三洋化学工業株式会社

(1)企業概要

社名
三洋化学工業株式会社
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業種/事業概要
製造業/ プラスティック容器、キャップ、中栓等の開発設計、成形、製品管理、販売
従業員規模
51 名
本社所在地
大阪府
労働時間制度
始業終時間 8:45~17:30(休憩 45 分)、1日の所定労働時間 8時間

(2)働き方・休み方改善に関するこれまでの取組と指標活用のきっかけ

1)これまでの取組
代表が「楽しんで仕事に取組む」ことを重視しており、従来から「働き方」についての関心は高く、厚生労働省「職場意識改善計画」(平成23-24年度)に取組み、年次有給休暇取得率向上、1人当たり所定外労働時間の削減を実現してきた。
職場意識改善計画では、労働者代表の選出、労使懇談会の定期開催、社内外への告知などに取組み、職場意識の向上に努めた。また、これと前後して社員意識調査の実施、人事評価制度の整備、大阪労働局からコンサルタントを招聘してのワークショップ・セミナー開催、安全衛生委員会(含、労使懇談会)の定期開催により、労使協調して働きやすさを追求している。
また、勤怠システムの導入により、各社員の労働実態の把握が可能となり、残業の際にも部門長へのシステム上の申告・管理が可能となる等、労働時間管理に関する改善の取組を進めている。

2)「働き方・休み方改善指標」活用のきっかけ
これまで「働き方・休み方」についての改善に向けた取組を続けてきたが、管理職層の「働き方・休み方」に対する意識のバラつきや労務管理の未熟さから、年次有給休暇の取得状況・所定外労働時間の多寡について、業務や部門によってバラつきがある状況が残っており、これを是正していきたいと考えている。自社の「働き方・休み方」を構築し、全社的な取り組みとして、さらに意識を高めて行きたいと考えている。

(3)働き方・休み方の現状・背景

1)人事部の課題認識
年次有給休暇の取得状況・所定外労働時間の多寡について、業務や部門による偏りが見られる。また現在、人的な余裕がないため、勤務時間内に社員同士・上司と部下が、コミュニケーションを取る時間がない。

2)仕事特性と働き方・休み方の現状
① 組織体制
社員は「部長」、「次長」、「課長」、「係長・主任」、「一般社員」の5層に分かれる。このうち課長以上が労働基準法上の管理監督者である。
事業所は大阪市平野区の本社、工場、物流、デザイン部門のほか、名古屋と東京にも事業所を有する。
② 働き方
部署単位で見るとデザイン部門の業務負荷が高い傾向にある。デザイン部門は、「トイボックス」というデザイナーが常駐する専用の拠点を設けて業務を行っている。デザイン部門の社員は現在6名でデザイナー3名だが、業務に対して人手不足の状況にある。課長職を配置しているがプレイングマネージャーであり、管理業務以外にデザイン業務そのものも担当している。
デザイン部門では、顧客から依頼されたデザインプロジェクトを各デザイナーが複数並行して担当する構造となっており、並行処理の難しさや納期の調整などの困難がある。また、社内で行うプロジェクト(販促イベント等で使用するノベルティグッズ等)に必要なデザイン業務も抱える状況にある。
デザイン業務を担当する社員は、業務特性から他部門の社員と比べて業務に没頭してしまい、労働時間が長くなる傾向にある。同社におけるデザイン業務は、容器の形状に関するデザインに留まらず、ラベル等の容器に付随する要素についても担当するケースが多い。「作業に没頭しない」との方針を掲げ、アイデアや知恵で勝負していくよう、社内風土作りを進めている。アウトソーシングできるものは行って自社ではアイデアをできるだけビジネスにするという考えである。
現在は、デザインではない機械作業的な業務について、他部門との連携を行い、効率化できるように調整している。
同社事業の中核を占めつつあるデザイン事業については、美術的な意味でのデザインのみならず、樹脂による容器の形成といった工業的な知見も求められるインダストリアルデザイナーとしての側面もあるため、採用育成には相応の時間を要する。そのため、人手不足の即時解消は難しい課題となっている。
全社的な働き方の制度として、ノー残業デーなどは無く、誕生日休暇等のメモリアル休暇の設定もない。
③ 休み方
従来は化粧品容器等の新製品投入のタイミングにあわせた年間の繁閑差があり、閑散期にまとまった休暇を取得する等のバランスのとり方が可能であったが、問屋を間に挟む取引形態から、各メーカーとの直接取引の比率が高まるにつれ、取引先メーカーの特性、商品開発サイクルの短期化、自社における事業構造転換(製造請負からデザイン・企画業務への展開)などの要因から、年間の繁閑差が縮小し、通年で繁忙状態が継続する傾向にあり、従来可能であった閑散期の休暇取得も難しくなってきている。
本年の年間休日は土日祝含め125日あり、年次有給休暇取得の観点からすれば「所定の年間休日がむしろ多すぎるのではないか」との管理職の意見もある。
年次有給休暇は、時間単位の取得も可能である。
お盆の時期に夏季一斉休暇を設けているが、計画年休ではない(計画年休制度は以前に行っていたが廃止している)。
④ マネジメント
中途採用中心であったため、社員のバックグラウンドが多様である。そのため、管理職のマネジメントがバラバラであり、長時間労働をプラスに評価してしまうような旧来の考え方も残っている。現在、管理職自身の評価項目に、本人・部下に対する働き方(労働時間)・休み方(年次有給休暇取得状況の管理)は無く、評価者への訓練も行えていない。さらに、管理職を含め、社員に対する長時間労働の抑制、年次有給休暇を取得することの意義など、ワーク・ライフ・バランスについての研修も行うことができておらず、管理職から年次有給休暇の取得が低い社員に対する取得奨励は行えていない(「休み方」の説明にもある通り、今のままで十分休みが多いと考えている管理職も存在する)。
社長も出席する安全衛生委員会を、労使懇談会を兼ねる形で毎月行っており、働く方の事を考えた取り組みについて社長を交えて検討し、議事録の公開を行っている。
2006年に現在の社長が就任してからきちんとした就業規則を作り、育児休業等の導入や休日の状況なども公表できるようになったことが採用に有効に働き、特に女性の応募が増加している。女性は全社的にも主力となりつつある。現在、3人が育児休業取得中。時短勤務はあるが、復帰した社員は現在全てフルタイムに戻っている。フルタイム復帰後も部門長の理解もあり、育児中の社員については残業させていない。また、以前は、採用後の研修はいきなり現場配属(OJTのみ)であったが、ISO基準に沿って新人教育研修をマニュアル化して行うようになった。新人の基礎力充実の効果と共に、各部門長のマネジメント学習の機会にもなっている。これまでに新卒で採用・入社した社員20人のうち退職者は2人と少ない。
2011年に社員意識調査を行ったところ満足度は高く、特に管理職に比べ非管理職の数値が高かった。その際、部下の評価が難しいと感じている管理職が多く存在することが分かり、その後、評価制度の構築を始めた。社員意識調査は、それ以降は行っていない。
システム化された勤怠システムの入退社時刻の入力忘れ、部門長の残業等の承認忘れの問題が発生しており、改善されつつあるが未だ完全ではない。
デザイン企画系は職人にはなりたいが管理職になりたいと思っていない。デザイン課は開発課から派生した部署であり、2年前に完全に切り離しを行ったものであるため、当時から就業する社員は開発や金型設計の知識も持つが、その後入社した社員及びこれから入社する社員は、開発業務や金型設計についての知識は無い。そのため、デザイン以外の業務の基礎知識を教える研修は必要と考える。
営業は個人別の目標が設定されており、その達成が評価されるが、その他の部署は組織(部門)に対するプロジェクト達成度が目標値である。
また、品質目標はISOに沿っており、期初に部門ごとに落とし込まれる。しかし、休暇の取得に対する目標や、それを評価するような仕組みはない。
⑤ その他
会社負担の社員旅行や運動会などイベントをほぼ毎年行っている。

(4)働き方・休み方に関する課題

1)働き方
「働き方・休み方」と「人事評価」が関連づけられていない(休み方共通)。
長時間労働の抑制や年次有給休暇の取得促進についての社員の意識を高める「意識づけ」が行われていない(休み方共通)。
部下の評価方法が「わからない・偏った評価を行う」上司が存在する(休み方共通)。
業務の平準化がなされておらず、特定業務において常に労働時間が長い状態になっている。
社員意識調査が行われておらず、社員意識の把握ができていない(休み方共通)。

2)休み方
年次有給休暇の取得促進に繋がるような制度やルールがない。

(5)「働き方・休み方改善指標」診断結果

働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
「働き方・休み方改善指標」による診断結果は以下のとおり。
【労働時間】
週労働時間60時間以上の雇用者の割合は0%であった。
→貴社の週労働時間60時間以上の雇用者の割合は、全国の雇用者の平均値である9.3%(社員規模30人~99人のカテゴリ)及び、国の定める目標値5.0%をクリアしており、36協定で定める労働時間の延長に関する国の限度基準である1か月45時間を超える社員もほとんどいない
(年度を通してある月に1人が超えたのみ)。
【年次有給休暇取得率】
年次有給休暇取得率は全社員平均で56.0%であった。
→主要産業の平均値である40.1%(社員規模30人~99人のカテゴリ)を上回るものの、国の定める目標値70%を下回っている。
貴社の長時間労働の社員の割合は目標値を達成しており、36協定で定める労働時間の延長に関する国の限度基準である1か月45時間を超える社員もほとんどいない。一方、年次有給休暇の取得率は平均値をクリアしているものの目標値には達していないことから、休み方の改善が求められる。そのため、休み方の改善を中心としながら、所定外労働の更なる削減に向けた働き方の改善策の検討を行う必要がある。
※「1ヶ月あたりの残業時間が80時間を超える社員の割合」を「週労働時間60時間以上の雇用者の割合」と見なした。
働き方
休み方

(6)課題の整理と改善提案

働き方・休み方に関する課題の整理と改善提案は以下のとおり。

指標項目
現状と課題
対策案
System(システム)
項目3
改善促進の制度化
働き方に関するトップの方針が明確にされているものの、長時間労働の抑制や、年次有給休暇取得促進に繋がる制度や明確なルールがない。
ノー残業デーの設定
全社でもしくは部署別にノー残業デーを設定し、対象日の仕事は、当日効率よく終了させるか、翌日に回すことができるように仕事を進め、定時退社を促す(万一当日に突発的な仕事によって定時退社できなかった場合には、翌営業日に必ず定時退社するようにルールを設定する)。
誕生日(誕生月)休暇の設定及び年次有給休暇の計画的付与日の復活
全社員の誕生日(誕生月)を管理部門(厚生課など)で把握する。誕生日の月の前月に管理職に対象者の休暇予定日を報告させる(管理職も例外なく)。管理職は、希望日に対象者が休むことを前提にグループ内の業務マネジメントを行う。また、年次有給休暇の計画的付与日を復活させ、例えば、飛び石連休になっている間の日等に年次有給休暇の計画的付与日として設定し、連続休暇の取得を促進する。
項目4
改善促進のルール化
「管理職の評価」と、「部下の長時間労働抑制・年次有給休暇取得促進」とのリンクがなされていない。
管理職の人事評価項目に部下の労働時間、年次有給休暇取得状況の項目を組み込む(項目3・項目5・項目6連動)
管理職層の人事評価項目(目標と結果)に部下の労働時間、年次有給休暇の取得日数を組み込む。
Action(アクション)
項目5
意識改善
長時間労働の抑制・年次有給休暇の取得促進に関する社員の意識を高める「意識付け」が行われていない。
全社員向けの仕事意識改革のための教育・研修を行う
長時間労働等がもたらす健康障害リスクや仕事以外の時間の確保による能力開発の可能性などについて全社員に研修を行い、長時間労働の抑制や年次有給休暇の取得促進の意識を醸成する。
一部の管理職が、長時間労働をプラスに評価している(評価する側の研修が行われていない)
管理職に対するマネジメント研修を実施
管理職のマネジメントのレベルを合わせるため管理職研修を実施する。研修内容に、管理職に期待される役割の一つとしてワーク・ライフ・バランスに関する項目や、効率的な業務を進めるためのマネジメントの技術に関する項目を含める。
項目6
情報提供・相談
年次有給休暇の取得促進についての話し合いの機会を有するものの、実践するための情報提供がなされていない。
制度の利用促進のための情報提供
年次有給休暇の取得と個人の評価は関係がない旨説明し、長時間働くことが評価に繋がるとの認識を払拭する。
年次有給休暇の取得目標を盛り込んだポスター等の掲示
代表のモットーである「楽しんで仕事に取り組む」をキャッチフレーズに、年次有給休暇の取得目標を盛り込んだポスター等を作成し掲出する。
項目7
仕事の進め方改善
特定部門において、年間を通じて業務多忙となっている。
部門間の業務の平準化と多能工化の促進
各部門・職種において必要とされるスキルや経験は異なると考えられ、短期的には率先力のある必要な人員の補充が考えられるが、部門間・職種間で人材を融通しあえる余地を持つことは必要であることから、長期的には、業務の平準化簡素化を行い、基本スキル共有化のための研修、部署間ローテーション等を検討する。
Check(チェック)
項目8
実態把握・管理
2011年にイベント的に社員意識調査を行って以来、社員意識調査が行われていない。
定期的に社員意識調査を行う
意識の変化は、同様の調査を定期的に行うことで把握が可能となる。前回の調査は外部委託されていたが、自社で分析できる程度のボリュームに集約し、webもしくは紙媒体による社員意識調査を行う。結果は、前回の結果との比較を行いトップへの報告・労務部門による改善施策の材料とする。
※企業としての今後の方向性を示す機会とする(トップのモットー「楽しんで仕事に取り組む」が実現できているのかを把握する重要なツールである)。

(7)改善提案の活用

提案の活用、取組状況に関しては以下のとおり。
1)ノー残業デーの設定
以前に実施していたノー残業デーの問題点等の洗い出しを労働者代表と共に行い、社員教育も含め検討していきたい。
2)管理職の人事評価項目に、部下の労働時間管理・休暇取得状況の項目を組み込む
マネジメント層の評価項目に、取り入れていくことを提案し、ヒアリングを実施して取り入れていきたい。
3)全社員向けの仕事意識改革のための教育・研修
全社員同時に実施することが望ましいと思われるので、年一回の全体会議にて取り入れたい。
4)管理職に対するマネジメント研修の実施
管理職層については、人事考課と合わせて必須研修として検討をしたい。
5)年次有給休暇の取得目標を盛り込んだポスター等の掲出
安全衛生委員の方で、他の安衛啓発ポスターを作成予定なので、合わせて作成、掲出していきたい。
6)部門間の業務の平準化と多能工化の促進
製品部門(品質保証課とデザイン課)の間で昨年から半年間の期限で、社員の部門出向を行っている。効果の検証は今年度末にヒアリング等を含め実施予定。
7)定期的な社員意識調査の実施
アンケートについては、既に準備を進めているので、今後は労使懇談会を活用して、実行に移していきたい。

また、提案いただいたその他の取組についても検討を行い、働き方・休み方の改善を推進したいと考えている。

(8)「働き方・休み方改善指標」活用の効果(結果)

項目3、「誕生日(月)休暇の設定及び年次有給休暇の計画的付与日の復活」の改善提案を参考に、全社的に一律で計画を行うのではなく、各拠点の安全衛生推進者が主体となって部門ごと、個人ごとに計画有給の取得を促した。特に個別に取得しづらい工場等では業務調整により、部門単位で有給取得を進め取得推進できた。
また、項目5「管理職に対するマネジメント研修を実施」の提案を参考に、管理職研修を実施。管理職の行動指針を作成し、意識の統一を図った。次回は、人事考課に対する研修を実施する予定である。
さらに、項目6の、「年次有給休暇の取得目標を盛り込んだポスター等の掲示」の提案を参考に、有給休暇取得推進月間(10月)に合わせて、取得推進のポスターを事業場毎に推進者が作成し掲示した。
事業場毎に個性の光る、目を引く掲示となり、取得推進にはつながったと考えている。
そして、項目7の、「部門間の業務の平準化と多能工化の促進」については、製品部門(品質保証課とデザイン課)の間で、社員の部門出向を行っており、部門間で知識の共有ができた。その結果、一時的な人員不足等の対応が可能となった。今後、他部門間でも実施していく予定である。
働き方・休み方に関する実績値で確認すると、昨年度から労働時間が週60時間以上の雇用者は0%であり、1年経過した現在も0%を継続している。また、年次有給休暇の取得率は、前回56.0%であったが50.4%となった。改善提案を行っていただいた昨年度は、営業戦略上一時的に業務負荷が高くなった時期があったため取得率が下がったが、その後、いただいた提案の活用等、働き方・休み方改善の取組推進を行った結果、平成27年度は65.0%まで取得率が高まった。

(平成26年度事業)

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