F社(2014年度)

(1)企業概要

社名
F社(2014年度)
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業種/事業概要
製造業/農林業機器、環境・産業機械の開発、製造、販売及び海外グループ会社製品の輸入販売及びそれに付帯する消耗品・部品の販売並びに修理
従業員規模
473名
本社所在地
埼玉県
労働時間制度
始業終業時間 本社及び工場 8:15~17:00(休憩45分)
研究開発部門 フレックスタイム制(コアタイム:10:00~15:00)
営業部門 事業場外みなし労働時間制度 9:00~17:45(休憩45分)
1日の所定労働時間8時間

(2)働き方・休み方改善に関するこれまでの取組と指標活用のきっかけ

1)これまでの取組
育児・介護休業制度の中に育児のための所定労働時間の短縮制度を導入した後、2012年に対象期間を小学校入学時から3年生終了時まで延長した。
育児支援をベースに社員(特に男性)への啓発活動を進め、2011年には「くるみん※」の取得、2013年に埼玉県多様な働き方実践企業(ゴールド)に認定を受けた。
労使ワーク・ライフ・バランス委員会を開催して、働き方・休み方、また育児・介護の在り方及びより良い改善施策に向けて、労使で議論を深めている。
※次世代育成支援対策推進法に基づき、行動計画を策定した企業のうち、行動計画に定めた目標を達成し、一定の基準を満たした企業が、申請を行うことによって「子育てサポート企業」として、厚生労働大臣の認定を受けることができるものです。

2)「働き方・休み方改善指標」活用のきっかけ
2007年に外資系企業となったが、従来の日系企業としての体質・職場風土が抜け切れず、ワーク・ライフ・バランス委員会という社内の協議・検討だけでは、残念ながら真の意味でのワーク・ライフ・バランス実現に限界を感じていた。世の中のトレンドや客観的な視点でのアドバイスが、相乗効果を生みだしてくれることに期待している。

(3)働き方・休み方の現状・背景

1)人事部の課題認識
土日週休2日制でありながら、外回りの営業部門はピークシーズンに土日の展示会イベントが多く、代休取得を優先する為、年次有給休暇の取得率が低調となっている(特定の部門のみ年次有給休暇取得率が低い)。
今後増加が予想される介護休業・家族の介護のための所定労働時間の短縮制度について、当社実情に則した制度改善が必要。
ゴールが明確でない会議や生活残業が目立つため、タイムマネジメントに根差した仕事・会議の進め方の改善が求められる。
業務の棚卸「見える化」ができればよい(負荷・効率性を見ることができる)。

2)仕事特性と働き方・休み方の現状
① 組織体制
職種:海外営業・マーケティング・営業企画・国内営業・生産・開発・コンストラクション(産業機械)・経理・人事
本社工場には、生産・開発・営業・事務部門があり、支店が全国に点在。
② 働き方
春・秋が繁忙期であり4~5月は生産、営業は特に忙しく、冬は比較的落ち着いている。
営業は、事業場外みなし労働時間制度を適用し、勤怠管理はシステム化しているが、運用が徹底されていない。一人の営業担当者が一県を任されている場合もあり、売れる・売れないに関係なく顔を出す付き合い(顔を売る)が重要な業務もある。
研究開発部門は、以前は専門業務型裁量労働制であったが、メリハリがない、やらないよりやったほうがまし..という考えが残っており、長時間残業に陥りやすいことから通常の時間管理に戻した。1月当たりの残業時間が、労使協定の上限時間より少しだけ少ない時間の社員が多い(例えば労使協定の上限が45時間であれば、実の残業が44.5時間など)。さらに研究開発部門の特徴として、高品質志向があり、英語ができる社員には自身の役割ではない仕事が回ってくる(翻訳・通訳)。
海外相手先の時間に合わせて電話会議などが設定される。
③ 休み方
年次有給休暇を完全取得する社員がいる一方、ほとんど取得しない社員がいるため格差が大きい。
生産部門や事務系は他の部署に比べて年次有給休暇の取得が進んでいるが、支店は、イベントが多い時期は所定休日の土日に出勤し代休を取得することがあるので、それ以上の休暇の取得の推進ができていない状況である。そのため、年次有給休暇取得日数が5日未満の社員50人のうち30人以上が支店の営業職である。
部署ごとの年次有給休暇取得率にインセンティブを与えている(一定期で連続5日+1日をグループで80%達成すれば、グループ内社員全員に1,000円分のクオカードを進呈)。ただし、年次有給休暇の取得が少ない場合に、会社から社員個人に対して取得の促進に繋がるアクションを取ることはしていない。
育児休業からの復帰率は100%である。また、フルタイム労働への移行後も退職する社員は無い。
2007年から男性4名が育児休業を取得したが、男性の育児休業取得に対して職場の理解が進んでいるとは言えない状況である。
④ マネジメント
現在の人事制度は従前属していた国内大手企業から引き継いでいるものである。
長時間労働の抑制に関しては、労使で議論する機会にトップメッセージは常に発信されているが、年次有給休暇の取得促進についてトップからメッセージの発信はない。タイムマネジメントはまだ改善の余地があると考えており、会議での時間管理については、ファシリテーター研修を行っ ている。しかし、部下の労働時間管理について、36協定における労働時間の限度は守らなければならないと考えるグループ長はいても、効率よく働くことを意識しているグループ長はおらず、マネジメント層に対する評価に、部下の適正な労働時間の管理や年次有給休暇の取得促進に資する項目はない。
工場など一部の部門では、時間を気にせず残業を行う社員の評価が高い傾向もあるようである(評価者訓練は行っていない)。
管理職・非管理職に対する長時間労働の抑制や、年次有給休暇の取得促進を目的とした研修は行っていない。
社員満足度調査を実施しているが、長時間労働及び年次有給休暇に対する意識を把握できる項目はない。
労使による「ワーク・ライフ・バランス委員会」及び、分科会(育児介護分科会、時短分科会)を開催している。
業務の平準化(多能工化)が進んでおらず、誰かが休むと困る状況にある。
⑤ その他
国内大手グループ企業の時は学生の応募が多かったが、社名が変わってから応募が少なくなった。
また、外資系グループ企業になってから、社内資料作成の業務が増えた。

(4)働き方・休み方に関する課題

1)働き方
マネジメント層の、部下の労働時間や休暇に関する管理意識が低い。
社員を適正に評価するシステムがなく、長時間労働を是とする考え方が残る。
働き方・休み方についての社員の意識が把握できていない。

2)休み方
閑散期をうまく利用した休暇の取得促進がなされていない。

(5)「働き方・休み方改善指標」診断結果

働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
「働き方・休み方改善指標」による診断結果は以下のとおり。
【労働時間】
週労働時間60時間以上の雇用者の割合は0.3%であった。
→貴社の週労働時間60時間以上の雇用者の割合は、全国の雇用者の平均値である8.7%(社員規模100人~999人のカテゴリ)及び、国の定める目標値5.0%ともにクリアしている。
(36協定で定める労働時間の延長の限度基準である1か月45時間を超える社員は1.8%いる。)
【年次有給休暇取得率】
年次有給休暇取得率は全社員平均58.4%であった。
→主要産業の平均値である43.4%(社員規模100人~999人のカテゴリ)をクリアするが、国の定める目標値70%を下回っている。
貴社の長時間労働の社員の割合は目標値以上だが、36協定で定める労働時間の延長に関する国の限度基準である1か月45時間を超える社員が存在しているため、働き方の改善が求められる。また、年次有給休暇の取得率は目標値に達していないことから、休み方の改善が求められる。
※「1ヶ月あたりの残業時間が80時間を超える社員の割合」を「週労働時間60時間以上の雇用者の割合」と見なした。
働き方
休み方

(6)課題の整理と改善提案

働き方・休み方に関する課題の整理と改善提案は以下のとおり。

指標項目
現状と課題
対策案
Vision(ビジョン)
項目1
方針・目標の明確化
長時間労働の抑制についてトップがメッセージを発するものの、社員に浸透していない。また、年次有給休暇の取得促進についてはメッセージが発信されていない。
トップの発信したメッセージを明文化し全社員に発信する
長時間労働の抑制及び年次有給休暇の取得促進に関するトップからのメッセージを明文化し、さらに、経営方針・人事の方針等にトップの方針を反映させることで、全社員に浸透させる。
System(システム)
項目3
改善促進の制度化
閑散期が把握できているにもかかわらず、営業は所定休日に労働したことに対する代休名目の休暇を平日に取得するのみにとどまっている。
年次有給休暇の計画的付与を実施する
閑散期が把握できているにもかかわらず、営業職で年次有給休暇の取得が進んでいないことから、閑散期である冬季に、年次有給休暇の計画的付与日を設定し、年次有給休暇の取得促進を図る。また、管理部門等、年次有給休暇の取得が比較的進んでいる部署もあるため、対象は全社に限らず、部署、グループなど適正な運用ができるように選定する。
項目4
改善促進のルール化
人事評価項目に部下の労働時間及び休暇の適正な管理について、盛り込まれていない。
人事評価項目にワーク・ライフ・バランスに関する項目を盛り込む
適正な労働時間の管理、年次有給休暇の取得促進は、社員の労働生産性・質の向上、優秀な人材の確保その他さまざまな効果が期待できる。このため、マネジメント層を中心に、人事評価項目にワーク・ライフ・バランスについての項目を組み込み、マネージャー本人そして部下の長時間労働の抑制や年次有給休暇の取得を促進させる。
Action(アクション)
項目5
意識改善
長時間労働の抑制や年次有給休暇の取得促進に向けた社員向けの研修が行われていない。
社員向けの教育・研修を行う
長時間労働は仕事効率の低下を生み、健康障害リスクをも潜在させる。そこで、長時間労働と健康・仕事効率の関係、仕事以外の時間の重要性などを、社員に認知してもらうため、全従業員の受講を義務とする教育・研修を行う。また、支店長(管理職クラス)については、部下の労働時間、休暇取得の適正な管理を、評価項目に盛り込み、一定のワーク・ライフ・バランスの促進に、強制力を持たせる。
評価者訓練を行っておらず、未だに長時間労働を是とする管理職が存在する等、旧来の評価者資質が残っている。
評価者訓練の実施
適正な評価を行うための、評価者訓練を行う。「毎日遅くまで働いている、年次有給休暇を取得せずに頑張っている」など、評価者の私見のみによるような評価ではなく、労働生産性・会社への貢献度が適正に反映されるような評価を行うよう、評価方法を標準化する。
項目7
仕事の進め方改善
社員個別の業務負荷がはっきりしない。
仕事の棚卸を行う
仕事の棚卸により各人の業務負荷を見える化し、長時間労働に繋がるような重負荷業務については調整を行い業務を平準化する。負荷調整はメンタルヘルスにも有効に作用し、また、仕事が棚卸できれば、職務価値の分析、職務評価にも利用できる。また、会社への貢献度を基準とした評価を行うための基礎ともなる。
年次有給休暇の取得率の低い社員に対して、積極的な取得促進や情報提供は行われていない。
年次有給休暇取得率の低い社員を持つ上司に対して、一定期間ごとにメールを配信する
年次有給休暇取得率や取得日数の目標値を定め、目標を下回る場合、直属上司に対し、メールにて警告を行う(項目4の評価にも関連)。※警告対象の他の例:一定の目標値(例えば第1四半期では15%、第2四半期では35%…等)の未達成者を部下に持つ上司等もある。
Check(チェック)
項目8
実態把握・管理
労働時間・年次有給休暇について、全社員の意識を把握する機会が無い。
社員意識調査の実施
既に行われている社員意識調査に、自身の労働時間や帰りやすさ、休みの取り方・取りやすさなどについての調査項目を追加し、従業員が現在の働き方・休み方にどのような意識を持っているかを把握する。

(7)改善提案の活用

提案の活用、取組状況に関しては以下のとおり。
1)トップの発信したメッセージを明文化し全社員に発信する
明文化はこれからであるが、社長の年頭方針の中でワーク・ライフ。バランス、残業時間削減について言及した。
2)評価者訓練の実施
管理職研修の中に取り入れ、実施を検討中。
3)仕事の棚卸を行う
モデル職場を設定のうえ、仕事の棚卸をして、標準化を進め、他部門・部署へ水平展開する。
4)年次有給休暇取得率の低い社員を持つ上司に対して、一定期間ごとにメールを配信する
年次有給休暇の計画的付与未取得者がいる上長に対して、年度末までに取得ができるように、取得促進の連絡メールを労使で発信した。

また、提案いただいたその他の取組についても検討を行い、働き方・休み方の改善を推進したいと考えている。

(8)「働き方・休み方改善指標」活用の効果(結果)

項目3、「年次有給休暇の計画的付与を実施する」の改善提案を参考に、労使協議会での話し合いを行い、合意を得た。本年、実施予定である。
また、項目5「評価者訓練の実施」の提案を受け、管理職研修に取り入れた。
さらに、項目7の、「年次有給休暇取得率の低い社員を持つ上司に対して、一定期間ごとにメールを配信する」との提案を参考に、上長に対して、年度末である3月までの取得を促進する連絡メールを、労使で発信した。その結果、駆け込み的にではあるが、取得が増加した。
働き方・休み方に関する実績値で確認すると、昨年度、労働時間が週60時間以上の雇用者が0.3%であったが、1年経過した現在、同じく0.3%(1人)であった。また、年次有給休暇の取得率は、前回58.4%であったが58.9%とわずかではあるが改善した。

(平成26年度事業)

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