E社(2014年度)

(1)企業概要

社名
E社(2014年度)
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業種/事業概要
医療、福祉/居宅系の介護事業者として通所介護、訪問介護、居宅支援を行っている。法人全体で8つの事業所(通所介護6、居宅支援1、訪問介護1)を有する。
従業員規模
社員数53名(パート・アルバイト含め113名)
本社所在地
福岡県
労働時間制度
始業終業時間8:30~17:30(休憩1時間)、1日の所定労働時間8時間

(2)働き方・休み方改善に関するこれまでの取組と指標活用のきっかけ

1)これまでの取組
労働時間については、長時間労働にならないよう部署長及び役員の会議(月1回)及び役職者会議(副主任まで/月1回)にて「無用な残業はしない」ことを伝えている。また、残業の多い部下を持つ管理者への指導改善は、口頭で行っており理由まで聞くようにしている。管理職についてもICカードにより労働時間を把握している。
「ノー残業デー」を設定し、運用を図っているものの、徹底されているとはいえないこと及び、残業は原則として事前申請ではあるが、実態は事後申請になっていることは課題である。
休み方については、年次有給休暇取得日数を各部署で台帳管理している(全員分閲覧可能)。休みの間の情報共有を図るため、フォローアップ体制として、「申し送りノート(入所者記録)」を活用している。また、最長7日のリフレッシュ休暇制度を導入しているが、積極的な取得促進を行っていないこともあり、現在取得者はいない。

2)「働き方・休み方改善指標」活用のきっかけ
ワーク・ライフ・バランスの大切さについて、理屈は分かっていても仕事優先の職員が多く、またそれを良しとする社内の雰囲気があり、制度だけ取り入れても上手くいかない面がある。社内の意識改革も同時に進める必要があると認識しているが、改善を進めるにあたっては全社一丸となっての思い切った取り組みが必要であり、かなりの気力と労力がいるのではとの思いから、なかなか取組を推進することができない状態である。
今回モデル企業になることができれば、取組推進のきっかけとなるのと同時に、具体的なアドバイスをいただくことにより、全社的に取り組みに前向きになるのではないかと考えている。

(3)働き方・休み方の現状・背景

1)人事部の課題認識
利用者を安定的、継続的に確保しサービスを提供するためには、サービスの質の向上が重要であり、利用者ニーズに合致したサービスを提供できる企業のみが生き残れると認識している。そのためには優秀な人材の確保・定着が不可欠であり、職員のワーク・ライフ・バランスの確保や、入社後のOJT、教育システムの充実が鍵となる。

2)仕事特性と働き方・休み方の現状
① 組織体制
各施設(センター)に「長」及び「副長」が配置されており、それぞれの施設は異なるサービス体系を有していることから、働き方・休み方は一様ではない。
② 働き方
特定の社員に業務が集中しており、長時間労働となる。その原因としては、自分が行うべき仕事の範囲を大きく捉え、業務量が増えてしまうことが考えられる。非正規社員もいるが、長時間労働となりやすいのは正社員である。長時間労働、休暇を取得しないことを美徳とする社員も見られ、特に男性に多い。
認知症高齢者を中心としたデイサービスセンターでは、利用者の迎え時間によって20時まで介護職員が残る場合がある。他の施設の支援を行うことで残業が発生することもある。また、「残業=頑張っている」という風潮が社内にあり、本当に残業しなければ終わらない業務なのかの検証や効率化の追求が十分とはいえない。
③ 休み方
年次有給休暇の取得状況は部署によってばらつきがあり、取得率が高い施設も見られる一方、部署長がほぼ休みなしで働いている施設もある。部署長が取得する施設は部下も取得しやすい。また、年次有給休暇の取得状況は個人によってもばらつきがある。取得率の高い社員と対照的に、何年にもわたってほとんど取得していない社員もいる。
④ マネジメント
働き方・休み方の改善に関する労使での話し合いの機会はなく、社員意識調査も実施していないため社員の意識や意向を定期的に把握できていない。
社員の評価は、課長クラスは取締役本部長が実施し、それ以下の層は課長が実施する。部署ごとの目標予算、達成率があり、評価の対象項目となっている。業績、目標の達成度合いに加え、服務の状況をベースに評価を行う。管理職は業績の評価ウェイトが高く、一般職は、服務の状況のウェイトが高い。
教育・研修制度については、新入社員研修として介護基礎研修(接遇・社会人としての基礎研修を含む)を1日間で実施し、その後の現場では研修担当を配置し、OJTを行っている。また、社外研修も推奨しており、本人の自主的な申し出や管理者が選定などにより選抜して、会社が費用を負担して実施している。しかし、社内・社外とも働き方・休み方の改善に資する研修は行っていない。また、社員向けに経営層から年次有給休暇の取得促進を働きかける趣旨のメッセージを発信したり、年次有給休暇の取得率が低い社員に対して、取得促進や情報提供などの取り組みは行っていない。
定着率を高めるために、勤続3年、5年などの社員を対象に表彰を行っている。納涼会・飲み会・忘年会・クリスマス会(クリスマス会は家族も参加が可能で参加率高い)など、社内イベントも多い。なお、社内イベントへの部署別の参加率が現在の部署ごとの人事労務管理バローメータともなっており、参加率が高い部署は職場の雰囲気は良好傾向にある。

(4)働き方・休み方に関する課題

1)働き方
長時間労働等を是とする意識が労使に残っている。また、ノー残業デーなどが実効性に乏しい。
社員を評価する側のワーク・ライフ・バランス意識が低い。
社員のワーク・ライフ・バランス意識や、今の仕事に対する考え方などを把握する、意識調査が行われていない(休み方共通)。

2)休み方
年次有給休暇の取得促進に繋がるような取組がほとんどない。

(5)「働き方・休み方改善指標」診断結果

働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
「働き方・休み方改善指標」による診断結果は以下のとおり。
【労働時間】
週労働時間60時間以上の雇用者の割合は0%であった。
→貴社の週労働時間60時間以上の雇用者の割合は、全国の雇用者の平均値である9.3%(社員規模30人~99人のカテゴリ)及び、国の定める目標値5.0%をクリアしているが、36協定で定める労働時間の延長に関する国の限度基準である1か月45時間を超える社員が31.4%いる。
【年次有給休暇取得率】
年次有給休暇取得率は全社員平均で45.6%であった。
→主要産業の平均値である40.1%(社員規模30人~99人のカテゴリ)を上回るものの、国の定める目標値70%を下回っている。
貴社の長時間労働の社員の割合は目標値を達成しており、36協定で定める労働時間の延長に関する国の限度基準である1か月45時間を超える社員が存在する。一方、年次有給休暇の取得率は平均値をクリアしているものの目標値には達していないことから、休み方の改善が求められる。そのため、休み方の改善を中心としながら、働き方についても改善策の検討を行う必要がある。
※「1ヶ月あたりの残業時間が80時間を超える社員の割合」を「週労働時間60時間以上の雇用者の割合」と見なした。
働き方
休み方

(6)課題の整理と改善提案

働き方・休み方に関する課題の整理と改善提案は以下のとおり。

指標項目
現状と課題
対策案
Vision(ビジョン)
項目1
方針・目標の明確化
年次有給休暇取得促進に向けて、経営層からメッセージなどが発信されていない。
年次有給休暇取得に係る方針・取組についてトップがメッセージを発信
優秀な人材の採用及び定着率向上に繋がる経営課題の一つとして捉え、組織として年次有給休暇の取得促進に取組む姿勢を明らかにし、経営トップがメッセージを発信する。
所定外労働時間の削減目標や年次有給休暇の取得日数等の数値目標が設定されていない。
働き方・休み方の改善についての数値目標の設定
所定外労働時間の削減、年次有給休暇の取得日数等について個人及び組織ごとに目標を立て、達成度合いを確認する。達成できなかった場合、各施設長は原因の分析、改善策の検討を行う。改善策は、現場の声として経営課題のひとつと位置づける。
System(システム)
項目2
改善・推進の体制づくり
各職場を統括する管理職のマネジメントスキルが標準化されておらず、十分な現場管理がなされていない。
センター長の管理責任の明確化
センターで働く社員の労働時間及び年次有給休暇の取得状況の管理はセンター長が行う責務があることを明確にするとともに、管理者として必要な研修を行う。研修等によって適切な管理能力を備えた管理職を配置することにより、各職場の適切な労働環境管理や社員の帰属意識・サービスの質の向上なども期待される。
働き方・休み方に関して、労使で話し合う機会が設定されていない。
労使で話し合う機会の設定
衛生委員会などを活用し、センター別の労働時間や年次有給休暇の取得率などの他、本提案書「項目8」に提案する社員意識調査の結果なども参考に、長時間労働の抑制や年次有給休暇の取得促進について話し合う機会を定期的に設ける。
項目3
改善促進の制度化
制度化したノー残業デー・リフレッシュ休暇が十分に機能していない。
諸制度の実効性の向上
通所等が必要な施設で、「迎え」が遅れて残業になることが恒常的にあるのであれば、時差出勤とすることで対応することを検討する。その上で「ノー残業デー」を運用すれば業務運営に支障をきたさず、実効性を確保できる。また、リフレッシュ休暇は、取得予定月・予定日等を期初に個人別に設定する。
さらに、リフレッシュ休暇を年次有給休暇の計画的付与として制度化することで実効性を確保する。
項目4
改善促進のルール化
管理職の人事考課に部下の長時間労働抑制・年次有給休暇取得促進が盛り込まれていない。
評価制度の見直し
部下の労働時間、年次有給休暇の取得日数を管理職の人事考課に盛り込む。上記項目3に提案する「ノー残業デー」の達成率、「リフレッシュ休暇の取得」を管理職の責務とし、管理職の評価と連動させる。
残業理由が精査されていない。
残業の多い部下を持つ管理職への指導
長時間労働の抑制に向け、本当に必要な残業か残業理由を精査し、効率化に向けた検証を行うとともに、意識の低い管理職に対して、指導・ヒアリングを実施する。
部署により休暇取得状況にばらつきがある。
管理職が休暇を率先取得
管理職が休暇を取得しないことが、部下の休暇取得に影響を及ぼしていることから、管理職が率先して休暇を取得することにより、休暇が取得しにくい雰囲気を払拭する。
Action(アクション)
項目5
意識改善
長時間労働の抑制・年次有給休暇の取得促進を進めるにあたり、社員向けに教育・研修が行われていない。
社員向けの教育・研修の実施
長時間労働(時間を厭わない働き方)がプラスに評価される、長時間労働がかっこいい(主に男性)と考えている社員の意識を改革するための研修を行う。
管理職向けの研修の実施
社員向けの教育と並行して、管理職に対し部下の長時間労働(残業)の抑制・年次有給休暇の取得を促す研修を行う(部下の働き方・休み方が、管理職評価の対象項目であることを意識させることも研修内容に盛り込む。「項目2、4」と連動)。
項目6
情報提供・相談
長労働時間の抑制及び年次有給休暇の取得促進を図るための情報が職場内で共有されておらず、「残業=頑張っている」という風潮が社内にある。
センター別の労働時間の共有
センター別の社員の労働時間、年次有給休暇の取得状況及び好事例を共有する。
働き方改善の方針の情報提供
項目5の研修以外の場でも、長時間労働と個人の評価は関係がない旨説明し、長時間働くことが評価に繋がるとの認識を払拭する。
年次有給休暇の取得率の低い社員に対して、積極的な取得促進や情報提供が行われていない。
センター長から年次有休取得率の情報を提供
年次有給休暇取得率の低い社員に対して、平均取得率を伝えるとともに、取得促進に向けた具体的なアドバイスを行う。
Check(チェック)
項目8
実態把握・管理
社員の悩みや不満について、実態把握、予防的な情報収集等は行っていない。
社員意識調査の実施
社員意識調査を行い、働き方、仕事のやりがいや将来展望等を把握し、離職の原因を分析するとともに、社員の不満の原因を取り除くことで将来的な離職の減少、定着率の向上を図る。

(7)改善提案の活用

提案の活用、取組状況に関しては以下のとおり。
1)年次有給休暇取得に係る方針・取組みについてトップがメッセージを発信
残業削減の取組みについては、トップより全職員に向けて方針を表明した(年次有給休暇についても、方針と取組み内容を検討し、トップから発信するようにしたい)。
2)働き方・休み方の改善に関する数値目標の設定
年次有給休暇については、勤怠データから把握できているため、計画的付与等も含め、目標を設定する予定。残業は、過去3ヶ月の勤怠データ等から、各部署の責任者が現状を把握中。
3)センター(事業所)長の管理責任の明確化
会議等で、部署の責任者の管理責任について伝える。また、外部講師等による事業所の責任者対象の研修実施を検討中。
4)労使で話し合う機会の設定
毎月部署の責任者と代表・取締役が参加する会議にて、残業削減の取り組みついての検討を始めた(今後年次有給休暇についても、同会議で話し合い、一般職員の意見を聞く機会も設けたい)。
5)諸制度の実効性の向上
形骸化していた週1回のノー残業デーを厳格化した。通所の利用者については最低限の人員のみで対応するようにしているが、時差出勤も検討していく。さらに、超過勤務の事前申請徹底を開始。リフレッシュ休暇については、年度内に来年度の計画を立てて取得を促進する。
6)評価制度の見直し
制度の見直しは、平成27年度行うべく検討中。
7)残業の多い部下を持つ管理職への指導
超過勤務事前申請により、残業理由の把握を行っている。今後、残業が集中している職員やその管理職への指導を実施していく。
8)管理職が休暇を率先取得
管理職が休暇を取得しない理由(原因)を把握し、休暇の取得を促していく。
9)社員向けの教育・研修の実施
時間管理や業務の効率化等、長時間労働しないための仕事の仕方も含めた研修を検討。
10)管理職向けの研修の実施については、「3)に記載」
11)センター(事業所)別の労働時間の共有
今後会議での情報提供や各部署からの報告等を重ね、共有化を進めたい。
12)働き方改善の方針の情報提供
まず働き方改善方針を固め、トップが表明すると同時に、部署の責任者から部下に伝えていく。
13)センター長から年次有休取得率の情報を提供
部署の責任者を通じ、個別に指導を促す方法で検討。
14)社員意識調査の実施
社員の悩みや不満等の把握のため、意識調査を実施することは有効と考える。実施を検討したい。

平成26年12月に提案いただいた後検討を開始したところであるが、労使で残業削減について話し合いを持った結果、なぜ長時間労働になってしまうのか等の意見が出て課題・問題が浮き彫りになってきた。また、超過勤務事前申請については、意識の低い職員も多く徹底が難しいが、なるべく早く帰ろうとする傾向が見られ始めている等既に効果が出始めている。

(8)「働き方・休み方改善指標」活用の効果(結果)

項目1として提案いただいた「年次有給休暇取得に係る方針・取組みについてトップがメッセージを発信」を参考にして、まず、所定外労働の削減について、トップが全社員に対して方針表明を行った結果、残業を良しとしない職場風土が定着してきた。また、「働き方・休み方の改善に関する数値目標の設定」の提案を参考に、労働時間は、勤怠データ等から各部署の責任者が現状の把握を行っており、年次有給休暇については、現状の把握ができたため、今後年次有給休暇の計画的付与等も検討に入れて、目標を設定していく。部署長で、誰がなぜ残っているかの把握をし、必要のない残業をさせないよう声掛けを行った結果、全てではないものの、付合い残業やだらだら残業については、かなり改善意識が根付き減少している。また、年次有給休暇は、会社としてあまり際立った取組は推進できていないものの、残業削減と相まってか取得者が増えた。
つづいて、項目2として提案いただいた「労使で話し合う機会の設定」を参考に、毎月、部署の責任者と使用者が参加する会議にて、残業削減の取り組みついての検討を始めた。今後、年次有給休暇についても、同会議で話し合い、一般職員の意見を聞く機会も設けていきたい。
そして、項目6として提案いただいた「センター別の労働時間の共有」を参考に、互いの部署が以前より積極的に情報発信を行った結果、部署間の応援体制(人員が不足している部署へ他部署の職員が臨時で勤務)が整ってきている。さらに、「センター長から年次有休休暇取得率の情報を提供」を参考に、部署の責任者を通じて、個別に取得を促すようなフローを検討した結果、一部では取得が増えたが、まだ部署によるばらつきが見られるため、今後さらに検討を重ねたい。
働き方・休み方に関する実績値で確認すると、昨年度から労働時間が週60時間以上の雇用者は0%であり、1年経過した現在も0%を継続している。また、年次有給休暇の取得率は、前回の45.6%が61.7%に大幅に改善している。
働き方の改善に伴う相乗効果として、年次有給休暇の取得も促進されており、取組の成果が確認できる。

(平成26年度事業)

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