A社(2014年度)

(1)企業概要

社名
A社(2014年度)
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業種/事業概要
学術研究,専門・技術サービス業/安全性試験検査受託及び開発研究機関
従業員規模
105 名
本社所在地
神奈川県
労働時間制度
個人の裁量での労働時間配分が可能になるよう、研究業務従事者を対象に専門業務型裁量労働制を導入している。

(2)働き方・休み方改善に関するこれまでの取組と指標活用のきっかけ

1)これまでの取組
研究業務従事者を対象に専門業務型裁量労働制を導入している。
夏季休暇として、特別休暇を用いた連続休暇の取得を促進している。

2)「働き方・休み方改善指標」活用のきっかけ
専門業務型裁量労働制を導入しているが、裁量労働と休暇取得・長時間労働抑制との両立が難しい。特に研究者は時間効率性よりも研究成果の品質向上に業務上の価値を置き、長時間労働を厭わない文化があるため、効率的な業務遂行に向けて、第三者からの診断・提言をもって改善策を検討・導入することで組織的な動きを開始するきっかけとなることを期待している。

(3)働き方・休み方の現状・背景

1)人事部の課題認識
時代の要請に応じて、求められる仕事の内容や社員の仕事の仕方・考え方、賃金テーブルやビジネスモデルも変化が求められている部分があり、研究者の職業倫理と効率的な業務遂行・収益事業の拡大等、組織として必要な事項との両立、効率と品質のバランスの難しさがある。また、優秀な研究者に業務が集中しすぎる傾向があり、各研究者が隣接分野に関する知識と技術を獲得することが必要。さらに、納得性のある人事考課が必要と認識しているが、研究者の評価に適当な指標の設定が困難である。
若年研究者の退職が続いている(労働時間の長短の問題ではなく、半数はキャリアアップの為の転職、残り半数は家庭の事情)。

2)仕事特性と働き方・休み方の現状
①働き方・休み方
研究職は新卒で入社後、学位・経験に応じて裁量労働制に移行する。研究職の中途採用は少なく、ベテラン層は平均して勤続年数が長い。
研究業務従事者の仕事は主に、受託した業務について必要な試験研究を自然科学的手法によって実施し、結果をレポートすることである。試験の企画、委託元と現場の間を取り持つ部門に負荷がかかることが多い。特に11 月~3 月は繁忙度が高まる。繁忙期以外の時期については受託業務に割かれる時間は減少するものの、個人研究等に関しての学会発表準備などで時間を使うため、総労働時間そのものは大きく減少することはない。
各案件は受託後、当該案件に適した専門性を持つ研究者に託され、実際の試験が実施されるが、案件によって単一の部署で完結する場合と組織横断で取り組むものがある。研究員の専門性による業務頻度の差(特定の専門知識やスキルの研究者に業務が集中する)や研究員の技量の差によって業務の集中度合いが異なるが、負荷調整についての特別な仕組みはない。また、受託試験については、顧客企業の製品上市のスケジュールとの関係で納期が厳しい。
利益の事は考えずに好きな研究をするという昔からの研究者意識がそのまま残っている者が多数見られ、研究に没頭する余り長時間労働になる研究員がいる。管理部門としても、研究者の知識・スキルの向上が法人の存在意義でもあるため、バランスをとるのが難しいと感じている。
貢献度や業績と連動しない賃金支払いの仕組みに対しては、負荷の集中する若手研究者などのモチベーションの観点から改善の余地があると感じている。また、研究、品質面の追及の重要性は十分理解しつつ、効率的な働き方、仕事や研究以外の時間の使い方を充実させてほしいと考えている。
業務上生物資材を使用するため、担当部門の一斉休業は不可能であり、年末年始、夏季等は輪番で休日労働をする。
職住接近の研究者が多く、概ね自家用車で通勤しているため、終電等の概念がない社員も存在する。
なお、時間管理されている社員の時間外労働は申告制だが、部署によっては形骸化している。

②研究職のマネジメント
人材育成はOJT を主体に、研究者同士の徒弟的な関係での育成もある。研究系部門の長に昇格するには、当該研究分野における研究実績が重視され、マネジメントスキル、人材育成の巧拙等は重視されてこなかった(管理職登用に関する客観的な基準は設けていない)。階層別の研修などもなく、所属長の、部下のまとめ方も標準化されてこなかった(マネジメントの概念が無い)。
これまで、案件ベースの管理(管理会計)は導入しておらず、どのような案件にどの研究者がどの程度の時間を投入したのかが明確には把握できていない。
世代間に働き方の違いはないが、各部署でマネジメントの手法が異なるため、人材育成に関しても標準化されたモデルがなく、先輩社員の働き方をそのまま引き継いでいるだけという可能性がある。そのため、特に若年層について、本当に本人の目指す働き方になっているのかどうか、社員意識調査などを実施して実態の把握が必要であると考えている。
マネジメントの改善に関連して、社員意識調査、目標管理制度導入、賃金制度改定、ジョブローテーション(「タコツボ」化の排除)、個人評価から組織的な指標への転換なども検討の価値があると人事部門では認識している。

(4)働き方・休み方に関する課題

1)働き方
研究者によっては極端な時間配分をする者(夕方になってやる気が出てくる)もあり、健康面から一定の働き方についてのモデルが必要と考える。
上司が長時間労働の部署は、部下まで長時間労働となる傾向にある。

2)休み方
仕事に没頭・仕事が趣味のような社員が多く、休暇取得に対する意識が低い。

(5)「働き方・休み方改善指標」診断結果

働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
働き方・休み方に関するアウトプット指標
「働き方・休み方改善指標」による診断結果は以下のとおり。
【労働時間】
週労働時間60 時間以上の雇用者の割合は12.4%であった。
→貴社の週労働時間60時間以上の雇用者の割合は、全国の雇用者の平均値である9.3%(社員規模30 人~99 人のカテゴリ)及び、国の定める目標値5.0%ともにクリアできていない。
【年次有給休暇取得率】
年次有給休暇取得率は全社員平均50.0%であった。
→主要産業の平均値である40.1%(社員規模30人~99 人のカテゴリ)をクリアするが、国の定める目標値70%を下回っている。
貴社の長時間労働の社員の割合は平均値に達していないことから、働き方の改善が強く求められる。
一方、年次有給休暇の取得率は、平均値はクリアしているものの目標値には達していないことから、休み方の改善も求められる。
※「1ヶ月あたりの残業時間が80時間を超える社員の割合」を「週労働時間60時間以上の雇用者の割合」と見なした。
働き方
休み方

(6)課題の整理と改善提案

働き方・休み方に関する課題の整理と改善提案は以下のとおり。

指標項目
現状と課題
対策案
Vision(ビジョン)
項目1
方針・目標の明確化
残業削減及び年次有給休暇取得促進に向けて、経営トップからメッセージ発信がなされていない。
残業削減及び年次有給休暇取得に係る方針・取組みについてトップがメッセージを発信
組織として残業削減及び年次有給休暇取得に取り組むために、事業運営上の重要な課題の一つとして位置づけ、残業削減及び年次有給休暇取得促進に向けた取組について、トップがメッセージを発信する。
System(システム)
項目3
改善促進の制度化
時間外労働の申告制が、形骸化している。
残業管理の徹底
時間外労働の申告制の運用を厳格化する(不徹底の場合の人事考課への反映等)。
社員の意識が休暇取得より研究という仕事自体に向いており、年次有給休暇を取得する意識が低い。
「記念日休暇」、「誕生月休暇」等のメモリアル休暇を設ける
就業規則に、「記念日休暇」、「誕生月休暇」等のメモリアル休暇を規定し、制度化する。現場では、記念日の対象となる社員をきちんと把握したうえで、該当者に希望日をヒアリングし、必ず反映する。
年次有給休暇の計画的付与
就業規則を改定し、年次有給休暇の計画的付与を実施する。
実施にあたっては、仕事の切れ目などを勘案し、部署ごとに各個人の希望も考慮する。状況に応じて、交代での休暇取得も検討する。
項目4
改善促進のルール化
人事評価にワーク・ライフ・バランスや部下の人材育成についての項目がない。
人事評価項目にワーク・ライフ・バランスや人材育成の項目を組み込む
組織としての長期的視点から人材確保・人材育成も重要であることから、マネジメント層を中心に、人事評価項目にワーク・ライフ・バランスや人材育成についての項目を組み込む。
Action(アクション)
項目5
意識改善
組織運営のあり方の標準化がなされておらず、所属長の考え方やワークスタイルなどを原因として、部下の働き方や休み方が異なる結果となっている。
管理職層のマネジメント力向上
管理職のマネジメントのレベルを合わせるため管理職研修を実施する。また、その内容に、管理職に期待される役割の一つとして人材育成及びワーク・ライフ・バランスに関する研修項目も導入する。
長時間労働のマネージャーの管理する部署は、部下も長時間労働となる傾向にある。
働き方の改善
管理職(室長、部長)の強制退社を行いうる仕組みを検討する(管理職を対象とした強制定時退社日、退社月間等の設定等)。
項目7
仕事の進め方改善
部署を超えたプロジェクトが少なくない中で、どのようなプロジェクトが残業を発生させやすい傾向にあるか、採算が良いかなどの分析は未着手である。
プロジェクト視点の導入
プロジェクト単位で「事業費÷投入時間」を算出し、また当該プロジェクトに参画しているメンバーの一覧をセットにして「見える化」する。
特定の研究員に業務が集中している(負荷の調整機能が無い)。
特定の研究員への業務の集中の是正
各研究員の専門分野への「タコツボ化」を是正し、専門性を深めつつも、その周辺の専門分野の業務も行えるよう、各研究員の業務領域の幅を広げるような研修を行う。その際、研究員の業務領域の幅を広げることのメリットを確認して共有することが必要。
Check(チェック)
項目8
実態把握・管理
所属長の考え方やワークスタイルなどによって、部下の働き方や休み方に差異が生じている。
各組織における「働き方」の実態把握と組織間で「働き方」を比較する視点の導入
各室におけるメンバーの労働時間を月別に比較し、情報をオープンにすることで、相互にチェックしあう風土を醸成する。
若年層の離職の問題がある。社員意識調査は行っていない。
社員意識調査の実施
社員意識調査を行い、働き方、仕事のやりがいや将来展望等への不満を把握し、離職の原因を分析する。

(7)改善提案の活用

提案の活用、取組状況に関しては以下のとおり。
1)残業削減及び年次有給休暇取得促進に向けて、経営トップからメッセージ発信
経営トップが、長時間労働削減への取組が重要課題であることを、幹部、管理監督者及び管理者の出席する会議上で言明した。
2)残業管理の徹底
長時間労働の常習者に労務管理責任者が個別面談を実施し、注意喚起を行った。
3)管理職層のマネジメント力向上
階層別の管理職研修を実施するほか、試験責任者による人材育成の必要性を考える機会を設けた。
4)特定の研究員への業務の集中の是正
研究員をはじめ全社員に対して業務分析を実施し、スキルレベルを確認して適正な人事配置を行うこととした。
5)社員意識調査の実施
上記業務分析と同時に社員意識調査を実施した。

また、提案いただいたその他の取組についても検討を行い、働き方・休み方の改善を推進したいと考えている。

(8)「働き方・休み方改善指標」活用の効果(結果)

トップメッセージを発信した月の本指標の基準による長時間労働該当者がゼロになった。また、長時間労働常習者への労務管理責任者からの残業への注意喚起後、長時間労働が改善された。
その結果、働き方・休み方に関する実績値で確認すると、昨年度は労働時間が週60時間以上の雇用者は12.4%であったが、1年経過した現在、1.0%まで減少した。また、年次有給休暇の取得率は、前回50.0%であったが、52.1%に改善した。

(平成26年度事業)

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