N社(2014年度)

(1)企業概要

社名
N社(2014年度)
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業種/事業概要
サービス業/資材調達(調達コンサルティング、購買受託・代行、ネット集中購買)
従業員規模
169名(正社員)
本社所在地
東京都
労働時間制度
始業終業時間8:50~17:20(休憩45分)、1日の所定労働時間7時間45分
フレックスタイム制度を導入(対象者は入社3年目以降)
裁量労働勤務制度あり(対象者は主任相当職)
年末年始休暇4日、特別休暇2日(ゴールデンウィーク等)
夏季休暇として5日間の年次有給休暇の一斉行使

(2)働き方・休み方改善に関するこれまでの取組と指標活用のきっかけ

1)これまでの取組
これまで、全社一斉の定時退勤日の設定、計画的な年次有給休暇の取得促進、社内巡視による定時退勤の呼びかけ、ワーク・ライフ・バランス啓発ポスターの掲示、働き方に関するヒアリング調査(残業に関する考え方、職場の帰りやすさと休みやすさ、社内の制度の利用状況など)を行い、2013年より「働き方改革」と称し、働き方の目標設定(1年間の残業縮減目標と年次有給休暇の取得目標を事業所又は職場ごとに設定)等の取組を実施してきた。

2)「働き方・休み方改善指標」活用のきっかけ
これまで、人事部門として、働き方・休み方改善について様々な取組を行ってきたが、その多くは時間の経過とともに形骸化し、浸透しなかった。また、社員の意識が変化した様子も見受けられなかった。現在も継続している取組はあるが、このまま同じ取組を続けて成果が見込めるのか、また、新たな策を講じるにしても何をやれば良いかが不明瞭な状態であり、課題を明確化し実効性のある取組を実現するきっかけにしたいと考えた。

(3)働き方・休み方の現状・背景

1)人事部の課題認識
職場あるいは人によって残業時間の長さに顕著な偏りがある。また、その原因が仕事内容や職場環境によるものなのか、社員の能力の問題なのか、検証が困難であることも課題である。
さらに、社員には、仕事は「残業ありき」との考えを持った者が未だに多く、働き方改革に関心のある者が少ない。一般の社員は自分の仕事をこなすことに精一杯であり、管理職層の意識が低いと、なおさら自力での改善が難しくなっている。その一方で、忙しくないときにも、いわゆる「だらだら残業」が見受けられることがある。

2)仕事特性と働き方・休み方の現状
①仕事特性
資材の調達には、原材料・部品・製品などの「直接材」に関するものと、事務用品、工事、労働者派遣などの「間接材」に関するものがあるが、当社は主に間接材の調達に関するシェアード・サービスを中心に実施している。
調達では、伝票を処理する業務が多く、3人から5人が顧客のオフィスに常駐して作業を行っている。また、調達業務には短納期の案件もあり、作業日程のコントロールが難しい場合もある。
さらに、担当ごとに取扱う品目が決まっているため、担当社がいないと作業が進まないこともある。作業に使用するシステムについても、担当社のコードでシステムに入らないと作業できない仕組みになっている。
加えて、少人数の事業所では、管理者がプレイングマネージャーとなっていることが多い。
②働き方
1か月の平均残業時間数は20~25時間程度である。また、特定の部署では、仕事内容や職場環境によるものなのか、社員の能力によるものなのか、部署間のマネジメントのあり方の違いによるのか、現時点では分析できていないが、1か月の平均残業時間数が40~50時間の社員(全体の約15%)がいる。80時間を超える長時間残業の社員も若干存在する。
③休み方
休日出勤は少なく、年次有給休暇取得率は7割を超えている。
④その他
リフレッシュ休暇として、入社10年目から5年ごとに5日(25年目は10日)の特別有給休暇を付与している。
新人課長研修を実施しているが、課長という職務に関する事項についての研修であり、労務管理に関する内容は含まれていない。

(4)働き方・休み方に関する課題

1)働き方
年次有給休暇を取得しやすい職場とそうでない職場、同一オフィス内に顧客がいることで帰りにくい職場とそうでない職場がある。
企画業務に関しては、成果物の質の水準が明確でない仕事もあるので、残業が増えることもある。課長は10名以下の部下を抱えているが、部下の仕事の進捗状況は把握できるので、管理者として適切な助言をすることが必要と考えている。
最近、メンタルヘルス不調の比率がやや高くなってきており、危機感を持っている。必ずしも過労が原因とは限らないが、会社幹部は業務効率の向上やメンタルヘルス不調の対応として働き方を改善したいと考えている。このため、期初の挨拶等で心身のリフレッシュ等について呼びかけをしており、働き方に関しての取組を検討している。管理職が旗を振って取組の推進を行った職場もあり、仕事の進め方、マネジメントの方法がポイントと考えている。メリハリのない仕事の進め方に問題がある。
効率化のため、伝票処理等の業務を一部アウトソーシング等行っているが、メリットとデメリットがある等の声がある。

2)休み方
担当ごとに取扱う品目が決まっており、担当者がいないと作業が進まないことから、休暇を取得すると作業が滞ることになってしまう。休暇を取得した時にバックアップの仕組みが必要と考えている。あらかじめスケジューリングして質の高いポジティブな休暇の取得を目指すことが必要と考えている。

(5)「働き方・休み方改善指標」診断結果

働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
「働き方・休み方改善指標」による診断結果は以下のとおり。
【労働時間】
週労働時間60時間以上の雇用者の割合は1.8%であった。

→貴社の週労働時間60時間以上の雇用者の割合は、全国の雇用者の平均値である8.0%(社員規模100人~999人のカテゴリ)及び国の定める目標値5.0%をクリアしているが、36協定で定める労働時間の延長に関する国の限度基準である45時間を超える社員は8.0%(1日の所定労働時間7時間45分を超える分)となっている。
【年次有給休暇取得率】
年次有給休暇取得率は全社員平均で77.1%であった。
→主要産業の平均値である43.4%(社員規模100人~999人のカテゴリ)及び国の定める目標値70%いずれも上回った。
貴社は、長時間労働の社員の割合、年次有給休暇の取得率ともに目標値を達成しています。引き続きこの状況を維持し、よりよい働き方・休み方の実現をめざしてください。なお、36協定で定める労働時間の延長に関する国の限度基準である1か月45時間を超える社員は8.0%(1日の所定労働時間7時間45分を超える分)で、改善の余地があります。
※「1ヶ月あたりの残業時間が80時間を超える社員の割合」を「週労働時間60時間以上の雇用者の割合」と見なした。
働き方
休み方

(6)課題の整理と改善提案

働き方・休み方に関する課題の整理と改善提案は以下のとおり。

指標項目
現状と課題
対策案
System(システム)
項目3
改善促進の制度化
年次有給休暇取得率は7割以上と高いものの、取得目的は病気等に充てる人が多く、必ずしもリフレッシュ等に計画的に使われているとはいえない。
期初に休暇を取得する日を設定する
リフレッシュ等に使われる年次有給休暇を増やすために、期初に年次有給休暇を取得する日を設定した「年次有給休暇取得計画」を提出させ、その取得を促す。取得できなかった場合には、その理由と代替取得日を決めて、上長経由で人事部に提出することとする。
項目4
改善促進のルール化
管理職の主導により、働き方の改善が図られた職場もあり、仕事の進め方、マネジメントの方法が重要と考えている。
管理職の人事評価項目に人材育成及び部下の労働時間の項目を組み込む
企業としての長期的視点からは、人材確保・人材育成が重要であるため、マネジメント層を中心に、人事評価項目に人材育成を盛り込む。加えて、部下の労働時間を人事評価項目に盛り込み、残業を前提とした労働時間管理について、厳しく評価する。
残業の多い部下を持つ管理職への意識改善促進
管理職が率先して定時退社をするよう指導することにより、部下が帰りにくい雰囲気を払拭する。
Action(アクション)
項目5
意識改善
仕事は「残業が当たり前」という考え方を持った者が未だ多く、働き方の改善に関心のある者が少ない。特に管理職層の意識が低い。
管理職層の研修と意識改革(座学とグループワーク等の組み合わせ)
管理職層へのタイムマネジメント研修の実績はあるが、より業務の効率化に向けた研修を行い、残業なしを前提とした仕事の割り振り・時間管理を行う。そのために、仕事遂行に必要な要素と部下の能力等を勘案して社員の業務の効率化と仕事の割振を行い、必要に応じて適切に助言するといったマネジメント力を高める研修を実施する。内容としては、座学、事例研究、社内における課題と対策の討議、グループワークなどにより、実態に即した対策を考え、職場内で実践できる研修を行う。また、研修後、実践結果を検証するフォローアップ研修を実施することにより、意識を定着させる。
一般社員向け研修
36協定に定められた上限時間まで働くことを前提にするのではなく、効率的に仕事を遂行して早く退社し、家族と過ごす時間を大事にし、自己啓発や休養、趣味なども含め、人間性を高めるために時間を使う意識を促すため、教育や情報提供を行う。
項目6
情報提供・相談
残業の多い社員及び年次有給休暇取得の少ない社員に対し、人事部から上司への情報発信を行っているが、社員本人は、社内的に見て、どの程度残業が多いのか、年次有給休暇取得日数が少ないのかを把握していない。
一定水準(目標)を下回る場合の本人及び上長への通知
残業及び年次有給休暇取得の状況に関して、社員自身の認識を明確にして、残業抑制と年次有給休暇取得促進に向けての意識を高めるため、一定水準(目標)を下回る場合は、本人及び上長に通知し、改善の意識付けにつなげる。
項目7
仕事の進め方改善
企画業務に関しては、成果物の質の水準が明確でない仕事もあるので、残業を増やす要因となっている。
仕事の完成・成果の基準の明確化
例えば、一定の期間内での仕事の成果の質の水準を明確化して示すことが必要不可欠である。
担当ごとに取扱う品目が決まっており、担当者がいないと作業が進まない。作業に使用するシステムについても、担当者のコードでシステムに入らないと作業処理できない仕組みになっている。
システム上の処理にあたり、代理者を設定して処理できる仕組みを導入し、協力体制を構築する
システム上、休暇などの際に代理者を設定し、その代理者が処理できる仕組みを導入して、休暇時などの協力体制を構築する。
相互フォロー可能な業務遂行体制の構築と他の担当者の知識・ノウハウの共有
担当者ごとに取扱う品目の範囲を少し広げて、他の社員の担当と重なり合うよう設定し、相互フォローが可能な体制を作る。また、他の担当の持つ知識・ノウハウなどを共有する。
効率化のため、伝票処理等の業務について、一部アウトソーシング等を行っているが、メリットとデメリットがある等の声がある。
業務の効率化に向けて、現場メンバーからの提案検討を行う(グループ)
現場のメンバーからなる検討グループを設けて原因と改善策について検討し、改善に向けた取組を行う。

(7)改善提案の活用

提案の活用、取組状況に関しては以下のとおり。
1)期初に休暇を取得する日を設定する
一部の職場では既に実践している。当該職場においては、一般社員から休暇が取得しやすくなったと評判が良い。全社的な取組みとして実施を検討したい。
2)管理職の人事評価項目に人材育成及び部下の労働時間の項目を組み込む
すぐに実施は難しいが、部下の働き方の管理を、管理職の責任として明確化する意味でも有効な策と思うので、将来的な実施を検討していきたい。
3)残業の多い部下を持つ管理職への意識改善促進
部長会議にて従業員の勤労状況を毎月報告し、残業の多い職場の管理職には注意喚起を行っている。
4)管理職層の研修と意識改革(座学とグループワーク等の組み合わせ)
実施に向けて検討したい。
5)一般社員向け研修
実施に向けて検討したい。
6)一定水準(目標)を下回る場合の本人及び上長への通知
個人レベルでの意識向上を図るものとして有効な施策と考えられるので、残業の多い社員又は年次有給休暇取得日数の少ない社員に、社内でのランキング順位を知らせるなどの実施を検討したい。
7)仕事の完成・成果の基準の明確化
仕事の完成・成果の明確化や、組織における個人の役割の明確化を実現するには、マネジメントレベルの向上が必要不可欠という考えから、マネージャーの強化を目指す新しいパフォーマンス・マネジメント(グループ全社の取組として導入を進めている新しい人財マネジメント施策で,個人と組織の業務マネジメント及び成果評価の仕組み)を2015年度より導入する。
8)相互フォロー可能な業務遂行体制の構築と他の担当者の知識・ノウハウの共有
少数ではあるが、既に業務シェアリングや部内ローテーションを実施し、相互フォローが可能な体制を構築している職場もある。相互フォローが可能な職場は、働きやすさに関する評判も良く、仕事に対するモチベーションも高い。他部署にも同様の取組を広げていければと思う。
9)業務の効率化に向けて、現場メンバーからの提案・検討を行う(グループ)
アウトソーシングの担当部署の取りまとめによって、改善に関する議論は日々行われているが、改めて現場レベルの本音や取組みの必要性などについて考える場も必要であると思う。従業員代表者会議の中で実施することを検討したい。

(8)「働き方・休み方改善指標」活用の効果(結果)

一部既に実施し始めている対策もあり、一般社員からの評判も良いので、今後実施を検討していく施策も含めて、今後の働き方・休み方の改善が期待される。

(平成26年度事業)

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