B社(2015年度)

(1)企業概要

社名
B社(2015年度)
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業種/事業概要
情報通信業/電子機器等を利用したソリューションサービスの提供
従業員規模
5,500人程度(正社員4,000人、非正規1,500人程度)(平成27年6月現在)
本社所在地
東京都
労働時間制度
【本社】
始業終業時間 本社9:30~18:00(1日の所定労働時間7.5時間)
休憩 12:00~13:00(60分)
コアタイムのないフレックスタイム制。

【店舗】
1日・1週の所定労働時間は本社と同じだが、1か月の変形労働時間制を採用している。

(2)働き方・休み方改善に関するこれまでの取組と指標活用のきっかけ

1)これまでの取組
誕生日・結婚記念日等に年次有給休暇の取得を推奨するアニバーサリー休暇制度、及びリフレッシュ休暇(年次有給休暇とは別の3日の有給休暇)制度の導入。

2)「働き方・休み方改善指標」活用のきっかけ
労働時間に制約のある従業員がキャリアアップして活躍できるための情報提供、短時間勤務からフルタイム勤務に戻るために有益な情報などをいただきたい。
年次有給休暇の取得日数の個人差があり、取得の促進に向けた情報提供をいただきたい。
他企業で導入され、当社でも導入可能な働き方や休み方改善の参考事例があるようなら情報提供をいただきたい。
今後さらに働き方・休み方についての改善取組を行い、従業員満足度の向上と採用の拡大につなげたいと考えている。

(3)働き方・休み方の現状・背景

1)人事部の課題認識
特定の部署に限らず、年次有給休暇を取得できていない従業員が一定数存在する
採用した人材が退職せず長期勤続できるようにしたい。
会社の持続的な成長には、労務管理に関する諸制度をうまく活用しながら、同僚・先輩・後輩など、他の従業員との調和を取ると共に意識的に自身のキャリアについて考えることが必要であり、個々の職業意識に応じて、企業理念に基づいたキャリア教育をどのように行うかについても課題意識を持っている。

2)仕事特性と働き方・休み方の現状
①組織体制
【組織・主な事業】
管理機能を支える本社及び電子機器の販売・メンテナンス等を行う店舗を全国に持つ。全社平均年齢は、30~32歳で、店舗は7割から9割が女性であり、そのうち育児等に伴う短時間勤務者は8%程度である。法人営業は男性比率が高い。店舗は一店舗10人から50人、全国平均で一店舗20人程度であり、首都圏では30人程度の規模の店舗が多い。店舗は個人・法人への電子機器の販売・修理・相談窓口を中心にサービスを提供している。

【コース・雇用形態等】
正社員には総合職及び専門職があり、総合職は一般層と管理層の2階層である。また、専門職から総合職へのコース転換は積極的に行っている。異動は、専門職では自宅から通うことができる範囲において定期的に行っている。
非正規は、月給制及び時間給制の契約社員に分かれる。
新卒採用は専門職を中心に今年度300人程度。
時間給制の契約社員は、主に大型店舗での電子機器販売を担当しており、正社員である現場リーダーの推薦と本人希望により専門職への転換が可能である。

②働き方
36協定による時間外労働の上限は月45時間、年間360時間で、特別条項を締結しており、特別条項の上限は月60時間で6回まで、年間630時間が上限である。会社は、組合と共に協定に定める数値の順守には力を入れている。所定外労働を行う場合に、上長の事前承認は必要としていない。

【本社】
本社では、部署ごとに繁忙期が異なる。予算組みや評価のまとめ、新年度の目標管理制度の運用が発生する部署は年度末~年度初め、決算を行う部署は決算月などがある。ただし、所定休日(土曜日、日曜日、祝日)に必ず出勤するような部署は無く、休日に出勤した場合、事前に休日出勤が分かっている場合は休日の振替による対応を行っている。年間の全ての月で働き方・休み方に課題を抱えているような部署はない。
ノー残業デーを週1回に設定しているため、当日は定時に退社する従業員は多いが、退社を強制するための一斉消灯などは行っていない。

【店舗】
365日営業しており、3月が繁忙期である(2014年)。その中で、特にシフト作成等を含めた、スタッフマネジメント業務及び店舗実務を総括する副店長については、近年、業務の棚卸を行い、役割分担の見直しを行ったものの、現在も仕事の幅は広く、時間外労働が多い傾向にある。店長は店舗のマネジメントや会議への出席等が多く、休みも基本的に土曜・日曜が多いので、副店長に比べて規則的な勤務を行っている。大型店舗のブースで業務を行う従業員は労働時間が長い傾向にあるが、2012年から総労働時間は毎年少なくなっている(2015年の所定外労働は、2012年の同月比で半分近くに減っている)。店舗では、全店舗共通のノー残業デーを定めず、店舗ごとで月に数日設定するように促している。店舗のノー残業デーの運用は店舗に任せている。

【短時間勤務の従業員】
短時間勤務制度は、育児については15分単位で、2時間を上限に所定労働時間の短縮を認めているが、2時間を選択している従業員が多い傾向にある。また、短時間勤務者は保育園が休みの土曜日、日曜日や祝日を所定休日とする従業員が多く、短時間勤務ではない従業員が勤務時間や曜日の柔軟な対応を行っていることで全体のバランスを保っている。

③休み方
少ない人数で運営する店舗勤務者の年次有給休暇の取得率は全体的に低いが、同一店舗内でも、次有給休暇の取得率が高い者もおり、全社的に見ても特定の部署・店舗等で取得ができていないわけではない。休暇取得の実績は、従業員の休暇に対する意識によるものもあると人事は考えている。

【全従業員を対象とした休暇制度】
誕生日、結婚記念日等に年次有給休暇の取得を推奨するアニバーサリー休暇やリフレッシュ休暇(年次有給休暇以外の有給休暇。3日間)があり、それに併せて年次有給休暇を組み合わせて長期休暇を取得する従業員も多く、年次有給休暇の取得推進に繋がっている。

【その他、出産・育児に関する休暇の制度】
産前休業は出産予定日の8週間前から利用できる。法定外の部分である最初の2週間は有給の休業制度ではないが、年次有給休暇を取得する従業員が多い。育児短時間勤務は最大で子が小学3年生の年度末を迎えるまで利用できる。

④マネジメント
【労働時間・休暇管理】
労働時間管理は、従業員からの始業・終業時間の自己申告と退勤カードキーのダブルチェックを行っており2点に乖離があれば本人に直接確認する。また上司は部下の勤怠状況や年次有給休暇の取得状況をシステム上で確認できるようになっており、さらに月に一度人事部門から自身の関係するラインの勤怠状況、年次有給休暇の取得状況を、所属長に発信している。
上司は、36協定の特別条項の適用に当たり本社へ申請を行うこととしている。36協定の特別条項に定める限度時間までの時間外労働の申請があった場合、各店舗をまとめる部門の管理職宛てに人事部長名で「特別条項の上限は超えないように」との注意喚起を行う。月の時間外労働が3か月連続で45時間を超えた場合は、当該従業員に問診を行い、必要があれば産業医・保健師面談を行って健康管理を推進している。

【教育研修・評価】
毎月行う店長会において、本社の人事部門が参加して働き方・休み方の改善に向けた情報提供を行うこともある。

【その他のマネジメント】
店舗ごとに毎月の売り上げ目標及び年間予算が決まっており、それにあわせて要員計画を行う。ただし、売り上げが目標を上回る(下回る)場合には、要員計画は見直される。
仕事の悩み等の一次相談窓口は上司(店舗では店長)である。また、別途相談窓口もある。
産前休業前研修及び育児休業時復帰研修があり、育児休業中もSNSを使って同僚等との情報交換ができる環境をつくるなどの他、両立支援の施策等を積極的に取り入れており、現在は、妊娠・出産を機に退職する従業員は、非正規従業員を含め殆どいない。

⑤その他
毎年一定数の退職者がおり、退職理由として、仕事がイメージと違ったなどの意見を把握している。
定期的に従業員満足度調査を実施している。

(4)働き方・休み方に関する課題

1)働き方
所定外労働は上長の事前承認を必要としない。
育児短時間勤務をサポートする柔軟的な労働時間の設定が可能となっているが、一律的な労働時間を利用する人が多い。
業務負担の大きい副店長の時間外労働が多い傾向にある。
店舗のノー残業デーの運用は店舗に任せている。

2)休み方
休暇取得の実績は、従業員の休暇に対する意識によるものと人事は考えている。

(5)「働き方・休み方改善指標」診断結果

働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
「働き方・休み方改善指標」による診断結果は以下のとおり。
【労働時間】
週労働時間60時間以上の雇用者の割合はほぼ0%であった。

→貴社の週労働時間60時間以上の雇用者の割合は、全国の雇用者の平均値である8.0%(社員規模1,000人以上のカテゴリ)及び、国の定める目標値5.0%をともにクリアしている。
(36協定で定める労働時間の延長の限度基準である1か月45時間を超える社員は14.1%(注1)いる。)
(注1) 繁忙期における値
【年次有給休暇取得率】
年次有給休暇取得率は全社員平均54.0%であった。

→主要産業の平均値である54.6%(社員規模1,000人以上のカテゴリ)及び、国の定める目標値70.0%をともに下回っている。
貴社の長時間労働の社員の割合は目標値以上だが、36協定で定める労働時間の延長に関する国の限度基準である1か月45時間を超える社員が存在しているため、働き方の改善が求められる。また、年次有給休暇の取得率は主要産業の平均値に到達しておらず、休み方の改善が求められる。
※「1ヶ月あたりの残業時間が80時間を超える社員の割合」を「週労働時間60時間以上の雇用者の割合」と見なした。
働き方
休み方

(6)課題の整理と改善提案

働き方・休み方に関する課題の整理と改善提案は以下のとおり。

指標項目
現状と課題
対策案
System(システム)
項目3
改善促進の制度化
店舗のノー残業デーの運用は店舗に任せている。
人事主導で店舗のノー残業デーの運用を管理する
本社から店舗に対して、ノー残業デーの設定状況について報告させるとともに、実施状況についても本社に報告させることとし、運用実績を査定・評価に関連付ける。
項目4
改善促進のルール化
所定外労働は上長の事前承認を必要としない。
上司による時間外労働の事前承認制を設ける
残業を行う際は、事前申請・承認を要することとし、部下は、終業時刻前に、①業務量と残業する理由、②残業終了時間を上司に申請するルールを設ける。
上司は、部下からの所定外労働の申請に基づいて、本当に当日実施することが必要な業務か否かを判断し、必要と判断した時間についてのみ残業を承認することで、部下の長時間労働の抑制に繋げる。
育児短時間勤務をサポートする柔軟的な労働時間の設定が可能となっているが、一律的な労働時間を利用する人が多い。
勤務時間にトライアル期間を設ける
例えば一定期間ごとに対象者と面談を行い、短縮時間の見直しについて意向を確認の上働きかけを行う。見直しを希望する場合は、トライアル勤務を実施し、馴らし期間を設ける。
また、フルタイム勤務にあたり所定外労働免除の希望が可能であることを、育児休業時復帰研修等において周知する。
Action(アクション)
項目5
意識改善
育児短時間勤務をサポートする柔軟的な労働時間の設定が可能となっているが、一律的な労働時間を利用する人が多い。
復職時研修で、キャリア教育を行う
復職時研修時に、キャリア教育によって今後の活躍をイメージしていただくことにより、業務への意欲を高め、一律的な育児短時間勤務の選択から、個別のキャリア意識に応じて短縮時間を減らしていく意識を醸成する。具体的には、活躍のための道筋と提供される研修や教育、そして職位や責任に応じた処遇について改めて情報提供を行うなどにより、昇進・昇格等、復帰した社員の将来の活躍意欲を高める。
項目7
仕事の進め方改善
業務負担の大きい副店長の所定外労働が多い傾向にある。
仕事の棚卸(見直し)・他職位への作業分配を行う
副店長の仕事は、現場スタッフの管理、シフト管理を含め、自らも現場に立つなど、管理業務とスタッフ業務の両方に幅広く従事しているために所定外労働が多いと考えられる。近年、棚卸と再配分が行われているものの、副店長の業務は未だ幅広く労働時間が長い傾向にある。今一度、副店長の業務全般について見直しを行い、店長もしくは他の従業員に任せてよい業務などがあれば、業務再配分を行い、どうしても現在副店長が担う業務を減らすことができないのであれば、副店長クラスの一店舗当たり配置人数を増員する。
Check(チェック)
項目8
実態把握・管理
休暇取得の実績は、従業員の休暇に対する意識によるものと人事は考えている。
従業員意識調査による就労継続意識の収集
既に行われている社員意識調査に従業員の働き方・休み方に関する意識の項目を追加し情報を収集する。休暇の取得実績が、人事が考えるように個別従業員の意識によるものか、それとも他に休暇の取得促進に向けて、改善を検討すべき課題が潜んでいないかなどをはっきりさせることができる。

(7)改善提案の活用

提案の活用、取組状況に関しては以下のとおり。
1) 復職時研修で、キャリア教育を行う
2016年1月に外部講師を招いてセミナーを開催し、復職後の働き方等について講演した。
セミナー開催後はアンケートを実施するとともに、受講後に、今後の働き方を見つめ直すことを目的とした上司との面談を実施予定。

(8)「働き方・休み方改善指標」活用の効果(結果)

外部講師のセミナー終了後に、グループワークにて長期的なビジョンについて考える時間を設け、さらに、研修内容の共有を含め上長と面談を実施。
参加者にセミナー後のアンケートを行ったところ、90%近くの方が「今後の働き方を考える参考になった」と回答した。働き方改革のきっかけとして大きな役割を果たした。

(平成27年度事業)

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