山口労災病院

事例カテゴリ

  • 所定外労働削減
  • 年休取得促進
  • 多様な正社員
  • 朝型の働き方
  • テレワーク
  • 勤務間インターバル
  • 選択的週休3日制

企業情報

山口労災病院
企業名
山口労災病院
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所在地
山口県
社員数
518名
業種
医療・福祉

取組事例

取組の目的
急性期病院における看護師は、患者の高齢化に伴い、疾患看護だけでなく高齢者が急性期治療を受ける事を常に念頭に置いたケアが必要になってきました。当院では「患者の生きる力を支援する」ことを目的に、2022年に看護体制をセル看護提供方式に変更しました。より看護力が必要な場へ看護師を配置するために、ナースステーションからベッドサイドに支点を移しました。看護師がベッドサイドにいることで、高齢者の行動制限やポータブルトイレの使用を低減させることが出来ました。また、休日も看護師が離床を積極的に促す事が出来、ADLの維持に関心を持つようになりました。さらに、入院後に患者がどのように生きたいのか、ACPについて退院支援を中心に取り組み始めました。今後さらに在院日数が短縮する中、院内だけでなく地域を巻き込んだ看護師としての専門性の発揮が望まれていると感じますが、その人材確保は喫緊の課題です。
当院では、育児短時間制度や夜勤免除などの福利厚生は充実しており、取得を希望する職員は積極的に制度を活用しています。年休取得率も90.3%と高く、院内保育所だけでなく院内病児保育の利用も可能です。また、子の看護休暇だけでなく介護休暇も積極的に活用しながらワーク・ライフ・バランスの充実を図っています。しかし、制度利用後に夜勤がない施設への転職が後を絶たず、夜勤が出来る看護師の確保も深刻な問題となっています。セル看護提供方式では、ベッドサイドで先輩が看護を見せながら教育を行っています。そのため、中堅看護師の離職は、短期的にも長期的にも看護の質に大きな影響を与えると言えます。「働き方:看護提供方式」「休み方:勤務形態」を見直すことで、長期的な就業継続を可能とし、看護師が専門性を発揮しやりがいを感じられる職場風土の醸成が必要と考えました。
取組の概要
<現在の取組>
■夜勤に関連する休みを減らす
取組の背景として、従来の勤務形態は、逆循環を基本とした8時間3交代勤務でした。日勤-深夜などの勤務はないので勤務間インターバルは保たれていたものの、深夜明けは休みではなく日勤でした(休み-深夜-深夜-日勤-準夜-準夜-休み)。また、逆循環の連続した夜勤が難しい職員は、夜勤を2回ずつ(準夜-準夜、深夜-深夜など)細かく配置していたため、昼夜遷移が激しく夜勤に関連する公休を多く必要としました。さらに、夜勤間のインターバルは意識されておらず、サーカディアンリズムを考慮した勤務とは程遠い勤務形態でした。2連休を1か月に2回確保することがルールでしたが、土日祝日に確保は出来ていませんでした。
2013年に日本看護協会の「看護職の夜勤・交代勤務に関するガイドライン」(以下、「ガイドライン」という。)が発行され、10年が経過しています。今回、当院は勤務編成の「基準8:夜勤後の休息」「基準9:週末の連続休日」「基準10:交代の方向」についてと、2021年に日本看護協会で策定された「就業継続が可能な看護職の働き方」の提案にある「提案1-4:頻繁な昼夜遷移が生じない交代勤務の編成とする」「提案2-1夜勤・交代勤務者においては時間外労働をなくす」にむけて着手しました。

○トップメッセージ
・ONとOFFのメリハリのある勤務を目指す
・師長は愛のある勤務表を作成すること

<勤務間インターバル時間の確保に向けた工夫・取組>
当院の取り組んだ課題は次の5点です。
○逆循環から正循環勤務への変更
ガイドラインに準拠し、正循環に変更しました。深夜前の入りの休みは、勤務間隔23時間30分しか確保できていないため、30分を時間外勤務手当(深夜割増)の対象として取り扱いを行っています。開始に伴い勤務パターンは個々のスタッフの希望に沿った選択制としました。次の3つのパターンから選択し、いつでも変更可能としています。
 ①準夜-準夜-休み-深夜-深夜-休み-休み
 ②準夜-休み-深夜-深夜-休み(準夜-準夜-休み-深夜-休み)
 ③準夜-休み―深夜-休み
①のパターンは、深夜の後の休みを2連続確保しているため、次の日勤までのインターバルは71時間15分あり、休みを有効に使用したいスタッフはこのパターンを選択しています。(58.0%)
②のパターンは、準夜が2回連続すると難しいスタッフが主に選択しており48.3%を占めています。
③夜勤の連続が身体に負担がかかるスタッフは、このパターンを選択していますが一番少ないです。(4.5%)
○夜勤に関連しない休みを増やし、できるだけ連休を確保する。
○土日祝日の2連休を確保する。
正循環を実施し、夜勤の単発配置を減らすことで、休みを有効活用できるように変更する。
○深夜明けの休みを確保する
以前は、深夜明けに日勤を組み入れることで、連休が可能となっていました。深夜明け日勤でもインターバルは約23時間ありますが、深夜の後は疲労が溜まり休息が必要と考え、必ず休みを取るように変更しました。
○夜勤間のインターバルは4日を原則とする。
準夜-準夜など夜勤が単発に配置されているため、夜勤間インターバルが短く昼夜変遷が非常に多い勤務表となっていました。夜勤を効率よく配置できたことで、夜勤間インターバルは4日間を原則とすることが出来ました。

<今後の課題・取組>
今後は、多様な働き方として2交代勤務も視野に入れています。スタッフのライフイベントにより、2交代をすることでもっと効率的に休みを活用したいと考えるスタッフや、親の介護などでも2交代勤務の方がショートステイを活用しながら勤務しやすいなど色々な事情を抱えるスタッフもいます。2交代勤務の16時間勤務は、ベテラン看護師の身体的負担もあることなどを考慮しながら検討していきたいと考えます。
また、タスクシフト/タスクシェアを推進し、看護師の専門性が必要な場に配置することを、業務量調査結果などを参考に考えていく必要があります。
現状とこれまでの取組の効果
「夜勤に関連しない休みを増やす」取組に関しては、2021年と2022年の同月比較を行うと、取組前の2021年は、夜勤に関連した休みは1か月に4.17日で、全体の休みの38%を占めていました。取組後は1か月に2.76日で全体の25%に減少しました。土日祝日における夜勤に関連する休みの割合も23%から14.8%に減少し、休日を効果的に取得できていると考えます。また、当院には以前より2連休を1か月に2回取得することというルールがありましたが、そのうち1回は土日祝日での2連休を取得することが可能となりました。さらに2連休だけでなく、3連休以上の連休の取得割合も増加しており、「連休をできるだけ取得させる」ことも実現できています。年休を多く付与すれば容易に取得できますが、急性期病院として平日の人員確保は必須であり、人員確保しながら連休を効果的に配置することが可能となりました。正循環になると「深夜入りの休み」が「入りのための休み」となり、休んだ気がしないと言うスタッフの意見もありますが、3交代正循環だとこの課題解決は困難です。そのことよりも、交代勤務で中々一緒に時間を過ごせない家族や友人との時間を土日祝日に確保できることのメリットは大きいと思います。連休の確保は夜勤パターンの選択の仕方も関係してきます。前述したように、当院には原則3パターンの勤務形態があります。夜勤の連続が厳しいスタッフは③のパターン(準夜-休み-深夜-休み)を選択することも可能ですが、実際はこのパターンを選択しているスタッフは4.5%と少なく、①のパターン(準夜-準夜-休み-深夜-深夜-休み-休み)を選択しているスタッフが多いことを考えると、スタッフが休みの効果的取得を優先的に考えていることが分かります。
当院では毎年5~6月にかけてストレスチェックを実施しています。指標の一つであるワークエンゲージメント(仕事から活力を得ており仕事に誇りが持てる。)は、高ストレスの改善率が13%でした。ワークエンゲージメントを高めるためには、「組織的支援」と「個人の発達」のバランスが重要であると言われており、個人の発達は睡眠、食事、休養などの身体状況が整うことが大切と言われています。今回、サーカディアンリズムに合わせた正循環に変更したことや、休みを効果的に取得できるようにしたことは、その一助になったと考えています。今回の取組においては、時間外勤務の減少は見られず改善率は▲24.7%でした。これは、患者数5~9%増になったこと、80歳以上の入院患者数が10%増となったこと、また、コロナウィルス感染症のクラスターが数度発生したことにも関連していると考えます。しかし、ストレスチェックの項目である仕事の量的負担(仕事が時間内に終わらない。)の改善率は16.6%、ワークライフバランスポジティブ(仕事により自分の生活も充実する。)は9%、仕事のコントロールは22.5%とプラスの改善率でした。患者数の増加による忙しさは増加したものの、ストレスは低下しており、看護提供方式の変更や勤務形態などの組織的支援と休みがしっかり確保できるようになったことで、ON-OFFのメリハリがつき、仕事を前向き捉えるようになってきたと考えています。
(R5.12)

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