K社

(1)企業概要

社名
K社
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業種/事業概要
卸売業/スポーツ用品、ファッション製品の輸入販売
従業員規模
112名
本社所在地
東京都
労働時間制度
始業終業時間10:00~19:00(休憩時間1時間)。1日の所定労働時間8時間。
フレックスタイム制度

(2)働き方・休み方改善に関するこれまでの取組と指標活用のきっかけ

1)これまでの取組
フレックスタイム制度の導入や、非繁忙期の所定労働時間短縮、また、残業時間に関するレポートを用いて、上層管理者が部署内の残業時間の多い社員に対してヒアリングや注意喚起等を行っている。休暇については、リフレッシュ休暇の付与(連続休暇を年3日)を行っている。

2)「働き方・休み方改善指標」活用のきっかけ
社内では、「この業界は特殊だから、なかなか働き方を変えられない」という意識が浸透してしまっているため、外部(第三者)からの新しい視点によるアドバイスを期待している。

(3)働き方・休み方の現状・背景

1)人事部の課題認識
業界の特殊性もあり、多くの社員の繁忙期が一定のシーズンに集中している。
会社設立当初から、繁忙期はほとんど土日も就業し、休みが取得しにくい状況だったが、平均年齢が上昇してきており、子供を持つ社員が半数近くになっている中、持続的な勤務が可能な就労環境を作っていくことが課題である。

2)仕事特性と働き方・休み方の現状
①組織
組織は、セールス、マーケティング、リテール、サプライチェーン、カスタマーサービス、その他バックオフィスチーム(ファイナンスや総務、社内IT担当等)によって構成されている。また、役職は、「ディレクター」→「マネージャー」→「スタッフ」(マネージャー以上が部長・課長級の管理職)で構成されている。
②仕事特性
本社勤務が最も多く約80名、その他に、倉庫に約10名、店舗に7~8名配置されている。合計5店舗あるが、卸売りが売り上げの8~9割を占める。
以前は扱う商材の種類も少なく、限られた季節に全社の繁忙期が集中していた。現在は、商材の種類が増えたことで、会社全体でみると年間を通して繁忙期である。社員について言えば、部署(扱う商材)ごとに一年の中で繁忙期と非繁忙期がある。
③働き方・休み方の現状
主力商品の繁忙期には土日も休まず働く社員もいるが、一方で非繁忙期には毎日定時で退勤できている。年単位で見れば繁忙期の長時間労働が均されるが、非繁忙期でも、年次有給休暇の積極的な取得には至らない。
特に、セールスは土日勤務があるため、労働時間が増える傾向がある(平日を休みとするようなシフト勤務は無い)。また、マーケティングは平日の労働時間が深夜となることが多い。
社風として休みづらいことはないが、一部の社員は休まないことを美徳と思っており、生活が仕事中心で仕事に対する責任感が強く、休暇取得に対する意識の低い社員もいる。仕事の特性上、土日勤務が発生するため、休日の振替・取得の徹底を促進するための上司と部下のコミュニケーションを推進している。リフレッシュ休暇は、以前7月~9月が対象期間であったが、社員の意見を反映し、年間を通していつでも取得できるように変更した。
④マネジメント
トップから、長時間労働の抑制や年次有給休暇の取得促進について、全社的なメッセージ等は行われていない。また現在、長時間労働の抑制等への取組について特別な体制を整えてはいない。
各社員の長時間労働の状況等については、人事からディレクターに発信しているが、その後の指示系統にルールが無く、ディレクターはマネージャーに残業を減らす方法を考えるように指示するのみにとどまるため、具体的な部下の働き方改善には繋がっていない。マネージャー以上は、毎月残業に関するレポートとして、部下の長時間労働について確認できるシステムを持つ(45時間以上、80時間以上の2段階)。ただし、アラートが出ても必ずしもアクションを起こさなければいけないようなルールは無い。また、繁忙期を見越した増員等は積極的には行っていない。業務の棚卸が十分でなく、仕事の標準化について課題があると考えている。
残業を行う際の事前申請等のルールが無く、一部の社員は、残業代を生活費の一部として期待している。また、労働生産性を評価する仕組みがない。
働き方・休み方についての研修をはじめとする、マネージャークラスに対する研修はない。
目標に対する評価によって賞与などの処遇に大きく差が出るものでもない(1~2%程度影響)。また目標設定は軸が曖昧で、さらに、上長とのミーティングによって意識をすり合わせるのみであり、評価のフィードバックは行われない。
社員が自身の労働時間・休暇の取得などについてどのように考えているのか等を把握するための全社一斉の意識調査は行っていない。

(4)働き方・休み方に関する課題

1)働き方
子育て中の社員が半数を超え、ワーク・ライフ・バランスに根差した働き方・休み方が求められてきている(休み方共通)。
企業としては、年間を通して忙しくなってはいるものの、部署ごとに見れば繁忙期と非繁忙期は明確である。しかしながら、働き方・休み方改善に資する対策は取られていない(休み方共通)。
一般社員の長時間労働が把握できているにもかかわらず対策が取られていない。
仕事の質を正当に評価できる納得性の高い評価方法がなく、労働生産性が良くても(悪くても)、処遇に差が無い。
社員の働き方・休み方についての定期調査を行っていないため、意識の把握ができていない(休み方共通)。

2)休み方
繁忙期に土日勤務が発生するが、代休の取得が十分でない。また、非繁忙期が部署ごとに存在するが、その時期に年次有給休暇を取得しやすくするための実効性の高い取組がほとんど無い。
一部の社員に、「休みを取らないことが美徳」という意識が未だに存在する。

(5)「働き方・休み方改善指標」診断結果

働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
「働き方・休み方改善指標」による診断結果は以下のとおり。
【労働時間】
週労働時間60時間以上の雇用者の割合は0%であった。
→貴社の週労働時間60時間以上の雇用者の割合は、全国の雇用者の平均値である8.7%(従業員規模100~999人のカテゴリ)及び、国の定める目標値5.0%をクリアしているが、36協定で定める労働時間の延長に関する国の限度基準である1か月45時間を超える社員が14%いる。
【年次有給休暇取得率】
年次有給休暇取得率は全社員平均で41.2%であった。
→主要産業の平均値である43.4%(従業員規模100人~999人のカテゴリ)及び国の定める目標値70%を下回っている。
貴社の長時間労働の社員の割合は目標値を達成しているが、36協定で定める労働時間の延長に関する国の限度基準である1か月45時間を超える社員がいる。一方、年次有給休暇の取得率は平均値にも達していないことから、休み方の改善が強く求められる。そのため、休み方の改善を中心としながら、働き方についても改善策の検討を行う必要がある。
※「1ヶ月あたりの残業時間が80時間を超える社員の割合」を「週労働時間60時間以上の雇用者の割合」と見なした。
働き方
休み方

(6)課題の整理と改善提案

働き方・休み方に関する課題の整理と改善提案は以下のとおり。

指標項目
現状と課題
対策案
Vision(ビジョン)
項目1
方針・目標の明確化
長時間労働の抑制や年次有給休暇の取得促進を目的とした、トップからのメッセージが発信されていない。
効率的な働き方の推進についてトップがメッセージを発信
効率的な働き方およびメリハリのある働き方に向けた取組みについて、経営トップがメッセージを発信し、特に管理職層の意識づけを促す。
System(システム)
項目2
改善・推進の体制づくり
長時間労働の抑制及び年次有給休暇の取得の促進をすすめる社内体制が整っていない。
働き方・休み方改善に向けて社内体制を確立する、または、既存の組織において計画的に話し合う機会を設ける
労働時間等設定改善委員会等、労働時間や休みの取り方に特化して協議する委員会を設置する。あるいは、安全衛生委員会等の既存の委員会において、「働き方・休み方」の改善を安全・衛生の向上に資する内容として盛り込み、改善の推進を図る。
項目3
改善促進の制度化
繁忙期では無い時期に、業務に比較的余裕があることを認識するも、年次有給休暇の取得促進の取組等がなされていない。
1年単位の変形労働時間制度の導入
1年単位の変形労働時間制度の導入により、繁忙期とそれ以外の時期の休日の調整を行う。
シフト制の勤務を取り入れる
週末が忙しいことが分かっているのであれば、平日に所定の休日を取得できるように、シフト勤務を取り入れる。
就業規則に定めた所定の休日に柔軟性を持たせる
例えば所定の休日を、4月から9月までは土日祝日、10月から3月までは月・火曜日及び祝日の翌日にするなど、就業規則等に定める休日を業種の繁閑に合わせて定める。
項目4
改善促進のルール化
社員を正当に評価する方法が存在しない。
人事評価項目(または方針)を設定し、フィードバックを行う
時間ではなく、パフォーマンスが正当に評価される人事考課の仕組みを確立する。また、評価へのフィードバック体制を確立し、部下のパフォーマンス向上に資する基盤も確立する。評価制度の確立後、マネージャーに対し評価方法についての研修を行う。
マネージャーの人事考課と、部下の働き方・休み方がリンクしていない。また、会社は非管理職層の長時間労働等を把握できているが、改善の取組に活かされていない。
マネージャー層などの人事評価項目に部下の働き方・休み方についての項目を組み込む
社員の職務の棚卸を行い(項目7にも提案)、部下がワーク・ライフ・バランスを確保できているかについて、マネージャー層の人事評価の項目に組み込むことにより、マネジメント層に落とし込まれる長時間労働の情報や、アラートシステムを有効に活用し、部下の長時間労働の抑制に活かす。
繁忙期の土日勤務に対する代休の取得が進んでいない。
代休取得の徹底と管理職の人事評価とを紐づける
代休の取得率とマネージャークラスの評価を紐づけて、上司が部下に対して代休取得を促す体制を作る。また、前もって所定休日の出勤が確定しているなら、「休日の振替」を利用し、前もって所定休日の代わりにいつを休みにするのかを決める。
残業代を期待して、残業をしている社員がいる。
残業に「事前申請ルール」を設ける
マネージャーに対して事前に残業を申請して、その仕事について必要と認められた場合にのみ残業を許可するようにする。
Action(アクション)
項目5
意識改善
マネジメント研修が無いため、管理者のマネジメントが標準化されていない。
管理職に対するマネジメント研修を実施
管理職のマネジメントのレベルを標準化するための管理職研修を実施する。その内容に、管理職に期待される役割として部下(及び本人)のワーク・ライフ・バランスに関する項目を含める。
休まない=美徳と考えている社員がいる。
全社員に対する働き方・休み方の研修を行う
安全・健康に働き続けるためには、仕事を離れて適度にリフレッシュを行うことが必要であることや、休暇の取得が人事評価に悪影響を及ぼさないこと、休暇の取得によってもたらさせるメリット等を伝え、「休まない=美徳」という意識を変えていく。
項目7
仕事の進め方改善
仕事の標準化が十分にできていないため、外部人材を有効的に活用できていない。
仕事の棚卸及び手順書の作成により繁忙期対策を行う
業務の棚卸を行い、さらに業務手順書を作成する。
繁忙期等における、新規人材活用による働き方・休み方の改善促進に役立てる。
Check(チェック)
項目8
実態把握・管理
社員全体の働き方・休み方についての意識を把握する機会がない。
社員意識調査による働き方・休み方に対する意識の把握
「社員意識調査」を実施し、社員のモラール、働き方、評価、処遇について社員の意識を把握し、企業としての必要な施策検討の資料とする。これにより、長時間労働の抑制や年次有給休暇の取得促進の必要性をトップに訴える。

(7)改善提案の活用

提案の活用、取組状況に関しては以下のとおり。
1)働き方・休み方改善に向けた社内体制を確立する。または、既存の組織において計画的に話し合う機会を設ける。
部署ごとに繁忙期が異なるため、安全衛生委員会等の既存の組織における話し合いの結果を踏まえて、繁忙期の人員計画の見直しについて人事部門で検討し、部署間でサポートし合う関係作りを行う。
2)シフト制の勤務を取り入れる
繁忙期に土日勤務が多い社員に対し、シフト制を導入し、また、振替休日の利用を積極的に呼び掛けた。
3)全社員に対する働き方・休み方の研修を行う
2015年にタイムマネジメント研修を実施する予定である。

(8)「働き方・休み方改善指標」活用の効果(結果)

平成27年2月に提案いただいた後検討を開始した段階である。

(平成26年度事業)

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