日本環境クリアー株式会社 上下水道部

(1)企業概要

社名
日本環境クリアー株式会社 上下水道部
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業種/事業概要
建設業/自治体の上下水道維持管理を事業の柱としており、建物の総合メンテナンス等も行っている。
従業員規模
上下水道部251名
本社所在地
埼玉県
労働時間制度
始業終業時間:現場8:30~17:30、本社9:00~18:00(休憩1時間)
1日の所定労働時間8時間(日勤者の場合)※交替勤務あり

(2)働き方・休み方改善に関するこれまでの取組と指標活用のきっかけ

1)これまでの取組
閑散期の計画的な年次有給休暇取得、休暇取得可能な人員配置、時間単位の代休付与などに取り組んでいるが効果的な運用ができているとは言えない状態である。

2)「働き方・休み方改善指標」活用のきっかけ
計画的な年次有給休暇取得を可能にする手法をうかがい、時間外労働の削減と特定の社員への業務の集中、長時間労働の偏りについて、平準化を行いたい。
一人勤務職場における休憩時間の付与に関するアドバイスを受けたい。
繁忙期の効率的な業務の割振りについてのアドバイスを受けたい。

(3)働き方・休み方の現状・背景

1)人事部の課題認識
入札時期から期末・期初にかけての繁忙期に時間外労働が集中して長時間労働になる。
気象状況(大雨・台風等)の影響により緊急の勤務(待機で終わる場合もある)が発生する。
24時間365日稼働の現場が多く、余裕のある人員配置が難しいため、休暇取得者がいると代務による時間外労働が発生する。

2)仕事特性と働き方・休み方の現状
日勤者は、設備点検などを行っている。過去、日勤を1人で運用する現場が一番問題だったが、パート(定年退職後の嘱託など経験者)を活用して運用改善した。夜勤には、委託契約上、パート等は認められておらず、正社員のみで対応する。
①現場の組織体制
技能員(補助員)→技術員→主任・副責任者(※現場による)→監督者(=責任者)
②働き方
現場の監督者・営業に時間外労働が多い傾向にある。
時間外労働の理由には、欠員(退職に伴う人材の確保がスムースにいかなかった等)、年次有給休暇等の休暇取得者の代務、事故・トラブル(自然災害による機械の故障等)、月末月初の事務作業(客先・社内に提出するもの)による。また、事故・トラブル等が無くとも、天災・自然災害などにより緊急呼び出しによる出勤がある。
③休み方
緊急時対応の当番をあらかじめ決めておく等計画的に休暇を取得している現場もあり、会社の年次有給休暇付与最大日数の20日を取得できている現場もある。ただ、3月末で失効を迎える年次有給休暇を1月から3月に取得する社員も多く、それに連動して残業が多くなる。
休暇の取得のしやすさなどは、現場の監督者の考え方に左右され、特に初めて受託した現場は、最初の監督者のルール・考え方が、その後の監督者に引き継がれる傾向にある。
現場の監督者の業務負荷は高く、また、現場に同じレベルの社員がいないため、残業が多くなり、年次有給休暇の取得日数も少ない。
本社を含め役職が高くなるにつれ、年次有給休暇の取得が難しくなる傾向にある。
年次有給休暇の取得割合は77.5%と高い一方で、取得日数5日以下の社員が3分の1に上る。
④マネジメント
自治体との契約が単年度では無い場合もあり、例えば3年の場合、契約初年度の年度末までが一番忙しく2年目はあまり忙しくはないなど、年単位での繁閑も存在する。契約設計時には年次有給休暇を取得する分の労務費が含まれておらず、年次有給休暇の取り難いローテーションの原因にもなる。
現場には許可された社員しか入ることができず、また、監督者を含め、現場の社員全てが作業に従事することが多いため、次代を担う社員に現場マネジメントの教育を行う時間がない。(監督者は責任者として登録されており、何かあれば対応を迫られる。その場合、監督者以外による対応は認められない)
現場の監督者のマネジメント能力が標準化されていない。また、マネジメント研修などは制度化されておらず、監督者に対する初任教育もない。
本社含め管理監督者の評価に、部下の働き方・休み方を評価する項目はない。
委託者が、企画内容(職務の遂行能力)より契約金額(価格が低い業者)を優先している場合が多く、労務費に年次有給休暇の取得分と代替員確保の労務費も含めて見積もると価格が高くなり受注の確率を下げてしまう。
長時間労働の抑制や年次有給休暇の取得促進に向けた、トップからのメッセージ発信や社内体制の整備などは特に行っておらず、労務担当者からも、取組の促進に向けた業務プロセスの改善・見直しや、啓発活動などは行っていない。また、社員に対する働き方・休み方の改善など、ワーク・ライフ・バランスについて意識をさせるような研修などもなく、社員の意識を把握するための社員意識調査なども行っていない。
夏季休暇や誕生日休暇、記念日を休暇にする等の休暇制度は取り入れていない。

(4)働き方・休み方に関する課題

1)働き方
トップ及びマネジメント層の、部下の労働時間や休暇に関する管理意識が低い。
現場の職場環境形成を、監督者が作りあげる慣習に頼っている部分が大きい。
監督者クラスの代替要員の育成、管理者クラス予備軍の育成ができていない。
働き方・休み方についての社員の意識が把握できていない。

2)休み方
年次有給休暇を取得ができている社員とできていない社員の取得日数が二極化しており、年次有給休暇を取得しやすくするための休暇制度がない。

(5)「働き方・休み方改善指標」診断結果

働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
「働き方・休み方改善指標」による診断結果は以下のとおり。
【労働時間】
週労働時間60時間以上の雇用者の割合は0%であった。
→貴社の週労働時間60時間以上の雇用者の割合は、全国の雇用者の平均値である8.7%(社員規模100人~999人のカテゴリ)及び、国の定める目標値5.0%ともにクリアしているが、36協定で定める労働時間の延長の限度基準である1か月45時間を超える社員が16%いる。
【年次有給休暇取得率】
年次有給休暇取得率は全社員平均77.5%であった。
→主要産業の平均値である43.4%(社員規模100人~999人のカテゴリ)及び国の定める目標値70%をクリアしている。
貴社は、長時間労働の社員の割合及び年次有給休暇の取得率ともに目標値を達成している。しかし、36協定で定める労働時間の延長に関する国の限度基準である1か月45時間を超える社員が存在しており、働き方の改善が求められる。また年次有給休暇の取得割合は国の定める目標値をクリアしているものの、部署・個人間で偏りがあることから、休み方の改善も求められる。
※「1ヶ月あたりの残業時間が80時間を超える社員の割合」を「週労働時間60時間以上の雇用者の割合」と見なした。
働き方
休み方

(6)課題の整理と改善提案

働き方・休み方に関する課題の整理と改善提案は以下のとおり。

指標項目
現状と課題
対策案
Vision(ビジョン)
項目1
方針・目標の明確化
長時間労働の抑制や年次有給休暇の取得促進に資する、トップメッセージが発信されていない。
トップメッセージを明文化し全社員に発信する
長時間労働の抑制及び年次有給休暇の取得促進に関するトップからのメッセージを明文化し、さらに、経営方針・人事の方針等にトップの方針を反映させることで、全社員に浸透させる。
System(システム)
項目2
改善・推進の体制づくり
長時間労働の抑制や年次有給休暇の取得促進を検討する社内体制が明確でない。
労使協調による話し合い体制を整える
労働時間等設定改善委員会など、労働時間や休みの取り方に特化して協議する委員会を設置する。あるいは安全衛生委員会等の既存の委員会において、「働き方・休み方」の改善を安全・衛生の向上に資する内容として盛り込み、改善の推進を図る。
項目3
改善促進の制度化
年次有給休暇を取得しやすくするための休暇制度がない。
年次有給休暇の計画的付与を導入する(部署・班単位、個人単位等で設けることも検討する)
①休暇日の特定しやすい社員の誕生月に1日休暇を設け、当日を年次有給休暇の計画的付与日に設定する。上長は、年度初めにあらかじめ各社員にヒアリングを行い、休暇日を設定する。基本的に予定した当日がやむを得ない理由により出勤しなければならない場合、翌日に休みを取得する。
②夏季休暇を設ける。24時間365日運用体制の現場などでも取得の促進ができるように、夏季休暇の取得可能期間を6月~10月までに、連続4日(もしくは分割で4日※日数は任意)等幅広に設け、上長が年度初めにあらかじめ各社員にヒアリングを行い、休暇日を設定する。
※上長は、上記で決定した部下の休暇取得について責任を持ち、会社はその結果を評価する仕組みを持つ(項目4参照)。
項目4
改善促進のルール化
管理監督者の人事評価項目に、部下の労働時間及び休暇取得の適正な管理について、盛り込まれていない。
人事評価項目に労働時間及び休暇取得の適正管理に関する項目を盛り込む
適正な労働時間の管理、年次有給休暇の取得促進は、社員の労働生産性・質の向上、優秀な人材の確保その他さまざまな効果が期待できる。このため、マネジメント層を中心に、人事評価項目にワーク・ライフ・バランスについての項目を盛り込み、監督者本人及び部下の長時間労働の抑制や年次有給休暇の取得を促進させる。
Action(アクション)
項目5
意識改善
長時間労働の抑制や年次有給休暇の取得促進について、改善意識を促す研修が行われていない。
社員向けの教育・研修を行う
長時間労働は仕事効率の低下を生み、健康障害リスクをも潜在させる。そこで、長時間労働と健康・仕事効率の関係仕事以外の時間の重要性などを、社員に認知してもらうため、全従業員の受講を義務とする教育・研修を行う。
監督者向けの教育・研修を行う
上記の研修に加え、監督者には会社としての働き方・休み方改善の方針や、項目4の評価の方針などを明確に伝え、全ての現場において、監督者の働き方・休み方についての、考え方が統一できるようにする(例えば年次有給休暇の取得に対する考え方・ルールを統一できるようにする)。
人事労務担当部署から、働き方・休み方改善に向けた啓蒙活動などが行われていない。
定時退社や年次有給休暇の取得促進を促す(回覧・メール・ポスター等の活用)
本社では、メール・ポスター掲出などにより会社としての方針を社員が定期的に意識できる啓発活動を行い、現場作業を行う社員などメールの確認・ポスターの掲出が難しい場合には、現場の監督者宛てにメール等により回覧内容を送信し、現場の社員に回覧することで働き方・休み方改善の意識啓発を行う。
項目7
仕事の進め方改善
監督者レベルの社員の育成ができていない。
社員の計画的な育成を行う
社員の育成を持続的な企業の成長に欠かせないプロセス、社員のキャリア形成を促す重要なプロセスと捉え、計画的に社員の教育訓練を行う。各現場の作業や、監督者になるために必要な能力などは、現在の監督者などから情報を細かく収集し、データベース化して後進の育成に有効に活用する。また、急な欠員に臨時的に対応する本社のスタッフについても、データベース等を元に研修を行い、対応が行えるようにする(現場ごとに本社の対応スタッフをあらかじめ決めて研修を行う)。
さらに、不意の監督者登用を見越して、必要な資格の取得のための研修や時間の確保などを行って、有資格者を増やし、現場運営がスムースに展開されるような仕組みを作る。
委託者が、企画内容(職務の遂行能力)より契約金額(価格が低い業者)を優先している場合が多く、労務費に年次有給休暇の取得分と代替員確保の労務費も含めて見積もると価格が高くなり受注の確率を下げてしまう。
契約設計時における人件費単価に年次有給休暇取得実績を考慮する
顧客と年次有給休暇の取得実績の考慮された予算について話し合いを行う。また、業界団体においても、働き方・休み方改善が人材確保・定着にも大きく関係することなど、その
必要性について話し合いを行い、働き方・休み方改善に向けた人材の確保・配置を行うための人件費への配慮などについて顧客に提言するなどの取組も考えられる。
計画的に休暇を取得している現場や年次有給休暇付与最大日数の20日を取得できている現場もある(休暇の取得のしやすさなど、現場の長の考え方に大きく左右される)。
働き方・休み方優良現場事例の共有
現場ごとの働き方の実態把握を行い、働き方・休み方の好事例を全社で共有する仕組みをつくる。これにより、現場間での組織的対応の標準化が自律的になされていくことが期待される。
Check(チェック)
項目8
実態把握・管理
労働時間・年次有給休暇について、全社員の意識を把握する機会が無い。
社員意識調査の実施
社員が会社及び仕事についてどのように考えているのかを社員意識調査によって把握する。その中で、自身の労働時間や退勤のしやすさ、休みの取り方・取りやすさなどについての調査項目を盛り込み、従業員が現在の働き方・休み方にどのような意識を持っているかを把握し、働き方・休み方改善に向けた課題として、項目2の委員会等でのテーマ設定に活用する。

(7)改善提案の活用

提案の活用、取組状況に関しては以下のとおり。
1)トップメッセージを明文化し全社員に発信する
近々勤怠管理システムを導入予定であるが、導入の目的に時間管理の厳格化もあるので、システムの運用開始にあたっては時間管理を意識付けするようトップから発信することを検討している。
2)労使協調による話し合い体制を整える
社員の健康保持の観点から、安全衛生担当者を集めた既存の研修会での議題に取り上げることを考えている。
3)年次有給休暇の計画的付与を導入する(部署・班単位、個人単位等で設けることも検討する)
業務による繁閑の違いを考慮し、期間を設けて個別に取得日を計画する、誕生月など特定の取得推奨日を設定する等による有給休暇の計画的取得推進を検討する。
4)人事評価項目に労働時間及び休暇取得の適正管理に関する項目を盛り込む
人事制度の中に、部下や本人の労働時間・休暇取得の管理状況を管理監督者の評価項目に加えることを検討する。
5)監督者向けの教育・研修を行う
管理監督者に対する研修を行い、その中で労働時間・休暇取得管理について教育する。
6)定時退社や年次有給休暇の取得促進を促す(回覧・メール・ポスター等の活用)
各種安全衛生運動等の時期に合わせて文書配布・ポスター掲示等の啓蒙活動や働き方休み方ポータルサイトの紹介、項目3の制度案内の回覧等の実施を検討する。
7)社員意識調査の実施
社員の意識調査を実施し、その結果を項目2の研修会で議題に取り上げて話し合いを行う。

また、提案いただいたその他の取組についても検討を行い、働き方・休み方の改善を推進したいと考えている。

(8)「働き方・休み方改善指標」活用の効果(結果)

項目4、「人事評価項目に労働時間及び休暇取得の適正管理に関する項目を盛り込む」の改善提案について、現在、人事制度の改訂を実施しており、評価項目案の中に、部下の業務改善指導や時間管理は盛り込まれている。ただし、改訂された制度による評価は来年度以降に行われる。
また、項目5の、「監督者向けの教育・研修を行う」の提案を参考に、管理監督者向けの評価に関する研修を開始した。一般向けの研修はこれからである。
働き方・休み方に関する実績値で確認すると、昨年度、労働時間が週60時間以上の雇用者が0%であったが、前年と同じ月に1.4%であった。繁忙時期に新たな受注が重なったことが原因である。予期できない業務の発生などがあり、労働時間の管理は難しいが、引き続き適正な労働時間に向けた取り組みを推進する。また、年次有給休暇の取得率は、前回より4.5%増加した。多様な取組が功を奏していると考えており、継続したい。
その他、これまで導入されていなかった日々の出退勤を入力(打刻)する勤怠システムを導入。時間管理の意識が高まっており、増員したにもかかわらず、事業所全体の総残業時間数は減少している。

(平成26年度事業)

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