G社(2014年度)

(1)企業概要

社名
G社(2014年度)
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業種/事業概要
卸売・小売業/水産卸売事業
従業員規模
58名
本社所在地
大阪府
労働時間制度
1ヶ月単位の変形労働時間制を採用。

(2)働き方・休み方改善に関するこれまでの取組と指標活用のきっかけ

1)これまでの取組
所定時間外労働の管理として、内勤スタッフは2時間の休憩を日々取得出来る業務管理の指導を行っている(全社員9時間拘束で休憩時間2時間、所定労働時間は7時間である)。卸売事業部の働き方は、出荷時間に依存し休憩時間をまとめて取ることが難しかったため、アルバイトを採用することにより作業の分配を行った。

2)「働き方・休み方改善指標」活用のきっかけ
長時間労働の抑制や公休日の完全取得意識の向上について具体的な改善策に取り組み、成果を全社員が共有して働くことへのモチベーションの更なる向上を目指すために活用したいと考えた。

(3)働き方・休み方の現状・背景

1)人事部の課題認識
勤務時間帯が深夜(仲卸)・昼勤(内勤)と分かれており、課題として次の5つが認識されている。
・水産加工品はいわゆる「日販品」が多く、日次発注量の変動があるため、これを吸収すべく労働時間が長くなる傾向にある。特に繁忙期の年末年始は、シフトを組んで8時間の3交代勤務を導入している。
・社員の高年齢化が進む一方で20代の若手社員が少なく、特に仲卸部門で社員の負荷が増大している。
・深夜に働く卸事業部社員の就労支援をどのように行うか。
・人手不足により新人教育研修を行う社員がいない(同業界・業務の経験のない、新規学卒社員を受け入れる体制・環境が整っていない)。
・昇進昇格基準、賃金テーブルが不明確である(中途採用者はスキルによって個別に賃金額が決定される)。
上記各項について、特に重視すべきは、仲卸に関する人材確保と考えている。20代~30代の魚好き、営業もできる社員が欲しいが働き方や就労環境の面で求職者から敬遠されている可能性がある。

2)仕事特性と働き方・休み方の現状
①仕事特性
・水産卸売事業
母体事業であり、仲卸(市場で魚を買い付けて販売する)を担う事業部。ただし、近年は魚丸一匹をそのまま横流し的に販売しても若い一般の主婦層には売れない。外食産業においても半調理状態の食材が求められ、別項の水産加工事業も連続的に手がけている。また、仲卸はいわゆる「せり」のみではなく、日々帳簿管理(合わせ)を行い、商社的観点での業務遂行力(営業力含む)も必要とされる。また、業務に必要な鮮度の目利きは社員が経験によって体得する能力である。
・水産加工事業
魚のフィレ加工(3枚おろし、真空パック)をメインに手がけている。海外輸出にも着手し、成長事業と位置づけている。加工業務は、仲卸担当の社員が行っている。加工品であるフィレはチェーンのすし店などに人気があり、売り上げは安定している。
②働き方
所定外労働が月80時間を超える社員が見られ、50時間~60時間は頻出の状況。特に卸売事業部の長時間労働が目立つ。
部門を問わず、現場の社員はアルバイト管理を行っているが、社員は状況に応じてアルバイトの穴埋めをするプレイングマネージャー型の管理スタイルであり、特にマネジメント研修を行っているわけでもない。就労時間を短くするために増員を考えたとしても、人材が集まらないという悩みがある。
③休み方
仲卸の社員については特に人手が不足しており、連続休暇等の年次有休暇の計画的付与は不可能な状況にある。
④その他
部門・職種間のコミュニケーション機会として月次の会議があるが出席は任意であり、横の連携を強める効果は限定的。
求人媒体で正社員の求人(深夜時間帯、中央市場、魚の卸)広告を出すがエントリーは少ない。大阪府・大阪市の合同企業説明会に出店すると数人の現場見学エントリーがあるが、現場見学後辞退されるケースが多い。
同地域・同規模の企業と比較して賃金水準は高いが、初めて現場を見るといわゆる「3K」に近い印象をもたれやすい。
安全衛生委員会(議長:社長)を月一回開催している。
社員の悩みや不満については、その都度人事担当者が聞き取り、相談にのるが、全社の実態把握、予防的な情報収集等の意識調査は行っていない。

(4)働き方・休み方に関する課題

1)働き方
慢性的な人材不足により、長時間労働であり、休暇の取得も難しい状態である(休み方共通)。
社員の意識を把握する手段がないため、長時間労働・年次有給休暇取得等の現状について、社員がどのように思っているか把握できていない(休み方共通)。

2)休み方
年次有給休暇の取得推進に向けた取り組みは、これまでほとんど行われていない。

(5)「働き方・休み方改善指標」診断結果

働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
「働き方・休み方改善指標」による診断結果は以下のとおり。
【労働時間】
週労働時間60時間以上の雇用者の割合は15.8%であった。
→貴社の週労働時間60時間以上の雇用者の割合は、全国の雇用者の平均値である9.3%(社員規模30人~99人のカテゴリ)及び、国の定める目標値5.0%ともにクリアできていない。
【年次有給休暇取得率】
年次有給休暇取得率は全社員平均9.5%であった。
→主要産業の平均値である40.1%(社員規模30人~99人のカテゴリ)及び、国の定める目標値70%を下回っている。
貴社は長時間労働の社員の割合、年次有給休暇の取得率ともに平均値にも達していないため、働き方・休み方の改善が強く求められる。
※「1ヶ月あたりの残業時間が80時間を超える社員の割合」を「週労働時間60時間以上の雇用者の割合」と見なした。
働き方
休み方

(6)課題の整理と改善提案

働き方・休み方に関する課題の整理と改善提案は以下のとおり。

指標項目
現状と課題
対策案
Vision(ビジョン)
項目1
方針・目標の明確化
年次有給休暇取得促進に向けて、経営トップからメッセージ発信がなされていない。
年次有給休暇取得に係る方針・取組についてトップがメッセージを発信
組織として年次有給休暇取得に取り組むために、事業運営上の課題の一つとして、年次有給休暇取得促進に向けた取組みについて、トップがメッセージを発信する。
慢性的な人手不足であり、既存社員への負荷増大、若年層採用不調による年齢構成の高齢化を招いている。
働きがいのある職場について対外的にアピール
一般的な求人媒体や企業説明会だけではなく、自社の「しごと」を魅力的に伝える工夫が必要。卸売り事業部の商社機能のPR(大企業に勝る「目利き」の力)を行う。また、採用ターゲットを中途・経験者主体から若年層(例:関連の専門高等学校長協会加盟校への採用活動等)にも広げてPRを実施しつつ、若年層、未経験者に対する指導体制の確立を行う。
いわゆる「3K」に近い印象を持たれやすいことから、働き方や就労環境の面で求職者から敬遠されている可能性がある。
家族・求職者向けイベントの企画・仕事内容のアピール
家族・求職者参加型の社員イベント、職場見学会や取引先協力の下でのフードチェーン見学等を通じて、社員の家族や求職者へ同社業務の理解を促すとともに、社員にさらに「誇り」を感じてもらえるよう工夫する。
System(システム)
項目2
改善・推進の体制づくり
各職場を統括する管理職のマネジメントスキルが標準化されておらず、十分な管理がなされていない。
管理職を含めたマネジメント体制の確立
各事業場、各部門における社員の稼動管理、収益管理等を担う管理職を選任・任命する。
項目4
改善促進のルール化
明確な賃金テーブルが存在せず、昇進昇格基準、スキル基準等も不明確である。
賃金テーブル・スキル基準等を明確化する
全社員が適用される基本的な賃金テーブルを作成し明示する。また、昇進昇格基準、スキル基準(他社での勤務経験を自社での勤務年数に換算する客観的な数式を用意するなど)の明確化を行う。
Action(アクション)
項目5
意識改善
各自の技術、腕前で仕事をしている部分があり、各部門・職種のリーダー役も技術の高低で評価されるため、組織マネジメントの巧拙に配慮した人事とはなっていない。
現場リーダーのマネジメント力の向上
各部門・職種リーダー役のマネジメントのレベルを向上させるため、リーダー研修を実施する。その内容に、リーダーに期待される役割の一つとして人材育成及び部下のワークライフバランスに関する項目を含める。
こうしたマネジメント力向上を通じて、将来の管理職候補を育成する(各リーダーに自覚を促す)と共に、後進(アルバイトを含む)への指導力を高め、若年層の採用力向上、アルバイトの正社員転換の促進、離職防止につなげる。
Check(チェック)
項目8
実態把握・管理
社員の悩みや不満については都度人事担当者が聞き取り、相談に乗る等しているが、全社の実態把握、予防的な情報収集等の意識調査は行っていない。
社員意識調査の実施
社員意識調査を行う。
働き方、仕事のやりがいや将来展望等への不満を把握し、離職の原因を分析するとともに、現在の社員の不満の原因を取り除くことで将来的な離職の減少、定着率の向上を図る。

(7)改善提案の活用

提案の活用、取組状況に関しては以下のとおり。
1)年次有給休暇取得促進に向けて、経営トップからメッセージ発信
年次有給休暇取得促進に向けて、経営トップが定例ミーティング等で、情報の発信を行う事を検討している。
2)管理者を含めたマネジメント体制の確立
平成27年度社内研修会のテーマとして、マネジメントスキルの標準化に向けた、プレイングマネージャー向けの研修の実施を予定している。
3)賃金テーブル・スキル基準の明確化
平成27年4月期からの試験運用を目標に、評価基準及び賃金制度を構築中。
4)現場リーダーのマネジメント力の向上
現在構築中の評価基準に内容を盛り込み、指導教育も進めていく。

また、提案いただいたその他の取組についても検討を行い、働き方・休み方の改善を推進したいと考えている。

(8)「働き方・休み方改善指標」活用の効果(結果)

項目1、「家族向けイベントの企画・仕事内容のアピール 」の改善提案 については 、現在、給与明細を配布する封筒に 社内報 (毎月 社長が作成)と、総務部が作成するお知らせを同封している。イベント企画は現在のところ出来ていないが、社内各部署の仕事の内容等を掲載して、家族に対するアピールを進めている。
また、項目4として提案いただいた、「賃金テーブル・スキル基準等を明確化する」については、評価基準内容及び新賃金制度を構築し、平成27年4月から試験運用を行った。その結果、修正が必要な課題が見つかったため現在再構築を行っている(H28.3月現在)。
働き方・休み方に関する実績値で確認すると、昨年度、労働時間が週60時間以上の雇用者が15.8%であったが、1年経過した現在は5.5%となった。また、年次有給休暇の取得率は、前回9.5%であったが30.0%に大きく改善した。自社の取組の推進に伴う、従業員の働き方・休み方に対する意識の変化が、結果に繋がっている。

(平成26年度事業)

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