J社(2015年度)

(1)企業概要

社名
J社(2015年度)
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業種/事業概要
製造業/空調関連機材の設計・開発及び製造
従業員規模
30名程度(2015年6月現在)
本社所在地
群馬県
労働時間制度
始業終業時間 8:00~17:10(1日の所定労働時間8時間)を標準とする1年単位の変形労働時間制
休憩(10:00~10:10、12:10~13:00、15:00~15:10の合計70分)
休日は年間休日カレンダーによる(基本的に土・日曜日を所定の休日としているが、秋~冬の繁忙期にあわせて土曜出勤日がある)。

(2)働き方・休み方改善に関するこれまでの取組と指標活用のきっかけ

1)これまでの取組
業務の繁閑に応じて営業日・休業日を設定している。
2014年度より、全従業員の年次有給休暇の取得状況の可視化(グラフ化)を行った。
極端な業務量の増加が見込まれる発注については、発注者に対して「従業員の過重労働回避のため」として申し入れを行い、理解を得た上で発注量を調整してもらい、自社従業員が過重労働にならないようにしている。

2)「働き方・休み方改善指標」活用のきっかけ
長時間労働の抑制や年次有給休暇の取得に関する「取組基準の明確化」と「従業員の意識改革」等について、専門的な知識を有する第三者の視点から助言をいただきたいと考えた。

(3)働き方・休み方の現状・背景

1)人事部の課題認識
年次有給休暇の取得状況に個人差が大きくあり、取得率の低い従業員に対して上司が休暇取得を促しても効果が見られない。また、年次有給休暇の取得は1週間前までの事前申請がルールであるにもかかわらず、たびたび就業日当日に電話連絡等により年次有給休暇の申請を行う従業員がおり、生産工程の適正な運営・管理を妨げている。
当日の出勤・休暇予定を考慮した従業員数で生産工程が運用されており、仮に年次有給休暇の取得が複数人で重なると、生産ラインの円滑な運用を妨げる可能性があることを認識しているが、回避するための方策を持っていない。

2)仕事特性と働き方・休み方の現状
①組織体制
【組織・主な事業】
本社(生産工場併設)には経営企画部、技術開発部、品質保証部、総務部、生産本部がある。従業員の中には複数の部署の業務を兼任する者もいる(部としても複数に所属する)が、生産本部所属従業員のみ、他部署を兼任していない。営業は経営企画部が担う。製品の開発・設計は技術開発部を中心に行うが、自社で設計のみを行う製品と、製造までを行う製品がある(パーツの素材などにより生産コストが違うため、コスト等を勘案して製造の可否が判断される)。
従業員の平均年齢は45歳前後であり、高い年齢層の従業員が多い。若手から中間層は少なく、特に20~30代が少ない。
設立当初は空調機器の設計・製造と取付け作業を中心に事業を展開してきたが、現在は空調システム関連機材の開発・設計及び製造に業務を集約しており、製品(機材)の取付け作業は行っていない。

【事業環境】
現在、他社との競争はさほど厳しい状況にはなく、当該市場への新規参入も見られない。

②働き方
5月1日から翌年3月31日を特定期間として1ヵ月単位の変形労働時間制を採用している。
年間の繁閑の差が大きく、秋から冬にかけて繁忙期となり残業も増えるが、冬以降は落ち着く。生産本部以外の部署(間接部門)が生産本部に協力できるように従業員の多能工化を図っており、生産が繁忙である場合には、生産本部以外の部署が生産本部を手伝うことができるため、全従業員で協力しながら繁忙期を乗り切っている。
残業の実施には、申請書の提出を義務付けており、当日の15時までに各自が申請し、部長・本部長が確認して最終的に社長が承認する(社長が不在の際には総務部長等が承認する)流れであり、残業申請ルールは適正に運用されている。
繁忙期の月平均残業時間は40時間(多くても日に2時間×月平均勤務日の20日)程度である。極端に長時間労働をする従業員が存在しているわけではないが、可能な限り残業は削減をしたい。

③休み方
【所定の休日】
毎期、期初に年間の休日を定め、それに則って仕事を行っている。原則として土・日曜日を所定の休日としているが、繁忙期の土曜日には出勤日もある。また、ゴールデンウィーク、夏季、年末年始は休暇を設けている。
生産部門は、作業の流れが決まっており協働での作業が必要であるため、一部が出勤して作業を行うようなことは難しく、原則として所定の休日は全員きちんと休むことができている。一方、間接部門では、仕事を個人で行えることもあり、繁忙期には毎週ではないが休日出勤する場合もある。また、繁忙期には全社で休日出勤を実施することもある。

【年次有給休暇】
年次有給休暇の取得は、原則として1週間前までに申請書の提出を義務付けている。繁忙期であっても年次有給休暇の時季変更権を行使した実績はなく、従業員も申請すれば取得できると考えているため、繁忙期・閑散期にかかわらず年次有給休暇の取得状況に差はない。
個別の年次有給休暇の取得状況に着目すると、取得日数は個人差が大きい(昨年の最高取得日数28日、最低取得日数4日)。そのため、取得の低調な従業員に対して、「自宅でのんびりするだけでも良いから」と年次有給休暇の取得を勧めているが、「休んでもやることがない」等の意見・もあるなど、年次有給休暇の取得を自ら望まないような意識もあって、取得が進まない。一方、事前の取得申請なく、当日に年次有給休暇を申請する突発的な休暇取得が多い従業員がいる。
記念日等を休暇として年次有給休暇の取得促進を図るような制度や、年次有給休暇の計画的な取得を促進するようなルールはない。また、年次有給休暇の取得が低調な従業員が把握できているが、声かけのみで、取得を促進するような情報提供は行っていない。

④マネジメント
生産部門は月40時間、年320時間の上限で、また、間接部門は月20時間、年150時間の上限で36協定を締結している。

【採用・評価・処遇】
人材の確保は中途採用が基本であるが、3年前に初めて新卒採用を実施し、高校を卒業した新入社員を1名採用した(現在も在籍)。採用・不採用は社長が判断する。
全従業員の人事評価の最終判断は社長が行っており、各部署の部長の処遇は毎年の社長との面談において決定される。

【従業員への働きかけ】
朝礼、昼礼時に、社長が長時間労働の抑制、年次有給休暇の取得促進を目的として、業務の効率化について部門トップ及び従業員に発信しているが、定性的な内容にとどまり、数値による具体的な目標があるわけではない。
過去、生産本部内で個人ごとの仕事に対する考え・責任の意識がバラバラであったが、会社が積極的に意識改革を訴え、さらに、従業員との面接等も行ったことで、従業員の仕事に対する意識の底上げが進んだ。また、当日の急な年次有給休暇の取得についても、極端に当日取得が多い従業員に面談を行い、年次有給休暇の計画的な取得について促したところ、改善が見られた。ただし、個別に対応するのみにとどまり、全従業員に対して、長時間労働の抑制や働き方改善の意識を高める研修などは行っていない。
また、年次有給休暇の取得促進に資する管理職向け及び従業員向け研修は行っていない。

【顧客への申し入れ】
取引先の要望に応えることが業務の大前提ではあるが、納期の短い大量発注等は、従業員の就業環境の悪化に繋がるため、発注者に生産量の調整を交渉している。

【マネジメント・その他】
長時間労働の抑制や年次有給休暇の取得促進に向けた労使の話し合いの場などの社内体制は整備されていない。
ノー残業デー等の長時間労働の抑制に資する制度を設けていない。
所定外労働や年次有給休暇の取得について、数値的な目標は設けていない。
働き方・休み方に関する従業員への意識調査は行っていない。

⑤その他
作業環境の向上に向けた取組を強化しており、生産作業場も冷暖房を完備した。作業環境は、同業の周辺他社企業に比べて良い(製造作業現場にエアコンがついており、夏場でも快適に仕事ができる)と思われる。人材派遣会社の営業担当者による現場見学の際も評判がよい。
労働安全衛生向上に向けた資格取得、技能講習の受講に積極的に取り組んでいる(企業規模では法令上必須ではない第一種衛生管理者の資格取得等も行い、その知識を活かしている)。衛生委員会を毎月定期開催しているが、長時間労働の抑制等を目的とした内容について議論を行ったことはない。
前期の繁忙期と比べて、今期は従業員が2人減少しているが、業務の効率化を行ったため現在は業務に支障は出ていない。今期は、正社員の採用は予定しておらず、繁忙期は派遣社員等の有期雇用労働者で対応を行う予定である。
現在、同業他社を含め、製造作業の仕事は人手不足の状況にある。

(4)働き方・休み方に関する課題

1)働き方
働き方・休み方の共通項目として、社長による長時間労働の抑制、年次有給休暇の取得促進に向けたメッセージ発信は行われているが、具体的な目標値などは設けていない。また、長時間労働の抑制、年次有給休暇の取得促進に向けて検討を行う社内体制が整備されていない。
長時間労働の抑制への意識を高める管理職向け及び従業員向けの研修は行われていない。
ノー残業デー等長時間労働の抑制に資する制度を設けていない。
従業員が自身の働き方・休み方についてどのように考えているのかを把握する意識調査を行っていない。

2)休み方
年次有給休暇の取得に対する事前申請のルールが守られていない。
休暇取得を促すような風土があり、閑散期も把握できているものの、年次有給休暇の計画的な取得を促進させる制度はない。
年次有給休暇の取得が低調な従業員やその上司に対して、取得促進に向けた情報提供が行われていない。
年次有給休暇の取得促進に資する管理職向け及び従業員向け研修は行われていない。
複数の従業員の年次有給休暇の取得が重なり、業務への支障が懸念される。

(5)「働き方・休み方改善指標」診断結果

働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
「働き方・休み方改善指標」による診断結果は以下のとおり。
【労働時間】
週労働時間60時間以上の雇用者の割合は0%であった。

→貴社の週労働時間60時間以上の雇用者の割合は、全国の雇用者の平均値である9.3%(従業員規模30人~99人のカテゴリ)及び、国の定める目標値5.0%ともにクリアしている。
(36協定で定める労働時間の延長の限度基準である1か月45時間を超える従業員は15.4%(注1)いる。)
(注1) 繁忙期における値
【年次有給休暇取得率】
年次有給休暇取得率は全従業員平均74.6%であった。

→主要産業の平均値である40.1%(従業員規模30人~99人のカテゴリ)及び、国の定める目標値70.0%ともにクリアしている。
貴社の長時間労働の従業員の割合は目標値を達成しているが、36協定で定める労働時間の延長に関する国の限度基準である1か月42時間(注3)を超える従業員が存在しているため、働き方の改善が求められる。また、年次有給休暇の取得率は目標値に達しているが、実態は、従業員の年次有給休暇取得率の個人のバラつきが大きいことから、休み方の改善も求められる。
(注3)1年単位の変形労働時間に対する基準
※「1ヶ月あたりの残業時間が80時間を超える社員の割合」を「週労働時間60時間以上の雇用者の割合」と見なした。
働き方
休み方

(6)課題の整理と改善提案

働き方・休み方に関する課題の整理と改善提案は以下のとおり。

指標項目
現状と課題
対策案
Vision(ビジョン)
項目1
方針・目標の明確化
長時間労働の抑制について社長がメッセージを発するものの、数値目標は無い。
社長のメッセージを明文化し全従業員に発信
長時間労働の抑制及び年次有給休暇の取得促進に関する社長のメッセージも参考に、数値での目標を設定するとともに、ポスター等で数値目標や方針を掲出し、従業員が常に働き方・休み方について意識できる環境を整える。
System(システム)
項目2
改善・推進の体制づくり
長時間労働や年次有給休暇の取得促進に向けて検討を行う社内体制が整備されていない。
働き方・休み方について検討する労使委員会の設置
新たな委員会の設置は負担が大きいため、衛生委員会を労使委員会として活用する。働き方、休み方について従業員から改善に向けた意見を収集するなどし、事業主に意見を述べる機会を設ける。社長は委員会の意見を踏まえて、人材管理における改善方針を策定する。
項目3
改善促進の制度化
ノー残業デー等長時間労働の抑制に資する制度を設けていない。
ノー残業デーの設定
全社又は部署ごと等の単位で、週1回、月1回等可能な範囲でノー残業デーを設定する。
閑散期が把握できているにもかかわらず、計画的な休暇の取得が行われていない。
年次有給休暇の計画的付与を実施
閑散期を対象とした年次有給休暇の計画的付与日を設定し、年次有給休暇の取得促進を図ることで、取得の進まない従業員についても計画的に取得ができる環境をつくる。例えば、閑散期とされる春~夏期に、全従業員に対して、3日間の年次有給休暇の取得日を期初に設定し、必ず休暇を取得させる。
「記念日休暇」、「誕生月休暇」等のメモリアル休暇の設定
記念日誕生月日等に年次有給休暇の取得を促すメモリアル休暇制度を設ける。
Action(アクション)
項目5
意識改善
働き方・休み方の改善の意識を高めるための従業員向けの研修等が行われていない。
ポスターの掲出・社内報の提供を行う
項目1の提案の通り、ポスター掲出による数値目標や方針の浸透を図る。また、長時間労働の削減に対する社長の意識についてインタビューしたり、年次有給休暇の取得と余暇の過ごし方について他の従業員に参考となる事例を従業員から収集し、社内報で提供するなどにより、働き方・休み方の改善に対する従業員の意識を高める。
管理職向け及び従業員向けの教育・研修を行う
心身がリフレッシュされることによる健康増進、仕事効率向上、業務上の事故リスクの軽減など直接的な仕事への効果、また、仕事以外の時間を持つことの重要性などについて、従業員に気づきを与えられるように、全従業員に対して、年次有給休暇の取得促進についての教育・研修を行う。
また、部長、部長補佐級の管理クラスの従業員については、研修によって自らも率先して休暇取得を行うよう意識づけを行い、実施させることで、部下に対する年次有給休暇取得の推進に説得力を持たせ、さらに年次有給休暇が取得しやすい環境をつくる。
後段で説明を行う、「年次有給休暇の時季変更権」についても研修時に、説明を盛り込む。
年次有給休暇の事前申請ルールを守らない従業員がいる。
事前申請ルールの遵守について更なる意識改善を行う。
これまでも、面談等によって当日の急な休暇取得は改善がみられているため、前述の従業員全体研修等により、「年次有給休暇の取得は推奨している」事を前提とした上、「従業員が一体となって、計画的に業務を遂行するため、当日の急な休みは会社全体の業務の遂行に影響を与えること」等も伝えるなど、定期的に会社の思いを発信し、従業員の意識改善を行う。
複数の従業員の年次有給休暇の取得が同じ日に重なり、業務への支障が懸念される。
時季変更権を有効に活用する
まずは、時季変更権の行使を行うことなく、個別に従業員に取得日の変更について相談を行い(その際に、時季変更権の活用を行う可能性についても伝える)、業務遂行上必要な場合には、年次有給休暇付与の時季変更権を活用する。前述の研修では、「年次有給休暇の時季変更権」というルールの存在についても伝える。
従業員間の協力体制を繁忙期以外にも拡大する。
項目6
情報提供・相談
年次有給休暇の取得率の低い従業員やその上司に対して、取得促進を促すような情報提供を行っていない。
年次有給休暇取得の参考事例について情報提供を行う
年次有給休暇を取得してよかったこと等を収集し、全従業員に情報を共有し休暇の取得を促す(一般従業員だけではなく、管理職クラスの参考事例も収集する)。
年次有給休暇取得率の低い従業員の上司に、一定期間ごとにメールを配信する
例えば、「項目1」の取組について、四半期毎等の年次有給休暇取得率や取得日数の目標値を定め、目標値を下回りそうな部下を持つ上司には、メールや口頭により注意を促し、目標が未達成の部下がいる場合は、上司に対し説明及び改善策を求める。
また、上司が年次有給休暇を率先して取得し、範を示すことは、部下の休暇取得の促進につながることから、上司自身の達成度が低い場合についても、説明及び改善策を求めることも検討する。
Check(チェック)
項目8
実態把握・管理
労働時間・年次有給休暇について、従業員の意識を把握する機会が無い。
従業員意識調査の実施
労働時間や帰りやすさ、休暇の取り方・取りやすさなどについて意識調査を実施し、従業員が現在の自身の働き方・休み方にどのような意識・考えを持っているかを把握し、結果を前述の労使委員会等における審議テーマにすることで、改善の取組を推進させる。

(7)改善提案の活用

提案の活用、取組状況に関しては以下のとおり。
1) 社長のメッセージを明文化し全従業員に発信
これから、本社及び生産工場に向けて掲示実施予定である。

(8)「働き方・休み方改善指標」活用の効果(結果)

方針・目標等については、各上長指導の下で実施したが、効果はあまり大きくはないと感じる(平成29年1月時点)。

(平成27年度事業)

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