C社(2014年度)

(1)企業概要

社名
C社(2014年度)
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業種/事業概要
学術研究 ,専門・技術サービス業/ソフトウェア設計・電子回路設計・機器設計
従業員規模
約 2000名
本社所在地
愛知県
労働時間制度
始業終業時間 8: 40~ 17: 40(休憩時間1時間)、1日の所定労働時間 8時間
フレックスタイム制度を導入

(2)働き方・休み方改善に関するこれまでの取組と指標活用のきっかけ

1)これまでの取組
残業が 2ヶ月連続して月 70時間を超えた社員及び 1ヶ月に 100時間を超えた社員には健診が義務付けられており、希望者は医師による面接指導を受けることができる。健診受診者のリストは部長に渡される。近年、労働組合が設立されたこともあり、残業の必要性が生じた際は事前に人事部や組合の承認が求められる。また、残業が行われた場合、上長は長時間労働の理由と残業低減対策を説明することが求められる。ノー残業デーは以前に全社で一斉に導入したことがあるが、社員には顧客に常駐している者が多く、常駐先部署の事情により実施しやすさに差があるため、現在はその運用に部署間で差異がみられる。
長時間労働やストレスに関するカウンリング機会を提供するため、 10年程前にメンタルカウンセリングルームを設置した。
社員の休暇取得の意識や意向に関しては、 3~ 4年に1回、社員意識調査により把握している。

2)「働き方・休み方改善指標」活用のきっかけ
・残業低減施策の裁量発揮に限界がある
・特定の社員に業務負荷が集中している
・部署間の残業時間にバラつきがある
といった課題を抱えており、特に残業時間の抑制について、外部の知見から施策の提言を得られることを期待している。一般論ではなく、会社の置かれた個別の環境に対し、同業他社の事例や取組みを踏まえた具体的な改善策を期待している。

(3)働き方・休み方の現状・背景

1)人事部の課題認識
受注業務量が増加傾向にあり、社員一人当たりの業務量が多くなっている。福岡に拠点を設けるなど、全国から採用する取組も行っているが、採用ターゲットの技術者が不足しているため、思うように人材が確保できていない。特に能力の高い社員に仕事が集中する傾向が見られるが、業務の専門性や付加価値の高さなどから、各メンバーへの業務の割り振りを見直すことで、業務の効率化が図られ、労働時間の低減につながるのではないかと考えている。

2)仕事特性と働き方・休み方の現状
①組織
組織は管理部門と 3つのグループで構成されており、グループの下は「事業部」、「部」、「室」、「課」、「係」がある。(全社で部長は 50名程度、室長は 110名程度、課長は 200名程度。また、最小単位の組織である「係」の人員は 10名弱。)
②仕事特性
業務内容は、おおまかに「ソフトウェア」、「メカ設計」、「ハード(基盤)設計」の 3に分かれる。顧客先に常駐する業務と本社内で行う業務がある。
大半の部署において、顧客より「受託部分」と「常駐部分」をセットで業務を請け負っている。特定の顧客売上比率が 90%を超えており、また、特定の顧客構内での業務請負が売り上げベースで約 66%という、特定の顧客と極めて密接な状況にある。顧客への常駐者は、顧客の社員とチームを組んで業務を行っている。これに加えて協力会社の社員も自社の社員とともに常駐しているケースが大半である。協力会社は全社で約 50社、協力会社社員は約 3300人いる。
③働き方・休み方の現状
組合員については月 80時間以上の残業を行っている社員は 0人だが、80時間に近い社員が多いことを会社として特に問題視している。2000人の組合員のうち、2ヶ月連続して 70時間以上の社員が、多い月で 80~90人、少ない月でも 20人程度見られる。1ヶ月 80時間以上残業している社員の割合は 0.9%で、すべて課長職を中心とする管理職となっている。
年次有給休暇取得に関しては、毎月、1日は年休を取得することを目標として掲げ、管理を行っていることから、年次有給休暇は概ね取得できている。
④事業所におけるマネジメント
「課」単位で労働時間管理を行っており、課長の役割として、「受注業務の納期を守ること」と「36協定を守ること」の両立が求められており、課長のマネジメントが残業削減のカギとなっている。その結果、課長がプレーイングマネジャー(部下が残業しないよう、仕事を引き受ける)になっており、「生産性向上」を考える十分な時間が取れない。
「人材育成部」が全般的な社員の教育を行う部署としてあるが、部署や顧客により業務の専門性が分化しているため、社員一律の教育研修には限界がある。そのため、製品に特化した研修は部単位で実施している。
また、「社内人材公募制度」を導入しており、この制度では公募形式で選考のうえ、合格者のみが異動可能となっている。燃料電池など次世代技術を担う分野に力を入れる際に、参加を募る。しかし、一般に優秀な人が新部署に移ってしまうため、元の部署からは不満が出る。
業務量を調整する手段の一つとして、協力会社を上手く活用して残業を削減している課長もおり、課長のマネジメント能力に個人差が見られる。

(4)働き方・休み方に関する課題

1)働き方
プロジェクトとプロジェクトの間は短く、一つのプロジェクトが終了すると、すぐに次のプロジェクトが始まる。並行して複数のプロジェクトを実施している場合が多い。近年、業務量が増えており、技術者が不足している状態にある。
月 80時間以上の残業は 36協定に抵触するため、組合員では 0人。しかし、 80時間近い社員は一定程度見られる。管理職はたたき上げの社員が多く、仕事中心の傾向が見られる。
納期があるため、不慮の不具合が発生した場合に残業になりやすい。顧客先への常駐の場合、特に上長が時間管理を行いにくいためか、長時間労働になる傾向が強い。顧客の仕様変更が少なくないこと、要求レベルが高いことが業務負荷が増える要因になっていると思われる。

2)休み方
年次有給休暇は概ね取得できている。

(5)「働き方・休み方改善指標」診断結果

働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
「働き方・休み方改善指標」による診断結果は以下のとおり。
【労働時間】
週労働時間60時間以上の雇用者の割合は0.9%であった。

→貴社の週労働時間60時間以上の雇用者の割合は、全国の雇用者の平均値である8.0%(従業員規模1000人以上のカテゴリ)及び、国の定める目標値5.0%をクリアしているが、36協定で定める労働時間の延長に関する国の限度基準である1か月45時間を超える社員が22.2%いる。
【年次有給休暇取得率】
年次有給休暇取得率は全社員平均で 77.0%であった。
→主要産業の平均値である 54.6%(従業員規模1000人以上のカテゴリ)及び国の定める目標値70%いずれも上回っている。
貴社は、長時間労働の社員の割合、年次有給休暇の取得率ともに目標値を達成しています。引き続きこの状況を維持し、よりよい働き方・休み方の実現をめざしてください。なお、36協定で定める労働時間の延長に関する国の限度基準である1か月45時間を超える社員は22.2%で、改善の余地があります。
※「1ヶ月あたりの残業時間が80時間を超える社員の割合」を「週労働時間60時間以上の雇用者の割合」と見なした。
働き方
休み方

(6)課題の整理と改善提案

働き方・休み方に関する課題の整理と改善提案は以下のとおり。

指標項目
現状と課題
対策案
System(システム)
項目3
改善促進の制度化
顧客への常駐者が多く、常駐者は顧客の社員とチームを組んで業務を行っている。このため、以前に全社で一斉に導入したノー残業デーやノー残業ウィークは、現在はその運用に部署間で差異がみられる。
常駐先に合わせたノー残業デーやノー残業ウィーク
業務の多くは顧客先に常駐し行われていることから、社内で一律のノー残業デーを設定するより、顧客との関係の中で有効な設定(例えば、常駐先の部署と同じ曜日にノー残業デー、ノー残業ウィークを設定する)を、部署単位で行うのが現実的と考えられる。
Action(アクション)
項目5
意識改善
「課」単位で時間管理を行っており、課長の役割として、「受注業務の納期を守ること」と「 36協定を守ること」の両立が求められており、課長のマネジメントが残業削減のカギとなっている。
業務量を調整する手段の一つとして、協力会社を上手く活用して残業を削減している課長もおり、課長のマネジメント能力の個人差が見られる。
課長職に対するマネジメント力向上の研修(座学とグループワーク等の組み合わせ)
受注時点でメンバーの業務負荷を勘案して、受注量や受注タイミングを顧客と調整する折衝力を身に付けるとともに、協力会社と自社の役割分担の適正化を図り、社員の業務の効率化と適正化を図るためのマネジメント力を高める研修を実施する。内容としては、事例研究、社内における課題と対策の討議など、座学に加えてグループワークなどによる実際に即した対策を考えて実施できるような研修を行う。
項目7
仕事の進め方改善
業務は納期があるため、不慮の不具合が発生した場合に残業になりやすく、その際に、顧客の社員が残業しているのに自社の社員だけ残業しないということもできない。また、顧客の仕様変更が少なくないこと、要求レベルが高いことが、業務負荷の要因になっていると思われる。
経営トップによる顧客への働きかけ
顧客とは共存共栄の道を探る必要があり、一方が疲弊することは持続的な関係を阻害する。発注者と受注者という関係の下で、現場レベルでの交渉には一定の限界があることから、社長から顧客の社長に対し、適正な業務量、スケジュールとなるよう、働きかけを行う。
課長の役割として、「受注業務の納期を守ること」と「 36協定を守ること」の両立が求められており、その結果、課長がプレーイングマネジャー(部下が残業しないよう、仕事を引き受ける)になっており、「生産性向上」を考える十分な時間が取れない。
部長職による課長職の支援
社員の時間管理の適正化や休暇取得の促進は、プレーイングマネジャーの側面を持つ課長職ではなく、その上位職である部長が責任を持つことが望まれる。そのため、課長の顧客に対する折衝には部長が立ち会うなど、無理な働き方が生じないようにしたり、計画的な業務遂行を行ったりできるよう、課長職を支援する。

(7)改善提案の活用

提案の活用、取組状況に関しては以下のとおり。
1)経営トップによる顧客への働きかけ
ダイバーシティ、ワーク・ライフ・バランスの推進活動では、顧客の協力は必要不可欠で、トップから話をしてもらう必要性は認識している。当面はグループの人事担当者の連絡会などで議題に取りあげる方向で検討したい。
2)常駐先に合わせたノー残業デーやノー残業ウィーク
全社一斉のノー残業デーは過去実施済でもあるが、継続をしなかった。今回は、定着・活動が継続できる方法を検討の上、実施の方向で検討したい。
3)課長職に対するマネジメント力向上の研修(座学とグループワーク等の組み合わせ)
教育担当部署の人材育成部にて実施の検討中。タイムマネジメント研修として、提案いただいた内容も参考に教育の対象・内容の詳細を検討する段階に至る。

(8)「働き方・休み方改善指標」活用の効果(結果)

課長職に対するマネジメント力向上の研修など取組実施検討中のものもあり、今後実施するノー残業デーやノー残業ウィークなどの取組予定も含めて、今後の改善の効果を期待したい。

(平成26年度事業)

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