H社(2014年度)

(1)企業概要

社名
H社(2014年度)
PDF
業種/事業概要
情報通信業/ネットワーク設計・構築・運営、ヘルプデスク業務等
従業員規模
1856名
本社所在地
東京都
労働時間制度
始業終業時間9:00~18:00(休憩1時間)、1日の所定労働時間8時間
常駐先によっては交代制シフト勤務で対応

(2)働き方・休み方改善に関するこれまでの取組と指標活用のきっかけ

1)これまでの取組
正社員と同様の待遇で勤務時間や日数の短縮ができるショート正社員(短時間勤務制度)、在宅勤務制度、地域限定社員などの制度を導入。また、社内勤務者向けにノー残業デーを週3日実施。
年次有給休暇取得奨励策として、「バースデー休暇」「アニバーサリー休暇」の設定。実際に取得した社員にインタビューを行い、その内容を社内ダイバーシティ通信(毎月1回)にて紹介。また、年次有給休暇の失効分の積立制度も導入。

2)「働き方・休み方改善指標」活用のきっかけ
多くの社員が他社へ常駐していることもあり、常駐先との連携も非常に重要だと考えている。その上で、目標としている年次有給休暇取得率の増加、時間外労働の削減、社員が不平等性を感じない制度の導入など、今後の働き方・休み方改善のヒントをいただければと考えている。

(3)働き方・休み方の現状・背景

1)人事部の課題認識
休暇の取得に関しては、社員への啓発が課題である。また、時間外労働の是正や年次有給休暇取得奨励、制度の拡充などを行っているが、年次有給休暇取得率が前年度よりも減少傾向であったため、現状で何がその原因となっているのか明確にしたい。

2)仕事特性と働き方・休み方の現状
①仕事特性
ICT(情報通信技術)エンジニアとして教育し、客先に派遣するというビジネスモデルで、社員の約7割が客先に常駐しているため、大きな特徴として、指揮命令権は常駐先(派遣先)にある。受託業務であれば人的資源割当・指揮命令系統等についての裁量が自社にあるため、人の配置、管理がしやすい。
②働き方
技術職(現場)は年度末が繁忙月となる。現場の勤怠はスマートフォンで管理しており、残業は申請と承認を要する(原則17時までに申請)。しかし、所定労働時間で退社しようと思ってもプロパーが帰らないと帰りづらい。
管理職の労働時間も適切に把握できており、管理職も所定外労働をさせていない。
本社内勤の繁忙月(年度末)も派遣社員を利用してシフト勤務で対応し残業をさせないようにしている。
③休み方
技術職(現場)の休日は、客先カレンダーによる。シフト業務(24時間365日)で交代要員がいない場合、不意の休暇は難しい。1か月前にシフトを組むため、所定の休日以外の休暇は取得しにくい。前もって計画されていれば、顧客の理解は得られるが、客先のプロパーが休まない場合休みづらい。また、長時間労働の場合、36協定の上限を超える場合に、顧客に申し出も行うが、年次有給休暇の取得促進については、顧客との労働投入量についての調整等は行っていない。
夏季休暇は、年次有給休暇を使用して取得するように勧めているが制度化されてはいない。また、特別有給休暇を設けているが認知度が低く取得が伸びない(私傷病休暇5日、子の看護休暇、生理休暇を有給にしている)
顧客は大手企業が多く、休みが十分にあり、自社の休みではない顧客の休みに合わせて社員が休む場合、年次有給休暇を充てて休むことができる現場もある。
年次有給休暇の計画的付与制度は導入していない。
残業はトップダウンで管理しやすいが、年次有給休暇は強制しにくいため管理が難しい。
④マネジメント
人を増やさずに業務だけを増やし、残業に繋がるような業務・部下マネジメントはトップが認めない。社員は7割が客先に常駐しているため、顧客に対してライフイベントに応じた対応や残業削減、職場環境の改善提案を実施しており、残業が減らない顧客との業務契約は継続しない(残業対策チーム(バーチャル)で残業量のチェックを行い、組織の長と、コア組織※の上長と、担当役員がついて、客先に改善申し入れ・本人の体調フォローを行う)。
社員の常駐は1名では行わせないよう、なるべくチームで派遣するようにしている(3~4名)。また、スキルパスも考慮し、一か所への常駐は長くならないように配置している。残業は36協定に従うため、客先で36協定の上限を超えた場合は申し入れを行う。
業務の棚卸を行って単純作業を明確にできれば、障がいのある方との業務分担が可能になると考えている。
管理職の評価に、部下の労働時間マネジメント、休暇の取得についてのマネジメントなど、管理職が部下の働き方・休み方を意識することに繋がる項目はない。また、一般社員についても、働き方・休み方を意識する研修などは行っておらず、特に年次有給休暇の取得の促進については、長時間労働の抑制に比べて実効性の高い取組がなされていない。
副社長が長時間労働ワースト50をメールで管理職に送り改善を促している(ワースト50のため、たとえ残業が20時間でも、ワースト50に載る場合もある※残業ゼロを目標としている)。
社長会議において、月1回長時間労働抑制・年次有給休暇取得促進についてのトピックがあり、出席した管理職はその内容を部下に伝達する。ただし、現状数値目標設定まで義務化されているわけではなく、発信が主であり、各部門長からの現状報告義務等はない。
※コア組織
業務上もしくは業務とは関係ない相談対応や各種フォロー、または会社の理念・制度や今後の方向性等に関しての情報共有を目的として、「コア(CORE)組織」という本部や部などの本来のライン組織(リアル組織)とは別の組織体系を設けている。このコア組織の最大の特徴は、「部下が上司を選べる」ことにある。自身が信頼している上司や先輩を自身が選ぶことで、コミュニケーションの円滑化とより強固な信頼関係をもった部下-上司(先輩)の関係を築くことができる(ホームページより抜粋)。
⑤その他
仕事に関する相談は相談担当を設けている(ダイバーシティ部員)。また、相談は社長に直接メールで行うこともでき、目安箱もある。
在宅勤務者あり(通勤時間を確保できない、通勤に身体・精神的な問題がある時等)。
アニバーサリー休暇(理由を問わず、年に何回でも取得可能で自身の年次有給休暇を充てる)を設けており、通常の年次有給休暇と同じように前日までであれば取得が可能である(ただ、給与ガイドラインには記載しているが、十分に浸透していない)。
ワーク・ライフ・バランスアンケート(WLBアンケート/年1回実施)の結果は、各設問に対して「どちらかというと満足」の回答が多い(60%程度)。技術者は次の常駐先を選ぶ際に、どのようなスキルアップができる職場なのかを第一に考えているなど、残業量や休暇などを含め、ワーク・ライフ・バランスについての認識は低い。
自己啓発の勉強会(業務外)を、コア組織で行っている。客先常駐の社員が、勉強会で本社に来ることで帰属意識も生まれている。

(4)働き方・休み方に関する課題

1)働き方
事業の性質上、常駐先企業の文化・慣例に自らの働き方・休み方が大きく左右される(休み方共通)。
トップダウンをさらに有効に活用できる余地がある(休み方共通)。
管理職への、ワーク・ライフ・バランスに対する意識づけが十分ではない。また、一般社員へのワーク・ライフ・バランスに対する意識づけも十分ではない(休み方共通)。

2)休み方
働き方・休み方について人事の意識は高く、取組も行っているものの、長時間労働の抑制に比べ年次有給休暇の取得促進に資する取組は多少手薄である。

(5)「働き方・休み方改善指標」診断結果

働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
「働き方・休み方改善指標」による診断結果は以下のとおり。
【労働時間】
週労働時間60時間以上の雇用者の割合は0.2%であった。
→貴社の週労働時間60時間以上の雇用者の割合は、全国の雇用者の平均値である8.0%(社員規模1000人以上のカテゴリ)及び、国の定める目標値5.0%をともにクリアしている。36協定で定める労働時間の延長に関する国の限度基準である1か月45時間を超える社員は2.6%である。
【年次有給休暇取得率】
年次有給休暇取得率は全社員平均で57.1%であった。
→主要産業の平均値である54.6%(社員規模1000人以上のカテゴリ)を上回るものの、国の定める目標値70%を下回っている。
貴社の長時間労働の社員の割合は目標値を達成しており、36協定で定める労働時間の延長に関する国の限度基準である1か月45時間を超える社員も少ない。一方、年次有給休暇の取得率は平均値をクリアしているものの目標値には達していないことから、休み方の改善が求められる。そのため、休み方の改善を中心としながら、働き方についても改善策の検討を行う必要がある。
※「1ヶ月あたりの残業時間が80時間を超える社員の割合」を「週労働時間60時間以上の雇用者の割合」と見なした。
働き方
休み方

(6)課題の整理と改善提案

働き方・休み方に関する課題の整理と改善提案は以下のとおり。

指標項目
現状と課題
対策案
Vision(ビジョン)
項目1
方針・目標の明確化
全社・部署・個人等で残業時間や年次有給休暇の取得日数などの数値目標が設定されていない。
トップダウンによるメッセージ発信と数値目標の設定をリンクさせる
社員の健康配慮等に対するトップの意識が高く、長時間労働抑制・年次有給休暇の取得促進についても一定のメッセージ発信がなされており、トップダウンが有効に機能している。
そこで数値目標をトップのメッセージに加えることでもう一段の取組推進が可能である。全社的な数値目標の設定が困難な場合は、部署にごとに目標設定を行う方法も考えられる。
System(システム)
項目2
改善・推進の体制づくり
長労働時間の抑制に比べて、年次有給休暇の取得促進についての体制が、明確にされていない。
年次有給休暇の部門別の取得状況の共有
社長会議において長時間労働抑制・年次有給休暇の取得促進がトピックとなる回(月1度)に、年次有給休暇の取得率について各部門長に報告を求める。また、管理職会議において、管理職は毎月の休暇取得率を上長に報告する。さらに、そのデータをもとに、年次有給休暇の取得対策を衛生委員会等における審議事項とすることにより、取得率の部署間の差を埋めるような意識の摺合せを行う。
項目3
改善促進の制度化
アニバーサリー休暇、夏季休暇など、計画的な休暇の取得促進がなされていない
年次有給休暇の計画的付与制度の導入による休暇の取得促進
年次有給休暇の計画的付与制度を導入し、例えば、アニバーサリー休暇を個人別付与(四半期誕生月休暇、半期誕生月休暇等)の対象、夏季休暇を一斉付与(7月から10月までに5日程度の連続する休暇等)の対象とし、年次有給休暇の取得促進を図る。
項目4
改善促進のルール化
管理職の人事考課(評価)は、部下の長時間労働抑制・年次有給休暇取得促進とリンクしていない。
人事評価項目に部下の労働時間・休暇取得状況の項目を組み込む
管理職の人事考課における評価項目に部下の労働時間、年次有給休暇取得率を組み込む。
客先に派遣している社員は、客先の社員が残っていると帰りづらい。
36協定における延長することができる時間の上限を5時間減らす
36協定における延長することができる時間の上限を現行より引き下げて締結する。月5時間の短縮でも、一定時間内で同じ成果を出すためには生産性を考えて行動する意識は大きく働き、また、本人の意思とは関係ない居残り残業について、36協定における延長することができる時間の上限を理由に、現場でも退社を促すことが可能となる。
Action(アクション)
項目5
意識改善
長時間労働の抑制・年次有給休暇の取得促進を進めるにあたり、社員向けに教育・研修が行われていない。
社員向けの教育・研修を行う
多くの社員が自身の働き方について、ワーク・ライフ・バランスよりスキルアップに重きを置いているため、長時間労働を厭わない傾向にある。しかし、長時間労働は、業務効率の低下やメンタルヘルスに悪影響を及ぼす可能性が高くなる。そこで、長時間労働と健康・業務効率の関係などを社員に認知してもらうため、全社員の受講を義務とするEラーニングなどによる教育にて周知する。
項目6
情報提供・相談
年次有給休暇の取得率の低い社員に対して、積極的な取得促進や情報提供は行われていない。
副社長が4半期ごとに改善促進メールを送信する
現在行われている副社長から管理職に対する長時間労働ワースト50に関する改善促進メールを拡大し、年次有給休暇取得の状況についても社員自身の認識を明確にして、休暇取得促進に向けての意識を高めるため、一定水準(目標)を下回る者についても対象とする。
項目7
仕事の進め方改善
年次有給休暇の取得促進を目的とした取引先との関係調整が行われていない。
年次有給休暇取得促進を目的とした取引先との関係見直し
一定期間ごとに年休の取得計画を作成し、取引先(派遣先)に対して年次有給休暇取得促進に向けた取組を説明し、配慮と理解を求める。

(7)改善提案の活用

提案の活用、取組状況に関しては以下のとおり。
1)トップダウンによるメッセージ発信と数値目標の設定をリンクさせる
トップに、メッセージに数値目標を入れることの了承を得た。
これから具体的な数値目標の算出を行なう。
2)人事評価項目に部下の労働時間・休暇取得状況の項目を組み込む
2016年の人事評価項目に追加する。
3)社員向けの教育・研修を行う
2015年、管理職会議でテーマとして取り上げる。
全社員が受講するEラーニングも検討したい。
4)副社長から、4半期ごとにメールを送信する
副社長に、メッセージ配信の了承を得た。
ターム、配信内容についてはこれから検討する。

また、提案いただいたその他の取組についても検討を行い、働き方・休み方の改善を推進したいと考えている。

(8)「働き方・休み方改善指標」活用の効果(結果)

項目6、「副社長から四半期ごとにメールを配信する」の改善提案を参考に、月残業45時間以上の社員リストを人事部から管理職全員へ配信を実施した。また、残業の多い社員に、直属の上長以外の管理職を担当につけ、働き方をフォローする取り組みを副社長の下で実施した。1ヶ月あたりの残業時間が6月以外、全て前年同月より削減された。
また、「トップダウンによるメッセージ発信と数値目標の設定をリンクさせる」との提案を参考に、次世代法の一般事業主行動計画として数値目標を公表した。2017年12月31日までに年間1人あたりの所定外労働時間を110時間以下、有給休暇取得率を65%以上にすることを目標としている。
働き方・休み方に関する実績値で確認すると、昨年度、労働時間が週60時間以上の雇用者が0.2%であったが、1年経過した現在は0%となった。また、年次有給休暇の取得率は、前回57.1%であったが62.6%に大きく改善した。上述の行動計画の目標達成が目前に迫っており、従業員の働き方・休み方に対する意識の変化が、数字に表れていることを実感している。

(平成26年度事業)

事例を評価する