M社(2014年度)

(1)企業概要

社名
M社(2014年度)
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業種/事業概要
金融業,保険業/総合金融事業
従業員規模
1,300名
本社所在地
愛知県
労働時間制度
始業終業時間 9:00~18:00(休憩1時間)、1日の所定労働時間 8時間
(顧客対応の部署であるコールセンターについては始業終業時間 8:45~17:45(休憩 1時間)))

(2)働き方・休み方改善に関するこれまでの取組と指標活用のきっかけ

1)これまでの取組
ノー残業デー、22時以降の残業原則禁止、上司への日次残業申請書提出の徹底、タイムマネジメント研修の実施、管理職も含めた労働時間の見える化を行ってきた。
保健師を直接雇用しており、月 70時間以上、又は2ヶ月連続で月 60時間以上残業した場合、保健師、産業医による面談を義務づけている。
年次有給休暇取得に関しては、リフレッシュ休暇を設定し、半期に 3日以上の取得を働きかけている。

2)「働き方・休み方改善指標」活用のきっかけ
長時間労働となる原因は、個人、マネジメント、職場、外部環境など様々な事情が重なっているため、どのような指標をもとに課題を設定していくかについて関心があり、加えて、特定した原因に対する対策について、どのようなアイデアがあるかについてアドバイスを期待する。

(3)働き方・休み方の現状・背景

1)人事部の課題認識
一部社員について、恒常的に長時間労働となっていること、時間管理対象外である管理職については適正な労働時間内で働くことを定着させることが課題となっている。

2)仕事特性と働き方・休み方の現状
①組織体制
組織体制は営業企画、営業推進、与信審査、債権管理、顧客対応(コールセンターなど)と本社機能からなる。
②仕事特性
社員は総合職と一般職からなる。
総合職は、企画業務のウエイトが高く、商品企画、マーケティング、営業企画、事務企画、本社管理業務が中心である。総合職の企画業務は非定型業務で、金融商品の企画、商品の企画やマーケティング、営業部隊の動かし方の企画等を行っている。
一般職は、事務、営業事務が中心で、コールセンターにおける顧客対応も行う。
一般職は、お客様対応のトラブルやクレーム対応で残業が発生することがあるが、基本的には窓口対応なので、トラブル等が無ければ定時で帰宅できるが、残業がある場合でも 1日 1時間程度であり、月間平均残業時間は 20時間以内となっている。
③働き方
部署における業務遂行上の課題としては、上司が与えた業務の目標が部下にとっては高すぎる場合がある。また、マネジメントラインで人事異動、産休・育休対応等の突発対応から残業が増加することがある。
個人の働き方の課題としては、仕事の進め方、タイムマネジメントの弱さ、抱え込みがち、もう少し上司に早めに相談すべき、仕事中心の価値観等がある。また、上司や同僚が働いていると、自分も働かなければならないという雰囲気が見られ、長時間働く人の下で働くとそのような価値観になる。さらに、やるべき仕事があり、その仕事を任せられる人がその人しかいないという問題がある。
このようなことから、管理職でも労働時間が短い人と極端に長い人が存在するため、バランスをとりたいと思っている。
このような状況は、会社としても、「仕事の属人化が進み、組織運営上のリスクが発生する」、「時間に制約のある社員が働き続けることが難しくなる」、「社員個人の疲労感が増し、健康被害につながる恐れがある」、「家族との時間や自己啓発する時間が持てない」などの問題につながると考えている。
適切な時間で働きながら、高いモチベーションを維持できるよう、単に時間を減らすのではなく、本質的な課題解決を目指したい。また、仕事に磨きをかけていくことが、その人の成長にとっても、また会社にとっても特に重要な時期があり、ワーク・ライフ・バランスを実現していく中で、仕事に磨きをかけていくとか、仕事上大変な経験を積むことが難しくなっている。成長に重要なその時に、その仕事を任せる場合には一時的に業務負荷が大きくなり、労働時間も増えることもある。それを避けてその仕事を任せないと、本人の成長機会を奪うとともに、会社の成長にとってもマイナスということもある。このような場合のワーク・ライフ・バランスをどのように考えるかも重要と考えている。
平成 25年 4月からは、年間の残業時間が 450時間を超える場合、上司は仕事の再配分を行い、残業が多い理由については、人事部が上司と本人に対しヒアリングを実施している。
④休み方
年次有給休暇取得に関しては、休暇が取得しにくい環境ではない。
3)その他
2010年以降、マネジメント層とその下の層に対し、任意で、仕事の優先順位づけに関する研修(仕事の緊急度、重要度のマトリックスを作成させ、業務改善を図るとともに、そういった視点を持つ人材を育成するための研修)を行っている。

(4)働き方・休み方に関する課題

1)働き方
社会全般的に、少子高齢化に伴い働き手が減少し、さらには介護と仕事の両立者が増加することにより、時間に制約のある社員の増加が見込まれる。社内においても、育児や介護で両立しながら働く社員は今後さらに増加していくものと予想される。
全社的に長時間労働ではないものの、一部の社員が恒常的に長時間労働となっている。管理職層は、コンプライアンスに則り 36協定の限度をしっかり意識し時間管理を行っているものの、業務課題や仕事が多々発生する中、結果的に、 36協定に定められた上限時間まで社員を働かせることになっている場合が散見される。社員の働き方としても、36協定に定められた上限時間などを前提に働いていることもある。

2)休み方
年次有給休暇取得に関しては、休暇が取得しにくい環境ではないものの、家族との時間や自己啓発を行う時間の確保のためにもリフレッシュできるよう、さらなる取組を検討したい。

(5)「働き方・休み方改善指標」診断結果

働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
「働き方・休み方改善指標」による診断結果は以下のとおり。
【労働時間】
労働時間が週60時間を超える従業員は0.6%であった。

→貴社の週労働時間60時間以上の雇用者の割合は、全国の雇用者の平均値である8.0%(従業員規模1000人以上のカテゴリ)及び国の定める目標値5.0%をクリアしているが、36協定で定める労働時間の延長に関する国の限度基準である1か月45時間を超える社員は13.1%となっている。
【年次有給休暇取得率】
年次有給休暇取得率は全社員平均で 72.3%であった。
→主要産業の平均値である 54.6%(従業員規模1000人以上のカテゴリ)及び国の定める目標値70%いずれも上回った。
貴社は、長時間労働の社員の割合、年次有給休暇の取得率ともに目標値を達成しています。引き続きこの状況を維持し、よりよい働き方・休み方の実現をめざしてください。なお、36協定で定める労働時間の延長に関する国の限度基準である1か月45時間を超える社員は13.1%で、改善の余地があります。
※「1ヶ月あたりの残業時間が80時間を超える社員の割合」を「週労働時間60時間以上の雇用者の割合」と見なした。
働き方
休み方

(6)課題の整理と改善提案

働き方・休み方に関する課題の整理と改善提案は以下のとおり。

指標項目
現状と課題
対策案
Vision(ビジョン)
項目1
方針・目標の明確化
ダイバーシティ、ポジティブアクションを推進し、働きやすい職場を目指していることについて社外にアピールされていない。
女性も男性も働きやすい職場づくりを実現する取組を対外的にアピール
残業が少なく働きやすい環境を実現することについて、対外的にアピールするため、 CSR報告書や統合報告書で実際に社員の働いている姿、活躍する姿を紹介するとともに、現状の働く環境と制度、働き方・休み方についての改善の取組を紹介する。女性が活躍する会社、働きやすい職場のイメージアップの PRにより、より良い人材の確保につながる。
System(システム)
項目3
改善促進の制度化
年次有給休暇の取得促進を図るため、半期に 3日以上のリフレッシュ休暇の取得を呼び掛けているが、これを充実する余地がある。
5営業日以上の連続した休暇の取得促進
期初に各人の休暇予定を各職場内で共有し、計画的に休暇を取得することを定着させる。その上で、リフレッシュ休暇による年次有給休暇の取得日数を現行の半期に 3日以上を 5日営業日以上の連続したリフレッシュ休暇に拡充する。計画的に休暇を取得することによって、土日をつなげて 9日の休暇となれば、リフレッシュに寄与するとともに、労働時間を削減することができる。
項目4
改善促進のルール化
管理職層は 36協定の限度をしっかり意識し時間管理を行っているものの、業務課題や仕事が多々発生する中、結果的に、 36協定に定められた上限時間まで社員を働かせることになっている場合が散見される。
また、上司・同僚が働いていると、自分も働かなければならないという雰囲気がある。
管理職の人事評価項目に人材育成及び部下の労働時間の項目を組み込む
企業としての長期的視点から人材確保・人材育成が重要であるため、マネジメント層を中心に、人事評価項目に人材育成を盛り込む。加えて、部下の労働時間を人事評価項目に盛り込むことにより、残業を発生させる労働時間管理について、厳しく評価する。
残業の多い部下を持つ管理職への改善促進
管理職が率先して定時退社をするよう指導することにより、部下が帰りにくい雰囲気を払拭する。
Action(アクション)
項目5
意識改善
管理職層は 36協定の限度をしっかり意識し時間管理を行っているものの、業務課題や仕事が多々発生する中、結果的に、 36協定に定められた上限時間まで社員を働かせることになっている場合が散見される。また、上司・同僚が働いていると、自分も働かなければならないという雰囲気がある。
マネジメント層の研修と意識改革(座学とグループワーク等の組み合わせ)
タイムマネジメント研修が実施されているが、より業務の効率化に向けた研修を行い、定時に仕事を終えることを前提とした仕事の割り振り・時間管理を行う。そのために、仕事遂行に必要な要素と部下の能力等を勘案して、社員の業務の効率化と仕事の割り振りを行い、必要に応じて適切に助言するなど、適正化を図るためのマネジメント力を高める研修を実施する。内容としては、事例研究、社内における課題と対策の討議など、座学に加えてグループワークなどによる実際に即した対策を考え、職場内で実践できる研修を行う。研修後、実践結果を検証するフォローアップ研修を実施することにより、意識を定着させる。
一般社員向け研修
36協定に定められた上限時間いっぱいに働くことを前提にするのではなく、効率的に仕事を遂行して早く退社し、家族と過ごす時間を大事にし、自己啓発や休養、趣味なども含めて、人間性を高めるために使うよう、教育や情報提供を行うことで浸透を図る。
項目7
仕事の進め方改善
仕事に磨きをかけていく際に残業が増える。一定の範囲内にとどめられるかが課題。
仕事の完成・成果の基準の明確化
どこからが過剰品質であるかは判断が難しいと思われるが、必要な範囲で一定の品質を達成するようにする。そのためには、仕事の完成・成果の基準の明確化を示すことが必要不可欠である。
育成のための一時的な業務負荷の識別とその後の業務負荷軽減
仕事に磨きをかけていく際に、一時的に業務負荷が大きくなることがあるが、それに伴う長時間労働を明確に育成のためと識別して必要なものに限定するとともに、その期間が過ぎた際には、負荷を軽減し、半年とか一年といった一定の期間の中ではワーク・ライフ・バランスを取れるよう工夫する。
知識やスキルの観点から職場内で仕事を分担できない状況が発生し、仕事が属人化している。
周辺領域も含めた広めの専門性の育成と業務の標準化
「任せられる人がその人しかいない」といった状況は、特定の社員の長時間労働や休暇が取得しにくい状況を発生させ、企業にとっても組織運営上のリスクに繋がっている。時間がかかっても、周辺領域を含めた広めの専門性の育成を行い、標準化できる業務については、マニュアル等を作成し、業務の平準化を図ることが必要である。相互フォローが可能な体制を作ることにより、休暇取得時の業務フォローアップに繋がり、退職や休職等の突発事項への体制作りにも繋がることが期待される。

(7)改善提案の活用

提案の活用、取組状況に関しては以下のとおり。
1)女性も男性も働きやすい職場づくりを実現する取組を対外的にアピール
既に取組み始めている。 2004年の短時間勤務制度導入を皮切りに、各種制度を充実させ、ポジティブアクション、両立支援の取組を社内外へ発信している。その結果、国や自治体などから表彰、認定等を受け、社員にとっても充実した制度のもとで働き続けられる安心感につながっている。今後も各種制度を活用しながら、意欲を持って主体的に働けるよう、利用者本人、職場への理解活動も推進していく。
2)管理職の人事評価項目に人材育成及び部下の労働時間の項目を組み込む
すぐに実施は難しいが検討したい。育児や介護をしながら働く(時間に制約のある)社員が増加するため、会社の生産性を高めるための一つとして評価方法を見直す方法があると認識している。ただし、評価項目に組み込む際、やり方によっては、むしろ意図しない働き方 (時間を短縮する一方、成果につながらない等 )も出かねないと考えており、どのように評価項目に組み込んだらよいか慎重に議論を重ねていく必要があると考えている。
3)残業の多い部下を持つ管理職への改善促進
取組を始めた。まずは、長時間労働の是正に向けて、長時間勤務者の在籍する職場に対し、理解を得るための活動や長時間労働の要因ヒアリングを実施し、現状を振り返ってもらうとともに、各職場において、上司と本人との対話を通じ、働き方の意識を変える、仕事のやり方や体制を見直す、メンバー育成の計画を立てるなどの取組を行っている。
4)仕事の完成・成果の基準の明確化
すぐに実施は難しいが検討したい。仕事の種類が異なるため、一律に仕事の完成・成果の基準を明確化することが困難であるが、長期的な検討課題としたい。
5)周辺領域も含めた広めの専門性の育成と業務の標準化
専門性をもった領域を持たせるため、新入社員から約 10年かけて専門領域を築く人材育成制度を進めている。

(8)「働き方・休み方改善指標」活用の効果(結果)

検討を開始した段階であり、効果の検証等はこれからである。

(平成26年度事業)

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