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2018年6月29日に成立した働き方改革関連法に基づき、労働時間等設定改善法が改正され、前日の終業時刻から翌日の始業時刻までの間に一定時間の休息を確保すること(勤務間インターバル制度を導入すること)が事業主の努力義務となりました。

勤務間インターバル制度は、企業や働く人々にとってどのようなメリットをもたらすのでしょうか。また導入にあたり、どのような点を工夫すればよいのでしょうか。

勤務間インターバル制度導入促進のために行われたシンポジウムの内容を中心に、勤務間インターバル制度のポイントや先進事例、導入にあたっての工夫等を紹介します!

勤務間インターバル制度とは

「勤務間インターバル制度」とは、勤務終了後から一定時間以上の「インターバル時間」を設けることで、従業員の生活時間や睡眠時間を確保するものです。

勤務間インターバル制度を導入した場合、たとえば図表1のような働き方が考えられます。この他、ある時刻以降の残業を禁止し、次の始業時刻以前の勤務を認めないこととする等によりインターバル時間を確保する方法もあります。

図表1 勤務間インターバル制度を導入した働き方(例)

【例:11時間の休息時間を確保するために始業時刻を後ろ倒しにする場合】

勤務間インターバル制度を導入した働き方の例を示した図表(11時間の休息時間を確保するために始業時刻を後ろ倒しにする場合の働き方の例)

※「8時〜10時」までを「働いたものとみなす」方法等もあります。

(資料)労働時間等設定改善法パンフレット [PDF形式:2,865KB]

勤務間インターバル制度の意義

働き方改革関連法に基づき、労働基準法が改正されました。大企業に対しては、時間外労働の上限規制が2019年4月1日から適用され、中小企業には、今年(2020年)4月1日から適用されます。しかし、規制の具体的な方法が「1ヶ月あるいは1年間における労働時間の総量規制」であるため、“特定の日”や“特定の期間”に労働時間が長くなり、十分な休息時間を確保できない場合が生じる可能性があります。そのため、勤務終了後から一定時間以上の休息時間を毎日確保する勤務間インターバル制度を導入することが重要なのです。

また、勤務間インターバル制度の導入により、従業員が休息時間を確保できるようになれば、企業には、次のような効果がもたらされます。

1 従業員の健康の維持・向上

図表2のとおり、インターバル時間が短くなるにつれてストレス反応が高くなること、インターバル時間が12時間を下回ると起床時疲労感が残ることが明らかになっています。

また、図表3の看護師を対象とした調査からは、前月の夜勤の有無よりも、11時間未満の休息時間の有無が翌月の病気休暇日数に影響することがわかっています。つまり、このデータに基づいて試算すると、11時間未満のインターバル時間となる日数が月に3回あると、翌月の病気休暇日数は21%増加すると考えられます。

これらの研究成果は、勤務間インターバル制度の導入による十分なインターバル時間の確保が、従業員の健康の維持・向上につながることを示唆しています。

図表2 インターバル時間とストレス反応・疲労回復の関係

休息時間(インターバル時間)の長短とストレス反応の高低との関係に関する調査結果(グラフ)、並びに休息時間(インターバル時間)の長短と起床時疲労感の高低との関係に関する調査結果(グラフ) 資料:Tsuchiya et al, Ind Health 2017

図表3 インターバル時間の確保状況・夜勤の有無と翌月の病気休暇の関係

11時間未満の休息時間(インターバル時間)の有無と翌月の病気休暇日数、並びに前月の夜勤の有無と翌月の病気休暇日数との関係に関する調査結果(グラフ) 資料:Vedaa et al, Occup Environ Med 2017

2 従業員の確保・定着

「日々のインターバル時間」を確保することにより、従業員はその時間を「自分のためにつかう時間」、「家族や友人等と過ごす時間」等に充てることができ、ワーク・ライフ・バランスの充実が図られます。

労働力人口が減少するなか、企業にとって人材の確保・定着が重要な経営課題になっています。ワーク・ライフ・バランスを実現できる職場は従業員にとって働きやすく魅力的な職場であるので、勤務間インターバル制度による十分なインターバル時間の確保は人材の確保・定着に大きく資するものと考えられます。

3 生産性の向上

勤務間インターバル制度の導入により、従業員は「仕事に集中する時間」と「プライベートに集中する時間」のメリハリをつけることができるようになるので、従業員の仕事への集中度が高まることが期待できます。

仕事への集中度合いが高まれば、自社の製品・サービスの品質水準が向上するのみならず、生産性の向上が期待できます。

勤務間インターバル制度導入促進シンポジウム(東京会場)のご紹介

厚生労働省では、企業における勤務間インターバル制度の導入を支援するため、全国4会場(東京・名古屋・大阪・福岡)で「勤務間インターバル制度導入促進シンポジウム」を開催しました。シンポジウムでは、学識者の先生方や先進企業の皆様にご登壇いただき、勤務間インターバル制度の重要性や取組を進めるためのポイントについてご発表いただきました。東京会場の様子について、まずそれぞれのポイントを示し、その後、それぞれのご発表内容を詳しく紹介します!

ご講演のポイント

【R1勤務間インターバルシンポジウム】黒田祥子氏による基調講演の様子(写真)
  • 長時間労働は、メンタルヘルスの悪化につながる傾向がある。
  • それでも人はつい無理を重ねてしまう生き物。勤務間インターバル制度を導入することで、心身の休息確保を促すことができる。
  • 勤務間インターバル制度導入の際は、導入目的や自社にとってのメリットを明確にしたうえで、勤怠データに基づく実態把握を行い、自社の事情に応じて制度を設計することが重要である。
  • リモートワーク等の広がりにより「いつでもどこでも」仕事ができる時代だからこそ、休息時間の重要性を社会全体で認識し、実際に休息を確保していくことが求められている。
【R1勤務間インターバルシンポジウム】高橋正也氏による基調講演の様子(写真)
  • 日中に働く人々を対象とした調査では、インターバル時間が短いほどストレス反応が高くなる一方で、インターバル時間が長いほど血圧が下がる傾向がみられる。インターバル時間の確保は、心身の健康につながっている。
  • 夜勤従事者を対象とした調査では、インターバル時間を十分に確保できなければ、当日および翌日の大きなケガにつながりやすくなったり、翌月の病欠が増加したりする傾向がみられる。健康・安全に働くためには、勤務間インターバル制度が有効である。
  • 勤務間インターバル制度の導入は睡眠時間の確保につながる。睡眠時間の確保が心身の健康を守るとともに、ケガの防止にもつながることから、企業にとっても働く人にとってもメリットがある制度である。
【R1勤務間インターバルシンポジウム】企業による事例発表の様子(株式会社ニトリホールディングス)(写真)
  • 様々な職種に携わる従業員の心身の健康を確保したいという思いから、勤務間インターバル制度を導入した。
  • 導入時には事前調査を行ったうえで、インターバル時間や適用除外となるケースを設定した。
  • インターバル時間の確保を促すため、シフト作成や勤務管理に関するシステムを改修したほか、インターバル時間を確保できなかった部署については理由書の提出を求める等の工夫を行っている。
【R1勤務間インターバルシンポジウム】企業による事例発表の様子(サッポロビール株式会社)(写真)
  • 営業担当者の長時間労働に対する課題意識のもと、健康・生産性向上・生活の充実を図るための「働き方改革2020」の一環として勤務間インターバル制度を導入した。
  • 勤務間インターバル制度を本格的に導入する前に、テスト運用を実施することで、管理職の不安を解消した。また、テスト運用のなかで人員配置や取引先への説明を行い、実施にあたっての課題を一つずつ解決した。
  • 勤務間インターバル制度の導入を通じて、月平均労働時間は4時間程度減少している。従業員アンケートでも、「働き方改革を実現するために行動・意識が変化した」と答える従業員の割合が高まっている。
【R1勤務間インターバルシンポジウム】パネルディスカッションの様子1(写真)
【R1勤務間インターバルシンポジウム】パネルディスカッションの様子2(写真)
1 先進企業の工夫
  • 営業ノルマを設定しない、部下のインターバル時間を確保できれば役職者が評価される等、インターバル時間の確保を促す仕掛けをつくる。
  • 勤務間インターバル制度を導入するだけでは不十分であり、突発的なトラブルや事情が発生し、インターバル時間の確保が難しくなった時の対策まで含めて考える必要がある。
2 睡眠・休息時間の重要性
  • 睡眠は確保しなければならない重要なものであり、なおかつ毎晩の確保が大切である。
  • リモートワークを導入する場合、深夜勤務の原則禁止といったルールを設けて、インターバル時間を確保することが望ましい。
3 これから勤務間インターバル制度の導入を考える企業の方へのアドバイス
  • 勤務間インターバル制度は企業にとっても従業員にとってもメリットがある制度である。
  • 勤務間インターバル制度を導入してからも、自社の業務特性や従業員の勤務実態に合った制度となるように改善を図ることが重要である。

基調講演1
「働き方改革と勤務間インターバル制度」

【登壇者】黒田 祥子氏(早稲田大学教育・総合科学学術院 教授)

なぜ長時間労働の是正が必要なのか?

実は、1970年代以降、平日1日あたり10時間以上働く人の割合は男女ともに増加しています。1976年時点では、フルタイムの従業員で10時間以上働く男性は2割未満でした。しかし、2016年では男性の4割以上、女性の約2割が10時間以上働いています。これは首都圏に限られた現象ではなく、全国的に生じている現象です。1日は24時間ですから、労働時間が増加するなら、その代わりに何かの時間を削らなくてはならないことになります。データからは、日本人の多くは睡眠時間を削っていることがみえてきており、この50年間で平均睡眠時間が趨勢的に短くなっていることも明らかになっています。

以前、私どもが行った研究で、長時間労働がメンタルヘルスに与える影響について同じ人々を4年間にわたって追跡調査した研究があります。追跡調査のメリットは同一個人に注目することによって、メンタルのタフさといった個体差を除去したうえで、同じ人でも労働時間が長くなるとメンタルヘルスが悪化するかどうかを検証できる点にあります。分析の結果、個体差を取り除いた場合でも、1週間あたりの労働時間が50時間を超えると、メンタルヘルスが悪化する傾向にあることがわかりました。ただ、同じデータを用いたもう一つの研究では、週あたりの労働時間が50時間を超えると、仕事に対する満足度は逆に上昇することが確認されました。これらの2つの分析からみえてきたのは、仕事に満足感を感じて長時間労働をしている人であっても、実はメンタルヘルスは悪化している可能性があるという点です。

また、米国の経済学者が1930年代のイギリスの軍需工場のデータを用いて、労働時間と生産性の関係を調べた研究があります。分析結果からは、週あたりの労働時間が50時間を超えた頃から、1時間あたりの生産量が減少してしまうことが明らかになりました。また日曜日も休日出勤して働いた翌週は、週あたり労働時間が50時間に達するよりももっと早くに生産量が落ちていました。これらの結果からは、長時間労働が疲労をもたらし、疲労は生産性を下げるということ、だからこそ休息が重要だということが理解できるでしょう。

総労働時間規制だけで十分では?

休息が重要であることは理解できても「法制度等のルールをつくるまでして休息を確保する必要があるのだろうか」と疑問に思う方もいるかもしれません。しかし、個人や企業任せでは、なかなか休息を確保できないのが実情です。人間には、周囲が長時間労働で頑張っていると「自分ももっと頑張らなきゃ」と思ってしまうピア効果や、自分の健康を過信してしまう性質があるからです。強制的にルールをつくることで、つい無理を重ねてしまう人間の行動特性に働きかけ、体と心の休息を促すところに法制度の意義があります。

労働基準法の改正により、2019年からは時間外労働の上限規制が設けられました。総労働時間が規制されるならば、勤務間インターバル制度は必要ないのでは?とお考えの方もいることでしょう。労働時間の上限規制は「ここまで働いてよい」という発想に基づくものであることに対し、勤務間インターバル制度は「働かないオフの時間の確保」という逆の発想のもとに生まれています。

「インターバル」について考える

そもそもインターバルには「仕事と仕事の間」という意味があります。仕事と仕事の間というと、私たちはつい日々(daily)の退勤から出勤までの時間を想像しがちですが、インターバルの概念は“weekly”(一週間)や“annually”(年間)の単位にもあてはめることができます。また休養・休息を意味する言葉としては、“reset”、“recovery”、“recharge”、“refresh”等の英単語がありますね。「日々の労働のなかで蓄積されたダメージを元に戻す」というイメージならば、英語では“一日や週単位”で “回復する(reset, recovery)”という言葉があてはまりますが、「より生産性を高めるためにさらにプラスの状態をつくり出す」というイメージならば、“月や年単位”で“元気やエネルギーを蓄える(recharge, refresh)”という概念のほうが適当です。

勤務間インターバル制度を導入するにあたって

つまり、勤務間インターバル制度の導入を考えるにあたっては、まず導入目的やメリットを明確にしておくことが重要です。自社においては、どれくらいの従業員がインターバル時間を確保できていないのか、“daily”、“weekly”、“annually”のそれぞれの単位ごとに休息・休養ができていない従業員はどれくらいいるのか等、勤怠データに基づく実態把握から始めることが鍵となってくると思います。そのうえで、実態を把握したら、自社の従業員にとっては、まずはどの単位でオフの時間を確保することが最優先かということを考え、さらにどの単位で休息をとることが最も生産性向上につながるのかを、企業や職場の事情に応じて検討していく必要があります。

勤務間インターバル制度の普及促進の社会的意義

最後に、勤務間インターバル制度を導入することの社会的意義について考えたいと思います。

リモートワーク等の広がりにより、現代は「いつでもどこでも」仕事ができる時代になりました。ワーク・ライフ・バランスが充実しているといわれているヨーロッパ諸国でさえ、リモートワークの普及により、仕事とプライベートの境界が曖昧になってきている人が増えてきているといわれています。長時間労働が日常化している日本において今後さらに「いつでもどこでも仕事をする」という状況になっていくと、24時間働きたい人たちに引っ張られて、休息を十分に取れないまま、働き続けなければならない人が増えてきてしまうかもしれません。

このような時代においては、休養や休息がいかに重要であるかを社会全体で認識していくことが大切なのではないでしょうか。リモートワークの普及がさらに進んでいく今、各企業や個人がオフの時間の必要性を認識し、しっかりと休息・休養を確保すべきという社会規範をつくっていく必要があるといえます。勤務間インターバル制度の導入は、人々が休息の必要性を認識するきっかけと位置づけられるでしょう。

基調講演2
「企業経営の改善と従業員の健康確保に必要な休息・睡眠」

【登壇者】高橋 正也氏(独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所 過労死等防止調査研究センター センター長)

オフの量を確保する勤務間インターバル制度

勤務間インターバル制度を最初に制定したのはEUであり、最低でも11時間は働かない時間を確保しようというルールでつくられました。ちなみに、この11時間という時間について、EUの制度設計に携わったメンバーに話を聞くと、必ずしも実証的なデータに基づいて決めたわけではないようです。EUではあくまで労使の話し合いのなかで決めたとのことであり、自社で制度導入を行う際は、11時間のインターバル時間が本当に適切な長さなのかよく検討してみましょう。

働く人々にとって、1日は仕事中(オン)の時間と仕事外(オフ)の時間に分けられ、オンの時間とオフの時間ともに、それぞれの質と量を考える必要があります。これまでの働き方改革は、労働時間の上限規制による等、オンの時間の質や量に着目してきました。一方、勤務間インターバル制度は、オフの量を確保しようとする取組です。オフの量を一定量確保できれば、働く人がしっかりと睡眠を取ったり、家族との時間を過ごしたり、趣味を楽しんだりすることができます。今は、オンとオフのどちらも大切にする時代になってきたのではないかと感じます。

日勤者にとっての利点:インターバル時間の確保は心身の健康につながりうる

一言で「従業員」といっても、日中のみ働く人、夜間のみ働く人、シフトで働く人等、様々です。

まず、日中に働く人々にとって勤務間インターバル制度はどのような意味があるのでしょうか。約1200名のIT関連企業従業員を対象に行ったアンケート調査では、インターバル時間が短いほど、ストレス反応が高く、起床時の疲労感を感じやすいという結果が得られました。また、IT関連の事業場で働く約50名程度の人を対象に行った調査では、インターバル時間が長いほど、血圧が下がり心臓や血管に対する負担が減るという傾向がみられました。さらに、睡眠の時間と質の関係について尋ねたWEB調査では、インターバル時間数が増加するほど睡眠時間は長くなり、睡眠の質はよくなるという結果も得られています。

日中に働く人々を対象としたこれらの調査結果を踏まえると、インターバル時間を一定量確保することは、働く人々の心身の健康につながっているといえるでしょう。

交代勤務者にとっての利点:インターバル時間が病気や大きなケガを防ぐ

夜勤には様々なパターンがありますが、ここでは深夜から明け方まで働く深夜勤務の人々を例に考えてみたいと思います。夜は私たちの身体から「眠りなさい」というメッセージがたくさん出る時間帯で、体温も下がります。一方、夜勤が終わる時間帯には身体が目覚めてきて、なかなか眠れません。自らの体内時計に抗うことは、私たちにはとても難しいことなのです。

しかし、社会のなかで夜勤の人は必要であり、交代勤務については古くから現在に至るまで多くの研究が蓄積されています。夜勤の長さをどのように設定するか、日勤と夜勤のスケジュールをどのように組むか等、様々な研究がなされているなかで、最近注目されているのがインターバル時間です。昨今の研究では、交代勤務者にとっても、勤務シフト間のインターバル時間が重要だということが明らかになってきました。

看護師を対象とした海外の調査結果があります。1年前と比べて「インターバル時間が11時間を下回った回数」が増加した層、変わらない層、減少した層を比較すると、この回数が減少した層、すなわち「11時間以上のインターバル時間を確保できる機会」が増加した層は、過労症状が緩和されていることが確認できました。

また、海外の看護師を対象とした別の調査で、インターバル時間の確保状況や夜勤の有無と翌月の病気休暇について検討したものがあります。夜勤の有無は翌月の病気休暇の有無にあまり影響しませんでしたが、「11時間のインターバル時間を確保できなかった層」は「確保できた層」と比較して、翌月に病欠する人の割合が増えていました。

さらに、従業員のインターバル時間が11時間未満であった日の当日および翌日は、当該従業員が救急搬送や死亡に至るケガを起こしやすくなるというデータもあります。十分な疲労回復ができなければ、不注意やミスが重なって大きなケガにつながりやすいのかもしれません。

なお、確保できたインターバル時間数が同じである場合でも、夜に眠るほうが昼に眠るより1時間ほど睡眠時間が長くなることが確認されており、交代勤務で働く人々のシフトをどのように組み、どのようにインターバル時間を確保していくかという課題は、これからも考えていかなければなりません。

勤務間インターバル制度の導入は睡眠時間の確保につながります。働く人々が睡眠時間を確保できれば、心身の健康が守られるとともに、ケガを防ぐことにもつながります。勤務間インターバル制度は企業にとっても働く人々にとってもメリットが大きいため、どうしたら我が社に導入できるのか、どのように運用すれば我が社にとってベストなのかを労使で話し合う価値は必ずあるでしょう。勤務間インターバル制度を導入して実際に働く人々の健康を守るために、企業と従業員はそれぞれ何をするべきか話し合っていく必要があるのではないかと考えています。

事例発表
「先進企業に学ぶ勤務間インターバル制度の活用方法」

【登壇者】中井田 誠氏(株式会社ニトリホールディングス 人事労務部マネジャー)

導入の経緯

当社は家具やインテリアを中心に扱っている企業であり、2019年2月期で国内外576店舗を展開しています。

2016年に健康経営宣言を制定し、ホワイト500(健康経営優良法人認定)やくるみん(子育てサポート企業認定)をいただきながら、従業員の心と体の健康確保へ継続的に取り組んでまいりました。また、当社は商品の生産から広告宣伝、物流、販売、通販等まで広く手掛けているため、30部署100職以上の職種が存在しており、それぞれ働く時間も業務内容も異なります。様々な職種に携わる従業員の心身の健康を確保したいという思いから、2017年8月より勤務間インターバル制度を導入しました。

制度の概要

当社では、就業規則のなかに勤務間インターバル制度に関わる規定根拠を設けて運用しています。インターバル時間は10時間であり、また対象者は、職種に関わらず、パートタイム従業員を含むすべての非管理職です。およそ3万人程度が対象者となっています。

制度導入にあたって

勤務間インターバル制度の導入に向けた準備段階では、まず事前調査を行い、最も労働時間が長かった部門を考慮してインターバル時間を検討しました。インターバル時間を11時間に設定すると、従業員のうち8.4%、パートタイム従業員を含めた従業員のうち2.6%はインターバル時間の確保が困難であると想定されました。10時間に設定すれば、インターバル時間の確保が難しい者の割合が1.5%となりますので、まずは制度定着と上長のマネジメント力向上をめざし、現実的な目標として10時間に設定しました。

また、事前調査の一環として各部署からのヒアリングも行い、インターバル時間を確保できないことが予想されるケースについて把握しました。このヒアリングを踏まえ、台風や地震等の自然災害に伴う緊急対応を行う場合、店舗の営業に支障をきたすシステムトラブル・設備破損等に対応する場合、急な欠員の発生により部署運営が困難となる場合については、特例扱いとする仕組をつくりました。これらの特別な理由がある場合は、事前に上長から承認を得ることで、インターバル時間が10時間未満となるシフトを許可することとしました。

制度導入時には「心身ともに健康で、安心して働くことができる環境づくり」という経営層からのメッセージを従業員に対して発信しました。

制度運用について

勤務間インターバル制度を適切に運用するため、シフト作成や勤怠管理に関するシステムの改修を行いました。まず、シフト作成時点で10時間のインターバル時間を確保していなければエラーメッセージを表示し、上長の承認を得なければそのようなシフトを組めない仕組としました。また、RPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を活用して、毎週部署ごとにインターバル時間の確保状況をメール配信し、10時間のインターバル時間を確保できない場合は、各事業所にて必要な対策を検討するよう促しています。

毎月、月末に人事労務部がインターバル時間の確保状況に関する実績を集計し、インターバル時間を確保できなかった部署については、各部署長に理由書の提出を求めています。理由書をもとに、人事労務部と各部署長が問題解決に向けて話し合いを行うことで、インターバル時間確保の強化や従業員の健康管理につなげていきたいと考えています。

今後の展望

今後も作業効率を改善することで、いずれはインターバル時間を10時間から11時間へ変更したいと考えています。

現状では、現場の従業員が使用するスマートフォンで、お客様対応のための商品検索や売場づくりのための上長からの指示等が確認できるほか、出退勤時刻を入力できるようにしています。退勤時刻を入力した時点で、翌日のシフトとの兼ね合いによりインターバル時間の不足が懸念される場合は、スマートフォンの画面上に大きく警告が表示される仕組としています。

このような仕組やRPA等を活用することで、生産性の向上と従業員の心身の健康確保を両立させていきたいと思います。

【登壇者】宮崎 仁雄氏(サッポロビール株式会社 人事部グループリーダー)

導入の経緯

当社は「お客様の生活をより楽しく豊かにする」という経営理念を掲げ、酒類の製造販売を行っています。

近年は、飲食店様の営業時間外に活動する、営業担当者の深夜におよぶ労働が大きな課題となっていました。働き方改革には2009年頃から取り組んでいましたが、残業時間の削減による人件費抑制が主な目標であり、長時間労働の解消や健康確保、生産性向上といった視点が不十分でした。そこで2016年頃から労使で課題意識を共有し、2017年からスタートする中期経営計画に合わせて、健康・生産性向上・生活の充実を図るための「働き方改革2020」を掲げることとなりました。「働き方改革2020」は、短い時間で高い成果をあげ、健康の維持・増進を図るとともに仕事もプライベートも充実すれば、自身の成長に向けたインプットの時間や家族と過ごす時間、睡眠時間等を確保でき、自分・家族・企業のそれぞれが幸せを実感できるのではないか、という発想に基づいています。

「働き方改革2020」を始める際は、社長から従業員に向けて「お客様の生活をより楽しく豊かにするためには、我々が新たな発想をもって成長しなければならない。その成長のための時間を確保するために、働き方改革に取り組もう」という趣旨のメッセージを発信しました。

制度の概要

「働き方改革2020」では、2016年比で2020年に営業利益を23億円増加させるとともに、従業員一人あたりの年間総拘束時間を112時間減少させることを定量目標として働き方改革を進めてきました。具体的には、業務のあり方や進め方を見直すとともに、勤務間インターバル制度やテレワーク制度、時間単位有給休暇、スーパーフレックス制といった各種制度等の導入、働き方改革サイトの構築、好事例の共有等に取り組みました。また、役職者の評価項目のなかに働き方改革に関する取組の達成状況を含めたことも、働き方改革を推進するうえで効果があったのではないかと考えています。

2018年4月から導入した勤務間インターバル制度では、インターバル時間を10時間と設定しています。インターバル時間を確保できなかった場合のペナルティはとくにありませんが、その都度、原因や解決策について本人と所属長とでコミュニケーションをとるよう促しています。

また、翌日の業務開始時刻を変更する場合は、社内のコミュニケーションツールを利用して所属長や関連メンバーへ報告するという運用にしています。

なお、本制度は、労使協定に基づく規則化された制度ではなく、自主ガイドラインとして運用しており、2019年5~9月のインターバル遵守率は98%程度です。

制度導入にあたって

勤務間インターバル制度を本格的に導入する前に、テスト運用を実施しました。テスト運用では、ヨーロッパを参考にしてインターバル時間を11時間としていましたが、テスト運用の結果や各部署からのヒアリングを踏まえ、最終的には10時間となりました。

また、勤務間インターバル制度やテレワーク制度等の導入以前は「メンバーの管理が難しい」、「業務が滞る」といった不安の声が寄せられていましたが、テスト期間を通じて管理職に制度運用を経験してもらうことで、管理職の不安解消につながりました。

さらに、役員が各事業場を巡回し、働き方改革の必要性や当社がめざす姿を直接伝えることで、企業の本気度を従業員へ伝えました。

勤務間インターバル制度の本格的な導入以前は、営業部門から「お客様との関係があるので、自社の都合だけでインターバル時間を確保することは難しい」と難色が示されましたが、ほぼ1年間テスト運用を行い、人員配置を見直したり、お客様の理解を得るために正式運用開始時には自社のホームページで告知を行い、上長ともども挨拶に行ったりして少しずつ課題を解決していきました。

制度運用について

働き方改革は労使で課題を共有し、労働組合の積極的な協力も得て取り組んできました。働き方の自由度を上げることについて、経営層のなかにはネガティブな意見もありましたが、社会的な要請であり、企業ブランドの向上につながること、採用活動において学生の注目度が高いこと等を経営層へ説明するうちに理解を得ることができました。

これまではトップがメッセージを発信したり、本社主体で周知・啓発を行ってきたりしましたが、これからは各部署や従業員が自走・自律して働き方改革を加速していければと期待しています。

なお、働き方改革を進めるうえで最も苦労した点は「働き方改革で生み出された成果をどのように従業員に還元するか」ということでした。この課題に関しては「労働時間が減少し、利益が増加した場合、理論上創出される原資をベースアップという形で従業員へ還元する」ことを経営層および労使と合意し、具体的な金額として公表することで対応し、従業員の納得度を高めることにつなげました。2018年には、2017年から始めた働き方改革の成果が確認できたため、ベースアップを実施しました。

現時点での成果

部門にもよりますが、月平均労働時間は昨年度と比較して4時間程度減少しています。また従業員アンケートの結果でも、働き方改革を実現するために行動・意識が変化したと答える従業員の割合が高まっています。

今はインターバル時間を十分に確保できていない部署や従業員へどのように対応していくか模索している部分もありますが、今後も様々な観点から働き方改革を進めていきたいと考えています。

パネルディスカッション
「勤務間インターバル制度の円滑な導入・運用に向けて」

1 先進企業の工夫

導入過程での苦労
黒田氏

事例発表をいただいた2社は、現場からのヒアリングやテスト運用等、どちらも現場に寄り添いながら勤務間インターバル制度の導入を進めていました。この点は非常に重要だと思います。

ただ、最近は時短ハラスメントという言葉も出てきました。現場には「もっと働きたいのに」と思う方もいらっしゃるのではないでしょうか。また、一つの企業に多様な職種の方がいらっしゃるなかで、一つのルールを浸透させることはとても大変だったのではないかと思います。勤務間インターバル制度導入の過程で、苦労された点があればお聞かせください。

中井田氏

インターバル時間を設定する際は、現実的な数字として10時間を選択しました。また、店長会議や管理者研修といった人事担当者と現場の従業員が直接話し合える機会では、従業員教育の一環として健康管理の大切さを話しました。「もっと働きたい人がいたらどうするのか」という点について、導入前にはそのような質問を受けたこともありますが、導入後、実際にそのような意見を聞いたことはありません。むしろ、プライベートの時間が増えるということで、好意的に受け止めてくれた従業員が多かったです。

宮崎氏

当社では、部門によって様々な反応がありました。人事部としては営業部門の働き方に課題意識を持っていたため、営業部門を念頭において制度設計を行いましたが、製造部門には「自分たちは残業が少ないのだから、関係のない話」と捉えられてしまいました。

ただ、企業としては所属部門に関係なく、生活の充実や健康の確保をめざしたいという思いで制度導入を決めたので、製造部門もインターバル時間を確保できるように工夫しました。具体的には、製造部門だけテスト運用期間を長めに設けたり、製造部門に特有の課題を解決するため、シフトの時間を細かく設定できるようにしました。部門ごとの事情を汲んだうえで制度運用を始めた、という点では苦労しました。

円滑な制度運用のためのポイント
黒田氏

営業部門の多くの現場では、仕事をしただけ営業成績もよくなるという考え方が一般的にはあるかと思います。「インターバル時間を確保するために働く時間を制約しなければならない。でも、もっと営業したい」という葛藤を抱える方も多かったのではないかと感じました。宮崎さんにお伺いしたいのですが、勤務間インターバル制度を導入して働く時間を制限することにより、営業部門の評価方法を変更する等の工夫はされたのでしょうか。

宮崎氏

もともとビール関係の営業担当者にはノルマがあるわけではないので、個々の担当者の評価方法については変更していません。

ただ、管理職に関してはマネジメントの状況に応じて評価が変わりますので、勤務間インターバル制度の導入により最も評価の影響を受けたのは管理職かもしれません。もし、インターバル時間を確保できていない部署があれば、人事部として改善を求め、それでも改善されない場合は人事担当役員が注意を促すことになっています。このような理由により管理職の評価が下がるという事例はまだみられていませんが、管理状況と評価を連動させている点は、インターバル時間の確保を促すうえで大きな要因になっているのではないかと考えています。

黒田氏

勤務間インターバル制度を導入するうえで、「ノルマがない」という点は大きなポイントだと思います。また、部下のインターバル時間を確保できれば役職者が評価されるという「インセンティブの導入」もキーワードですね。

インターバル時間が確保できなかった場合について、ペナルティは課さない、特例事項を定めておく等の安心材料を用意しておくことも非常に重要だと思いました。従業員の方々にとって、「ルールを守れなかった時にどうなるのか」という点は、ルールを導入する際に最も気がかりなことの一つだと思います。

企業活動のなかでは、「インターバル厳守」とはいいづらい時期もあるかと思います。繁忙期に何か工夫された点等ありましたら、教えていただけますか。

宮崎氏

ビールの需要は季節によって変動しますが、営業部門はチームを組んでいますので、チーム内で助け合ってインターバル時間を確保しています。

一方、経理の決算時期や、製造部門の突発的なトラブル・増産対応等の時は、なかなかインターバル時間の確保が難しいと感じています。管理部門の繁忙のピークは最初からわかっていることなので、仕事の進め方や内容を見直すことで改善を促しています。ただ、製造部門の突発的なトラブル・増産対応については、勤務間インターバル制度の「適用対象外」としました。

中井田氏

店舗や配送センター等の現場は、3~4月の引越シーズンが繁忙期です。この時期は短期スタッフを雇用する等して、人員を増やして対応しています。また、物流関係の部署は、台風等の発生時もイレギュラーな対応に追われて忙しくなります。このように、どうしてもインターバル時間を確保できない時は、部署を超えて応援部隊を派遣する等の調整をしています。

黒田氏

中井田さんのご発表のなかで、「効率的に物事を進められる従業員に仕事が集中してしまう」というお話がありました。ハイパフォーマーに業務が集中しないように、業務内容の改善や経験が浅い従業員の教育等、工夫されていることはありますか。

中井田氏

勤務間インターバル制度を導入してわかったことがあります。それは、インターバル時間を確保できない従業員が多い店舗は、忙しい大型店ではなく、小型の店舗であること。このような店舗については、従業員を増員する、エリアマネジャーを配置する、店舗の改装担当者が大型店だけでなく小型店の作業もサポートする、等の業務改善に取り組みました。結果として、小型店の残業時間を制度導入前と比較して80%程度まで減らすことができました。

宮崎氏

拠点の規模というのは大いに関係があるでしょうね。当社では、同じエリアに属する複数の支社で業務をシェアする等の対策を行っていますが、そもそも人員がいないとなると、なかなか打つ手がなくなってしまいます。

黒田氏

従業員の休息を確保するためには、勤務間インターバル制度だけを導入しても不十分で、問題が起こった時にどのような対策を取るかという点まで含めて考える必要がありますね。フレキシブルに人員配置を行える大手企業は何とかなるかもしれませんが、人手不足で悩んでいる中小企業は難しいかもしれません。このような企業に対して、アドバイスがあればいただけますか。

高橋氏

インターバル時間を取ってしっかり休むことは、翌日の生産性向上につながりますし、心身の健康も確保できて、よいことづくめだと考えています。管理職にも、一般社員にも、理解が深まるといいですね。仕事は計画どおりに進まない場合が多いですし、台風等の突発的な出来事があれば、どうしてもインターバル時間の確保が難しいかもしれません。ただ、残業時間を見直すためには、その企業が何を生業としていて、何名の従業員で何のためにやっているのか、ということを今一度よく振り返る必要があると思います。

2 睡眠・休息時間の重要性

睡眠は「1日のなかで余った時間」ではなく「積極的に確保しなければならない大切な時間」
黒田氏

最近は、コンビニエンスストアのように24時間営業を見直す業種も出てきていますが、介護のように24時間稼働しなければ成り立たない業種もあります。ここからは夜勤や交替勤務制について、高橋先生に詳しくお伺いできればと思います。

先ほどのご発表のなかで、夜勤と夜勤の間は十分な睡眠が取りづらいというお話がありました。インターバル時間を確保しても、十分な睡眠を取れない人や取らない人がいるというなかで、企業はどこまで介入していくべきなのでしょうか。

高橋氏

勤務間インターバル制度だけで、従業員の健康や職場の問題をすべて解決できるとは考えていません。もちろん夜間にインターバル時間が確保できれば、それが1番よいのですが、医療現場等ではそうともいっていられない状況です。インターバル時間の確保が難しい場合は、仮眠の時間を設ける、業務内容を見直す等の別のオプションを検討していく必要があるのではないでしょうか。

黒田氏

夜勤の働き方は、非常に難しい問題であり、今後も考えていく必要がありますね。

次に、交替勤務制についてお伺いします。交替勤務制の方は、夜勤もあれば日勤もあり、体内リズムがどんどん崩れていくのではないかという懸念があります。日々、働き方が変わるよりも、3ヶ月は夜勤を続けて、次の3ヶ月は日勤…というように、中長期ごとに切り替えたほうが身体は楽になるのでしょうか。

高橋氏

夜勤を続けたほうが身体は楽なのではないかと考える方がいらっしゃいますが、実はそうではありません。私たちの体内時計は、昼に起きて夜に寝るというふうにできています。夜勤が続いても、昼間の身体は活動モードになるので、質・量ともに睡眠を確保できない場合がほとんどです。これがずっと続くと、かなりつらい。原則として、夜勤は2~3日程度にとどめたほうがよいでしょう。

シフトを組む際は、夜勤に入る前に仮眠を取れるようにする、仮眠を取る時間を設ける等、できるだけ夜の時間に眠れるよう考慮していただきたいと思います。あくまでも、夜に眠ることが大切です。

私たちは、職業訓練を受ける一方で、睡眠についてはほとんど勉強をする機会がありません。でも、夜勤、交代勤務制、長時間労働と睡眠は切り離せない関係であり、睡眠について考慮しないまま仕事を進めようとしても、無理が生じてしまいます。勤務シフトを組んだり、お酒を飲む場を設定したりする際は、ぜひ睡眠についても考えてほしいと思います。

黒田氏

私たちは、睡眠時間を「24時間のうち、やりたいことを全部差し引いて残った時間」と考えがちですが、そうではなくて「確保しなければならない重要なもの」という発想の転換が必要ですね。また、どんな仕事でも「夜に寝る」ということを確保しなければいけないということがよくわかりました。

「人は寝ないとどうなるか」ということを実験した研究について、高橋先生から解説していただけますか。

高橋氏

2週間、決められた睡眠時間を取って過ごした人々の反応に関する実験を紹介します。この実験では「毎日8時間しっかりと睡眠を取るグループ」、「睡眠時間が6時間のグループ」、「睡眠時間が4時間のグループ」、「まったく寝ないグループ」という4つのグループをつくりました。そして、この人たちに、ランプが点いたらボタンを押す、という簡単な動作をしてもらいました。

実験の結果は「睡眠時間が8時間のグループ」であっても、2週間でわずかながら動作にミスがみられました。「睡眠時間が6時間のグループ」は、2週間のうちに集中力がどんどん欠けてくることがわかりました。6時間の睡眠を2週間続けると、一晩徹夜した人と同じくらいの頻度でミスをしてしまうのです。「4時間の睡眠を2週間続けたグループ」は、二晩徹夜した人と同レベルになりました。

この実験結果からいえることは「睡眠とは一晩ごとの確保が大切であり、今日はあまり眠れなかったが、明日たくさん寝れば大丈夫というものではない」ということです。ですので、勤務間インターバル制度を考える際も、一晩ごとの睡眠が大切だということを念頭に置いて「まとまった睡眠を取らなければ睡眠の借金が溜まっていく」ということを忘れないでほしいと思います。

黒田氏

「8時間の睡眠を確保しているグループ」であっても、2週間続くと少しずつミスが増えるのはどうしてなのでしょうか。

高橋氏

はっきりとした原因はわかっていませんが、長期間にわたって拘束されるストレスが影響しているのではないかと考えられます。また、実は8時間の睡眠でも足りないのではないか、という説もあります。この実験とは別のものですが、「1週間9時間の睡眠を確保すると、生産性が落ちなかった」という研究結果もあります。いずれにせよ、十分な睡眠時間を確保することが脳の活性化につながる、といえるでしょう。

柔軟な働き方と休息・休養の両立
黒田氏

日々の睡眠時間の確保が非常に重要ですね。

一方で、昨今はリモートワークを推進している企業が多くあります。子育てをしながら働いている方にとっては、子どもを寝かしつけた後にまた仕事を再開することができるという意味で、時間に融通が利きやすい便利な制度ともいえます。一方で、夜中にパソコンに向かって作業をすることで、睡眠障害が出てくるおそれもあります。リモートワークの推進と休息を確保することの両立は、今後大きな課題になってくると思われますが、この点についてご意見をいただけますか。

中井田氏

当社でも、在宅勤務やサテライトオフィスでの勤務を認めています。ただ、基本的に所定労働時間以外の在宅勤務は認めていないため、夜中に自宅で作業することはできない仕組です。始業時と終業時にメール等で連絡する仕組であるため、監視システムは入れていません。

宮崎氏

当社ではリモートワークやフレックスタイム制を導入しています。フレックスタイム制の導入時に、育児中の従業員から「夜中の就業も認めてほしい」という意見がありましたが、企業の制度として深夜時間帯の就業を認めることはできなかったので、深夜時間帯についてはフレキシブルタイムから外しました。

リモートワークを行う時は、所属長へ連絡し、勤務管理システムに自分で勤務時刻を入力する仕組です。勤務管理システム上にパソコンのログイン・ログアウト時刻も表示されますので、入力時刻とログイン・ログアウト時刻に乖離があるかどうかはチェックしています。ただ、イントラネットにつながっていないとログイン時刻がすぐにはわからないため、すべての勤務実態をタイムリーに把握できていないという弱点があります。この点については、システムの改修を行うことで今後対処していきたいと考えています。

黒田氏

2社ともリモートワークを積極的に導入していましたが、企業として夜の作業は認めないという考え方でした。お話をお伺いして、リモートワークを導入する場合でも深夜勤務は原則禁止というように、何らかのルールを設けることが重要だと感じました。これに関連して、最近はヨーロッパを中心に「つながらない権利」という言葉も生まれています。

高橋先生にお伺いしたいのですが、やはり夜中にブルーライトを見ると睡眠に影響があるのでしょうか。

高橋氏

同じ強さの光を見ても、昼間より夜のほうが、脳が強く光を感じるという研究結果があります。ですので、できれば夜は暗めにして、最小限の光で過ごすのがよいといわれています。

3 これから勤務間インターバル制度の導入を考える企業の方へのアドバイス

黒田氏

最後に、勤務間インターバル制度の導入を考えている企業の方に向けて、パネリストの皆様からアドバイスをいただけますか。

高橋氏

働き方改革が叫ばれるようになってから久しいですが、どのように実行するかがカギとなっています。そのなかで勤務間インターバル制度はポテンシャルがある制度ではないでしょうか。本日、事例発表をいただいた企業においても、それぞれに課題があるなかで工夫しながら取り組んでいらしたので、まずは取組を始めてみて、徐々に改善していく、というのがよいのではないかと思います。

宮崎氏

勤務間インターバル制度は、企業にとっても従業員にとっても、マイナスになる要素がほとんどない制度です。現場からは「企業側から“働くな”といってもらえることはありがたい」という声が聞こえています。制度が定着していけば、メリットを感じる声がもっと広がっていくのではないでしょうか。まずは導入してみて、メリットを実感してほしいと思います。

中井田氏

宮崎さんもお話しされていたとおり、勤務間インターバル制度は導入して損はない制度です。最初から高い目標設定をしてしまうと頓挫する可能性があるので、私たちは現実的な目標を設定し、クリアしたら次のステップに進む、という進め方で取り組んできました。どうしてもインターバル時間の確保が難しい場合も出てくると思いますので、無理してすべてを縛るのではなく、実際の業務内容に応じてフレキシブルに対応することが重要だと考えています。また導入すると決めたからには後退しないように、社内で啓蒙活動を続けることも大切だと感じています。

黒田氏

本日の内容は、次の4点にまとめられるのではないかと思います。

1点目は、勤務間インターバル制度を導入する際は人事部と現場社員との対話が重要だということ。いきなり制度を導入して、現場から反対されたり、制度が形骸化したりするリスクを最小化するためには、現場からのヒアリングやテスト運用から始めて、現場のニーズを探っていくことが大切です。

2点目は、インターバル時間を確保できなかった場合も適用除外を認め、ペナルティは課さないということ。

3点目は、適用除外を認めつつも、基本的にはインターバル時間をしっかりと確保するための仕掛けをつくること。たとえば、インターバル時間の確保が懸念される従業員に対しては勤務管理システム上でアラートを表示する、〇時以降は自動的にパソコンをシャットダウンする等の取組が考えられます。

4点目は、PDCAのサイクルを回しながら何年もかけて制度を確立していくこと。制度導入からしばらくの間は試行錯誤を繰り返すことになりますが、何年もかけて改善していくことが、自社にとってよい制度をつくるポイントだと思われます。

勤務間インターバル制度に関する各種情報のご案内

厚生労働省では、勤務間インターバル制度の導入を支援するため、様々な情報提供を行っています。

これらの資料を積極的にご活用いただき、ぜひ勤務間インターバル制度を導入しましょう!

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勤務間インターバル制度について

勤務間インターバル制度導入事例集

勤務間インターバル制度を導入した企業の協力を得て、各企業における制度内容、導入経緯等をご紹介するとともに、その効果等について有識者に伺った内容を掲載しています。