菱信工業株式会社

(1)企業概要

社名
菱信工業株式会社
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業種/事業概要
建設業/冷凍・空調装置の販売、太陽光発電の販売、設計、施工、メンテナンス
従業員規模
96 名
本社所在地
愛知県
労働時間制度
1年単位の変形労働時間制を導入。年末に翌年の年間カレンダーを作成し、定休日を設定している。

(2)働き方・休み方改善に関するこれまでの取組と指標活用のきっかけ

1)これまでの取組
代休を取得していない人をリストアップし、課長や係長が部下に対して取得を促している。管理職が集まる月次の会議で社長から残業時間削減の必要性についてメッセージを発信している。
月の残業時間が60 時間を超えた社員は自己診断によるストレスチェックを行うこと、その結果に異常が認められる社員に対しては、総務部長による面接が義務付けられている。さらに、100 時間を超えた社員に対しては産業医による面接が行われる。
一般職、管理職それぞれに研修を行っている。研修の中でグループディスカッションを行い、長時間労働抑制や年次有給休暇取得促進に係る課題の抽出、解決策の検討を参加メンバーで行なうよう促している。

2)「働き方・休み方改善指標」活用のきっかけ
過重労働による問題が既に発生しており、対策を会社全体で現在検討中だが、なかなか効果的な改善策が見当たらない状態にある。これを機に根本的な問題解決を図りたい。

(3)働き方・休み方の現状・背景

1)人事部の課題認識
17 時までに会社に戻り、その後、事務作業を行うというルールが徹底できれば、残業時間はせいぜい2時間以内に収まると思われるが、顧客との関係上、納期内に業務を終えられることが条件となり、難しい面もある。ただし、交渉次第では可能な面もあると考えられる。
若手の定着率が低い。2年前に1割の社員が退職した。その中には入社3年未満の若手も含まれており、退職の直接の理由には「労働時間の長さ」はなかった。賃金等の処遇に満足していなかったようだ。ただし、休暇が取得しにくいという不満はあったようである。
シフト制導入も考えたが、残業代が少なくなり手取りが減ることから社員の理解を得るのが難しい。

2)仕事特性と働き方・休み方の現状
① 仕事特性
技術職が社員全体の3 分の2 以上を占めている。主に、大型冷凍機のメンテナンスやリニューアルを行う「大型課」と、一般空調機器などのメンテナンスやリニューアルを行う「設備課」に分かれている。
「大型課」は丸一日もかからない作業もあれば、1か月程度を要する分解整備の作業もあり、チーム(主に「課」の下にある「係」単位)で業務を行うケースが多い。「係」単位に顧客が紐づいている。一方「設備課」は社員一人ひとりに顧客が紐づいている。
社員は社内の人間ではなく協力会社の社員と一緒に行動する。課長、係長は50 歳前後。専門性や業務役割は、若手、中堅、年配層でさほど差はない。

② 働き方・休み方の現状
技術職の社員は日中、顧客先に行っていることが多く、夕刻に社に戻り、事務作業(たとえば分解整備を行う場合は報告書の作成・提出が求められる)を行う。
人一倍仕事にこだわりを持ち、残業をいとわない働き方をする人が、一部の年配の人に見られる。
社員の半数以上は繁忙期のみ残業80 時間/月を超える。年間を通して80 時間/月を超える人は3~4 人。彼らはすべて「設備課」であり、一人ひとりの社員が別の顧客を持っているため、代替が効かず、休みにくい。
管理職は時間外労働が常態化しているが、代休は比較的取得している傾向にある。技術職は「メンテナンス」が主要業務であるため、たとえば冷房がうまく作動しないなどの緊急対応が必要になる場合が少なくない。このようなときは休日を返上して出勤することとなるが、若手は会社の携帯電話を保持していないため、年配層ないし管理職クラス(係長を含む)が対応することになる。
代休を取らずに年次有給休暇を取得するケースも見られる。

(4)働き方・休み方に関する課題

1)働き方
職人気質の社員が多く、このような人は、「時間効率性」の意識が薄く、効率よく仕事を行うことがあまり得意ではない。
顧客が業務活動を行っていない土日に作業を行わなければならなかったり、短納期のため休みを返上して仕事をしたりするなど、「顧客都合」による残業や休暇取得不足がある。また、土日に出勤した場合、当月に休日出勤分の賃金を割り増しで受け取れるが、別の月に代休を取得すればその月の給与が減ってしまうため、代休を取りたがらない傾向にある。代休を取得できれば、このようなことは生じないが、通常、土日出勤を行う時期は繁忙期であり、同じ月に代休を取得するのは難しい。工程に穴をあけないようにするには代休取得可能な時期が3 か月程度先になる場合も少なくない。
管理職のマネジメントで代休の取得や残業削減ができる余地があると考える。つまりマネジメントに改善の余地がある。世代間に働き方の違いはないが、各部署でマネジメントの手法が異なるため、人材育成に関しても標準化されたモデルがなく、先輩社員の働き方をそのまま引き継いでいる状況が見られる。

2)休み方
「大型課」の業務は冷房と暖房が入れ替わる4~6 月、10~12 月が繁忙期であり、「設備課」は7~9 月が忙しい。どちらも1~3 月などはゆとりがあるが、年間を通して業務が入ってくれば休みは取りにくくなる。
代休や年次有給休暇などをまとめて、連休のある時に休めるよう「リフレッシュ休暇」を2年前から始めたが、利用は芳しくない
休みを取るより仕事をしていたいと考える社員が少なくなく、休みたくない人をいかに休ませられるかが課題となっている。会社としては「代休」の取得促進を働きかけているところであるが、手取りが下がる、休んでもやることがない、との反応があり低調。顧客から出勤の要請があれば土日を返上して業務を行うことが「サービス」と考えている向きがあり、この意識を変えることが重要と考えられる。

(5)「働き方・休み方改善指標」診断結果

働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
「働き方・休み方改善指標」による診断結果は以下のとおり。
【労働時間】
週労働時間60時間以上の雇用者の割合は29.1%であった。

→貴社の週労働時間60時間以上の雇用者の割合は、全国の雇用者の平均値である9.3%(従業員規模30人~99人のカテゴリ)及び、国の定める目標値5.0%を上回っている。
【年次有給休暇取得率】
年次有給休暇取得率は全社員平均で38.7%であった。

→主要産業の平均値である40.1%(従業員規模30人~99 人のカテゴリ)及び国の定める目標値70%を下回っている。
貴社は、長時間労働の社員の割合、年次有給休暇の取得率ともに平均値にも達していません。働き方・休み方の改善が強く求められます。
※「1ヶ月あたりの残業時間が80時間を超える社員の割合」を「週労働時間60時間以上の雇用者の割合」と見なした。
働き方
休み方

(6)課題の整理と改善提案

働き方・休み方に関する課題の整理と改善提案は以下のとおり。

指標項目
現状と課題
対策案
System(システム)
項目3
改善促進の制度化
過重労働による問題が発生している状況下で、残業時間削減は喫緊の課題となっている。安全面及び健康管理面を重視するならば、確実に休むことができる仕組みを作ることが必要。
勤務間インターバル制度の導入
毎日確実に休んで休養をとり、翌日の勤務ではリフレッシュして積極的かつ効率的に働くことができるよう、前日の勤務終了時から翌日の勤務開始時間の間に十分な休養がとれるための時間として11~14 時間を制度的に設定する。顧客との納期やスケジュール等の交渉も必要となることが想定されるが、それも含めて、この設定した勤務間インターバル時間の制約の範囲で仕事を遂行して、仕事が納期内に終わるよう仕事の進め方などの改革を行う。顧客との折衝にあたっては、事故を起こさないなど長期的な信頼関係を築くことの重要性を重視して、トップ中心に組織的に働きかける。
繁忙期に多く発生する休日出勤の代休が繁忙期を抜けた時期でないととれないという現状があり、年間を通して業務が入ってくることから、必ずしも代休をとることができるとは限らない。
部署単位での年間休日カレンダー
部署単位で繁閑に応じた年間休日カレンダーを期初に設定するなどして、顧客に理解を求める。顧客との交渉にあたっては、事故を起こさないなど長期的な信頼関係を築くことの重要性を重視して、トップ中心に組織的に働きかける。
項目4
改善促進のルール化
職人気質で、効率よく仕事を行うことがあまり得意ではない社員が多い。顧客や仕事内容といった要因もあるが、管理職のマネジメント次第で代休の取得や残業削減ができる可能性もある。
マネジャー層などの人事評価項目に部下のワークライフバランスの項目を組み込む
マネジャーとしての重要な役割に、部下が効率的に業務を進めるための指導がある。部下がワークライフバランスを確保できているかを、残業時間や休日出勤などの実績データを用いてマネジャー層の人事評価の項目に組み込む。
休日出勤の代休が繁忙期を抜けた時期でないととれない。閑散期に代休をとると既に支給を受けた割増を除く給与分が差し引かれ収入が減少するため、代休を取らない傾向が見られる。
休日出勤の代休取得にこだわらない年次有給休暇取得促進
確実に休んで休養をとり、リフレッシュして積極的かつ効率的に働くことができるようにすることが重要と考えられることから、休日出勤の際の代休取得にこだわらず、年次有給休暇の取得を促進する。
Action(アクション)
項目7
仕事の進め方改善
職人気質で効率よく仕事を行うことがあまり得意ではない社員が多い。時間効率性の意識を持ってもらうことが必要。
現場の仕事の進め方の改革、効率的な業務遂行に向けたインセンティブ付与
前年に比べて、売り上げに対する人件費を含むコストを削減して付加価値を高める、又は時間あたり売上高を高める、といった指標を設定して、部署としての効率的な業務遂行を評価する仕組みを組織業績として設定し、部署メンバーへの一時金(ボーナス)などに反映することにより、部署全体での長時間労働抑制の動機付けを行う。
「大型課」と「設備課」では繁忙期がずれている。
繁忙期における部署間の応援体勢
それぞれ専門性もあると思われるが、多能工化を図り、相互に繁忙期には応援体勢を組むことにより、残業や休日出勤を削減することができるのではないか。
休日出勤の代休が繁忙期を抜けた時期でないととれない。工程計画を作成する際に休日を織り込んでいないことに要因がある
工程計画作成時に休日を織り込むことを義務づける
受注時に工程計画を作成する際、現在は休日を意識しないで納期に合わせて作成しているとのことだが、少なくとも、法定休日(連続労働日数は6日まで、特に業務が繁忙な期間の連続労働日数は12 日まで)を織り込んだ上で工程計画を作成するように義務づける。納期に合わせるために、必要に応じて人員配置や応援態勢の工夫を行う。顧客との調整が必要な場合は、事故を起こさないなど長期的な信頼関係を築くことの重要性を重視して、トップ中心に組織的に働きかける。

(7)改善提案の活用

提案の活用、取組状況に関しては以下のとおり。
1)勤務間インターバル制度の導入
11 時間以上勤務者に対し、翌日の午前半日以上の年次有給休暇取得を義務付ける案を検討したい。
2)部署単位での年間休日カレンダー
リフレッシュ休暇の取得予定日を、年初時点で個人別に設定してもらい、計画的な年次有給休暇の取得を促す方向で検討したい。
3)マネジャー層などの人事評価項目に部下のワークライフバランスの項目を組み込む
管理職の考課項目に労務管理(時間外労働削減目標や代休・年次有給休暇取得目標の達成結果)項目を設ける方向で検討したい。
4)現場の仕事の進め方の改革、効率的な業務遂行に向けたインセンティブ付与
管理職の考課項目の見直しを行なう方向で検討したい。
5)繁忙期における部署間の応援体勢
既に取り組み始めているが今後更に促進させていきたい。
6)工程計画作成時に休日を織り込むことを義務づける
工程表作成時に休日を考慮していなかったが、今後、管理を強化して、連続勤務の日数は6日以内とし、特に業務が繁忙な期間のみ連続勤務の日数を12 日以内とする工程計画を作成するように指導していきたい。

(8)「働き方・休み方改善指標」活用の効果(結果)

既に「工程計画作成時に休日を織り込んで作成することを義務づけ」、「繁忙期における部署間の応援体勢」など、取組を始めているものもあり、今後、さらに他の取組を実施する予定であり、改善の効果を期待したい。

(平成26年度事業)

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