてしまうかもしれないが、慣れてしまえば最小限に抑えていくことができることである。上司(会社)が部下の業務の把握が出来ていないこと、トラブルが大きくなる前に会社として対応できないことなど、現在の労務管理方法を正しい方向へ変えていく姿勢が必要であることを自覚する。
作業内容などがある程度項目化できるようであれば、システム化することにより、社外からの報告を楽にすることも可能である。
Action(アクション)
項目5
意識改善
部長や課長に昇進する際教育研修はなく、基本的には年齢や業績によって次の管理職が決まる。

時間外労働申請を簡単に承認する部門長、内容を細かくチェックする部門長と差があり、時間外労働の承認の意義について意識の差がある。
管理職向け「働き方・休み方教育・研修」による意識の醸成を行う
労働時間の適切な管理、年次有給休暇の取得促進のためには、管理職本人の意識改革を行うことが必須である。そこで、働き方・休み方に課題のある部下の長時間労働の抑制及び年次有給休暇取得を促進するため、部下の働き方・休み方マネジメント教育・研修を行う。
それぞれの研修は、集合研修に限らず、個別研修やe-ラーニング等でも可能であるが、作成資料の、社員への配布・回覧による情報共有程度の研修を行うのみでは実効性に乏しい。効果的な方法を検討の上実施する。
残業の申請に、適切に精査する部門長、簡単に承認する部門長と意識がばらばらであることが分かっている。研修によって、そのような意識と、ただ残業代のことだけを考えて精査するのではなく、業務として本日中に必要な残業かどうか、明日以降に行うことでも可能かどうかをきちんと精査して承認するような運用ができるように、統一させることも重要である。
管理職登用時に、管理職心得の研修は行われていないようであるから、管理職研修を適切に行い、登用時に働き方や休み方についてマネジメントスキルを磨くことができるような下地を作っておく。
※注意
1)なぜ取り組むのかを理解した上で行動に移すのでなければ、取組自体も、そしてそれが評価に関連付けることも社員には単なるストレスとなる。研修内容には、ワーク・ライフ・バランスによって何が変わるか、何ができるのかについて、フィジカル・メンタルの負荷に伴うストレスと健康の関係、健康と労働生産性の関係などが深い関係にあること等を勘案して、適切な内容とする。
2)明らかな業務過多の状況で、取得の推進と評価との関連付けを行うことは、モチベーションの大幅な低下を招くため、まず社員に対して「項目7」仕事の棚卸を検討するなど、多角的に取組を行う事が必要である。
社員から、「上司が帰らないから、休まないから」との意見もあった。これは、上司が帰れば「帰ることができる」、休めば「休むことができる」、という意味を含む。つまり、働き方・休み方に関する課題が、業務過多のみを原因とするものではないことを意味する。
社員自身が休暇中の仕事が気になる、休暇を取得するとその後仕事がたまって大変であるという意識から休暇取得に積極的でない社員は多いように感じている。
一般社員向けの働き方・休み方についての教育・研修を行う
長時間労働は仕事効率の低下を生み、健康障害リスクをも潜在させる。そこで、長時間労働と健康・仕事効率の関係、仕事以外の時間の重要性などを、社員に認知してもらうため、全社員の受講を義務とする教育・研修を行う(集合研修に限らず、e-ラーニング等でも可能)。
休暇取得の重要性など、ワーク・ライフ・バランスに関する研修による働き方・休み方改革意識の醸成に加え、前述の作業日報その他により業務及び顧客の属人化の縮減に取り組むことにより、斯様な意識を取り除くことができるようにする。
項目6
情報提供・相談
社員自身が休暇中の仕事が気になる、休暇を取得するとその後仕事がたまって大変であるという意識から休暇取得に積極的でない社員は多いように感じている。
ワーク・ライフ・バランス好事例の共有
研修時に限らず、社員から仕事以外の時間の活用によって得られたこと、楽しんだこと等の情報を収集し、社内報などで、所定外労働を減らしていくことや、休暇取得の奨励と共に、社員の好事例を掲載する。
好事例には、休暇を取得したことで得られた知識、経験等の共有や、家族との時間共有によって得たもの、仕事へのモチベーションに繋がったこと、実際に仕事の実務に活かされたことなど、全社に情報提供を呼び掛けてできるだけ多くの事例を収集する。
仕事以外の時間の増加は、余暇(体を休ませるような)時間が増えるだけではなく、仕事に直接関係する資格取得のための学習時間・機会の提供にも繋がる。
項目7
仕事の進め方改善
業務が属人化しやすく、急に休暇を取得する事が難しい。

業務日誌・営業日誌の作成ルールが存在しない。業務記録を自ら作る社員はいるが、規定された書式はなく、また、それらの情報は共有できていない。
多能工化・業務の文書化の推進
属人的な業務を減らすには、顧客情報の共有化、業務のマニュアル化、フロー化の推進が不可欠である。
休暇中、自身の顧客や業務への心配などがあって休暇取得ができない社員もいるようであるから、休暇取得の推進のためにも、現在各自が担当している業務の棚卸、マニュアル化を進め、フローを確立していくことで属人的な業務を減らしていく。また各業務について必要な業務(価値の創造につながる業務)と不必要な業務(価値の創造に結びつかない業務)に分類し、廃止、省力化、代替化を考えるなどして不必要な業務をなくしていく。
また、先の通り、業務日誌(業務報告)をルールとして義務付け、本人のみが把握していた顧客情報等をグループ共有の情報に出来れば、本人が休暇中でも他の社員がカバーし合うことができるため、社員が安心して休暇取得を考えるようになる。
また、多能工化を推進する際に、会社に来ることなく自宅でできるような業務が一定程度見つかれば、モバイルワークの推進ができる。
担当物件のトラブルを退職まで隠し通すことが多々あるため、予測の難しいトラブル等が明るみになって、後任が対応に追われ、労働時間が長くなってしまうことがある。
仕事内容の把握を徹底するとともに退職時に運用するルールの規定・徹底する
まず、社員の抱える業務がどのような状態かを退職まで会社が把握できていないことに問題がある。そこで、先述の業務日誌作成・提出の徹底により、まず上司が部下の仕事の状態を適切に把握することが前提である。業務報告には虚偽のないようにすることも必要である。
また、業務の引き継ぎに際して、現状の把握と残務、トラブルやミスが放置されていないかについて文書で覚書を交わすなどを検討する。また、文書には、仮に虚偽の報告があった場合の懲戒の規定などが存在する事(ある場合)や、その条文等を盛り込み、虚偽の報告がなされたまま退職させてしまい、後任に重負担となるような運用が繰り返されないようにする。
Check(チェック)
項目8
実態把握・管理
社員の意識調査を行っていないので、働き方に関する社員の考え等を把握できていない。
定期的に社員意識調査を実施する
定期的に社員意識調査を実施し、社員の働き方・休み方に対する意識等を定期的に把握・分析するとともに、相談窓口で収集した相談内容と共に、必要に応じて当該分析結果を衛生委員会の議事として取り上げ、働き方・休み方改善に向けた対策について検討を行う。また、モバイルワークについての社員の意見などを聞く等、より快適に働くためのヒントを多角的に収集する。
記名でのアンケートである必要はない。全社統一の無記名によるアンケート等は、記名に比べて本音を聞き出しやすい。

(7)改善提案の活用

提案の活用、取組状況に関しては以下のとおり。
1) 働き方・休み方に関する相談窓口の設置
顧問社会保険労務士が提携している社外相談窓口を開設する。仕事、健康、生活などを含め、電話、面談にて相談を行う。
2) 新しいシステムの導入を検討する及びタイムカードによる労働時間管理の再導入
弊社での勤務環境に適した仕様、及び導入費用、運用費用を総合的に考慮したうえで、導入を検討する。
3) 多能工化・業務の文書化の推進
業務フロー、業務マニュアル、業務リスト、規程等のドキュメント収集・整理を行い、棚卸を進める。

(8)「働き方・休み方改善指標」活用の効果(結果)

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(平成28年度事業)

事例を評価する