B社(2014年度)

(1)企業概要

社名
B社(2014年度)
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業種/事業概要
製造業/水産事業、食品事業等
従業員規模
1,127名
本社所在地
東京都
労働時間制度
始業終業時間8:30~ 17:15(休憩1時間)、1日の所定労働時間 7時間 45分
フレックスタイム制度あり

(2)働き方・休み方改善に関するこれまでの取組と指標活用のきっかけ

1)これまでの取組
人事制度上の改善の取組としては、次世代育成支援対策推進法に基づく行動計画を中心に、 2005年よりノー残業デーや短時間勤務制度の導入を進め、 2010年 5月に「くるみんマーク」を取得した。
休暇取得については、労働組合と協力して特に夏季の連続休暇取得を推奨し、年次有給休暇取得率は 2011年度に 50%に達し、その後も 50%台を維持している。
働き方の改善としては、文書の電子回覧化、客先に提出する書類作成(商品仕様書等)の専門部署への集約、 TV会議の活用、不要不急の全社書類廃止など、まず書類削減に取り組んだ。また、新任課長教育においてワーク・ライフ・バランス、メンタルヘルスの講義を行っている。

2)「働き方・休み方改善指標」活用のきっかけ
食品同業他社と比較しても遜色ない人事・福利厚生施策を整えている一方、社外からの評価・比較を長らく行っておらず、「働き方・休み方改善指標」を活用して既存の制度を活性化したいと考えた。また働き方改革の主要な柱である「女性活躍」の視点では、食品業界の女性的なイメージに反し、営業部署での長時間労働など男性中心型の働き方が依然中心になっている。本事業における働き方・休み方の改革により、同時に「女性活躍」を進めやすくする効果を狙っている。

(3)働き方・休み方の現状・背景

1)人事部の課題認識
経済構造の変化に伴い労働の質が変わる中で、長時間残業を避け、適切に休みを取るワーク・ライフ・バランスの推進により、社員がイキイキと意欲的に働き、結果として社業に貢献することが重要である。具体的な課題としては、全社的にワーク・ライフ・バランスを進める中で鍵となる現場の管理職層の意識向上、及び商品ライフサイクルが短くなり常に多忙な開発部署や一部生産工場など長時間労働が常態化した部署の意識改革が課題である。

2)仕事特性と働き方・休み方の現状
①組織
本社と、4工場、全国の販売拠点、研究所等から構成される。会社全体の女性割合は2割強。営業部は1割弱、商品部は1~2割。
②仕事特性
営業部署では、日中は顧客訪問での外出が多く、夕方に帰社して資料作成、社内調整や工場への生産指示などの業務を行う。商品部署は支社や開発部門の調整機能を担い、特に新商品の発売時期に向けての業務量が多くなっている。業務や商品特性の違いにより、応援などの柔軟な仕事の運用は組みにくい。
③働き方・休み方の現状
営業部署では、夕方に出先から戻ると資料作成や連絡業務が発生し、20時、21時に業務が終了する。ノー残業デー等を行っているものの、遅くまで残業することが多い。
商品部では、繁忙期がある。例えば、春の新商品の準備のピークは1月である。
求められる業務量そのものが多く、恒常的に残業する風土になりやすい。担当制のため、当番制にする等の置き換えは難しい。
8月から新本社に移転し、ペーパーレス推進等による業務効率化が進む一方、内線電話が携帯に自動転送されるようになり、便利という意見と不満とする意見の両方が出ている。
休み方に関しては、平均的には年次有給休暇取得率50%台で推移しているものの、仕事が集中する管理職層を中心に、年次有給休暇取得を積極的に活用できている人はまだ少ない。
④マネジメント
長時間労働の削減について、年度始めの経営方針説明会で担当役員から全社にメッセージを発信している。研究部門では約10年間裁量労働制を導入していたが、労働者の健康管理の観点から労働時間を正確に把握することが必要と考え、通常の労働時間制を採用することとした。また、営業部署ではみなし労働を導入していたが、管理職による時間管理を前提として中止した。勤怠管理システム上で残業の事前申請を行っており、日次ベースで予実を管理している。
人事部と労働組合の間で月次の労使協議会を開催し、事前に組合に対して36協定の上限時間を超えそうな社員を知らせ、長時間労働の抑止を図っている。
各部署の課長のうち1人を、人事労務管理(残業、休日管理含む)の責任者として指名し、人事部との連絡窓口にしている。年次有給休暇の課ごとの取得状況について、人事部から毎月各部署に発信している。休暇を取得するよう、社内啓発、組合からのプッシュ等を行っている。夏季過ぎからは年次有給休暇を1日も取得していない社員、年度末近くには取得5日未満の社員に対し、部課長から休暇取得を働きかけるよう、人事部からメールを発信している。

(4)働き方・休み方に関する課題

1)働き方
残業が月60時間を超える社員は一定割合存在するが、80時間を超えることはほとんどない。長時間労働が評価される風土が多少残っている。長時間労働への不満は組合員から挙がることが多い。

2)休み方
長期休暇取得について、事務系の部署では取得しやすいが、一部の部署では顧客対応で連続休暇をとりづらいことがある。また、管理職に仕事が集中して休みを取りづらいことで、部下も休みが取りづらいとの意見が挙がっている。年次有給休暇を10日間取得する計画表作りを行ったことがあるが、むしろこのような書類作りを減らすことが業務の効率化につながるとの視点から、計画表作りは廃止した。

(5)「働き方・休み方改善指標」診断結果

働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
「働き方・休み方改善指標」による診断結果は以下のとおり。
【労働時間】
週労働時間60時間以上の雇用者の割合は0%であった。

→貴社の週労働時間60時間以上の雇用者の割合は、全国の雇用者の平均値である8.0%(従業員規模1000人以上のカテゴリ)及び、国の定める目標値5.0%をクリアしているが、36協定で定める労働時間の延長に関する国の限度基準である1か月45時間を超える社員が2.9%いる。
【年次有給休暇取得率】
年次有給休暇取得率は全社員平均で50.2%であった。
→主要産業の平均値である54.6%(従業員規模1000人以上のカテゴリ)及び国の定める目標値70%いずれも下回っている。
貴社は、長時間労働の社員の割合については目標値以上です。引き続きこの状況を維持しつつ、さらによりよい働き方の実現をめざしてください。一方、年次有給休暇の取得率は目標値および平均値を下回っており、休み方の改善が強く求められます。なお、36協定で定める労働時間の延長に関する国の限度基準である1か月45時間を超える社員は係長以下の中で2.9%で、改善の余地があります。
※「1ヶ月あたりの残業時間が80時間を超える社員の割合」を「週労働時間60時間以上の雇用者の割合」と見なした。
働き方
休み方

(6)課題の整理と改善提案

働き方・休み方に関する課題の整理と改善提案は以下のとおり。

指標項目
現状と課題
対策案
Vision(ビジョン)
項目1
方針・目標の明確化
働き方改革の主要な柱である「女性活用」の視点では、食品業界の女性的なイメージに反し、長時間労働など男性中心型の働き方が依然中心になっている。
女性が活躍する食品メーカーを目指し、女性も男性も働きやすい職場づくりをアピール
残業が少なく働きやすい環境であることを対外的にアピールするため、CSR報告書や統合報告書で実際に社員の働いている姿、活躍する姿を紹介するとともに、現状の働く環境と制度、働き方・休み方についての改善の取組を紹介するなどしてはどうか。女性が活躍する食品メーカー、働きやすい職場のイメージアップのPRにより、より良い人材の確保につながるとともに、社員全体の効率的な働き方推進につながる。
System(システム)
項目2
改善・推進の体制づくり
各部の人事担当課長が残業や休日管理の労務管理責任者となっているが、役割が明確でない。
各部の人事担当課長の役割の明確化・権限の付与
各部における人事担当課長の役割を明確にし、必要な権限を与えることで、各部における労務状況を改善する。各部では、人事部からの方針・対策等を伝えるだけでなく、部内各メンバーの状況を把握し、例えば、長時間労働が何か月か続いている、休日出勤が続いている等の部のメンバーについては、メンバーの所属している課の課長と対策について検討等を行う。
項目3
改善促進の制度化
多忙な状態が続き、休日出勤等が比較的多い部署が存在する。個々に顧客・取引先を担当している部署等では、連続した休暇が取得しづらい。
5営業日以上の連続休暇制度を導入
リフレッシュのため、連続休暇が取得しづらい部署や、休日出勤が多い部署などにおいて、業務の切り出し等により、連続して休暇を取得しても業務がまわる仕組みづくりについて検討し、(夏季以外の)5営業日以上の連続休暇制度を導入する。年間休日カレンダーを部署ごとに期初に設定するなどして休みを取りやすいように調整を図る。
項目4
改善促進のルール化
長時間労働が評価される風土が残っている。
一般社員を含め効率指標としての「時間当たり成果」を人事評価項目に加える
「時間」ではなく「効率性」で評価するようにすることによって、行動パターンを変えていく。このため、「時間当たり成果」を人事評価項目に加える。マネジメント層については、研修と合わせて、部下の時間効率アップについてマネジメントを行い、自らも生産性を上げ、早く帰る等の見本をみせる。
Action(アクション)
項目5
意識改善
課長のマネジメント能力の個人差がある可能性がある。
課長職に対するマネジメント力向上の研修(座学とグループワーク等の組み合わせ)
メンバーの業務負荷を勘案して、工場や関係会社と自社内の社員メンバーの役割分担の適正化を図り、社員の業務の効率化と適正化を図るためのマネジメント力を高める研修を実施する。内容としては、事例研究、社内における課題と対策の討議など、座学に加えてグループワークなどによる実際に即した対策を考えて実施できるような研修を行う。
長時間労働になりがちな部署においては、より短時間で良いアウトプットをという意識が不足している可能性がある。
長時間労働抑制に関する社員向けの教育・研修を実施
長時間労働抑制の必要性、効率的な働き方のための取組や有効性等について社員向けに研修を行い、人事評価に効率性に関する項目を追加する必要性について説明を合わせて行う。
項目7
仕事の進め方改善
長時間働いていると頑張っているという意識が残っている部署・個人が存在し、効率よく仕事を行うことがあまり得意ではない社員がいる。
現場の仕事の進め方の改革、効率的な業務遂行に向けたインセンティブ付与
前年に比べて、売り上げに対する人件費を含むコストを削減して付加価値を高める、又は時間あたり売上高を高める、といった指標を設定して、部署としての効率的な業務遂行を評価する仕組みを組織業績として設定し、部署メンバーへの一時金(ボーナス)などに反映することにより、部署全体での長時間労働削減の動機付けを行う。
Check(チェック)
項目8
実態把握・管理
社員の働き方や労働時間に関する意識や意向を定期的に把握していない。
社員意識調査の実施・分析
社員のモラール、働き方、評価、処遇について社員の意識を把握し、企業としての必要な施策検討の資料とする。これによってPDCAサイクルをまわす。
社員意識調査以外にも、残業の多い部署、個人に対してヒアリング等の方法により実態を把握し、実効性の高い取り組みを行う。

(7)改善提案の活用

提案の活用、取組状況に関しては以下のとおり。
1)女性が活躍する食品メーカーを目指し、女性も男性も働きやすい職場づくりをアピール
2015年度以降の全社方針、人事方針を策定する中で、どの程度織り込めるかを検討する。「女性」を強調するのを嫌がる女性も多く、配慮が必要。
2)5営業日以上の連続休暇制度を導入
人事担当課長への意識調査をしたところ、休暇取得推進は職種ごとに事情が異なることを確認した。この分析を進める中、職種ごとの連続休暇制度を提案できないか、検討してみたい。
3)社員意識調査結果の実施・分析
人事担当課長の意識調査までは実施済。今後どのような形での意識調査がありえるかを検討中。検討の中で、「休暇取得が必要」とする意識は高く、そのために仕事の進め方をどう変えるかとの意見が多く出てきた。

(8)「働き方・休み方改善指標」活用の効果(結果)

上記の取組は今後実施する予定であり、改善の効果を期待したい。

(平成26年度事業)

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