A社(2016年度)

(1)企業概要

社名
A社(2016年度)
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業種/事業概要
金融・保険/金融業
従業員規模
正社員 1,000人以上(平成28年1月)
本社所在地
神奈川県
労働時間制度
始業終業時間 8:30~17:30(1日の所定労働時間8時間)
休憩60分
所定休日 土曜、日曜、祝祭日、年末年始

(2)働き方・休み方改善に関するこれまでの取組と指標活用のきっかけ

1)これまでの取組
・最終退出時刻目標を19時に設定
→退出が19時を過ぎた場合、残業報告書の提出を求める
・人事担当者が全社員に休暇の取得を促している
・ノー残業デー(水曜日)を設け、17時半退社を徹底
・男性社員の育児休業取得推進

2)「働き方・休み方改善指標」活用のきっかけ
業務効率の向上等による総労働時間の削減、ワーク・ライフ・バランスの支援を行いたい。社員一人ひとりの能力・意識の向上を目指す体制づくり等に、第三者の意見・助言を活用したいと考えた。

(3)働き方・休み方の現状・背景

1)人事部の課題認識
出産や育児を理由とする退職が減少して、勤続年数の長い女性社員が増えている。女性社員の活躍が金庫の発展に寄与すると考えるが、管理職に占める女性社員の比率は低い。女性活躍推進法の行動計画においても管理職に占める女性の割合を上昇させるため、長労働時間の改善を目標に掲げている。女性管理職比率が低い背景に一日の残業時間や、年次有給休暇の取得のしやすさ等がある程度関係していると考えている。残業時間も含め、実労働時間を減らして、一人でも多くの社員が上の役職を目指すような意識を醸成したい。
営業や融資担当社員は、外回り営業や顧客対応後の資料作り等で退社が19時を過ぎることもある。文書作成の効率化を進めるものの、全社員が最終退出時刻目標である19時退社となるまでには至っていない。

2)仕事特性と働き方・休み方の現状
①組織体制
採用の際に、総合職・一般職・営業職といった雇用区分の別はない。異動は職種を跨ぎ、内勤から営業等への異動もある(実務上は職種が変わる異動は多くない)。
性別による職務の偏りが見られる。営業には男性が、内勤には女性が多い。営業職の女性は10人程度である。
支店には係があるが、本部では係はない。係長は小規模支店で3人(内部、営業、融資)、多い支店では6~7人である。支店の社員規模は10人から50人と幅がある。概ね管理職(係長)一人に対して部下2.5人である。
女性社員の平均勤続年数は11年6ヶ月、社員は男女とも30代前後が非常に多い(育児世代である)。10年ほど前から勤続年数は伸びている。現在の入社5年勤続率は85%である。社員数は近年ほぼ横ばいで、正社員全体の男女比は男性6:女性4である。
年間の退職者は定年退職者を含むと50名程度である。定年退職以外の退職では、仕事と育児の両立が難しい事を理由とする退職・転職は少ない。
派遣社員はこれまで少なかったが、システム更改対応(後述)のため、派遣社員を50人ほど採用している。その他、1年契約の特別社員もいる。
2016年に、非正規社員の正社員転換制度、ジョブ・リターン制度(職場復帰制度)を導入した。

②働き方
36協定による最大延長時間は月45時間で、特別条項は月55時間である。本部(管理部門、システム部門)は、36協定による協定期間が3ヶ月であり、3ヶ月で120時間、特別条項は3ヶ月で200時間である。
営業担当の社員は、店舗に出勤して、午前中の外訪活動を行なう。昼頃に一度店舗に戻り午前中の集金等に関する精査を行い、休憩を取る。その後、午後の外訪活動を行い16時頃に帰店、午後の分の集金等に関する精査を含む事務作業を行う。
本部・管理部門では決算、採用、等特定業務の発生時期に残業が発生している。所定外労働が発生する部署は、人事・システム・審査等である。特に人事業務は採用や研修、給与計算事務などのイベントにより、忙しくなり易い。
現在、短時間勤務制度を利用する社員は、育児を理由とする者のみである。また、子の小学校入学の前までは所定外労働を免除する制度がある。
月末月初を除き、祝日のない週の水曜日はノー残業デーである。月に2、3回であり、所定終業時間の17:30に退勤する。年間のノー残業デーは3月に発表され、事業所内に実施日を掲示することで社員へ周知している。これに加えてノー残業デー当日は、午前中に電子メールでノー残業デーである旨を知らせている。ノー残業デーは徹底している。

③休み方
土曜・日曜・祝祭日が所定の休日で、所定休日の出勤はほとんどない。その他、有給の特別休暇制度が期の前半と後半に分けて2日ずつある(計4日)。加えて有給の長期休暇を5日間取得出来る(取得時期は決められていない)。年末年始休暇は12月31日~1月3日まで。年次有給休暇取得率の今年の目標は60%である。今後の目標については、60%(平成28年)、60%(平成29年)、65%(平成30年)、65%(平成31年)、70%(平成32年)とし、全社員に通達している。
年次有給休暇の取りやすさは店舗毎・部署により異なり、支店や支店長の意識によって大きく異なる。
男性の育児休業取得にも力を入れている。平成26年に子が産まれた男性の88%が育児休業を取得している。また、有給の配偶者分娩休暇があり、これまでの累計で96%の取得率である。
休暇取得前には、休暇中に他の社員が対応できるようにするため、業務状況共有の引き継ぎ書を必ず準備するが、休暇中、自身がいない職場のことを気に掛けたり、休んだ後の負担等を考えて休暇を取得しない社員がいるのではないかと人事では考えている。
営業は、日々の訪問が重要であると同時に、休暇を決めた日に顧客対応を余儀なくされる場合もある。

④マネジメント
出退勤は、支店・本部とも社員身分証明カード入退館システムで管理されている。またPCのログも管理している。さらに実際の労働時間は出勤簿に毎日記入しWEB勤怠システムにも入力を行う。入力は社員本人が行うが、毎日上役が実労働時間との乖離等をチェックする。
最終退出時刻の目標を19時に設定した。これにより今年度4、5月の全社員の平均総実労働時間が30分ほど短縮した。
労働時間その他の職場の安全衛生に関する取組は、ワーク・ライフ・バランスの意識の下、人事教育部が進めている。
残業の報告は支店ごとに、支店の担当者(管理職クラス)が行う。本部は部署ごとに行う。
社員は各自のWEB勤怠システムで月の合計残業時間、年次有給休暇の残日数を確認できる。
3ヶ月で合計残業時間が160時間を超えた社員は保健師が健康状態を確認する。また、月100時間以上、2ヶ月平均80時間以上の社員は産業医面談を行う。管理監督者など36協定の協定対象者以外の社員が面談対象となる労働時間に達することが多い。
人事評価には、部下の残業や休暇についての評価項目はないが、部下のワーク・ライフ・バランス支援を評価する項目がある。
長時間労働の抑制や年次有給休暇の取得促進に関する研修は、管理職・一般社員ともに無い。
管理職への挑戦意欲(キャリアアップ意識)のある女性の、成長のサポートを充実させることが今後の課題である。

⑤その他
組織風土として指示や決定に従う従順さがある。
営業職の魅力を伝え、営業職の女性を増やしたい。

(4)働き方・休み方に関する課題

1)働き方
人事業務は採用や研修、給与計算事務などのイベントにより忙しくなり易い。
営業や融資担当社員は、外回り営業や顧客対応後の資料作り等で退社が19時を過ぎることもある。文書作成の効率化を進めるものの、全社員が最終退出時刻目標である19時退社となるまでには至っていない。

2)休み方
年次有給休暇の取りやすさは店舗毎・部署により異なり、支店や支店長の意識によって大きく異なる。
休暇中、自身がいない職場のことを気に掛けたり、休んだ後の負担等を考えて休暇を取得しない社員がいるのではないかと人事では考えている。
営業は、日々の訪問が重要であると同時に、休暇を決めた日に顧客対応を余儀なくされる場合もある。

3)働き方・休み方共通
長時間労働の抑制や年次有給休暇の取得促進に関する研修は、管理職・一般社員ともに無い。

(5)「働き方・休み方改善指標」診断結果

働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
「働き方・休み方改善指標」による診断結果は以下のとおり。
【労働時間】
週労働時間60時間以上の雇用者の割合は0.1%であった。
→貴社の週労働時間60時間以上の雇用者の割合は、全国の雇用者の平均値である7.5%(従業員規模1,000人以上カテゴリ)及び、国の定める目標値5.0%ともにクリアしている。
(36協定で定める労働時間の延長の限度基準である1ヶ月45時間を超える従業員は、8.3%である(注1)。)
(注1) 繁忙月
【年次有給休暇取得率】
年次有給休暇取得率は全従業員平均55.5%であった。
→主要産業の平均値である52.2%(従業員規模1,000人以上カテゴリ)はクリアできているが、国の定める目標値70.0%はクリアできていない。
貴社の長時間労働の社員の割合は目標値以上だが、一部長時間労働者も存在するため働き方の改善が求められる。一方、年次有給休暇の取得率は、従業員規模別の平均値は達成しているものの国の目標値である70%には及ばない。また、自ら段階的な年次有給休暇の取得率達成目標として国の目標値と同様の数値(取得率70%)を掲げて取組を推進しているため、その目標達成に向けて休み方の改善が求められる。
※「1ヶ月あたりの残業時間が80時間を超える社員の割合」を「週労働時間60時間以上の雇用者の割合」と見なした。
働き方
休み方

(6)課題の整理と改善提案

働き方・休み方に関する課題の整理と改善提案は以下のとおり。

指標項目
現状と課題
対策案
Vision(ビジョン)
項目1
方針・目標の明確化
年次有給休暇の取りやすさは店舗毎・部署により異なり、支店や支店長の意識によって大きく異なる。
トップメッセージの発信強化
後段にて提案する、「支店による意識の違いに対する意識改革研修」、「好事例共有」をはじめ、全ての取組は、実施すること自体にも大きな意味があり、働き方・休み方改善に資すると考えられるが、これまで他の取組に対して行っているトップからのメッセージ同様、トップ発信の取組であることを強調する。これにより、より重要度の高い経営課題であることを社員(特に管理職)に認識させる。
貴事業所の組織風土として「組織の決定に従う従順さ」が特徴であることを伺っている。そのため、人事から発信するメッセージでも取組に参加・推進は可能であるが、トップメッセージ(命題)であるとの認識があれば、社員はより積極的に取組を行うことが考えられる。
System(システム)
項目4
改善促進のルール化
人事業務は採用や研修、給与計算事務などのイベントにより忙しくなり易い。
フレックスタイム制度等の柔軟な労働時間制度の活用
年間のイベント周期が決まっている部署などは、例えば、1年単位、1月単位の変形労働時間制の活用やフレックスタイム制度の活用により、労働時間の調整を行うこともできる。例えば、給与計算事務担当者であれば、各月の労働時間の締め日翌日以降給与計算業務のピークを迎えるのであるから、フレックスタイム制度により月の内業務が落ち着く期間の労働時間を調整して、1ヶ月の労働時間を一定の時間数に納めることもできる(部署内での定期ミーティングなど、必要あればコアタイムを設けておく)。
例えば店舗では全店で一斉運用する前に、トライアルとして一支店でフレックスタイム制度(その他の柔軟な労働時間制度)を利用し、運用方法の確認や労働時間実績の収集などにより、改善が見られる、社員の評判が良いなど好事例となるようであれば、横展開を行う等、全支店一斉運用による実務上のトラブルのリスクを大きく軽減させることもできる。
Action(アクション)
項目5
意識改善
年次有給休暇の取りやすさは店舗毎・部署により異なり、支店や支店長の意識によって大きく異なる。

長時間労働の抑制や年次有給休暇の取得促進に関する研修は、管理職・一般社員ともに無い。
管理職向け「働き方・休み方教育・研修」による改善に向けた意識の醸成
管理職の意識が重要であることを認識している。
そこで、①管理職本人の働き方・休み方改善を推進するための研修を行う。
また、働き方・休み方に課題のある部下の長時間労働の抑制及び年次有給休暇取得を促進するため、②部下の働き方・休み方のマネジメントに関する教育・研修を行う。
上記の研修は、集合研修に限らず、個別研修やe-ラーニング等でも可能である。例えばe-ラーニングシステムによる座学と、習熟度テストによる理解度チェックにより、研修を進めることもできる。ただし、e-ラーニングで行う場合は、研修受講・習熟度テストの最終期限を定め、受講が完了していない社員には、人事や上司から研修受講を促すようにする。※資料の回覧等で終わらせるのであれば実効性に乏しく効果は期待できない。
「なぜ取り組みが必要であるのか」を理解した上で働き方・休み方の改善推進を行うのでなければ、取組自体も、そしてそれが評価に紐づいていることも社員には単なるストレスとなる。
休暇中、自身がいない職場のことを気にかけたり、休んだ後の負担等を考えて休暇を取得しない社員がいるのではないかと人事では考えている。
一般社員向け「働き方・休み方教育・研修」による改善に向けた意識の醸成
長時間労働と健康・仕事効率の関係、休養の重要性などを従業員に認知してもらうため、全社員の受講を義務とする教育・研修を行う。
上記の研修は、集合研修に限らず、個別研修やe-ラーニング等でも可能である。例えばe-ラーニングシステムによる座学と、習熟度テストによる理解度チェックにより、研修を進めることもできる。ただし、e-ラーニングで行う場合は、研修受講・習熟度テストの最終期限を定め、受講が完了していない社員には、人事や上司から研修受講を促すようにする。※資料の回覧等で終わらせるのであれば実効性に乏しく効果は期待できない。
ただし、明らかな業務過多の状況で意識変革の研修を行っても、モチベーションの大幅な低下を招く恐れもある。「項目7」の業務の棚卸、また「項目8」の、社員意識調査にて現状把握を行うなど、多角的に取組を行う事が必要である。また、「なぜ取り組みが必要であるのか」を理解した上で働き方・休み方の改善推進を行うのでなければ、取組自体も、そしてそれが評価に紐づいていることも社員には単なるストレスとなる。
項目7
仕事の進め方改善
休暇中、自身がいない職場のことを気にかけたり、休んだ後の負担等を考えて休暇を取得しない社員がいるのではないかと人事では考えている。

営業や融資担当社員は、外回り営業や顧客対応後の資料作り等で退社が19時を過ぎることもある。文書作成の効率化を進めるものの、全社員が最終退出時刻目標である19時退社となるまでには至っていない。
仕事の棚卸と平準化・多能工化を推進する
仕事の棚卸により、異なる職務に存在する共通の仕事の抽出による業務効率化、マニュアルの作成とそれを活用した多能工化の推進を行い、休暇中の社員の業務の一部でも他の社員が処理することが出来れば、休暇後の業務量が休暇取得分そのまま積み上げられた状態となる事を避けることができる。また、棚卸した業務をマニュアル化することで、業務の重要性の階層が見えてくる。それにより、正社員でなくとも遂行できる業務を非正社員に担っていただく等、現在人事が期待する「非正社員の正社員化」に向け、非正社員の活用性の把握、期待人材の把握にも繋がる。
以上が効果的に運用できるようになれば、負荷の分散に繋がり、日々の所定外労働の削減にも寄与する。また、それぞれの業務の主担当・副担当制の導入も有効である。
その他、休暇取得時に他の社員に何らかの負担があることは、「お互い様」であることを皆が理解しなければならない。
営業は、日々の訪問が重要であると同時に、休暇を決めた日に顧客対応を余儀なくされる場合もある
休暇取得予定日の振替ルールを徹底する
例えば、休暇取得予定日に顧客から打ち合わせや訪問の依頼があった場合であっても、旅行の計画があり既にチケットを手配済みであるなどの場合、その休暇はよほどのことが無ければ決行されるはずである。つまり、どうしても休暇を取得したい場合には自身でも休暇取得を堅持することができるのである。
しかし、仮に予定をずらすことができるような休暇の場合(休みを取ったからいつもやらない○○をやってみようかな等)に、顧客の都合に合せて休暇をキャンセルすると、休暇の再取得申請をしないままになる事が多くなりがちである。休暇取得が出来なかった休暇を、取得していたと仮定したときに行う予定であった事は、休暇を取得していればフィジカル・メンタル面で何かしら自分自身にプラスになると考えられることである。自身にプラスになるということは、仕事以外の経験による能力の伸長や、公私で抱えるストレスの軽減に繋がるなど、仕事にもプラスに働くものである。
顧客対応により休暇予定日に出社することとなった場合には、必ず前もって振替日を設定し(例えば休暇予定日であった日の翌日から2週間以内等期間を区切るルールを厳格にするなど)、休日を確実に取得出来るように、管理者に研修(通達)を行い、さらに先述の管理者に対する、部下の働き方・休み方マネジメント評価との関連づけも行うなどして、ルールを徹底させる。

(7)改善提案の活用

提案の活用、取組状況に関しては以下のとおり。
1) 長時間労働及び休暇取得状況の情報、好事例を共有する
社内LANにより年次有給休暇取得状況についての公表を行なった。
2) 仕事の棚卸と平準化・多能工化を推進する
事務の効率化、担当権限の拡大などの実施を進めている。
3) 休暇取得予定日の振替ルールを徹底する
当該週の他の日との振替の徹底。

(8)「働き方・休み方改善指標」活用の効果(結果)

1)年次有給休暇の取得促進については段階目標を定め、平成32年に取得率70%実現を目標に取り組んできた。半期での取得状況等を社内LANで掲示する等の取組みにより平成28年の年次有給休暇取得率は国の目標である70%に近値である69%を実現した。

2)男性育児休業取得率向上のため社内報へ育児体験記を掲載したり、男性社員の育児休業取得率を掲示するなどしたりして積極的な促進を行なってきた。その結果、平成27年度に子どもが生まれた男性社員33名全員が育児休業を取得した。男性社員の育児休業取得率100%を達成したことは企業の新たな風土醸成に寄与した。

(平成28年度事業)

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